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日本ボードゲーム界の異端児に聞く!
ボードゲームデザイナーとして生きていくには?取材協力:EJIN研究所 江神号さん

日本ボードゲーム界の異端児に聞く!ボードゲームデザイナーとして生きていくには?
2017年2月11日
ボドゲーマ公認キュレーター:まつなが

ドイツが中心となって栄えてきたボードゲームですが、ハコオンナは見ての通りジャパニーズホラーテイスト。ボードゲームの棚に並んでいても、異質な存在です。

今回、このハコオンナの生みの親であり、現在は専業ゲームデザイナーとして活躍されている江神号さんに、「ボードゲームデザイナーとして生きていくには?」を聞きに行きました。

ボードゲームの作り方、売り方、今後のボードゲーム業界の展望……。世界中のボードゲーマーが自分のゲームを遊ぶ姿を見たい、と夢見るボードゲームデザイナーさんは必見です!

【作品について】ハコオンナのページ(ボドゲーマ)
【EJIN研究所】公式ブログ

第一章:ハコオンナとは

まつながハコオンナ、出してからの反響はどうでしたか?

イラストレーターのGENk様に非常に良い絵を描いていただきまして。受け取ったとき、「これはいける!」と。
夏のコミックマーケットで新作として発売したときはハコオンナに関して「絵が怖い」というツイートばかりが1ヶ月以上続きました(笑)

まつなが過去作には何がありますか?プレイヤーとしてのボードゲーム歴は長いんですか?

過去作はマタドーンヌシも悪よのぅ犯人は探偵の中にイるなどがあります。

カタンをはじめてやったのが15年前くらいで、制作歴は5年くらいです。この1年程は遊ぶ日が減ってばかりですが、以前は関東のボードゲーム会を単身さまよっては知らないボードゲームを遊ばせてもらうのが趣味で、結構あっちへこっちへとウロウロしてました。

まつなが2016年8月にハコオンナを発売してからもう半年ですが、いまだにお店では入荷後よく売れている印象です。どれくらい売り上げたのでしょうか。

2016年で約2,200個売り上げました。仕分けしたり、ボンドで貼ったりと、手作業が多い作品ですので、生産が追いつかない状態です。

だいたいの同人ボードゲームは、ハコオンナのような3,000円前後だと1つ1,000円ほど利益になります。なので、総利益についてはかけ算をしてもらえれば(笑)

(1,000円×2,200個=220万円)

まつなが2,200個!すごい数ですね。想像がつきません。

ハコオンナの概要
プレイヤーは『目玉』をめくって脱出アイテムを探す。ハコオンナを当ててしまったプレイヤーは即死亡する。

僕も想像すらしていませんでした(笑)5人で遊ぶとすると、2,200個×5人でハコオンナを遊んだ人は1万人を超えます。ゲームマーケットの入場数とほぼ同数です。僕がこのゲーム作ったことで、1万人がひーひー言って楽しんでいる。嬉しいですよね。

ボードゲームデザイナーをやってなかったらそんなことあったかって思うと、デザイナー冥利につきます。

まつながハコオンナはどのようにして生まれたのでしょうか。

ゲームマーケット春にマタドーンを新作として出した頃、ボードゲームの売上とアルバイトの半々で生きていました。半年後のゲームマーケット秋でも新作を売ろうと思っていたら、ない。ゲームマーケット秋秋ではない12月!「死ぬ!!」って思って(笑)

慌てて夏のコミックマーケットに出したのがハコオンナです。開発期間的には恵まれたゲームではないんです。

まつながボードゲームコレクションでは、ひとことインタビューさせていただきました。そのときホラーとボードゲームの相性は悪いとおっしゃいました。

メリーさんのカード
人形を購入し加工した素材とのこと。様々なコンポーネントを不気味に仕上げています。

ボードゲームで「怖い」が出せるのか考えたときに、最初は無理だと思いました。

「怖い」って、なんだと思いますか?結局、雰囲気で人間が「怖い」かどうか判断しているんです。怖いぞ怖いぞって雰囲気に言われて、初めて「びっくり」が「怖い」と認識される。

人間は、ばって何か起こったとき、ひゅって頭に戻して、状況を見て解析して、ただ「びっくり」したっていうのか「怖い」っていうのか「恋に落ちた」っていうのか判断します。それを本で読んだときに信じられなくて。

