- 2人用
- 60分~120分
- 14歳~
- 2011年~
数エーカーの雪下村ケイさんのレビュー
デッキ構築で地図上を進軍せよ。戦闘か、開拓か。「数エーカーの雪」レビュー
●数エーカーの雪とはどういったゲームか
マーティン・ワレスがルールブックで「ドミニオンにインスパイアを得た」と明言している通り、中心となるメカニズムはデッキ構築です。そこに、ボードを使ったウォーゲームの要素を大胆に取り込んでいます。プレイヤーは国力に物を言わせて進軍するイギリス軍(カード単体でもどんどんお金が湧くため、強力な軍隊カードを多く購入することができる)と、ゲリラを活用しつつ領土を展開するフランス軍(お金こそ湧きにくいが敵がなかなかやってこれない奥地に領土を拡大しやすい)に別れて戦争を行います。
デッキ構築と言うことで、稼いだお金を使って様々な帝国カード(兵隊さん)を購入することでデッキを充実させることができる。それと同時に、領土を拡大し、そこに拠点となる村を建設すると、勝利点を獲得できる一方で、該当する土地と同名の地域カードが強制的にデッキに組み込まれてしまいます。
そして、基本的に領土を拡大するには、兵隊さん進軍の起点となる地域カードと、移動手段となる移動カード、(そして場合によっては入植者カードと言う、いわゆる市民)をプレイする必要があるのですが、領土が拡大するにつれて地域カードがどんどんと増えていき、否応なくデッキは膨らみます。
●拡がる戦線、嵩むデッキ、疲弊する補給
戦線の拡大によって補給が疲弊すると言う渋いテーマを「デッキ構築におけるデッキの分厚さ」によって表現しようとしているように感じました。ちなみに私はドミニオンでも極限までデッキを圧縮するのが好きで、「数エーカーの雪」でも序盤から積極的にカードを廃棄してデッキの圧縮に努めましたが、その結果、どうやら兵隊さんの進軍に必要だった地域カードまで捨ててしまうと言うポカをおかし、進軍も補給もできず疲弊してやがて息の根を止められた、という苦しい敗北をまず味わいました。
そう、地域カードは自由に購入できない分、一度手放してしまった場合、買い戻すのが非常に面倒くさいのです。加えて、戦線は常に流動的に変化します。先程まで前線の後方だと言う理由から廃棄の候補に入っていた地域カードが、戦況の変化によって前線と化し、守るにも攻めるにも必要になったりするのです。以降、戦場の流動をある程度的確に読めない初心者の間は、とりあえずゲームに慣れるまではデッキ圧縮はしないでおこう、という方針でプレイしました。
●と言う訳で、ウォーゲームではあるのですが
先述した通り、フランス軍は正面からイギリス軍とやり合おうものなら、よほどうまく立ち回らない限り圧倒的な国力の前に押し潰されます。イギリス軍はひたすらお金がじゃんぶじゃぶと湧くため、その資金力に物を言わせて強力な軍隊を素早く動員できるのです。
と言う訳で、もう一つの戦い方である「奇襲」を積極的に活用していくことにしました。こちらはインディアンなどを使って相手の拠点を破壊できるというものです。「奇襲」は対応する奇襲カードを出すだけで仕掛けることができ、その場合、上の写真のような兵隊さんカードによる戦闘が発生しません。いわゆるゲリラです。
しかし、憎いことにこのインディアンカードは共通サプライから相手も購入できます。そして、インディアンには「奇襲する」というだけではなく「奇襲を阻止する」という効果もあるのです。
と言う訳で、私のインディアン特化戦法は早々に勘付かれてしまい、逆にインディアンで仕掛けられるという事態すら勃発するという始末。そして、相手に村コマや街コマをいくつか奪われてしまいます。拠点である村コマ1つで2点、街コマ1つで4点。12点先取した時点でゲームは終了します。
そこで、私は作戦を変更。ボードのこちら側に広がる肥沃な大自然に目を付けます。
そうだ、何も戦争や奇襲ばかりが勝利に繋がるのではない。ここを開拓しまくって勝利点を伸ばすことで、戦争に勝利することを選びます。ちなみに、村コマか街コマを置き切っても終了フラグが立ちます。戦争を一回も発生させずにゲームを終了させることもできるのです。
と言う訳で、大自然の奥地へと進軍を続けます。地域カードと移動カードを組み合わせて進軍、領土を拡大し勝利点を伸ばしていくさまは、まさにカードの組み合わせパワーで属州をドコドコと買っていくドミニオンのようなプレイ感覚。とある記事で「ドミニオンの名前こそ借りてはいるが、デッキ構築の皮をかぶってはいるが中身は全くの別ゲーム」と書かれていましたが、私はむしろ「ボードを使ったドミニオン」という言葉がぴったりくると思いました。無論、ばちばちに戦争しあうなら話はまた変わるのかもしれませんが、地政学的な位置関係も加味された属州購入(支配)、という感じです。
●ボードを使ったドミニオン
ドミニオンはよくソロプレイ感が強めと言われたりしますし、数エーカーの雪でも、今回の終盤ではひたすらイギリス軍の手の届かない所で開拓を続けるフランス軍という構図ができあがっていましたが、それは前線で「砦」を建設して奇襲による不用意な出血と侵入を防ぐ構造ができあがってからの話。更に言うなら、いかにイギリス軍がなかなかやってこない奥地で開拓に勤しんでいるとは言え、「陥落=敗北」となるフランス軍の本拠地はもっと前線寄りの位置にあります。もう少しゲームが長引いていたらイギリス軍の大規模な攻勢が始まっていたことでしょう。奇襲や包囲戦によるばちばちのインタラクションと地図を活かした陣取り。今回は私が街コマを置ききり終了フラグを踏むことで勝利をもぎ取ることができましたが、「相手のデッキとコンボが完全に仕上がってしまう前に属州を枯渇させてゲームを終了させよう」という、ここにもドミニオンで感じた面白さのエッセンスを感じました。
いやはや面白いゲームです。
ドミニオンという偉大なゲームのエッセンスを様々なところに鏤めつつも、非対称ウォーゲームとして高い完成後を誇る名作「数エーカーの雪」
今度はイギリス軍になって、ばちばちに喧嘩ふっかけるプレイスタイルで遊んでみたいと思います。
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