- 2人~4人
- 60分~120分
- 12歳~
- 2016年~
ロレンツォ・イル・マニーフィコ下村ケイさんのレビュー
【評価9.0/10】ピュア&ネオなワカプレ「ロレンツォイルマニーフィコ」で差し合いへし合いのインタラクションを堪能しよう
●感想
〇やってみないと分からなかった、この奥行
ゴーレムやニュートンが思いのほか楽しくて、次第にルチアー二の名前を意識するようになった当時の僕がロレンツォイルマニーフィコに出会うのは時間の問題だったように思います。実際、BGGなんかでも評価が高かったですし。ただ、ロレンツォに関するレビュー記事を読めば読むほど「本当に面白いのか?」と言う疑念はむしろ深まるような感じでした。なんといいますか地味というか、そりゃカード集めてエンジンつくって点数を稼ごう! と言う構造は確かにある程度は面白そうではあるのですが、各所で称賛されるほどの魅力が果たしてどこにあるのかが分からなかったと言いますか。
と言う訳で、実際に購入に踏み切るまでにやたらと時間がかかってしまったのですが、遊んでみたらなるほどこりゃ確かに称賛されるだけのことはあるのかとワカらされてしまった訳です。もしかしたらかつての僕と似たような思いを抱いている方がいるかもしれず、それによってロレンツォという優れたボドゲ購入に今ひとつ踏み切れないでいる人もいるかもしれない。そんな方の背中を押せたら、、みたいな気持ちでできるだけロレンツォの感想を言語化できたらいいなと思います。
〇ダイスの出目は基本的にままならない
ほんとに。
ままならない。そのためにある程度のリソースを割いて使用人駒で備えておきたい。と言う心の動きはかの傑作「ブルゴーニュの城」にも通ずるものがあります。
ただ、「ブルゴーニュの城」と決定的に違うのはダイスの出目が全プレイヤーで共通だということ。これにより「出目のせいで由々しき事態だ」の「由々しき」の程度がプレイヤーのプレイングによって露骨に浮き彫りにされるのです。
また、出目を底上げできる「使用人駒」ですが、ブルゴーニュの城では単純に出目を上げるためだけに存在しておりましたが、ロレンツォイルマニーフィコではカード獲得の際に使用人駒が要求されることもあります。なので、使用人駒をずらりと揃えて鉄壁の布陣だ、と意気込んでみたものの出目が思いのほか良くてなんだか腐ってしまった、という事態が起きづらく、出目が高めな感じなら蓄えた使用人駒をコストの方に振り分けることができる。
出目とその修正ひとつとっても、一意的になりにくい懐の深さを本作は確実に持っています。
また、出目が共有であることの無視できない利点のひとつは、ダイスロールが盛り上がると言うこと。なんせここで「6」を出すか「1」を出すかでカード獲得に費やすエネルギーが全然違ってしまう上に、その影響を受けるのが全てのプレイヤーなのですから。自分の
出目だけがやたら低くて「なんてBAD DAY!」と嘆くことはなく、「みんなBAD DAY! だからここから先はタクティクスの時間です」となるのです。
(要は出目と言う運要素によって発生する良い影響、悪い影響が全プレイヤーに全く同じ条件で降り注ぐため、良い方向へ盤面を転がすか、悪い方向へ転がしてしまうかが純粋にプレイヤーの戦術によって決定され、それ故に運要素があったがために理不尽に悲しい思いをする、と言う事態が避けられると言う訳です)
良い方向へ転がすか、悪い方向へ転がすかはプレイヤー次第です。
そう、ダイスだけにね!