ゴキブリのおもちゃを買ってきて、実験したんですね。相手の足のところに置いて、気づいたときの反応見ました。観察していたら、気づいた瞬間じっと見てるんですね。見て1秒経って、「うわー!」って怖がるんです。1秒かけて物体が何かって知覚しているのでなく、どう判断するのか頭は考えているんですね。観察をしてやっと「怖い」の正体を理解しました。

つまり、ボードゲームで「怖い」をしようと思うと、雰囲気を怖くしないといけない。たとえばチップを全部目にしてみたり。目も怖いと思う人もいます。怖いよって声をかけて、部屋を暗くして、BGMも流して。徹底して雰囲気を「怖い」で統一しないと怖くならない。

動作として一番ホラーに近いのは、息をひそめてトークンを積む瞬間です。暗い部屋で息を潜めているような感覚。それで怖いと判断している。お化け屋敷と同じ錯覚です。

そういう周りの環境を必要としている時点で、ホラーはボードゲームと相性が悪いんです。ただ、怖いと思える環境がない状態でも、ゲームシステムは完成しているので、十分に遊ぶことができます。

第二章:ボードゲームの作り方

EJIN研究所 江神さん
取材を受けてくださった江神号さん。素敵なお兄さんです。

まつながハコオンナはドイツゲーム、ユーロゲームの流れを汲まない日本独自のゲームだと思っています。ドイツゲームに似たゲームを作ろうとは思いませんでしたか?

そもそも、今の日本のユーザーの中で、ドイツゲーム(※)にあるような「緻密なゲームシステムの機微」を求めている客層は、みなさんがイメージしているほど多くはないんです。

歴史あるドイツを啓蒙することも大切ですが、日本人は昔から独自の好みと感性、文化を持っています。邦画と同じように、日本人の好みに則したゲームを作る。デジタル、アナログに限らず、そういう作り方は古くからあります。僕はその流れを汲んでゲームを作っているので、ボードゲーム界では亜流なんです。

※ドイツゲーム / ユーロゲームとは、ヨーロッパで多く作られているタイプのボードゲームを指す。戦略に多様性が生まれるようなゲームシステムが多く、日本人ボードゲーマーにも評価されている作品が多い。

まつながボードゲームを作る上で、何を大事にしていますか?

ドイツゲームとの差を作ること、面白さの振れ幅を大きくすることが大事だと思っています。

ドイツゲームは学者さんが作っていてきれいにバランスをとっているため、何度遊んでも事故ることなく面白い。でも僕らは学者さんではない。とがったものでないと同じ舞台で勝負はできません。なので、事故は起こるけれども何回かに一回異常に面白くなるようなゲームや、部分的に過剰にこだわったゲームを作るよう心がけています。

高級料理店とラーメン屋さんに似ています。ドイツゲームは高級料理店で僕らはジャンクフード。味に特徴を付けて、若い子は好きだよ。でも年寄りは絶対受け付けないよ。みたいな味付けをしないと生き残れません。

学者さんたちと同じところで勝負するのが難しいなら、違うところで勝負するというのも、ひとつの戦略ですよね。

もちろん日本で同人ゲームという形でボードゲームを作っている人でも、頭のいい人はシステムから、ドイツゲームのように理論立ててバランスをとりながら作っています。ドイツゲームが好きで、愛してきて、自分たちもそこを目指そうっていうラインに乗っている方たちです。本来そうあるべきだとも思いますが、自分はちょっと変わった位置にいられたらいいなと思います。

※同人ゲームとは、ボードゲーム業界では、仲間・集団・共同体等のサークル活動によって作られたボードゲームのことを指す。

まつながどうやって発想から実際のゲームができるのですか?

