- 1人~4人
- 60分~120分
- 14歳~
- 2020年~
デューン:インペリウムSato39さんのレビュー
《デッキ構築を制する者はゲームを制す! 》
「デューン砂の惑星:インペリウム」は「アルナックの失われし遺跡」と同時期に発表されたデッキ構築+ワーカープレイスメントの代表作として知られているが、アルナックとはプレイ感の全く異なる面白さを感じたのでレビューしたい。
【デューン砂の惑星:インペリウム 】
今回レビューする「デューン砂の惑星:インペリウム」は、2021年夏に公開されたSF映画「DUNE/デューン 砂の惑星」をテーマ背景として制作された作品だ。
映画『DUNE/デューン 砂の惑星』公式サイトより引用 |
ゲームデザイナーは、「クランク!」シリーズで知られるポール・デネン。「クランク!」では見事にデッキ構築と宝探しのレース要素を織り交ぜてヒット作品を作り上げたデザイナーだ。またアートワークも「クランク!」シリーズのアーティスト達が手がけているようなので、安心のメンバー構成となっている。
オリジナルの英語版「Dune:Imperium」は2020年12月に映画公開よりも半年以上早く先行して発売された。COVID-19の影響で映画公開が遅れたことが理由のようだが幸いにも高い評価を受けており、世界中で数々の賞を受賞している。
- 2020年ゴールデンギーク・ベスト・カードゲーム大賞 受賞
- 2021年ブルガリア年間ボードゲーム大賞エキスパート部門 受賞
- 2022年フランス年間ゲーム大賞エキスパート部門 受賞
- 2022年ドイツ年間ゲーム大賞エキスパート部門ノミネート
- 2022年ドイツゲーム賞 第3位
そして待望の日本語版は2022年4月に満を持して発売された。今回はこの日本語版をレビューする。
※今回もまた長文レビューになっており、前半のデューンに関する記述には多少のネタバレ要素を含んでいる。ネタバレが気になる方やボードゲームのことだけを知りたい方は後半だけでも読んでいただけると嬉しい。
【デューン砂の惑星について】ネタバレあり注意!
『デューン砂の惑星』は、アメリカの作家フランク・ハーバートが1965年に発表したSF小説。その独創的な世界観と政治、宗教、生態系、テクノロジー、人間の感情などが重層的に絡み合うストーリーは世界中で高く評価され、数々の賞を受賞し「世界で最も売れたSF小説」とも評される。『スター・ウォーズ』をはじめとする現代のSF作品は『デューン』の影響を受けている、とさえ言われているほどだ。
<あらすじ> 西暦1万190年。人類は宇宙帝国を築き、厳格な身分制度のもとで各惑星を1つの大領家が治めていた。皇帝の命を受けたアトレイデス家は、希少な香料(スパイス)を産出する砂の惑星「デューン」を統治すべく旅立つ。しかし彼らは現地で、宿敵ハルコンネン家と皇帝が仕組んだ陰謀に直面する。 |
このデューンという作品は壮大なストーリーが最大の魅力なのだが、とにかく専門用語が豊富でかつ各勢力の利権関係が複雑に絡み合っていて簡単には理解できない。まさに『ファルシのルシがパージでコクーン(FF XIII)』状態だ。実はこれまで複数の製作者が権利を所有するなど何度も映画化が試みられたが、物語の複雑さや重厚さにより映像化が困難な小説とされていた。
まず1970年代にアレハンドロ・ホドロフスキーが映画構想を企画するが、10時間以上の大作であったため製作中止となり、この製作過程は『ホドロフスキーのDUNE』として2013年に発表されている。また1984年にはデイヴィッド・リンチが映画『デューン/砂の惑星』を制作したが酷評を受け「世紀の失敗作」の烙印を押されてしまった。その後、2000年にはリチャード・P・ルビンスタインがテレビシリーズ『デューン/砂の惑星』を製作。ドゥニ・ヴィルヌーヴが製作する本作は、通算5度目の映像化作品となっているそうだ。
今回、「デューン:インペリウム」をプレイするにあたり基礎知識が必要だろうと「DUNE/デューン 砂の惑星」を鑑賞した。とにかく映像が凄い!惑星アラキスの砂一粒一粒が見えてしまうほどの美しい解像度、巨大で恐ろしい砂虫(サンドワーム)、昆虫型の飛行機オーニソプターの躍動感など、目を見張る美しさがあった。
しかし肝心のストーリーはよく分からないw 複雑で重厚なストーリーが魅力なだけに何の基礎知識もない状態で観る映画ではないように思えた。しかもアクションシーンは所々にあるのだが、ストーリーの盛り上がりがなく退屈だ。2部構成映画の前半なので仕方ないのかもしれないが、ボードゲームのために鑑賞しようと思っている人は、それなりの覚悟が必要だろう。
【デューンの基礎知識】
というわけで、ボードゲームを楽しむために最低限必要な基礎知識を少し解説しようと思う。
参考:IGN Japan「ドゥニ・ヴィルヌーヴによるリメイク版『デューン』を解説!原作となる古典的SF小説について知っておきたいこと」
<世界観>
