- 2人~4人
- 60分~120分
- 12歳~
- 2011年~
トラヤヌス下村ケイさんのレビュー
【評価7.5/10】マンカラが回る、思考が回る。「トラヤヌス」でアクションの迷路を最適解で縫え【レビュー】

●マンカラについて
本作の中心的なメカニズムであり最大の特徴でもあるマンカラですが、
そのルーツは紀元前4000年に遡ると言われ、世界最古のボードゲームのひとつでもあるそうです。
では本作はそのマンカラをどのように取り扱うかと言うと、

まず、6つ並んだ皿の内のひとつを選びます。
その皿には小さな木ゴマがいくつか配置されている訳ですが、
それを手に取り、選んだ皿から種まきのように時計回りで1個ずつ分配していきます。

例えば、この皿の木ゴマをピックするとすると、、
こうなる訳です。
ちなみに6つの皿はメインボード上に存在する6つのアクション分野と対応しており、
種まきを終えた皿(最後に木ゴマを配置した皿)に対応するアクションを行えると言う仕組みです。
上の写真の例で言えば、卒業証書を入れる筒みたいなアイコンが描かれた皿で種まきを終えたため、それに対応する「元老院アクション」が実行できる。
というルールでございます。
さて、それでは本作の魅力を語っていこうと思います。
●何が本作を特別なものにしているか。その魅力。
本作を構成する諸要素それ自体は、さほど複雑ではありません。ルールの単純な分量で言えば初回のインストはそこそこ骨が折れるかもしれませんが、昨今の重量級ボードゲームに慣れ親しんでいる方からすると、むしろ複雑に入り組んでいない分、理解のハードルは低いとさえ言えるかもしれません。
しかし、適切な比率で調合された調味料がえも言われぬ風味を形作るように、それぞれの要素が過不足なく絶妙に噛み合い、折り重なることで非常に悩ましく、そして考えごたえのあるパズルのようなゲーム体験を生み出しています。
例えば、手番ですることと言えば「マンカラの分配」と「それに対応するアクション」だけなのですが、そこへ至る意思決定にはいくつものレイヤーがパイ生地のように折り重なっています。
○意思決定の一層目——効率化と言う名の取捨選択を延々。我々はもはや不器用ではいられない。
デザイナーであるフェルトと関連づけて語られることの多い「ポイントサラダ」なる言葉ですが、本作もその例に漏れず実に多様な得点源が存在し、何をやってもある程度の得点は稼げるようになっています。
裏を返せば、よほど器用に立ち回ることができないと点数の相対差が生まれにくいと言うことです。
また、これまたフェルト作品の特徴として語られることの多い「ノルマを達成できなかったらそこそこ痛い失点を喰らう」というペナルティ要素もちゃんと入っています。
つまり、本作の本質的な目的は、多岐にわたる分野を縦横無尽に横断しながら
「いかに効率よく点数を集められるか」
そして
「いかに効率よく失点を避けるか」
を求められる、言うなれば「どれくらい器用に立ち回れるか」の競争だとも言えます。
例えばフォーラムアクションに注目してみましょう。

フォーラムアクションの中身はこの上なくシンプルで、ボードに並んだタイルを1枚だけ獲得することができます。
例えば左側に並んでいるオレンジ色の「エクストラアクション」タイルは、あるアクションを実行するときに所有している該当タイルを破棄することでそのアクションを二回連続で行うことができるというものです。強力なのは言うまでもありません。
しかし、各ラウンドごとに公開される「需要タイル」に対応するタイルをラウンド終了時に支払わないと、そこそこ痛い失点を食らいます。3枚すべてを無視すると、実に-15点。なんとしても避けねばなりません。

ここで相手の動きを見てみましょう。例えば、相手の軍師コマが既に10点の領土に到達していたとします。

この状態ではまだ得点は発生しません。まずは個人ボードにならぶワーカーを軍事キャンプに移し(1アクション目)、更に軍事キャンプから軍師のいるエリアにワープさせることで(2アクション目)、はじめて10点がもらえるようになっています。
つまり、もしも相手が「軍事」のエクストラアクションタイルを獲得した上で、マンカラくるくるにより軍事アクションを行う=2アクション分の動きを許してしまうと、一手番で10点もの勝利点を発生させてしまうのです。
ちなみに、領土に他のプレイヤーの駒が既に置かれているともらえる勝利点が目減りする、というルールがありますので、うまく立ち回れば相手の10点機会を少しだけ弱体化させることも可能です。悩ましく、且つ力的なインタラクションですね。
自分の計画に対応するエクストラアクションタイルを優先させるのか。失点を回避するためにフォーラムタイルを集めておくのか。相手にとっておいしいアクションの芽を摘んでおくのか。盤面の状況や相手の動きと照らし合わせながら「効率化」と言う名の「取捨選択」を繰り返し続ける。ちょっとした変数一つで何が正解かなんて簡単に変わってしまい、そもそも一つに定まる正解すらあやふやな状況を延々と悩み続ける。とても難しく、そして楽しい時間です。
〇意思決定の二層目——回るマンカラ。変わる思惑。ずれる計画。
さて、冒頭にも述べた通り望むアクションを実行するためには望む皿で種まきを終えねばなりません。
何が言いたいかというと、個人ボード上の木コマの配置次第では、どう足掻いても望むアクションを選べない瞬間というのがあります。
つまり、手番ごとに求められる最適解と思しき行動すらマンカラがひとつ食い違うと満足に望むアクションすら打てない難しさがあるのです。
時には誰もが認める美味しいオブジェクトがあるでしょう。時には絶対にカットせねばならないアクションがあるでしょう。時には破滅的な失点を紙一重でかわせる起死回生のタイルがあるでしょう。それすらも、叶うかどうかはマンカラ次第なのです。
と言うわけで、直近で打ちたいアクションのためにどの皿から種まきを始めるのか――は言わずもがな。効率よく、且つ効果的に勝利点を集めるには常に「今の種まきによって、次の種まきにどう影響を及ぼすか」を考えながらマンカラをくるくるする必要があり、常に二手三手先を見越した計算と計画性が求められるのです。
例えば。こちらでは「柱二本アクション」はどう足掻いても打つことができません。ただ、今回の手番で「軍事(兜)」のお皿から種まきを始めると、「門アクション」の皿に3個の木ごまが溜まり、次の手番で「柱二本」のお皿まで到達することができます。
ただ、この選択肢にはひとつ問題があります。
それは「柱二本」のお皿に木ごまが二つ並んでしまうこと。
そうすると「柱二本」の皿から種まきを始めると「軍事(兜)」を通り越して「卒業証書筒」まで到達してしまうのです。先程のように「このまま相手を放っておくと10点になってしまう」と言う局面では、考え物な展開ですね。
そして、自分のマンカラを回せるのは自分だけ。運に見放された、なんて逃げ道をこしらえる隙間すらなく、ただただ数手番前の迂闊さを呪いながら——或いは数手版前の偶然が引き寄せた僥倖を感謝しながら、ゲームが終わるまでマンカラを回し続けるのです。
さて、フェルトのデザインはここで終わりません。
〇意思決定の三層目——トラヤヌスタイルによる悩ましさの第三種接近遭遇
ゲーム中、トラヤヌスアクションを実行することで得られる「トラヤヌスタイル」ですが、