まず、アイデア段階では、思いついたことを名刺サイズの紙に書き、壁一面貼ります。自分の中で膨らんでしまったイメージをわざと一度忘れてから、後で壁一面に貼ったネタを見直して、本当に面白いアイデアはどれなのかをジャッジします。

ジャッジの時点で光っていたら、そのアイデアのルールをこねてみます。そこまで進むのはアイデア30個中たった1個くらいの割合です。

次はいろんな人にアイデアを聞いてもらい、リアクションを見て、反応が悪いと思ったらそのアイデアは切り捨てます。「面白いね」と言われると、根幹のシステムは悪くないと判断して残します。残るのはさらに1/30くらいです。

残ったものにゲームとして成立するようにシステムを付け加えることで、おおむね形になります。年に3個くらいです。

根幹のシステムに細かいルールを肉付けし、整えていく作業には技術が必要です。これは、修羅場をくぐることでどんどん鍛えられてきましたが、今でも苦戦します。

ウシロニイルのカード
様々なハコオンナが持つ特殊能力の1つ。これは江神さんがご自身の顔を撮影し加工したそう。つまり、ウシロニイルのは実は江神さんです。

犯人は探偵の中にイるを思いついたとき「これおもしれえ!いける!会社やめる!!」って思い実際辞めたのですが、作り始めたら面白くならなくて、「やばい会社やめたのに」ってなって……(笑)

リリース直前に追加したルールで、やっとボードゲームとしてぱしっとはまりました。ハコオンナもそうです。最初はゲームの流れに「山場」がなく、テストプレイを繰り返し、ハコオンナを強くすることでゲームの展開に山場を作っていきました。実はハコオンナの能力が解放されていくルールは、最後のほうに追加したものです。

ゲームを作る終盤の作業は、弁当箱に材料を詰めていくイメージです。ピタっとはまる直前まで、隙間を埋めようと必死になっています。

第三章:ボードゲームの売り方

まつながここまでヒットした原因は、ゲーム自身にあるとしたら、なんでしょうか。

ヒットするように何重も仕掛けはしているため、要因の特定は難しいです。

①ホラー

最初、夏はホラーということで売れたのかと最初は思いました。でも夏が終わってからもずっと売れているから、要因としては強くありません。

②テーブルトーク(TRPG)

TRPG「クトゥルフの呼び声」は、名前は知っていても遊び方を知らない人が多くいます。クトゥルフ自体も膨大なバックボーンで、興味はあるけど遊べない人がいる。これはおいしい。ボードゲームでクトゥルフっぽいものが遊べるよ、と。クトゥルフのような怖いのが好きな人にどすんってウケました。

※テーブルトーク(TRPG)とは、ゲーム機を使わずに会話を中心として進む、ロールプレイングゲームのこと。たいていひとりがゲームマスターとなり、進行を行う。その他の参加者は担当するキャラクターを作成し、キャラクターを演じながらゲームのクリアを目指す。

※クトゥルフの呼び声とは、架空の神話を用いたTRPGを指す。

③脱出ゲーム

いま脱出ゲームのブームがあるため、その客層は取り込もうとしています。僕も脱出ゲームをしにいって、どういう部分でお客さんは喜んでいるのかを観察しました。実際にハコオンナに取り入れたのは鍵のシステムです。ひとつ問題が解けると次の問題が解ける、繋がっていく仕組みが面白いようでした。

④人狼ゲーム

人狼プレイヤーも取り込みたいと思いました。人狼ゲームでは死んでから暇だと感じる人もいますが、ハコオンナでは一度死ぬと「箱人」になり、ハコオンナと一緒に訪問者を襲っていけるというルールにしました。案の定、人狼好きのプレイヤーさんには「死んだらどうなるんですか」とよく聞かれます。

数時間かかる重いゲームになるにも関わらず①~④の全部を残したのは、すべて自分で足を運んで体験し、ヒットのために必要だと判断できたからです。結局ボツになって無駄足になる可能性もありましたが、結果的にハコオンナ一発でこれだけあたったのでやる価値はありました。

まつなが売り方として工夫されたことはありますか?

①コミックマーケットでの新作発表

夏のコミックマーケットで新作発表したことです。最近のゲームマーケット春・秋では約300タイトルの新作が出ますが、ゲームマーケット神戸や夏のコミックマーケットだと100タイトルもない。

新作タイトル数が少ないことでハコオンナの優先順位があがるんです。どういうことかというと、一般の人がゲームマーケットで10個20個とボードゲームを買ったとしたら、ルールが簡単なものから遊ばれるんです。つまり、ルールが複雑なハコオンナは最後になってしまい、なかなか感想がツイッターにもあがってこず、拡散力が弱くなります。

店頭販売時の問題もありまして、『ゲームマーケット新作』として並べてもらうときに、ゲームマーケット春・秋だと他のゲームも多く1つのゲームにあまり面積をとってもらえません。

