- 1人~4人
- 60分~150分
- 14歳~
- 2023年~
ニュークレウムSato39さんのレビュー
《ニュークレウムの原子の力で発電し、ザクセン王に捧げよ!》
あの「バラージ」や「ツォルキン」などを手掛けたシモーネ・ルチアーニの新作「ニュークレウム」が非常に面白かったのでレビューしたい。
なお、今作のテーマは原子力発電所とややセンシティブな内容となっているのだが、正しい知識をもって偏見のない気持ちでゲームを楽しんで欲しいため、あえて原子力発電と原子爆弾についても記述している。ご理解いただきたい。
また、かなり長文レビューとなっているので、時間のない方やゲームのことだけを知りたい方は興味のある部分だけでも読んでいただければ嬉しい。ちなみに昨日公開したnote版とほぼ同じ内容です。
<目次>
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原子力発電の歴史
1939年、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミは、核分裂によって中性子が新たに放出される可能性が非常に高いことを指摘した。
1942年フェルミが指揮をとり原子炉の実験が開始され、12月2日米国シカゴ大学フットボールスタジアム下のスカッシュ競技用コートに設置された原子炉で世界初の臨界実験が行われた。この原子炉は、燃料のウランを減速材の黒鉛ブロックで取り囲んだもので実験は成功。うまく条件を揃えさえすれば、核分裂連鎖反応を起こすことが可能であると実証された。
しかし、これは世界に先駆けて原子爆弾を作ろうとするアメリカの計画の一部であり、1939年にナチス・ドイツがポーランドに侵攻し第二次世界大戦が勃発すると、アメリカは陸軍の管理下で極秘に原子爆弾の開発を進めることとなる。そして1942年6月、後に「マンハッタン計画」とよばれる原子爆弾製造の計画が始まった。
世界での原子力利用は原子爆弾という形で始まったが、アメリカは1953年〜1954年にかけて、原子力の軍事利用と並行して平和利用も推進する方針を打ち出す。1955年にはアメリカのアイゼンハワー大統領が、国連総会で原子力平和利用の推進をよびかける演説『Atoms for Peace』を行った。
この後、世界的に原子力平和利用への注目が高まり、1957年には軍事利用への転用を防止するための国際機関としてIAEA(国際原子力機関)が設立される。こうして、原子力の平和利用が推進され始めた。
(参考)世界の原発利用の歴史と今:経済産業省、資源エネルギー庁
エンリコ・フェルミらによる最初の原子炉臨界実験
原子力発電のしくみ
原子力発電は、核分裂の際に発生するエネルギーを発電に利用している。燃料になる天然のウランには、核分裂しやすいウラン235(天然ウラン中に約0.7%含有)と核分裂しにくいウラン238(約99.3%)が含まれているが、ウラン235には核分裂によって熱エネルギーを発生させるという特徴がある。
ウラン235の原子核に中性子があたると原子核が二つに分裂し、その際に膨大な熱エネルギーが発生し同時に中性子も発生する。この中性子が別のウラン235を核分裂させ、さらにそれにともなって発生する中性子が別のウラン235を核分裂させる、というように核分裂の連鎖反応が起こる。このように連鎖反応が一定の割合で起きている状態を臨界という。
原子力発電所では、ウラン235の濃度を3~5%に高めた濃縮ウランを燃料として利用しており、原子炉の中でウラン燃料を核分裂させ、その際に発生する熱エネルギーを使って水を蒸気に変え、この蒸気によってタービンを回して発電機で電気を作っている。
原子力発電と原子爆弾の違い
原子力発電と原子爆弾は、ともに核分裂で発生する熱エネルギーを利用する点は同じだが仕組みは根本的に異なる。
ウランを用いた原子爆弾は、一瞬のうちにほとんどのウランを核分裂させ爆発的にエネルギーを放出させる。そのため、効率よく瞬時に核分裂の連鎖反応を引き起こすようにウラン235の割合が100%に近いものを使用しており、核分裂で発生した複数の中性子がウラン238などのほかの物質に吸収されず、それぞれウラン235に吸収され核分裂を次々に起こしている。1回の核分裂で複数の中性子が発生することから、非常に短い時間で核分裂が連鎖し増倍することになる。
一方、ウランを燃料とする原子力発電は、燃料中のウランを一定の割合で核分裂させ、熱エネルギーを取り出すものである。原子力発電は、燃料中のウラン235の割合が3~5%と低く、中性子を吸収する働きのあるウラン238が燃料の大部分を占めている。このような燃料で一定の規模で核分裂の連鎖反応が継続されるように、中性子の速度を水などの減速材で遅くし、次の核分裂を行いやすくする設計となっている。
なお上記情報は、日本原子力文化財団が提供する原子力総合パンフレットから引用させていただいた。さらに詳しく知りたい方はこちらを参照されると良いだろう。
