- 2人~4人
- 90分前後
- 13歳~
- 2019年~
エンシェントワールド山本 右近さんのレビュー
ファンタジーというと、中世ヨーロッパ風の建物や衣装に、剣と魔法が使われる世界観を想像する方が多いのではないだろうか。しかしこの「エンシェントワールド」をテーブルに広げると、どこかで見たようで、だけどどの文明にも属さない、独自のファンタジー世界が現れる。どこか温かみがある色づかい、異国情緒溢れる建造物、そして敵ながら気高さを感じさせる「巨人」。既存のファンタジーの記号の組み合わせから逸脱して築き上げられたこの世界は、それだけで強い個性を感じさせる。
この作品を生み出したのは、Red Raven Gamesを率いるライアンローカットだ。彼はゲームデザイナーであり、アートワーク、ディレクションも自ら手掛ける稀有な存在で、ある意味映画監督や漫画家に近い存在と言えるかもしれない。作品を印象づける色調や風景、キャラクターのデザインから、背景となる設定、ゲームシステムの骨格、肉付けまで全てを創造する「総合芸術家」としての振る舞いは、彼の作品に一貫した独自の世界観をもたらしている。
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ローカットといえば、アバブ&ビロウ、ニア&ファー、Now or Neverの三部作が有名だ。これらの作品にはストーリーブックが付属していて、(それを使用しないでも遊ぶことはできるが、)RPGのようなゲームブックとボードゲームを合わせたような楽しみ方ができるように作られている。本作はそれらの作品群から少し離れたものとなり、プレイ感はまさにユーロゲームそのものだ。
軸となるのは半排他的な緩いワーカープレイスメント。ゲームシステムとしては独自性が高いわけではないが、ローカットの哲学のようなものは端々に垣間見える。
まず、殆どカードゲーム然としていながら、エンジンビルディング的な動きやリソースの変換パズルのようなものがあまり無いことだ。ローカットはゲーム中のそういうプロセスは退屈に感じているふしがある。本作は比較的一手一手に重みを感じる作風となっており、リソースの種類も少なく、用途もそれぞれで異なっている。その分管理は難しく、確かにやりごたえが感じられる。
次に、得点トラックが無いこと。ローカット作品を見ると、実は他のゲームにもあまり得点トラックが実装されていない。得点レースに気がいってしまうとゲーム世界に集中して浸れないのではないか、という総合プロデューサーとも言えるローカットならではの考えがそこにあるのかもしれない。
実際、得点の計算はシンプルだ。カードに描かれた部族の旗を集め、そのセットコレクションが得点となる。国を拡大したり、巨人を討伐したり、また軍隊を指揮し、かれらの世代交代にも立ち会ってゲームが進み、最終的に数えるのは殆どそれのみというシンプルさ。それできちんとゲームが成り立っている、まとまりの良さが印象的だ。
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さて、本作は巨人との対峙が大きなテーマとなっている。プレイヤーたちは、巨人に供物を捧げる事により攻撃を止めることも、軍を使って討伐することもできる。
供物にはアンブロシア、軍にはコインをリソースとして使用するのだが、このコストの計算がなかなか独特で、「これまでにその対象に使ったリソース数+1」をプレイヤーは支払う。
例えば3金が乗っている軍隊カードを働かせるには、4金を乗せないといけない。そうすると計7金がカードに乗ることになるので、次回支払うコストは8金となる。つまり、最初に支払うリソースが1である場合、コストを払う度に2の累乗で増加するリソースが必要になってくる。
指数関数的に膨らむコストはリソース管理を難しくし、面白くもあり悩ましい。それと同時に、ゲームシステムに唐突に現れるこの2進法的な仕組みは、デジタルゲームの文脈を感じずにはいられない。
聞けば、ローカットはJRPGやスターフォックスが好きで、よく遊んでいたようだ。氏はボードゲームのデザインに興味を持つきっかけとなったもののひとつに、ファイナルファンタジータクティクスを挙げている。意外にもローカット作品のDNAには、日本のデジタルゲームの文化も息づいていたのである。
また、宮崎駿からも大きな影響を受けているということなので、もしかしたらこの「どこかにありそうで、どこにもない」風景や世界観にも、日本のアニメ作品が重要な役割を果たしているのかもしれない。
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JRPGの勇者譚や宮崎作品の情緒豊かな世界。そしてスターフォックスの動物たちによるスペースオペラ。こうした要素がその他の国の文化や創作などと共にアメリカ人であるローカットのインスピレーションを刺激して、ボードゲームというメディアに生まれ変わった。少しだけ大袈裟に言えば、そうしてできた作品のひとつがこのエンシェントワールドなのだ。
そう思うと、改めて創作に国境は無いと再認識させられる。ローカットは彼の内側に積み重なった「好きなもの」を手掛かりに、新しいファンタジー世界を作り出した。それは、ひとつの文化交流が結実した形と言うこともできるだろう。
ボードゲームの箱を開き、テーブルの上にその世界を広げる時、わたしたちはきっと、文化の交差点にも立っているのだ。
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