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  • 2人~6人
  • 90分~210分
  • 14歳~
  • 2004年~

四国1889山本 右近さんのレビュー

336名
7名
2
4ヶ月前

1.

四人で『Shikoku 1889』をプレイしたのは、今年の春の終わりの土曜日だった。雨は降っていなかったけれど、空気にはどこか湿り気があって、この時期にしてはやけに蒸し暑かったのを憶えている。

ぼくたちは大学時代のサークル仲間で、普段それほど深い付き合いはないけれど、こうして時折誰かの家に集まっては少し大きめのテーブルにボードを広げ、木駒とトークンの山と、ちょっとした飲食物と、小さな物語を置いていく。『Shikoku 1889』はちょっと古くて、だけど新しい18xxの作品だ。

「…土佐くろしお鉄道?でもこれ、黎明期の四国の話だろ?」

西大寺がマップを見つめながら言った。彼はぼくの高校時代からの友達の、そこそこ人気のある鉄道系YouTuberで、路線図や時刻表をオカズに飯が食えるタイプの男だ。

「いや、まあ、いいんじゃない?ゲームだし」とカワイが答えた。この西大寺と妙に親しいカワイのことは『アルジャーノンに花束を』がやたらと好きな男だということ以外あまりよく知らない。100万円を西大寺から借りているらしいが、その理由も知らないし、訊いたこともない。そういう余白も、この世界には必要なものだ。

ユカは黙っていた。細い指で紙幣や株券を整えながら、ただ盤面を見つめていた。彼女のIQは180あるらしい。信じるかどうかは人によるけれど、ぼくは多分信じていた。彼女の一手は、いつも鋭く、そして美しかったから。

初版は2004年の出版だが、2023年にグラフィックが一新された豪華版が出版された。土佐くろしお鉄道、通称くろ鉄は1986年開業と時代背景にマッチしていないが、作者の遊びごころといったところか。今治に『Hiroshima』と書かれているのは多分単なる誤植だろう。

2.

このゲームは序盤から悩ましい。ルールが非常によく似ている『18Chesapeake』に比べるとプレイヤーの初期資金は比較的少なく、個人会社の競りと公開会社の設立時には慎重な判断が必要になる。

「今、立てるのか?いくらで?それとも…待つか?」

カワイが自問するように言った。少し酒が入っているせいか、彼の声はいつもより少し掠れていた。

「ショボい株価で設立しても、みんなに食い荒らされるだけだぞ」

横から西大寺が口を挟む。その声音には、微妙な親密さと警告の混じった色があった。二人の間には何かがある、そう感じさせるような。

ぼくは、列車の残数と買い替えのためのコストを何度も確認し直しながら、頭の片隅であることを考えていた。なぜぼくはユカと出会った記憶がないのか。彼女はどこから来て、なぜここにいるのか。

プレイヤーの初期資金は390〜420とプレイ人数による幅が小さいのが特徴。会社設立時の株価は65〜100とそこそこ幅広く選べてしまうため悩ましい。株価を安く設定すると設立は少ない資金でできるが同時に株を買われやすいとも言え、また初期資金が少なくその分会社の運転資金が枯渇しやすく、かつ株価も低い位置からのスタートとなるため経営者の利益に繋がりづらくなる。会社設立時の株価設定は非常に重要な意味を持つのだ。

3.

四国のマップは狭い。敷設するスペースも、タイルの枚数も、各社の本社の位置も、駅トークンの数も、すべてがタイトに密接していて、ルールは比較的シンプルながらインタラクションが強烈だ。

「ちょっと、それ俺が敷こうと思ってたとこだって!」

カワイが声を荒げたとき、ユカは緩いカーブが描かれた路線タイルの最後の一枚をサプライからつまみ上げ、静かに彼を見て言った。

「こういうのがこのゲームの醍醐味だって、最初からわかってたはずじゃない?」

このゲームは路線タイルが他に比べて少なく、少し気を抜くとすぐに枯渇してしまう。カワイは黙った。ユカは本当にボードゲーム初心者なのか?それとも、何かを「思い出し」ているのだろうか。

ぼくは、サークルのイベントで事故に遭っている。軽い脳震盪だったらしい。医者は大したことないと言ったけれど、その事故と前後の記憶とがところどころ抜け落ちている。カワイやユカと出会った頃の記憶も。

そのせいかもしれないが、ユカの声を聞くたびに、ぼくの中の何かが揺れる。いつか夢の中で見た風景のように。

緩いカーブのタイルも直線のタイルも5枚ずつしかない。桜マークが印刷されているタイルは初級ルールで使用可能となっており、これを使うと6枚ずつになる。鉄道会社は7社あり、会社の数よりもこれらのタイルの枚数の方が少ないのだ。

4.