ハコオンナはさくっと遊ぶゲームではないため、他の新作タイトルと並べると埋もれやすいものでした。しかし神戸新作!とかコミケ新作!ってなると大きく取り扱ってもらいやすくなります。

②テーブルトークイベントでの展開

夏のコミックマーケットのすぐあとの9月初旬にあったJGC(Japan Game Convention)という、泊まり込みのアナログゲームのイベントに持って行ってプレイしてもらったのもうまくいった要因の1つです。

ハコオンナはテーブルトークと同じように、箱女役(ゲームマスター)と訪問者役(プレイヤー)に別れます。近いスタイルのTRPGのイベントに参加することで、テーブルトークに慣れている人達が広めてくれました。

③豊富な販売委託先とインスト可能店舗の拡張

販売委託先にも足を運んでいます。出身の関西には販売店がいくつかあり、キウイゲームズさん、ディスカバリーゲームズさん、ひがっちゲームズさん、TRICKPLAYさん・・・。

店長にお願いして、インストして回してもらえる状況にしました。その後ツイッターをじーっと見ていると、遊んでます!って、大阪からワーッと火がついたように思いました。今回、関西のお店さんに助けていただいた感覚はとても強いです。

まつながこれだけヒットすると、メーカーさんからお声がかかったりしないんですか?

あります。ただ、ハコオンナに関してはいろんな兼ね合いで、形にはしませんでした。

まつながハコオンナの影響で過去作もよく売れるようになったのでしょうか。

ないですね(笑)

ハコオンナのパッケージ横に過去作の宣伝を載せていますが、効果はないに等しいです。

箱の横に記載された過去作
マタドーン犯人は探偵の中にイるが印刷されている側面

ただ、コンスタントに月に10~20個売れている犯人は探偵の中にイるは、ハコオンナが出たタイミングで売り切れたので影響はあったのかもしれません。見た目や作風に統一感を出したり、ブランドカラーをハッキリさせておくことでファンもつきやすいのではないでしょうか。

まつながハコオンナで失敗した部分はありますか?

お金の話になるのですが、定価を3,000円ではなく4,000円あたりにしていればよかったです。手作業でないと採算とれない金額設定で出してしまいました。

工場で作ったときの原価をベースに設定すればよかったんですが、高くする勇気がなく安く出しちゃったのが運のつきです。作業のために新作も作れません……。

第四章:ボードゲームデザイナーという生き方

EJIN研究所 江神さん
ハコオンナとツーショット。最近はハコオンナが可愛い子に見えるそうです。

まつなが昔から、何かを作るのが好きだったんですか?

小学生のころは、自由帳でゲーム作って遊んでいました。迷路があってぶつかったら戦うみたいなのを。校庭で遊んでいたら友達が「お前の作ったゲームで遊ぼうよ!」って来てくれて、いまだに忘れられません。そのときの感動が自分のゲームデザイナーの根源です。

だから、ボードゲーム業界にいるうちはずっと作る側にいたいです。作って、みんな遊んでくれて、楽しいって言ってもらえるとうれしい。ツイッターで感想を見ると嬉しくて、ずっと眺めていられます。

まつなが今はボードゲームの出荷に専念されていると伺いました。勤めもなく、開放感がありますか?

いやいや、毎日毎日ボンドと向き合っている生活です(笑)

土日も自由はなくて、ただただ発送業務です。昼も夜もなく組み立て作業です。数え間違えるとまずい作業があるので、そろそろ数を間違えてそうだなって思ったら寝て、朝起きると頭が覚めるまでは数が関係ない箱の組み立てをやっています。

心が折れたり飽きたりしたらツイッターでハコオンナを検索して、「これだけ待ってる人がいるならがんばるかー」って気合をいれています。

専業ボードゲームデザイナーの定義が自分のボードゲームの売り上げのみで生活してる人というのであれば、一応そのポジションではあります。問題は、ゲームデザインでなく生産作業メインの生活が、ボードゲームデザイナーといえるかどうか、ですが(笑)

まつながかなり手作りの部分が多いとのことですが、それは利益率を気にされてのことですか?