数千年後の未来、人類は銀河系の他の地域にまで生息域を広げていた。この世界では主権者として君臨する「皇帝」、宇宙旅行を独占する「宇宙協会(スペーシング・ギルド)」、ランドスラード評議会として知られる「大公家連合」によって権力が分断されている。
先の人工知能が起こした戦争により人類は滅亡寸前まで追い詰められたため、コンピューターや核兵器などの先端技術の使用は固く禁じられており、その代わりほとんどの技術が人間の脳の力によって支えられている。「メンタート」と呼ばれる人間は高度な推論能力を持ち、人間電算機(ヒューマン・コンピューター)として機能するよう特別に訓練されている。
<メランジ>
「メランジ」と呼ばれる物質は、人間の意識を拡張し寿命を延ばすことができる向精神性の香辛料(スパイス)だ。一部の使用者に至っては、超能力を得たり、彼らの祖先の共有記憶にアクセスする力をも得ることができる。この強力な香辛料メランジは「アラキス」という砂の惑星でのみ産出される。
惑星アラキスは、人里離れた場所にあり極度に乾燥した気候と巨大で凶暴な砂虫(サンドワーム)のために居住には向かない惑星であるが、ここは宇宙で唯一のメランジ主要供給源なのだ。アラキスを支配する勢力はどこであろうと大きな富を得ることができ、"スパイスを制する者は宇宙を制す" とまで言われている。しかし常に対立勢力からの危険にさらされることにもなる。
<フレメン>
惑星アラキスの先住民で獰猛な戦士一族。砂漠での生活に熟知しており、水は非常に貴重な資源となっている。サンドワームを『シャイ・フルード』と呼び神聖視しており、スパイスを長年に渡って摂取してきたことで眼が青くなっている。長年ハルコンネン家の圧政に苦しみ、救世主『リサーン・アル=ガイブ 』の到着を待っている。
<砂虫(サンドワーム)>
惑星アラキス固有の巨大生物で、広大な砂漠を支配している。突如砂の中から現れ全てを飲み込んでしまう恐ろしい生物だが、独自の生態系を持っておりメランジの生成にも深く関わっていることから『メイカー(maker)』とも呼ばれる。
<アトレイデス家>
豊かな空と水を持つ惑星カラダンを治めていたが、大公家連合のなかでも特に大きな力を持っていたため皇帝から危険視され、惑星アラキス(砂の惑星デューン)行きを命じられた。若き後継者ポール・アトレイデスは未来を予言視する能力を持ち、母ジェシカの修練により意のままに他人を操る能力『ヴォイス(声)』を獲得する。故郷を離れ辺境の惑星アラキスに移ることに漠然とした不安を抱えており、渦巻く陰謀に巻き込まれていく。
<ハルコンネン家>
ランドスラードのなかでも非常に裕福なハルコンネン家はアトレイデス家の宿敵で、領主は冷酷で快楽主義者のウラディミール・ハルコンネン男爵。ハルコンネン家は何世代にもわたり惑星アラキスでメランジの採掘を支配してきたが、皇帝の命を受けてアトレイデス家が惑星アラキスの統治権を引き継ぐ。ウラディミール男爵は、対抗するレト・アトレイデス公爵にデューンの統治権を奪われたことに憤慨しているように見せかけて、実際はこの状況を利用して敵を完全に排除しようとたくらんでいる。
※2022/9/10、ウラディミール・ハルコンネン男爵の画像を間違えていたため画像差し替えました。申し訳ありません。
<ベネ・ゲセリット修道女会>
ベネ・ゲセリットは女性のみで構成された秘密結社で、この銀河系で強大な政治勢力の一つ。精神的鍛錬とメランジ消費の組み合わせにより、メンバー達は強化された知覚力と超人的な身体能力を誇る。彼女たちの目的は、何世紀にも及ぶ計画的な婚姻により救世主「クウィサッツ・ハデラック」を生み出すことだ。
<人物相関図>
映画は、主人公ポール・アトレイデスの属するアトレイデス家と、その宿敵ハルコンネン家の対立を中心に描かれており、専門用語さえ理解できれば非常に分かりやすい。そこに砂漠の民フレメンやベネ・ゲセリット修道女会が絡み合い、魅力的なストーリーを構成している。
このセクションの画像は全て映画「DUNE/デューン 砂の惑星」から引用
2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
【ゲーム概要】
今回レビューするこの作品は、映画『デューン/砂の惑星』をテーマとしたデッキ構築+ワーカープレイスメント+競りゲームとなっている。デューン世界をうまく表現しており、メインボード左側には「皇帝」「宇宙協会(スペーシング・ギルド)」「ベネ・ゲセリット修道女会」「フレーメン」という4つの主要勢力エリアがあり、それぞれのアクションスペースを利用すると影響力が上がる仕組みになっている。
メインボード中央から右側には砂の惑星デューンが描かれており、各プレイヤーが部隊を進軍させ戦力争いを行う戦場と、部隊を派遣する紛争地やスパイスを獲得するアクションスペースが用意されている。ボード上部ではランドスラード評議会とCHOAM(チョアム)公社の協力を得ることが出来る。
ゲームは最大10ラウンドで行われ、各ラウンドは以下の5フェイズで構成されている。