ダイスロール!!(ハンバーグと同じイントネーションで)
〇純度の高いワカプレ
と、よく分からないテンションで熱弁しましたが僕にとってダイスロール云々はあくまでオマケに過ぎません。僕はこれから「ワカプレの純度」について書いてみようと思います。
ワカプレの本質とは場所の奪い合いであります。
ボドゲにおける場所の奪い合いをさらに分解していくと「一手ずつ交互に望むパイを食べていく」みたいな要素に行き当たります。この「一手ずつ交互に」と言うのがミソであります。当たり前すぎてスルーしてしまいそうな条件ですが、ずっと俺のターンができない以上、どれだけ力を蓄えた立場であろうと、一手番で享受できる利益は一手番分の利益だけなのです。
そこから導き出し得る「ワカプレの本質」の一つは「優先順位」だと思います。ものすごく美味しい場所が二つあったとしても、手番を連続して行うことが叶わない以上、確実にありつけるのはその内の片方だけ。それ故に、相手の動きを読み切れなければ、最初のひとつ以降は後塵を拝するに甘んじなければならないのです。
ロレンツォは、その「読み」を面白くする仕掛けがはっきりとあります。
まずは、コストの問題。コストが支払えない=ワーカーを置けない、と言うルールのために「アクションを空打ちして、自分は得をしないけど、もっと得をしたであろう相手の動きを妨害する」と言う動きはできません。
カードの左上に書かれているのが、獲得するために必要なコストです。
このことから、自分が欲しい場所二つについて、相手の手元にある資源から相手が物理的に実行不能な場所は後回しにしてもよい、と言う思考が可能になります。
詰まる所、コレに似た思考の可能性が随所に鏤められています。
相手の盤面から「相手が何を取りたいか」「相手は何を取れるか」「相手の動きで自分がどれだけ困ることになるか」を読み取り、予想することで、優先すべきアクションと後回しにしても良いアクションが考えられるようになる。
詰まるところ、いかに「自分にとって有利になるアクションを積み重ね続けるか」なので、最低限の理解さえ経れば、あとはもう上の内容をいかに正確に読み取れるかと言うゲームになる。と僕は思っています。
教皇による破門や、エンジンビルドといった側面はあくまで彩りであり(その彩りのなんと楽しいことか)、詰まるところ純度の高いワカプレという核に帰結するのです。
また、エンジンビルドとて、起動にはアクションスペースの取り合いがありますし
2人プレイだと「出目の下方修正がちょっと厳しいけど何人でも置けるよ」と言うアクションスペースが封鎖されるため、ラウンド中に起動スペースがとられると、せっかくくみ上げたエンジンを稼働させることすら難しくなるのです。
逆に言えば相手がどれだけ強力なエンジンを組んでいても、スタピの暴力を活かして起動スペースを封鎖し続けていれば相手はなにもできない訳です
ぞっとするほど残酷だ、、
だが土地の奪い合いとはかなりプリミティブな闘争の一形態であり、
直接的な対立の形こそとらないもの、
いやだからこそ入り組んだ互いの利害のために土地を奪ったり奪われたりするロレンツォは、夢中になれるだけの奥行があるのです
〇資源はカツカツ。だがうまくいけばきっと湧く
わざわざ高い出目のやつを取ってそこまで欲しい訳でもないカードをお迎えしてまでボーナスで資源貰う選択肢が普通に検討できるくらいかつかつです。
だもんだから、なおさら「都合の良いカードがとれるかどうか」が大事になり。先述のワカプレ要素がさらにくっきりと重要性を帯びるのです。
さらに、信仰トラックを上げないとかなり痛い永続ペナルティを食らうので、意図的に破門を受け入れるでもない限り、ただでさえ少ない手番、ただでさえ少ない資源を十字架に捧げなければなりません。だもんだから、十字架マークの付いたおいしいカードを先取りされた日にはもう、、
つまり、刺すようなインタラクションなのです。
〇根っこにあるのはシンプルな「場所の取り合い」「読みあい」
そこに、深みのある戦略が複数用意され、
適宜状況に合わせてアドリブを加えつつ、長期的目標を達成していく感じ
これが極上のボドゲ体験を生むのです
●レビューチェックリスト
1:深さ/複雑さ
「意思決定において、どれほどの困難≒楽しさが伴うか」
5点。まだふやけるほど遊び尽くしていないので過大評価している可能性は多くあるが、一見素っ気なく見えるカードの組み合わせの妙や立ち回りの個性で生じる無視できない奥行きは控えめに言ってもファンタスティック。と言いたい。拡張を入れない場合、毎ゲーム出現するカードは固定だが、毎ラウンド決定される出目や登場するカードの順番(それによって生じるコスト&ボーナス)によって最善手めいたものをどこまでも不確かにするこの幅は繰り返しのプレイに耐えうる深さだし、脳に汗をかかせるに耐えうる複雑さを持っていると思う。
2:メカニズム
「ゲームの設計はどれほど美しいか」
