スパイ帝国建築からナショナルエコノミーへ ~シンプリシティ・ミニマリズムの道~取材協力:スパ帝国 西村さん

スパイ帝国建築からナショナルエコノミーへ ~シンプリシティ・ミニマリズムの道~
2017年6月2日
まつなが

2017/5/14(日)は東京の半年に一度のお祭り、ゲームマーケットでした。たくさんの新作が発表される中、注目作のひとつは、スパ帝国から発売されたナショナルエコノミー・メセナでした。 前作のナショナルエコノミーは2015年秋のゲームマーケットで発売され、国産新作評価アンケートでは堂々の1位

今回はそんなナショナルエコノミーのデザイナー、スパ帝国代表の西村さんにお話を伺いました。西村さんは、PCゲームのSid Meier's Civilization IVを最高難易度でクリアする日本有数の凄腕プレイヤーでもあり、解説音声付き動画の人気投稿者でした。現在は動画投稿はされていません。スパイ帝国もCivilizationで考案されたスパイ戦略が名前の由来です。スパイ経済の人という名前で呼ばれることもあります。

Sid Meier's Civilization:文明をモチーフとした、1人用のPCストラテジーゲーム。シド・マイヤーによってデザインされた。1991年に発売されて以来、様々な続編が発売されている。文明の複雑な要素が絡み合う、非常に戦略的な要素が強い人気タイトル。ターン制でやめ時が難しく、廃人を産出する中毒性の高いゲームとしても有名。

西村さんが、どのようにボードゲームのデザイナーにたどり着いたのか。どのように何度も楽しめる質の高いシステムをデザインしているのか。先日話を伺った同じく専業ボードゲームデザイナーの江神号さんとはまた異なるお考えをお話いただけたので、ぜひその対比もお楽しみください。

場所は、以前インタビューを受けてくださった根津のコロコロ堂さんにご協力いただきました。

【スパ帝国サイト】http://spa-game.com/
ツイッター】@verdamil

ボードゲームプレイヤーとしての西村さん

本記事内容は西村さんの本格派デザイナーとしての一面を覗くことが出来ますが、実際にお話しているときは↑のようにオチャメでフランクな感じです(笑)

ボードゲームを始めた経緯はなんですか?

無類のゲーム好きである白石もへが、友達になろうぜ!こんなゲームがあるよ!と声をかけてきて、ボードゲームをたくさん持ってきてくれたのがきっかけです。ルールブックを書くのが得意だと言うので、彼にナショナルエコノミーのルールブックも書いてもらっています。

ボードゲームを始めたのはどれくらい前ですか?

本格的に始めたのは4、5年前です。ゲームの作成も同時期から並行でしています。それ以前もボードゲームも知っていて、カタンなどはもうずいぶん前にやりました。

好きなゲームはなんですか?

テラミスティカル・アーブルです。ワーカープレイスメントやリソース管理系が好きです。

テーマやフレーバーで好きなものはありますか?

古代ローマです。たとえばコンコルディアはとても好きですね。

好きなデザイナーは誰ですか?

クニツィア師匠です。シンプルで、まさに数学者だなと思います。

今気になっているボードゲームはありますか?

プエルトリコです。ちょっと触っただけで遊べてなかったので気になっています。今度遊ぶつもりです。あとはパンデミックレガシーです。連続で何回もやるものだからある程度長い期間集まれないと行けないですし、まだ遊べていません。

名前の由来はなんですか?

サークル名のスパ帝国の由来は、Civilizationのコミュニティではなんとか帝っていうのが習わしで、スパイ戦略を使っているからスパイ帝国になりました。個人名としては西村でやっています。

ナショナルエコノミーができた経緯

ナショナルエコノミーはワーカープレイスメントの中量級経済ゲームです。ワーカープレイスメントとは、ワーカーを特定のエリアに置き、その効果を得ることを繰り返すことでゲームが進むメカニクスです。

ナショナルエコノミー・メセナをプレイ中の様子

シンプルなルールながらも徐々に賃金が高くなる労働者や、「家計」という賃金が支払われるごとに増える共通のお金の場に特徴があります。1時間弱で終わる中量級ながらも、戦略に幅があり、引く手札によって柔軟な対応が求められます。消費財カードには果物の写真とそれぞれ異なるコメントがあり、固く感じられるテーマの中にも愛着が持てるゲームになっています。

ナショナルエコノミーは何がきっかけでヒット作になったのですか?

