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【SPIEL'16イベントレポート】ボードゲームの本場 ドイツの世界的イベントby Table Games in the World管理人:小野 卓也さん

【SPIEL'16イベントレポート】ボードゲームの本場 ドイツの世界的イベント by Table Games in the World管理人:小野 卓也さん
2016年11月2日
世界のボードゲーム紹介サイト『Table Games in the World』管理人:小野卓也(編集:くまくま)

ボードゲーム界に足を踏み入れた人なら誰もが知る、ボードゲーム楽しさをわかりやすく紹介する人気サイト『Table Games in the World』の管理人にして現役の住職でもある小野 卓也さん。

今年もドイツ・エッセンで開催された世界的なボードゲームの祭典『SPIEL(シュピール)'16』を訪れたというので、会場の様子や注目のゲームをレポートしていただきました。

小野流SPIELの歩き方

今年のSPIELの通路の様子。こちらは入口に近い3番ホールで、最も混む箇所といえる。まだ初日なのでこれくらいの混雑で済んでいるが、土日になると家族連れが増えるためもっともっと混雑する。体格が大きい人が多い上に、荷物も多い!

ドイツのプレッセ誌は、SPIEL'16について「すでにここ数年、今のトレンドを明示することはどんどん難しくなっている」と評する。50カ国から1,021もの団体が集まって1,200タイトル以上の新作を発表するのだから当然のことである。マルティン・ルターによる宗教改革500周年を翌年に控え、宗教改革をテーマにしたゲームがリリースされたり、今ドイツでも流行している脱出ゲームを家庭でも遊べるようにしたゲームが出たりしていたが、いずれも数タイトルずつに過ぎず、全体から見ればほんの一握りにすぎない。
キッズゲームからゲーマーズゲーム(ゲーム好きの人に好まれるゲーム)まで、協力ゲームもコミュニケーションゲームも、どんなニーズにも応えられる膨大な新作群がSPIELに参加する人の目の前に広がっている。

事前に下調べをしておく必要性

会場の広さも混雑度も年々増しており、適当に歩き回って、気になったゲームを見つけるという牧歌的な楽しみ方はもはや通用しなくなった。人の波に飲まれながらのろのろ歩いていると、会場の端から端までたどり着くだけで15分も20分もかかる。ゲームを買って持ち歩けばさらに速度は落ち、体力もどんどん奪われる。SPIELでの買い物をテーマにした『エッセン・ザ・ゲーム』(2014)というボードゲームを思い出すほどだ。

エッセン・ザ・ゲーム』は、駐車場に駐めてある車と会場を行き来してボードゲームをたくさん買ってくるゲーム。ゲームを買えば買うほど手持ちのお金とともに行動力が落ちていくため、奥の方のブースに行って帰ってくるのは大変だ。

会場のナビをしてくれる先達がいればいいが、そういう人がいなければ国内の『ゲームマーケット』と同様、下調べをしっかりして、お目当てのブースをピンポイントで訪ねていくことが肝要となる。ものによっては初日に売り切れてしまうものもあるのだから。

試遊卓の周り方

会場内で参加者が遊んだゲームに投票して、その結果をリアルタイムで発表する「スカウトアクション」(ドイツのボードゲーム情報誌『フェアプレイ』主催)は、会場を回るときのひとつの道標になる。ここで上位になっている作品のブースを訪れ、どんなゲームかチェックしているだけでも飽きないからだ。しかし投票で上位になるくらいだから、ブースは人が一杯で、行ってすぐに遊べることはまずありえない。しかもゲーマーズゲームが多いから、試遊卓の回転率も悪い。試遊卓が空くまで1時間もかかるとしたら、果たして待つことができるだろうか。それよりもおとなしく帰国して、日本語ルール付きで遊べる日を待っているほうが賢明ではないか?(実際、人気上位作品の多くはほどなくして日本でも発売される)

昔話になるが、人気メーカーのアレアドイツ)はかつて、試作段階の新作ゲーマーズゲームをSPIELで紹介していた。実際に製品化されるのは半年後になるため、SPIELで遊べるのは貴重な体験である。そのため試遊卓はいつも予約がいっぱいで、その予約すら前日のうちに取らなければならない。そんな苦労をしてまで『ノートルダム』(2007)や『ブルゴーニュ』(2011)の試作品をSPIEL会場で遊んだのは、いまもいい思い出になっている。