4点。ダイスのままならない出目を軸にロレンツォを考えると、そのままならなさをいかに乗りこなすかと言うゲームになる。では出目が低くても高コストのカードが取れるように小作人を集めれば良いかと言うと、リソースが総じてカツカツに過ぎるので小作人を集めすぎたしわ寄せは必ずどこかへ行く。まとめるなら「厳しいコストのままならなさ」×「ダイスの出目のままならなさ」をいかに乗りこなすか、という楽しみ方になる。そこに更に教皇トラックというノルマを課す。因数分解するとそれぞれはそう目新しいメカニズムの集合体ではないのかもしれないが、それらを組み合わせた際に生まれる「1+1は3以上」的な妙味により、ロレンツォイルマニーフィコが非凡なゲームになっているように思えてならない。
3:相互作用
「他プレイヤーとの絡みの量、質」
4.5点。散々この記事で書き連ねたように、語弊を恐れずに言うなら少し古いような感じのインタラクション。刺すか、刺されるか。多くを得るか、スポイルされるか。と言うインタラクションを満喫できる。「強いインタラクション」という語句を見かけると、僕は「相手の気まぐれで計画がめちゃくちゃにされるかんじ?」と言う歪んだ連想を時々するが、ことリソースがタイトなロレンツォにおいては気まぐれな気まぐれの介在に対して寛容ではないし、お互いの行動とその先読みがプレイの文脈においてある程度絞ることができる。その観点から言うと、脈絡のある何かから相手の行動を読み得るインタラクションで、読み切れなかった方の不利益。読み切れたら先取りでき。と言うインタラクションはとても刺激的で愉快だ。
4:オリジナリティ
「戦略、メカニズム、テーマはどれほど新鮮でユニークか」
3.5点。各サイコロの色に対応した駒のパワーが出目を参照する、というメカニズムはダイスドラフトの変奏としてそう目新しいものではないのかもしれない。むしろ、4色のカードごとのそれぞれの方向性というか、機能や個性の付け方に個性やオリジナリティを感じた。お金に変換しやすい黄色カードとか、木材や石を始めとしたリソースを増やせる緑カード、全般的なパワーアップが狙える青カード、紫カードという個性。そして「緑は上げると勝利点がもらえるけど防衛力を上げないと置けない」「黄色でお金を稼げるけど黄色の枚数それ自体で点数を伸ばすことはできない」みたいな個性とのかけ算も良き。つまるところオリジナリティとは組み合わせのことだと言った某の言葉がよぎる。
5:ムード
「テーマやアートワークはボドゲ体験をどれほど彩るか」
3点。古い版の日本語版ではカード名も和訳されていたらしいが、僕が手に入れた拡張同梱版ではカード名が筆記体の英語のため、基本的にカードとカードの差分は「効果の差分」でしかなく、フレーバーは匂い立たない。苦労して集めたカードを並べたところで世界観の奥行きなどが浮かび上がるでもない。それらの要素を「勝負に介在するノイズ」と捉えるか「欠けざるべきムードの欠如」と捉えるかで評価は分かれそうだ。そもそも塔の上の方の御仁は出目が必要だけどボーナスがもらえるなんて実質ラプンツェルじゃないか、なんて野暮も言えそうだが、そもそもの話、ロレンツォはそういった(語弊のある単語だが)枝葉にかかずりあっている余力があるなら勝負に没頭しちまえよぉ、と言うタイトルだと思っている。
ただ、宗教点に関してはかなり雰囲気がある。破門を受けると冗談じゃないレベルの永続デバフを受けるところとかも、過ぎし日のキリスト教一色だった世界観を連想するにあまりある雰囲気だ。
●主観的点数:5点(5点満点)
〇その理由
満点。まずはそう言わせて欲しい。理由? 誰かを好きになるのに理由なんていらねぇだろ!
……と言うフレーズだとビールを飲みながらタイピングしている意味がなくなるので、ロレンツォのどこが琴線に触れたのかを今一度ハッキリさせようと思う。
僕はボドゲのレビューを読んだりするのがとても好きなのだけど、レビューを読み漁っていると結構な頻度で
「強すぎるインタラクションは現代風でない」
と言う旨の言葉を見かける。現代なるものの嗜好が言わんとしていることは理解できる。荒々しいインタラクションは時にゲームの体験そのものを多少スポイルすると言うのも経験したことがある。僕自身、相手の気まぐれで計画が全部ひっくり返るようなボドゲは多分苦手の部類にカテゴライズしてしまうと思う。
だが、もしも完全にインタラクションを漂白したら、それはそれで寂しいなと思う程度にわがままなボードゲーマーだ。
そんなどっちつかずの合間を行ったり来たりして「現代風」インタラクションに慣れていた僕に、ロレンツォは衝撃だった。
より正確に言うと、ロレンツォのプレイに慣れてきて相手の盤面を観察できる余裕がでるようになってからのロレンツォは、衝撃だった。多分、この「衝撃」という漢字の読み方は「おもしろい」と思って差し替えないだろう。
どこまでもタイトで、カツカツで、ソリッド。故に、適当なプレイイングを許さず、それがために浮かび上がる各プレイヤーの動きを、インタラクションの場に引きずり出す。それを読ませ、計画させる。それがとても刺激に感じたのだ。
荒々しいと言っても差し支えない。
そんな荒々しい「揺らぎ」を極めてユーロ的な場所で組み立てた。そこにロレンツォのマニフィコさはあるのではないだろうか。
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