制作中の段階からコンセプトについて発信し手応えはありましたが、直接のきっかけは不明です。何か特定のきっかけがあったわけではなく、徐々に話題になっていきました。実は自分が知らないだけで、積極的に周りに広めてくれる人がいたのかもしれません。ワーカープレイスメントの入門として用いられた事で、伝わりやすかった可能性はあります。

ナショナルエコノミーを作っているとき、ヒットになる手応えはありました?

そこまで売れるかなーって感じだったのですが、意外と売れて、よかったよかったという感想です。今でも売れていますし、何が売れるかわからんもんです。もちろん全力投入しましたが、何が売れるかはわかりません。やれることは全部やった、作れるものは作った、という感じです。何が売れるかなんて客側の都合ですから。

プロモーションなどで工夫をされたのですか?

ボードゲームカフェで紹介したりはしていましたが、参考になることは言えません。売り方に関しては改善の余地があると思うので、こっちが聞きたいくらいですね(笑)。

ナショナルエコノミー・メセナのデザイン方針

ナショナルエコノミー・メセナの「メセナ」はどういう意味ですか?

文化や学問の振興支援を意味します。といっても、名前がついたのはルールができたあとです。

ナショナルエコノミー・メセナでは勝利点トークンを入れようと思い、勝利点を稼ぐ建物が新たにできました。前の自動車工場(手札を3枚捨てて7枚引く)みたいに生産力をがばっと入れるというよりは、うまく点数に変換していく博物館のようなものが多くなったので。勝利点を稼ぐ建物は芸術方向、学問方向にしたらイメージとうまく合致するだろうと思い、メセナと名付けました。

上の段はナショナルエコノミーのカード、下の段はナショナルエコノミー・メセナのカード。「メセナ」らしい文化的・学問的なカードが増えている。

テーマを決めるときにインスピレーション受けたのが、会社「林原」の林原元社長の自伝です。最終的に経営破綻した会社の元社長なのですが、破綻した原因のひとつにいろんなメセナ事業にお金を突っ込んでいたことがあげられます。類人猿の研究とかにお金を突っ込んでいたんですね。社長の哲学は、学問に関わることで発想が豊かになる、今までなかったものを思いつけるようになる、というものでした。経営はめちゃくちゃなところも多かったようですが、思想家としては非凡なところがあると思います。

ナショナルエコノミー・メセナには前作に比べどういった特徴がありますか?

シナジー(相乗効果)です。香港のかなりのゲーマーである知人が、シナジー効果とかあればいいんじゃないかって言っていたのが頭に残っていました。

もともとナショナルエコノミーを遊んだ人向けでという感じでゲーム性を高めていったのですが、いざテストに出してみたらむしろこちらのほうが遊びやすいっていう声もありました。シナジーを入れて方向性をわかりやすくしたのが結果的によかったのかなって思います。

バランスはそこまで苦労はしませんでした。どれくらいの値が適切かっていうかの基準が自分にはあるので。

こういうのが面白いんじゃないかって言ってくれる人がいれば、また新しいブロックができるかもしれません。

勝利点や建設するために必要なカードの枚数など、数字が大きくなっているようですが、なぜですか。

数字が大きくなっているのは見た目だけです。ゲームデザイン上のコツなのですが、見た目がすごく派手で馬鹿みたいに強く見えるけど実際回してみるとバランスがとれていてそこまで強力ではない、おとなしいなっていうカードを入れるとゲームが面白くなります。

前作は全てバナナだったがメセナでは様々な食べ物になっている。

見た目と実態が違うっていうのは非常によくあることです。見た目はとんでもなく強くて、これは壊れているだろっていうカードでも実際に回してみると使える状況が限定されるだとか、使えるまでに下準備がたくさん必要だとかでそうでもなかったりします。

逆の、見た目はおとなしいけれど回すと暴れるカードはよくありません。ナショナルエコノミーで最もカードパワーがおかしかったのは製鉄所(カードを3枚引く)です。カードテキストの短いものは強いと言われるとおり、見たところ大したことはないように見えますが、2ラウンド目に製鉄所を立てて回すと実はかなりすごいことになります。