- ラウンドの準備
- 公家の手番
- 紛争
- メイカー
- 回収
各プレイヤーは第2フェイズで、5枚の手札から1枚をプレイして代行者(最初は2個、最大3個に増加)を派遣して各マスのアクションを実行する。これにより、水やスパイスなどの資源を獲得したり部隊を戦場に進軍させ戦力を増強させる。またフェイズの最後には説得力を行使してディスプレイ上のカードを購入することができる。
第3フェイズでは各プレイヤーの戦力を比較し、紛争を解決する。戦力が多いほど報酬も多くなり、勝利点を獲得することができる。メイカーフェイズでスパイスを補充し、代行者および部隊を回収すればラウンドは終了。誰かが10勝利点を獲得するか10ラウンド経過するとゲームは終了し、勝利点の最も多いプレイヤーの勝利となる。
【制限されたワーカープレイスメントが辛く楽しい!】
メインボード右端にあるのが勝利点トラックで、基本的には先に10点獲得したプレイヤーが勝利することになる。勝利点は主に紛争による報酬と、ボード左側にある4つの派閥に対する影響力を上げることにより獲得できる。
各派閥の影響力を上げるには、その派閥のアクションスペースを使用するだけで良い。つまりアクションを2回選択すれば勝利点を1点得られるのだが、これが容易ではない。
各プレイヤーは毎ラウンド5枚の手札を持っており、その中から1枚をプレイして代行者(ワーカー)を派遣する。この時、プレイしたカードに示された代行者アイコンにより派遣できるエリアが決まるのだが、実行したいエリアの手札がなく代行者を派遣できないことも多々あり得る。これは辛い。
このため本作において、手札のデッキ構築は非常に重要な要素となる。デッキ構築をして上手く手札を揃えて自分の推し派閥の影響力を高める、というかなり制限されたワーカープレイスメントになるのだが、そこが非常に難しく楽しい!
【デッキ構築は悩ましく爽快感がある!】
2体の代行者を派遣した後、残りの手札を全て公開して説得力を行使して新しい仲間を入手(カード購入)する。カードには上記の代行者アイコン(C)に加えて、代行者派遣時に発動する効果(D)や、カード公開時に発動する効果(E)などが記されている。代行者アイコンとカード効果の組み合わせは実に多様で、どのカードを入手するのか非常に悩ましくデッキ構築の面白さを十分に堪能できるだろう。
また、カードドローや廃棄の効果もしっかりとあり、デッキの回転率も柔軟にコントロールできることからデッキ構築特有の爽快感もある。デッキ構築好きも満足のいくプレイ感だろう。
【現代風にアレンジされた競り!】
プレイしてみて感心したのは、紛争フェイズが競り要素となっていることだ。四角いキューブで表現される各プレイヤーの部隊は紛争解決時に1部隊2戦力として計算され、これに手札カードの赤刃アイコン1つを1戦力として合計し、合計戦力の多い順に紛争カードの上から報酬を受け取ることができる。この報酬はラウンドが進行するにつれて大きくなるため、勝利点を稼ぐ有力な方法となる。
しかし紛争で勝つために、戦場へ部隊を派遣するのは簡単ではない。戦闘マークの描かれたアクションスペースは紛争エリアで基地(個人ボード)から駐屯地、戦場へと部隊を派遣できるが、代行者(ワーカー)は2つしかない。つまりそれだけでは十分な部隊を進軍させることができない。
そこで利用するのは、宇宙協会の「大宇宙船」やランドスラード評議会の「部隊集結」である。それぞれ5部隊、4部隊などの大部隊を戦場や駐屯地へ進軍させることが可能で戦局を大きく覆すができるのだが、コストは重く「大宇宙船」では6スパイスが必要だし、「部隊集結」では4ソラリ(4金)が必要となる。つまり手番でのスパイス獲得や金策がとても重要になってくるのだ。
そしてこの資源獲得を行う方法がデッキ構築+ワーカープレイスメントで表現されている。ゲーム開始時はスパイスも水もソラリも手に入りにくいが、ラウンドが進むにつれて構築されたデッキが回り出してくると面白いように資源が手に入るようになる。資源が手に入ると部隊もどんどん戦場へ進軍するようになり、紛争も派手になってより競りが熱くなる!ここがこの作品の最大の魅力だと感じた。
【映画を彷彿とさせるキャラクターと個人能力】
各プレイヤーはアトレイデス家やハルコンネン家といった大公家の指揮官となりゲームをプレイする。各キャラクターには固有のセットアップと能力が与えられており、戦略の指針にもなる。「デューン」を知っていれば感情移入しやすく気分も盛り上がる。しかし、別に知らなくてもゲームには何ら影響はない。実際、デューンを全く知らない息子達とプレイしたが見事に完敗だったし、二人とも楽しそうにプレイしていた。
【良いところ】
- 現代SF界の祖「デューン砂の惑星」がテーマで、SFファンは大歓喜w
- 「デッキ構築の拡大再生産感」+「制限されたワーカープレイスメントの悩ましさ」+「駆け引きの熱い競り要素」など様々なメカニクスが絶妙なバランスで融合されている。
- 徐々に派手で熱くなる紛争が面白い!