そうですね。一般的なサークルは、印刷会社に箱ごと丸々作ってもらうことが多いです。ハコオンナは箱の組み立てなどを自分でやると、1つあたりに必要な費用が半額か2/3くらいになります。初期投資額が減るので、自分で組み立てることにしました。

ボードゲームは売れて初めてお金が返ってくるんですが、いくつ売れるかわからないものにさくっと50万円くらいのお金を出すのは難しいですよね。全く売れないことだってあるわけですから。今回も、開発期間が短かったこともあり、リスクを極力取らないように、手作業を選択しました。

初版の500個はカードの切り分けなどもしていました。組み立て作業は1週間200個が限界。寝て起きて組み立てて、の繰り返しです。

再生産分は印刷会社に丸投げしても良かったのでは?とも言われるのですが、仮に生産を企業に出した場合、完成して送られてくるまで3ヶ月かかります。店に3ヶ月並ばないとみんな忘れてしまいます。それが怖いんです。それでも3000個作り終えた今はもう限界で、心と体が持ちません(笑) 次のロットの3版は中国に出そうと思っています。

取り扱ってくださる販売店も多いので、発送も大変です。夜にコンビニを何往復もしています。10個注文がくると、適切なダンボールがなくて、スーパーにもらいに行っています。自分が目指していたボードゲームデザイナーという職業はこんな地味な生き方だったっけってふと悲しくなります(笑)

アマゾンの取り扱いも考えたのですが、お世話になっているお店さんとの連携を大事にしたいというのもあって、今は対応していません。

まつながこれくらいのヒット作をどれくらいの頻度で出せれば生きていけそうでしょうか?

生き方次第です。僕のように、酒も女もギャンブルもやらず、細々とした生活をしつつ、自分で黙々と生産作業するのであれば… 1年に1本でもハコオンナ級のものを作ることができれば、年収250万前後で食いつなげるかなあ……と。

家族や趣味など、人並みの幸せを求めるのであれば、自分で生産をやらずに作ったり、権利だけ残して企業からリリースしたりする必要があります。そうすると一本あたりの儲けが減るので、ハコオンナ級のものが年間3本は必要になるかと思います。僕の実力では到底無理です(笑)

まつながなるほど。今の日本のボードゲーム界だと、一発あてて印税生活、というのは難しそうですね。

もっと儲かるものだと思っていました。今回ハコオンナが売れてわかったのですが、自分のゲームがランキングの上位にいてこのくらいということは、月に50個売れているゲームは数えるほどしかなく、多少利益率をよくできても生活を一変させるほどの稼ぎにはならない。つまり、今はボードゲームデザイナーとして食うのはかなり大変!

ハコオンナが当たるまでは、いつかゴールドラッシュみたいに「金がほれたー!」ってなる予定だったんですが…金はまったく埋まってなかった。掘り当てたのは銅でした。ずっとがんばってたのに銅かよ……的な(笑)。市場規模はほんとに小さいなぁと。

ハコオンナひとつで利益が250万ほどあっても、年に1つしか作れないと、サラリーマンの平均年収には届きません。僕にはハコオンナ級のものを年2,3本なんてそう作れない。これが今のボードゲーム界の現実です。

ただ、僕が体験した数字は今の市場規模の場合です。市場が倍になれば、生きていけるようになるボードゲームデザイナーは増えます。

倍、つまりハコオンナが5,000個売れてたら、利益は500万です。このレベルの利益があれば、デザイナーとして十分生きていける人が増えるのではないでしょうか。

第五章:ボードゲーム業界の行く末

まつなが日本ではゲームマーケットを中心にボードゲームをサークルで制作する同人活動が盛んです。この構造をどう思いますか?

同人活動は、商業と比べた時に、個性的な、とがったボードゲームが生まれやすい環境ですので、素晴らしいと思います。

ただ、その同人が脚光を浴びすぎてるかなと。実際、新しくボードゲームを始めた人が店に行くと、真っ先に目に入るのが同人ゲームだったりします。

現状、遊んだあとにもう一回!ってなる同人ゲームはそうはありません。はじめてボードゲームを手に取るお客さんが、繰り返し遊ばれることのないボードゲームを引く確率が高くなっていて、これはこの先を考えると非常ににまずいと。ゲームの数ばかりが増えて、それを遊んだ人がボードゲームってこんなものか、ってなる確率が上がって、もっといいゲームがたくさんあるのに、それを知る前に離れてしまうことになる環境は怖いですよね。

ボードゲームが広がっていくためには、優れた作品が溢れていなければならない。これはマストです。どのボードゲームをやっても面白い状態になっているのが理想です。そういう意味では、数ばかりが増えている今の状態はちょっとまずい状態かな、とも感じています。

まつなが日本のボードゲーム界を悲観的に見てらっしゃいますか?