強いと言われたカードにレストラン(手札を1枚捨てて家計から$15得る)がありますが、レストランは稼働感が高い代わりに妨害がされやすい効果です。上級者同士だとそこまで回りません。共通の場である家計からお金を持ってくるものなので、レストランを使うより前に、お金を取られないように家計を枯らされてしまいます。カードパワーの点で言っても、たとえば鉱山(カードを1枚引く)とレストランを行き来するよりは大農園(消費財を3枚引く)とスーパーマーケット(手札を3枚捨てて家計から$18得る)を行き来したほうが得られるお金が多くなります※。

※2ワーカー使って手札は増減なしで前者は$15, 後者は$18得られ、計$3多く手元に残るため。

独立拡張で単体で遊べるようにしたのはなぜですか?

2つのゲームを持ち歩かせて2倍のカードについて説明する負担を顧客に強いるのはまずい考えです。また、ナショナルエコノミー・メセナの一部の強力なシナジーはナショナルエコノミーのカードと同じ環境に存在できません。古いものを捨て去る事が新しいもののための場所を作ることもあります。

ボードゲームデザイン

どのように遊ぶ側から作る側に移行しましたか?

遊ぶのも作るのも始めたのはほぼ同じタイミングです。ゲームを作ることに抵抗はありませんでした。デジタルの話になりますが、最初に自分で作ったといえるのは、ブラウザゲームStrategy StationのModです。XML(設定ファイル)をいじることで独自のルールをインプリメントできるという洒落た機能がありました。Strategy StationはCivilization IVのデザイナーであるSoren Johnsonが作ったもので、面白かったのですがややゲームバランスが悪く、仲間うちでハウスルール作ってバランスを調整していきました。

バランスを変えたら連絡を回して、遊んだあとはここが良かったとか悪かったとか、いいものは残して悪いものは巻き戻してっていうのを繰り返しました。

もともとデジタルゲームであるCivilizationをされていたのですね。

そうですね。デジタル・アナログに関わらずゲームが好きです。

1995年頃に初めてCivilizationに触れましたが、当時は10歳にもなっていなかったと思います。2007年に、Civilization IVの最後の拡張パックであるBeyond the Swordが発売され、新しい戦略を考えて、CivilizationのWikiに攻略レポートをあげるようになりました。

Civilizationシリーズはそのタイトル通り「文明」を築き上げるゲームだ。文明発展の過程で、資源生産・テクノロジー研究・宗教の選択・社会制度導入・戦争や外交が存在する。ボードゲーマーにお馴染みのメカニクスも多数見かけることができる。競争相手となる文明には、平和主義で温厚なAIもいれば、軍事力を背景に恐喝行為をしてくる好戦的なAIも存在する。

当時まだ攻略法が確立しておらず、そもそもクリアできるのかが議論の対象だったので、クリアできるところを見せようと動画も作っていました。

Civilizationのような文明ゲームをボードゲームでも作ろうと思わなかったのですか?

Civilizationに続く文明建設ゲームが多く発売されていて、差別化しにくかったためです。「文明建設」はゲーム作ってみたい人が試しに選ぶようなジャンルでもありました。文明建設というテーマを選んでしまうと、凡庸の海に沈みます。

また、具体的な話でいうと、3人以上でゲームをプレイする場合、戦争・軍隊はゲームバランス上非常に扱いにくいのです。3人以上のうちの2人の文明、プレイヤーが戦闘をして資源や勝利点を相手からぶんどるとなると、戦闘に勝利したプレイヤーが極端にゲーム自体の勝利に近づき、敗退したプレイヤーは極端に遠ざかります。

製品化されているようなゲームは、例えばボードゲームのCivilizationでは誰かが首都を奪われた段階でゲーム自体が終わるとか、あるいはエクリプスでは戦争するだけで勝敗に関係なく得点チップをもらえるとか、いろいろ工夫がされています。

世界の七不思議では、軍事点を比べあって高いほうが勝利点をもらうというように、間接的になっています。直接攻撃ではなく、中央のボードを介して攻撃するとか、共通の目標を誰が一番先にぶんどるか、みたいな間接的なプレイヤーインタラクションになっていく動きがあります。

上記写真の赤いカードが保有している軍事点を表す。
これは自分のボード上に軍事点獲得を宣言するものであり、直接攻撃アクションとしてプレイされるわけではない。

また、誰を殴るかをプレイヤーが選べず、公正性を確保できるルールになっています。3人以上で遊んでいて攻撃する対象を選べる場合、外交が始まってしまってゲームとは別のレイヤーが生まれてしまうのです。

上記のようなゲームデザインの流れの中がある中で、そもそも軍事・戦争の要素があんまりよくないと考えています。

「小さく」「完璧な」ゲームを作ろう、という言葉を掲げていらっしゃいますが、なぜですか?