かつてのSPIELで体験した試作品段階の『ノートルダム』。コンポーネントはほぼ完成形で、SPIELでのテストプレイによるフィードバックをもとに、最終的なルールが作られていた。これだけ手間ひまをかけて作り込んでいたので完成度が非常に高い。

しかし今や新作発売の回転は早くなり、日本の業者も先を競うようにして輸入しているので、遅くとも年内には日本語ルール付きで入手できるものが多くなった。スカウトアクションで上位になるようなものはほぼ間違いなく、早いうちに日本で遊ぶことができるだろう。

そうなると混雑と人気ゲーマーズゲームを避けて、ハバ社ドイツ)やゴライアス社オランダ)のブースで短時間のキッズゲームを遊んだり、中古ゲームのブースを物色したり、奥のホールにあるマイナーなブースで掘り出し物を探したりすることになるものだが、それだけだとちょっと物足りない。

少し遊びごたえのあるものを求めるならば、おすすめなのがピアトニク社オーストリア)である。あまり話題にはならないメーカーだが、ドイツゲーム黄金期のデザイナーを起用してミドルクラスの作品を発表し続けている。ちょっと待てば試遊卓が空き、ルールも長くなく、小一時間ほどで遊べて、安定感のある面白さもある。難をいえば、英語のルール説明があまり得意でないスタッフが多いので、結局自分でルールブックを読まなければならないことぐらいか……。

今年の注目タイトルは清朝の商人で成り上がる『揚子江』!

Yangtze(揚子江)』のボックスアート。刺繍か版画のようなアジアンテイストあふれるアートワークに、揚子江と皇帝、そして建物とゲームに関係するものが写し込まれている。タイトルの「ヤンツェ」は揚子江の「揚子」を中国語読みしたものだ。

今回ピアトニク社が発表した新作は『Yangtze(揚子江)』。中国の交易を舞台にしたボードゲームデザイナー R.クニツィアの作品である。R.クニツィアは近年、ゲーマーズゲームを好む風潮から背を向けてファミリーゲームを作り続けているためあまり注目されないが(ドイツゲーム賞からは『ケルト』(2008)以来8年間も遠ざかっている)、運とジレンマを巧みに組み合わせたデザインの腕は少しも錆びついていない。そのクニツィアはピアトニク社からも多くの作品を発表しており、『古代ローマの新しいゲーム』(1994)、『インフェルノ』(2005)、『カリスト』(2009)がこれまで日本語版になって販売されている。

『Yangtze(揚子江)』の話に戻ろう。中国では1616年、太祖ヌルハチが清王朝を開いた。それから「ラスト・エンペラー」溥儀(ふぎ)に至るまでの約300年間がこのゲームの舞台だ。プレイヤーは商人となって工芸品や日用品を集め、セットで販売して利益を上げていく。その利益で建物を競り落とし、さらなる儲けを競う。セットコレクションとオークションをかけ合わせたシステムを、300年ではなく実時間60分ほどで遊べるように凝縮したところがクニツィアの面目躍如である。

ゲームボード上には揚子江がゆったりと流れており、そこに商品チップが並んでいる。上流にある商品ほど値段が高く、流れて下流に来ると値段が安くなる。アジアのイラストもさることながら、ゲームボードに溝がついていて、チップが一列に並び、スムーズに下流方向に移動できるようになっているコンポーネントの工夫が嬉しい。

中央のボードには揚子江があしらわれており、商品が下流に流れるようになっている。周囲には皇帝チップが、それぞれの効果を発揮した後に並べられる。ゲームとは関係ないが、さりげなく各皇帝の名前と在位期間が記されていて勉強になる。

購入した商品は手元のついたての中に置き、ある程度揃ったところで販売する(通常の販売は手番の最初のみで、お金が欲しいときにいつでも販売できるわけではない)。同じ種類か同じ色の商品をたくさん揃えるほど利益は大きくなる。いわゆるセットコレクションというシステムである。高級な工芸品ならさらに利益も大きいので、できれば下流で安くなるのを待って購入したいところだが、ほかのプレイヤーに先に取られてしまう懸念がある。また、いつまでも売らないと現金がどんどんなくなっていくので、まだ数が揃っていないのに泣く泣く売らなければならないこともある。