常に、積極的に何かしていかないと食えない業界になる、と思って活動しています。

僕は廃れて潰れた業界をいくつも見てきました。ずっと同じことを繰り返し、発展せず、新しいものを生むことができず廃れてしまったジャンルは沢山あります。確かにずっと同じものを作ってるのは効率がいい。たとえば似たようなゲームはアイデア的にも使いまわせる部分が多く、テストも少なくて済みますから開発費も原価も抑えられます。ただ、そればかりだと作る人も遊ぶ人も、飽きますよね?

人が離れてしまい潰れる可能性が出てきてから「今からどんな対策を打とうかな」では遅いんです。

今、ゲームが増えすぎて質が低下しているなら、今、手を打たなければならない。個人でできることは小さいですが、できるだけ情報を共有することで、潰れるサークルをなくし、面白いボードゲームばかりが作られるようにしていきたいです。

まつなが毎年ボードゲーム業界は右肩上がりに発展しているように私には見えていて、潰れるといったことが想像できません……。

いえ、条件がそろうと、業界は容易に傾きます。隣の業界ともいえるテーブルトーク業界では、数十年前大きな変化がありました。当時テーブルトークは日本中で大流行していて、土日は参加希望の人で毎週のように公民館に列ができていました。

しかしあるときマジック・ザ・ギャザリングが海外から来て、人が離れ、急に業界が縮小してしまいました。急な変化に、誰も何もできなかった。公民館を埋め尽くしたあの人たちがいなくなった。

どんな業界でもいつかは潰れる、と言いたいのではありません。マジック・ザ・ギャザリングを代表とするトレーディングカードゲーム業界は、今までずっと潰れずに発展していっています。これは、人が残るための手、新しい人を増やすための手を打ち続けた続けた結果です。

発展が続いてる業界には、色々な業界の人達が流れてきます。今はまさにそんな状態で、僕もそういう人間の1人ですが、そういう人たちと、元々いた人たちで知恵と力を出し合って、ボードゲームもずっと発展し続ける業界にしなくてはいけないと思っています。

まつながこれからボードゲーム界でどのような影響を与えていきたいと思いますか?

ハコオンナのヒットで、いろいろな数字を見ることが出来ました。業界全体の動きは期待が持てますが、現状はまだまだ厳しかったりもします。今回ハコオンナがヒットした以上は、次からもしっかり作っていく意志と同じくらいに、他のボードゲームデザイナーの方々と一緒に業界を引っ張っていかなければならないという義務感が、自分の中で生まれています。

僕は「踏み台」になることが役割だと考えています。僕から見える範囲で、アナログゲーム業界を広げていく色々な手段に積極的にアプローチし、どんどん地雷を踏んで失敗して、みんなで進める道を作っていこうと思っています。

攻めのスタイルが実るかどうかは全く見えませんが、質の高い企画をしっかり作って試しても駄目なら「その方法は地雷だった」とわかりますから、無駄ではないかなと。勿論、新しいことをやって上手く行けば最高ですしね。

業界全体の質を少しでも上げるために、定期的にゲームスペースなどに顔を出したりして、考え方、作り方、売り方等、ノウハウを垂れ流しています。ハコオンナも、開発初期からそういった場所でのテストプレイを繰り返して作り方を披露していました。僕のやり方はあくまで亜流ではありますが、結果が出た「正解」のひとつです。このノウハウを若い子に伝え、良いボードゲームが生まれるように… 希望と才能に満ちた若い子が大転びしないように、少しでも力が貸せたらな、と思っています。

第六章:今後の活動

まつながハコオンナや次回作について、何か予定はありますか?

ハコオンナに関していうと、2017年は5,000~6,000個作る気でいます。グッズやLINEのスタンプも作ってもらう予定です。さらに、夏にはハコオンナの舞台化を展開していきます!