最も効率的に経験を得るには、大きなプロジェクトを1つ終えるよりも小さなプロジェクトを多数完成させることです。1つ1つを丁寧に仕上げ、代価を取って販売し、感想を聞くことで技能の向上に繋がります。

特に、やったらだめなパターンがどんどんわかってきます。たとえば、他のカードの能力をコピーするっていうカードは相当慎重に作らないといけないと思います。コピー能力を入れることによって、他の強力なカードが入れられないとか、全体のデザインを拘束してくることになります。

より優れたもの、質の高いものを作りたいと思っています。うまくなっていくと、無駄なものが削ぎ落とされていくのです。忍者が庭に植える麻の如く記憶の中で年々美しくなる名作を超える為に励んでいます。

今回お持ちいただいている新作のNot My Fault!は、ナショナルエコノミーに比べてプレイ時間が短いのですね。

はい。Not My Fault!は、2017年6月10日発売の新作ボードゲームでテーマはシステム会社です。少しゲームの内容について説明すると、いわゆる嘘つきゲーム、ブラフゲームです。

主に数字の書かれたカードが入っています。数字カードの数字はどれだけ仕事をしたかを表しています。5点分仕事をしたよ!というように申告するのですが、嘘をつくことができます。次の人も、前の人と合わせて8点分仕事をしたよ!と申告を続けます。嘘つきが紛れ込んでいますから、どこかの時点で露見するわけです。それ嘘だろ!とダウトされます。ダウトされると、直前に手を動かしていた人がすべての責任を負わせられます。嘘をついても通してしまえばよいのです。

ライアーズダイス(ブラフ)に近いですね。

ポーカーダイスという、5つのダイスを振って役を作って、あとの人はそれより高い役を作って回して、っていうゲームには問題があって、次の人が振り直したところで自分の作った役が何だったかという情報が失われてしまうところです。情報が失われる場合、振り勝負になってしまいがちですが、Not My Fault!では前の情報は残り続けます。

無駄をない小さなゲームを心がけているので、ナショナルエコノミーがスパ帝国の中ではプレイ時間が長いほうで、過去作でも10分級のゲームはいくつも作っています。

最初にルールを作りますか?

はい。フレーバーを先に作ってしまうとデザイン上の制約が生まれてしまうので、どうしても手足をしばられた状態で戦わないといけなくなります。

メカニクスがいったんできた状態だとテーマを見つけるのはそんなに難しくはありません。最悪アブストラクトでも構いません。ルールは作り直すことも多く歩留まり※の悪い工程なので、先にやったほうが無駄は少ないのです。

※歩留まり:投入した量に対して得られる生産物の比率

ルールはどのように作り始めますか?

理論からルールを思いつく場合とルールを直接作る場合があります。

ナショナルエコノミーは前者で、理論からルールを作ったパターンです。経済理論について考えていて、なんでバブルは起こるのか、とか不動産はいったいどういう資産なのか、とかって考えていくうちにあの経済モデルができました。

流通している金は他の誰かの借金である、他の誰かの書いた借用書を銀行が裏書して流通させているっていうのが金であるっていうのがナショナルエコノミーの考え方です。

もともと考えていたのは、建物を作ったらその実物資産を抵当に入れて銀行からお金を借りてくる仕組みでした。信用創造が行われて流通する通貨が増えてぐるぐる回っていくっていう仕組みです。

その仕組がやや面倒だったので、抵当に入れるのではなくただ建物を売るようになりました。

Not My Fault!は後者で、ルール先行で作りました。場にあるカードのうち、自分の出したカードはわかっています。自分だけが知っている情報が一部分あるという状況は面白いのではないか?という理屈から作りました。

誰かが書いたコードを引き継いでいくのですが、誰がどれだけ仕事をしたのかは外部からは非常にわかりにくく、炎上して初めてわかります。そして、最後に手を動かした人が責任を負っかぶされられます。最後に見た人が気づかないとだめでしょう?と言われてしまって。Not My Failtのルールをそう解釈するとシステム会社と非常に似ていると言われ、後からフレーバーをつけました。

コンポーネントにこだわりはありますか?