『Shikoku 1889』はテンポの良いゲームだ。バンクサイズは7000と小さめで、会社設立には5株あれば足りてしまう。マップが小さくプレイしやすい点もそれに拍車をかける。気づけばいつの間にかゲームは終盤を迎えていた。

ユカの敷いた路線は、ぼくの敷いた路線と接触しそうだった。あと2ターンあれば、彼女はぼくの敷いた路線を踏み台にして大きく伸びるだろう。共闘すべきか、それとも…。ユカは次の株式フェイズの手番順がぼくより後で、ぼくの会社の株を2株持っている。だからぼくは、ひとつの決断を下した。

「じゃあ列車も株も売り払って、経営権をユカに譲ろう」と、ぼくは言った。素寒貧になった会社を押しつけられれば、ユカといえども立て直しに多少は苦労するだろう。

「なんで?これから伸びるのに勿体無いよ」と彼女は訊いた。

「理由より、結果が大事だから」

そのとき、ユカが微かに笑ったような気がした。

ゲームの長さは大体4〜5時間といったところ。ボードゲームとしては長時間だが、18xxシリーズとしては短時間の部類に入る。ルールは比較的シンプルで中弛みも無く進むことが多いが、利益配分の計算や細かい紙幣のやり取りでどうしても時間を取られてしまう。

5.

勝者はユカだった。ユカは自分の会社とのシナジーを生かして、いとも簡単にぼくが譲った会社を立て直し利益を伸ばした。そもそも勝算がなければ無防備に2株握ってるはずがないよな、とぼくは薄々こうなることがわかっていたのかもしれない。誰も負けを悔しがる様子はなかった。18xxの勝敗とは、つまるところ結果的に残った個人資産の記録でしかない。この日四人が、ニセモノの紙幣や株券とともに言葉を交わしたという記憶、それだけが大事なことだった。気づけば窓の外はすっかり影に覆われていた。

カワイは最後に「ユカ、おまえ、あの薬まだ飲んでるのか?」と冗談のように言った。ユカは何も答えなかった。

帰り際、西大寺がそっとぼくに言った。

「ユカとお前は、お前が事故にあった直前に知り合ったんだ。多分、じきに思い出すよ」

その夜、ぼくは眠れなかった。けれど、確かに何か夢を見ていた。古びた四国の駅。遠くで甲高い汽笛が響く。木造のプラットフォーム。そして、ユカの後ろ姿。

それが記憶か、幻想か、それともそのどちらでもないものなのか、ぼくにはわからなかった。


※本文は「架空のプレイ記を載せることでよりプレイの楽しさ、臨場感が伝わるのではないか」というコンセプトで書かれたフィクションです。ゲームの内容に関するもの以外は全て架空のものです。

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ハナチャ
TM of Yokohama
つばくろう
18toya
つっちー
びーている / btail
PET
山本 右近
山本 右近
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#1
4ヶ月前

もともと好きでフォローしてるから、すげー好きです。ワンランク上の読み物だと思いした。

ANBARというボドゲのレビューを上げてる人のサイトがあって、それも好きだけど、当然更新されてなくて。

やっぱりこのレベルでは続けられないとは思いますが...良かったです。

勇者
ハナチャ
ハナチャ
#2
4ヶ月前

#1 ハナチャさん

お褒めいただきありがとうございます。楽しく読めてゲームの臨場感も伝えられる方法ではないかと思いつつ、独りよがりな気がしていかがなものかなという思いもある中、ちょっとくらいのおふざけなら許されるだろうと投稿しました。一応登場人物の設定のようなものはあって続きは書けるんですが、いかんせん感想を書けるほど遊んだゲームのストックが切れてしまっているという事情があり、いつ続きが書けるかわかりませんが…。機会ができましたら許される範囲で書こうと思いますw

山本 右近
山本 右近
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