このように、

6枚のお皿にくっつける形で個人ボードに配置されます。
これは条件を満たすともらえるボーナスみたいなものでして、
その条件というのがズバリ、
「マンカラの種まきを終えた皿に、タイルに記載された色の木ゴマがあるかどうか」
というものです。
トラヤヌスタイルによって得られる効果はどれも強力且つ実用的なものばかりであり、先に述べたようなアクションと並行していかに色を揃えていくかにも苦心することになります。
ただでさえ二手三手先を見越しながら現今の最善を尽くそうと思案を重ねねばならないのに、さらにそこに「色を揃える」という別軸の課題が言葉通りの意味で「二重苦」「三重苦」としてプレイヤーに立ちはだかります。
無論、その苦がことボードゲームにおいては魅力になることは、敢えて言うまでもありません。
意思決定におけるこの3つのレイヤーが重なりながらそれぞれで違った側面を見せるので、各要素はシンプルながらも絶妙に難しく悩ましいパズルの様相を帯びているのです。
●思考の泥濘、ままならない袋小路。それでも感じる切れ味。
と、効率的であることを追及しようとすれば底なしの思考が待っている本作ですが、その手のボドゲと比較するとプレイ感自体はそこまで重すぎない感じがします。
思い当たる理由は主にふたつ。
まずひとつめですが、それはインタラクションの性質にあるように思います。本作が持つインタラクションは基本的に「早い者勝ち」に集約されます。ゆるい陣取りを形成している建築アクションとて、詰まるところいかに相手より早く、そして効率的に労働者を配置していくかの競争であります。つまり、自分の計画をひっくり返せるのは自分だけであり、せっかく苦労して積み上げた計画が相手の一手によってご破算になるようなことがあまりないと言えるのです。それ故に好きなだけ自分の内側でマンカラを介した思考に没頭することができる。マンカラを介した思考は先述のレイヤー群によって非常に悩ましく考えごたえのあるパズルを形作っているが、それがうまくいくもいかぬも結局は自分次第。息苦しさを覚えるほど濃密なインタラクションを「じとっとした湿度」に例えるなら、本作はまるで「空調された図書館の室温」とでも言いましょうか。何を言っているんですかね。
黙々と計画に没頭できる時間は、得も言われぬ至福です。
無論、インタラクションが希薄である訳ではありません。早い者勝ちであるとはすなわち、遅れた者が一方的に損をこうむることだという事実は、ワカプレの例を出すまでもないと思われます。本作のインタラクションはその質量ではなく質感を味わうものであり、詰まるところ「いかに相手より早く動くか」「その結果として後ろ倒しになる物事の優先順位を見誤らないか」なのです。
そしてふたつめは、本作におけるあらゆる思考は「整数の暗算」に帰結するという事実です。目の前で択一すべき行動の有用性について正確に評価しようとすると、他の優れた重量級ボードゲームの例に漏れず極めて微妙な――それこそ小数的な価値の計算が始まりますが、それをうまく実現させられるかどうかは結局マンカラ次第。つまり、いくつの木駒をどこでピックするか。これは整数の計算なんですよね。仮にどれだけ巧妙な妙手があったとしてもマンカラをしくじればそもそも実現不可能になるし、裏を返せばマンカラさえうまく乗りこなせればいくらでも挽回は可能。なのでイメージとしてはゲームを通じてひたすら頭の中で整数の暗算を続けているような感じでしょうか。
それが、深みと粘度のあるトラヤヌスというゲーム体験にどこか すっきりとしたタッチをもたらしているように思えます。
なんだか泥濘に思考の足をすくわれそうになるのに、カウントさえ間違えなければそうトンチンカンなことにはなりにくい。とても難しいにせよ、何が分からないのか分からない、なんてことにもなりにくい。
言い換えるなら、
きちんと悩ましく、そしてきちんと楽しい。
そんなボードゲームなのです。
レビューチェックリストはこちらをご参照ください。
- 362興味あり
- 772経験あり
- 240お気に入り
- 596持ってる
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