安く作ることですな。コストの関係でワーカーもミープルでなくカードにしています。木のコマにすると値段が跳ね上がり、箱も大きくなり、輸送費も高くなります。上がった分のコストを全部値段に転嫁すると、小売価格がだいぶ違ってしまいます。

ナショナルエコノミーのワーカーは工場作業員のカードだ。ワーカーがキャラクター付けされてるのって案外珍しいかも?

ワーカーをミープルにすることで遊び勝手はあがるのですが、遊び勝手の上昇分と値段の上昇分を天秤にかけると割にあわないと思っています。最低限の紙のカードは入れておいて、木のコマで遊びたい人は自身のミープルを使ったほうが、経済効率がいいと思います。

ボードゲームに関して前から不合理だと思っていることは、それぞれのゲームにそれぞれのコマが入っていることです。もちろん固有の部分は入っていないといけないのですが、汎用のキューブだとかミープルだとかは家に汎用の箱をひとつ置いてまとめて保有していればいいんじゃないかって思っています。

汎用部品を入れないで済めば、箱も小さくできます。大箱は人の家に持っていくときにカートに入れてごろごろ持っていく必要があり、いろいろと問題があると思うんです。

ゲームはどのような環境で考えますか?

着想は会話をしていて思いつくことが多いです。またはゲームをやっているとき、特にだめなゲームをやっているとき、これ何がしたかったのか、何がだめなのかと考えます。メモはしません。考えたことは覚えておきます。

ルールを考えているときは、机に向かって考えるというよりかは、ダイス持ってきて振ってみて面白い動きがないか、などと考えます。

最近一番スムーズにできたのは、まだ発売してないプロトタイプで競りゲームです。翡翠キャラバンという仮題をつけています。

競りゲームを8種類の2項対立を作り、2の8乗である256種類に分類しました。お金を払って何かを買ってくるのか、それともラウンドごとにひとり1個取ってくるみたいにするのか。イングリッシュオークション※なのかダッチオークション※。このような2項対立を作っていって、表に既存のゲームを当てはめていって、開いている場所を見つけました。

※イングリッシュオークション:最も高い価格を提示した買い手が購入できる販売方式。

※ダッチオークション:売り手が高めに設定した価格から順に値を下げてゆき、最初に買い手がついた値段で商品を売る販売方式。

同じように得点ギミックも7種類くらいのカテゴリーに分類していきました。線形に伸びていくものだと1枚1点。急激に伸びていくものだと1枚1点、2枚で4点、3枚9点のような。あるいはみんなの中で一番集めた人がたくさん点をもらえるっていうマジョリティ。分類ごとに得点カードを作ったらきれいにはまりました。

もともと何かを分類して考えたりするのが好きで、月刊スパ帝国※でも使っていました。

※雑誌:ゲーム付きミニ雑誌。やりたかったことをやりきったとのことで、現在は新しい刊の発売は予定していない。

流行を見てゲームを作ることはありますか?

あまり考えません。そのとき自分が好きなものとか自分が夢中なものを作っていったほうが、情熱の炎が乗り移っていって、それが伝わるものですよ。

もちろんお客さんのことは考えます。どんなシーンで遊ばれるかとか、気軽に手にとれる小さい箱のほうがいいだろうとか、あんまりコンポーネントは多くないほうがいいとか、拡張パックにして2箱持っていくのはめんどくさいだろうとか、そういうことは絶対考えます。ただ、どの層に向けて売ろうっていう考え方はしませんね。結局人間って層じゃなくてそれぞれ個人なので、それぞれに好きなものがあり、都合があり、生活があるので、層で考えても仕方がないと思っています。

スパ帝国の今後の動き

ナショナルエコノミーなどたくさんのゲームを作られた今、過去作でリメイクしたいものはありますか?

