- 1人~4人
- 30分~90分
- 13歳~
- 2017年~
オブセッション真夏。さんのレビュー
没落貴族の復興を描く極上のテーマ体験
「オブセッション」は19世紀イギリスのヴィクトリア朝時代を舞台とするボードゲームです。プレイヤーはかつて名門と呼ばれながらも今は衰退してしまった貴族家の当主として、屋敷を整備し、社交界での評判を取り戻すことを目指します。
このゲームは単なるポイント争奪戦ではなく、上流階級の文化や礼節をテーマとしており、あたかも小説の中に自分が登場人物として登場しているかのような臨場感を味わえます。まさに「没入感」という言葉がふさわしい稀有な作品です。
ヴィクトリア朝の雰囲気にどっぷり浸かる贅沢な時間
本作の最大の魅力は何といってもその徹底された世界観の再現です。フレーバーテキストや肖像画、そして斜体で印刷されたヴィクトリア風の書体に至るまで、全てが時代考証に裏付けされた美的感性によって構築されています。
ゲームのプレイ中、屋敷の庭園を整備したり、ダンスホールを新設したりといったアクションを行うたびに、「貴族の生活ってこういうことか」と感心する瞬間が何度も訪れます。ゲストを招いて紅茶会を開き、上流社会の評判を獲得していく様子はまさに自分が物語の主人公になったかのような感覚です。
高品質なコンポーネントがもたらす所有欲の満足
この作品はコンポーネントの質の高さも特筆すべき点です。厚手で質感のあるカード、詳細に描かれたイラスト、収納性と美しさを兼ね備えた専用インサート……すべてにおいて妥協がなく、箱を開けた瞬間からプレイヤーを19世紀の上流社会へと誘います。
また、ゲームボードや施設タイルのデザインも美しく、プレイが進むにつれて自分だけの邸宅が完成していく様子には視覚的な達成感もあります。細部まで丁寧に設計された物理的要素がプレイ体験そのものを引き上げています。
奥深く、選択に満ちた戦略性
「オブセッション」は、見た目の優雅さに反して非常に戦略的なゲームでもあります。ゲームの中心は、使用人の配置によるアクション選択と、ゲストカードによる能力発動にあります。特定のゲストをどのタイミングで呼ぶのか、どのアクティビティを開催するのか、そしてどの施設を邸宅に追加するのか——これらの判断がすべて得点に直結します。
資金や評判、使用人の種類と数など管理すべきリソースは多く、それらを効率よく活用するためには計画的なプレイが必要です。さらにイベントの種類やラウンドの制約が毎回異なるため、プレイするたびに異なる展開が楽しめます。
デッキビルディングの要素もこのゲームの特徴のひとつです。どのゲストをデッキに加えるかがその後の展開に大きな影響を与えるため、カードの選択には戦略と好みが大きく反映されます。
初見プレイヤーへのハードルとその先にある楽しさ
このゲームには、ボードゲーム初心者にはやや高い壁となる複雑さがあります。ルールの情報量が多く、初回プレイでは全体の流れがつかみにくいと感じる方もいるかもしれません。特に公式の日本語ルールが存在しないため、英語のルールブックを読む必要がある点は注意が必要です。
しかしその壁を越えた先には、他のゲームでは味わえない深い満足感があります。プレイを重ねるごとに自分の一族に愛着が湧き、「この家系をもっと良くしたい」という気持ちが芽生えてくるのは、オブセッションならではの体験です。
プレイ人数による楽しみ方の違い
オブセッションは1人から4人(拡張で5人)までプレイ可能ですが、人数によってゲームの楽しみ方が少し変わります。
- 2人プレイでは、相手とのカード争奪や施設タイルの取り合いが濃密でじっくりと戦略を練る面白さがあります。引き運に対するリアクションも共有しやすく盛り上がる展開が多くなります。
- 4人プレイでは、ゲストの出現や施設の競争が激しくなり読み合いやインタラクションが増します。
- ソロプレイでも完成度が高く、専用のAI対戦相手が設けられており1人でじっくりと遊ぶのにも適しています。
まとめ
「オブセッション」は、単なる得点計算ゲームではなく、物語を紡ぐ体験型の戦略ゲームです。世界観の深さ、美しさ、戦略性、そのすべてが高次元で融合しておりプレイごとに新たな気づきや驚きが待っています。
以下のような方には特におすすめです:
- 美しく重厚なテーマに没入したい方
- ゲームの「物語性」や「雰囲気」を重視する方
- リソース管理やデッキ構築など、じっくり考えるゲームが好きな方
- 美麗なコンポーネントにこだわる方
一方で、以下の点にはご注意ください:
- 初心者にはやや取っ付きづらい複雑さがある
- 英語の理解が必要
- 引き運が展開を左右することもある
それでも、「貴族の復興」というテーマをこれほどまでにゲームとして表現できた作品は他に類を見ません。まさに、「テーマ性を極めたボードゲーム」の頂点とも言える一作です。ぜひ一度、この優雅で奥深い世界を体験してみてください。
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