【悪いところ】
- アクションスペースの数が多く、理解して慣れるまでダウンタイムは長め。
- やや地味なデューンの世界観は好き嫌いがあるかも。
【説明書&対象】
説明書16ページ。インスト:20分、プレイ時間:120分(3人プレイ)、100分(ソロモード)
BGG Weight: 3.00(2022/9/8現在)。重めの中量級。
おすすめの対象は、「デューン大好きな方」、「宇宙テーマが好きで、デッキ構築の拡大感や競りゲームのヒリヒリした読み合いが好きな方」だろうか。逆に「宇宙テーマが好きじゃない方」や「インタラクションの強いゲームが苦手な方」には合わないかもしれない。
※今回のレビューにあたり映画公式HPおよび説明書より画像を引用させていただきました。問題があれば削除いたしますのでご連絡いただければ幸いです。
【感想】
率直に言って非常に玄人好みの作品だと思うが、とても面白い!本邦ではあまり馴染みのない「デューン」というテーマ、地味なアートワーク、遅くなった日本語版発売…など、日本では今ひとつ盛り上がりに欠けた印象のある本作だが、改めて見直してみると傑作と言って差し支えない出来栄えだと個人的には思っている。
ゲームシステムとしては、上述の通りデッキ構築+ワカプレ+競りゲームなのだが、ゲームの前半と後半では雰囲気が違ってくる。序盤は、各プレイヤーともにややゆったりとしたデッキ構築メインで進行していくのだが、中盤から派閥争いが激化していき、終盤は各自組み上げたデッキを元に紛争での勝利を目指してくる。このゲーム展開が動的に変化していくところは、非常に現代風な印象を受けた。
最近、私は古典ユーロゲームにハマっていて特に「ラー」や「メディチ」といった競りゲームが楽しくて仕方ない。競りゲームは他プレイヤーとの読み合いや駆け引きが最高なのだが、このゲームにもそういう駆け引きの部分がしっかりとあって、それでいて上手くデッキを構築していく楽しさや回り出した時の爽快感もあって、現代ボードゲームの進化を感じられる素晴らしい作品だと思う。
時期的に「アルナックの失われし遺跡(以下、アルナック)」とよく比較されるが、かなりプレイ感は異なっている。アルナックは未知の島を冒険する探検テーマをしっかりと味わいつつ、限られた資源、限られた手番の中でカード効果とワカプレで効率よく資源管理をして遺跡を発掘していくレースゲームであることに対して、「デューン砂の惑星:インペリウム」はデッキ構築で手札を徐々に充実させていき、ワカプレと競りで勝利点を勝ち取っていく非常にインタラクションの強い構造となっている。
お互いベクトルの違う面白さがあるため比較するのは野暮というものだが、インタラクションの強いゲームが苦手な人はアルナックの方が面白いと感じるだろう。逆に昔ながらのインタラクションの強いゲームが好みの人は、デューンの方が楽しいと感じるのではないだろうか。だが、どちらも後世に語り継がれる名作なのは間違いない。
『デューン』というテーマにあまり馴染みがないことや、少しアートワークが地味であることから本邦では評価されにくい作品とは思うが、「インタラクション強めのデッキ構築+ワカプレ」に興味を惹かれた方はぜひ一度試してみて欲しい傑作だ。
- 427興味あり
- 878経験あり
- 309お気に入り
- 718持ってる
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