過去に作ったルールの一部改訂という意味のリメイクなら、しないほうがよいと思っています。やっぱり作ったあとで違う人間になるので、過去に作ったゲームはそのときその瞬間にしか作れないものです。過去のゲームのルールやストーリーなどの構成要素に後から手を入れると、一貫性がなくなり継ぎ接ぎみたいになってしまいます。それなら全く新しいゲームを作ったほうがいいんじゃないかなって思います。そのときの全力は今は出せません。今の情熱は別のところに向いています。

1つの要素をまるごと取り替える形のリメイクなら、することはあります。月刊スパ帝国Vol.19で発表したウォータイムエコノミーというゲームは、コンポーネントやアートワークを豪華にした改訂版を制作しています。

これからどういうゲームを作るのが夢ですか?

シンプリシティ、ミニマリズムを極めていきたいと思います。今ちょうど作っているのがワーカープレイスメントのミニマリズムなんですよ。

ワーカープレイスメントを、ゲームをしない人がわかるくらい極限まで単純にしていったらどうなるかっていう思考実験から生まれたものです。

Letnisko(サマーリゾート)という、ワーカーが固定2人で一切増えないといったホテル経営のボードゲームがあるように、ワーカーは少なくてもゲームとして成り立ちます。では、最も少なくて1人じゃないかと思いまして。ワーカーは1人、スタートプレイヤーは順繰りに回っていく、職場は3つ。そういうふうに極限まで絞り込んでいって、成り立つのかっていう思考実験です。ミニマルの可能性を探求していきたいと考えています。

作るものは要素を削っていきたいんですか?

そうですね。要素が多いものでも単純な核があってフラクタルパターンで伸びている形になっていると、恣意性が少なくて美しいデザインになりやすい※のですが、要素は少ないほうが良いでしょう。

※多くの要素があっても規則的に配置されていれば単純さが保たれる

これからボードゲームに関する賞をもらえるとしたら、何がほしいですか?

ドイツ年間ボードゲーム大賞※は売上に繋がりそうだからほしいかな。日本にも売上に繋がるように賞が発展していけば、産業全体の発展、前進に非常に貢献するでしょうね。

また、海外という意味では、専門家とたまたま知り合ってナショナルエコノミーのルールをちゃんとした英語にしてもらって作ったのですが、どこに持っていけばいいのかわかっていない段階です。

※ドイツ年間ボードゲーム大賞:1979年に始まった、ドイツで選定されるボードゲームの権威ある賞。専門家による選考委員会によって、5月にノミネート作品が発表され、6~7月に大賞が決定する。大賞の他に、子供ゲーム賞、エキスパート賞がある。ロゴを表示するにはライセンス料を支払う必要があるが、ゲームの売り上げが上がることを期待できる。

これから何か強化したいところはありますか?

現在は個人事業主ですが、税金の関係で法人化したほうがいいと言われているので、来年から会社組織にします。今も専業でボードゲームの制作をしているので、事業内容は変わりません。テーマや美術の面でまだ競争力が十分でないので人員を引き入れて補強したいと考えています。

テーマ・フレーバーは後付されていますが、外注したいと思うことはありますか?

クリエイティブな人がいるのだったら、力を見せてもらいたいって思うことはあります。ひとりで全部テーマを決めると、同じようなものになりがちです。

自分が好きに作ると、ローマのゲームができました!ギリシャのゲームができました!カルタゴのゲームができました!ってどれも同じじゃねえか!となります(笑)。経済まみれになったりとか(笑)。

テーマに関しては多様性があったほうがいいのです。

これから作ってみたいテーマはありますか?

なぜ帝国の中心地は歴史上だんだん移動していくのかっていう問題を扱ってみたいですね。ひとつの帝国が栄えると、その中心部はだんだん豊かになり贅沢になっていくのですが、だんだん堕落や内戦が始まり、別の遊牧民、団結力のある別の部族がそこに侵入することでそちらが文明の中心になっていきます。メソポタミアや中国平原で繰り返し出てきたパターンです。

それをモメンタム※という概念で理論化していて、いつかボードゲームを作ってみたいと思います。

モメンタム:勢い。Momentum。

ボードゲーム界の今後

今はたくさんの作品が発表されていても、面白いボードゲームはきちんと評価されることが多そうですね。

発掘するのが好きで、新作を買っては周りに勧める、そういう人も確かにいます。

ただ、話題に繋がったのは、ボードゲームの感染性による部分が多いと思います。ボードゲームは複数人で遊ぶものです。ひとりが買って、4人で遊んで、その4人がまた買って、別の場所に持っていって、という流れは、ウイルスの感染と一緒ですね。

ボードゲームはまだ発展すると思いますか?