また、ホラー三部作を予定しており、二作目は「サカサオンナ」です。2017年の夏のコミックマーケットを目標にしています。同じ種類の怖さのゲームを出しても面白くないので、次はパニックホラーを考えています。砂時計の砂が落ちた瞬間、通路の端からすごい勢いでサカサオンナが迫ってくるイメージです。ちゃんとゲームとして成立するかはまだ不明です。

三作目は「オノオンナ」です。これはゲーム会社でプランナーをしていたときに出した企画のうちの1つで、イメージは七匹の子ヤギです。ジェイソンのような、アメリカンホラーです。

ホラーシリーズの売上があるうちに、作りたかったミステリー作品を作っていきたいと考えています。ゲーム開始時にすでに事件が起きているのではなく、ちゃんと殺人犯が殺人をして、第一発見者が発見して、それから誰が犯人が誰かを当てるゲームにしたいです。ただ、システムとしてはかなり難しいので、まだどうなるかわかりません。

僕は同人ゲーム屋としても10年のロートルです。沢山地雷を踏んできましたから、どの道が危ない道かも、色々な泥臭い戦い方も知っています。わからないことがある作り手さんは、頼ってくれればいくらでも力を貸しますよ。

終章 by まつなが

江神号さん、長い時間ありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。

はじめは、ハコオンナほどのヒット作を作ってしまったら、委託販売をしてしまって、もう優雅に印税生活ができるんではないか?という憧れの気持ちをいだいたところから、お話を伺いにあがりました。

これほど長期に渡り話題にあがる作品を見ていると『一発あてた』という表現をしてしまいそうになります。しかし、ハコオンナをプレイされたことがある方はよくご存知のように、圧倒的な情報量とテキストの作り込みから、簡単に作れるようなゲームではないことは明白です。

また、ハコオンナ誕生の話を聞いてみても、「怖い」とは何かを研究するところから始まり、脱出ゲームなどに自ら足を運んで研究活動の日々。大量の手作業や発送作業。そんな忙しいなか、舞台化のお話を進めていったり、後進の育成をしたり。

江神号さんは、「ワーカープレイスメント」「セットコレクション」「競り」などのシステムからゲームを作り、テストプレイで調整を重ねることを繰り返すといった、ボードゲームデザイナーのイメージとは大きく離れた姿でした。ボードゲームを作ったことのある方は、江神号さんの作業ひとつひとつに思いあたりはありますでしょうか。

ボードゲームの市場規模

今回のインタビューでは、現状の日本では、ボードゲームデザイナーとして生きることはなかなか難しい、という結論に至りました。 

市場規模に関して、先日、ドイツのボードゲームの推定市場規模が発表されました。

Table Games in the World
2016年のドイツのボードゲーム市場は550億円、前年比1割増

日本のいわゆるボードゲームの市場規模は算出が難しいですが、こちらも同サイトの国内ボードゲーム市場は30~40億円と推定、CEDEC2016にてに詳しい分析が上がっていました。ドイツの市場規模までもし引き上げることができたとしたら、江神号さんのように、ボードゲームデザイナーでご自身のアイデアのちからで生活をされる方が多くなるでしょう。

市場規模が大きくなるためには、ライト層の大幅な拡大が必要です。ライト層は、女性や子ども、若者に限定する必要はありません。たとえば江神号さんが話題として出していたトレーディングカード業界、脱出ゲーム業界、テーブルトーク業界。それぞれの趣味に追加して、ボードゲームも遊ぶようになれば、より裾野は広がるでしょう。

わたし自身は、ライト層の拡大に関して、不安を持っていました。ライトなゲームが増えることでゲーマーズゲームが遊べなくなってしまうのではないかと危惧したためです。

江神号さんにお金のお話を聞くにつれ、デザイナーが心から作りたいと思っている本命の作品を出すためには、資金が必要であり、資金を集めるにはヒット作が必要であることを学びました。

今後の日本のボードゲーム

「ドイツゲームを模倣するだけでなく、日本人に受ける日本独自のゲームを」と江神号さんはおっしゃいました。フランスから、今までのドイツゲームと全く異なるディクシットが生まれたように、ジャパニーズホラーを題材にしたハコオンナが、今後日本のボードゲーム業界を引っ張る日が来るかもしれません。

ジャパニーズRPGが海外で評価されたことがある過去を考えると、ボードゲーム業界でも起こり得ます。

海外から注目されたときに、代表作の後ろに優れたゲームばかりが並んでいるよう、優れたゲームをきちんとユーザーの声で広いあげられるよう、これからもボドゲーマは優良な情報を発信していく情報サイトで有り続けたいと思います。

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