揚子江にある商品を購入したら、袋から商品チップを引いて、川の上流に補充する。このときに「建物チップ」が出ればオークションが始まり、「皇帝チップ」が出ればイベントが発生する(商品が出るまでこれを繰り返す)。

商品と同じく建物にもいくつかの種類があり、ゲーム終了時、種類ごとに一番多く集めている人と二番目に多く集めた人に得点が入る。建物チップが袋から引かれたら各自手持ちの現金で競り合い、一番多い金額を付けた人が獲得できる。すでに同じ種類の建物を持っている人がいると競りも自ずと白熱し、値段もぐんぐん上がっていく。商品が揃うのを悠長に待っていられないのは、このオークションで現金が必要になるからである。インスタントに現金を調達してくれるキャラクターもいるが、最後まで使わないでいると得点が大きい。目先の現金目当てに今すぐ使うか、最後まで取っておくかというジレンマ!

皇帝チップは歴代の皇帝を表しており、皇帝によって自分の建物から臨時収入を得たり、商品に課税されたりする。最後の皇帝が出たらゲーム終了となるので注意が必要だ。終盤になると、お金もほとんど残っていない状態なので、商品をどこまで集めてから売るかも、皇帝の出方次第である。

各プレイヤーには6人のキャラクターがいて、上記のようにインスタントに現金を調達してくれる人のほか、1回の手番で商品を2つ購入できる人などがいる。これらをどのタイミングで使うかも重要なポイントとなる。

最後はお金の勝負だ。オークションで現金を使い果たしても、建物の数でボーナスを取れれば十分ペイする。あるいは建物の入手はほどほどにしておいて、商品を揃える方に注力するという戦略もあり、チップの出方に合わせて柔軟に対応できたプレイヤーが勝つことだろう。

セットコレクションやオークションは、ドイツゲームでは使い古された感があるが、そこに安定した面白さがあるのは間違いない。加えて各プレイヤーが好きなタイミングで使えるキャラクターカードと、袋から引かれたらさまざまな効果が発生する皇帝チップが、展開の多様性を与えている。ほかのデザイナーの作品はあまり遊ばないことで知られるR.クニツィアが、独自のデザインを日々アップデートさせていることを感じさせるゲームだった。

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今後も注目すべきR.クニツィア

展開の多様性は、現代ボードゲームの重要なキーワードである。90年代のドイツゲームも、ゲームごとにいろいろな戦略が試せるという意味では多様な展開が楽しめたが、現代ボードゲームはそこに留まらない。まるで別ゲームのように劇的な変化を見せなければならない。そのための手っ取り早い方法は、『アグリコラ』(2007)のようにたくさんの種類のカードを用意し、ゲームごとに違うものを使うというシステムだが、この路線を進めるとゲームの用具が増え、事前の説明に要する時間も、プレイする時間も長くなっていく。今、スカウトアクションの上位に入るゲームの多くは、この路線にあるといっていいだろう。こうした進化はボードゲーム愛好者を喜ばせるものではあるが、ファミリーゲームという範疇からはどうしても外れていってしまう。

その点で『Yangtze(揚子江)』をはじめとするピアトニク社の製品は、(オーストリアの国内事情によるものだろうが)あくまでファミリーゲームという枠組みを墨守している。その枠組みをはみ出さない範囲内で、展開の多様性を生み出すのは容易なことではない。近年ピアトニク社が起用しているデザイナー L.コロヴィーニ(代表作『金角湾』)やG.ブルクハルト(『パカルのロケット』)にもその精神が感じられたが、この作品でR.クニツィアが見せた手腕はそれ以上の見事なものであったといえよう。R.クニツィアはピアトニク社のほかにも、(この頃はキッズゲームが多いけれども)『オロンゴ』(2014)や『シャークトレード』(2015)などを精力的に新作を発表し続けているので、今後も注目していきたいデザイナーだ。

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