まだ発展途上で、これから発展していくとは思っています。ドイツがこれほどボードゲームに関して発展しているのは、単純な歴史的経緯の偶然によるものも大きいのではないでしょうか。ドイツは関税が高くデジタルゲーム機が普及しなかったことや、残業が少なく家族で遊ぶ時間がとれることが原因にあげられていることもわかってはいますが。

日本はデジタルゲームがたまたま先に普及しただけで、これからボードゲームは先程の理論で感染が見られるのではないでしょうか。

年々同人ボードゲームのビジュアルもよくなっていますね。

ビッグサイトに移る前からゲームマーケットに出ていますが、ルールも見た目も成長していると思います。面白いゲームは増えました。見た目のデザインを改善していくのも大事ですし、産業の発展でしょう。ルールもデザインも流通も、全ての部分でバランス良く発展していくことが重要です。

これからも業界が大きくなるといいことばかりですね。

いえ、そうとも限りません。業界が成熟していくと、だんだん一人勝ちの傾向になっていくのが普通ですね。市場が成熟していって、お客が入ってくることで利益率が大きい産業になってくると、供給も増えて競争が激しくなります。たくさんリソースを突っ込む競争になってくるのです。場合によっては低価格という方向に競争が起こります。スケールメリットが非常に大きな役目を果たしてくるので、一人勝ち傾向は強まるでしょうね。

デジタルゲームの産業がまさにそうです。ごくわずかなディベロッパーが大部分の利益を持っていきます。Atari2600やApple IIなどの黎明期のゲーム機やコンピュータが出たころは開発費がまだ高くありませんでした。1981年に発売されたPRGである初代Wizardryは、デザイナー2人が半年で作ったとマニュアルに記載してあります。それが、だんだん競争が激しくなり、市場が成熟し、開発費が高騰していきました。

この傾向は何度か繰り返されているんですね。最近だとiPhone、iOSもその状況が見られたのではないでしょうか。デバイスが出たころは大変廉価に開発することができ、非常にたくさん参入があったんですが、どんどんグラフィックが豪華になり解像度もあがり開発費が高騰する一方です。

ボードゲームもその例外ではないと思いますよ。市場の成熟にしたがってどんどんコンポーネントが豪華になり、ドミニオンのようなめちゃくちゃ手間のかかったルールを作るようなり、投入するリソースが増えていき、はっきりした格差社会になるんじゃないでしょうか。

ボードゲーム業界のこれからの課題はなんだと思いますか?

健全な批評とジャーナリズムを確立し、優れた製品を生み出す土壌を作る事です。

やはり批評というか評論というか、良いレビューが存在することでよい商品が生き残りやすくなるわけですから、広告に汚染されたりすると、そこは歪んでいきます。一切広告を載せずに、レビューだけを載せて売るという雑誌があれば一番いいと思います。今はいいボードゲームが何かっていうのはお友達に聞くようにしています。それでも狭い世界ですからけっこう急速に広まりますけどね(笑)

おわりに

以上、スパ帝国の西村さんにお話を伺いました。

ナショナルエコノミーは私自身も遊んだことがあり、中量級であることからライトなボードゲーマーが集まるゲーム会でもよく見かけ、リプレイ性の高さと戦略の幅の広さから戦略を解説する記事も多く見ました。

月刊スパ帝国でかなり色濃く見られる通り、西村さんはかなりの理論派で、社会現象からでもボードゲームを作ることができる、多作なデザイナーです。

前々回のコラムでは、同じく専業ゲームデザイナーの江神号さんにお話を伺いました。テーマから作るかシステムから作るか、プロモーションに力を入れるか入れないか、かなり違いがあるおふたりのように感じます(おふたりは面識があるとのことです)。

日本でも様々な方がボードゲームデザイナーとして活躍されています。これからもたくさんのボードゲーマーに情報をお届けしていこうと思います。

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