ゲーム概要
舞台はパラレルワールドの19世紀ザクセン王国。エルザ博士は最近特定された元素であるウランを使って、原子力発電を行う装置「ニュークレウム」を発明する。このニュークレウムにより、ザクセン王国は膨大なエネルギーと繁栄を得ることとなり、ヨーロッパにおける科学と工学の中心地へと成長しているが、さらなる発展も求められている。 |
プレイヤーはこの産業革命における実業家となり、鉄道を敷設して石炭やウランを輸入し、より強大な発電を行うことでザクセン王の指示するマイルストーンを達成し名声を得ることを目指す。
ラウンドやフェイズの概念はなく、手番では以下の3つのうち任意の1つを順番に行っていく。
A. 所有するアクションタイル(ドミノタイル)のうち1枚を、個人ボード上側に左側から詰めて置き、タイルに示された2アクションを行う。
B. 所有するアクションタイル(ドミノタイル)のうち1枚を、メインボード上の鉄道スペースに置き、都市の色と一致したアクションを行う。
C. リチャージを実行する。
メインアクションは以下の5つ。
- 都市化:都市に建物(邸宅、工場、研究所)を建てる。
- 工業化:都市に鉱山やタービンを建てる。
- 開発:追加のアクションタイルを獲得する。
- 契約:契約タイルを獲得する。
- 電力供給:発電することにより建物に電力を供給する。即時利益を得て、ゲーム終了時には勝利点も得ることができる。
これを繰り返していき、終了条件(山札が尽きる、リチャージを3回行う、70勝利点に到達する、など)を満たすとゲーム終了。最も多くの勝利点を獲得したプレイヤーの勝利となる。
自由度は高く次第に激化するネットワーク構築が面白い!
メインボード上には4色の色を持った都市が、空白の鉄道スペースを介して示されている。ゲームの主な目的はこれらの都市に建物を建築し、最初は石炭による火力発電、後半ではウランによる原子力発電を行うことで電力を供給することだ。
石炭はマップ西側のRuhrと北東のSilesiaに生産エリアがあり、この地域と発電所、都市建物(邸宅、工場、研究所)を線路と送電網で繋ぐことにより火力発電を行うことができる。序盤〜中盤は郊外の石炭を運搬して火力発電を行うのだが、徐々に石炭の高騰と電力不足のためウランによる原子力発電をしたくなってくる。
そしてウラン発掘のために鉱山を建設したくなり、そこに繋ぐためのネットワークも構築したくなる。この石炭からウランへの移行とともに鉄道敷設が活発化していく変化がシームレスに自然と行われるシステムは素晴らしい。
そして、独特で面白いのは線路の敷設ルールだ。他のゲームでは自分のネットワークに繋がるようにしか敷設できないものだが、ニュークレウムでは基本的にどの鉄道スペースでも線路を敷設して構わない。このため、序盤は自由度が非常に高く緩いネットワーク構築に思えるが、中盤からは様相が変わってくる。
都市建物を建て始めるとマップは狭く建築スペースも少ないことに気付く。さらに鉱山を建設しウランによる原子力発電を始めるとさらに狭く感じるようになり、ゲーム後半は他プレイヤーとのタイトな線路敷設競争に悩まされることになるだろう。このダイナミックに変化していくネットワーク構築要素が非常に面白い!
独特なアクションタイルのマネジメントが面白い!
<独特なドミノタイル>
ニュークレウムの最も特徴的なシステムはこのアクションタイル。ドミノタイルになっており、1つのタイルには2つのアクションが示されている。ゲーム開始時はメインアクション5つを含む基本的なタイルが配られているが、「開発」アクションを行うことで追加効果を持った強力なタイルを購入することができる。
<タイル構築>
獲得したアクションタイルは手元にプールされ、個人ボード上部に置くと示された2つのアクションを実行することができる。つまりデッキ構築ならぬタイル構築となっており、次第に自分好みのアクションタイルを構成できるところが面白い。
<相反する利用方法>
また、このアクションタイルの裏側は線路となっている。つまり、線路を敷設するためにはアクションタイルを消費する必要があり、一度線路として使用したタイルは戻ってこない。なら不要なタイルを使えば良いかというとそうでもなく、線路として使用するタイルの先の色と都市の色が同じなら示されたアクションができるのだ。
一手番を使って線路を敷設するので出来ればメインアクションも行いたい。しかしそうなると大事なアクションタイルを使用することになり二度と戻ってこない。強いジレンマがプレイヤーを襲うだろう。
このシステムはとても秀逸で、タイルを増やしてアクションの自由度は増やしたいが、線路を敷設する必要もあり大事なタイルを犠牲にしなければならず、この相反する行動にずっと頭を悩ますことになる。このニュークレイムという作品の強い個性を感じる優れたシステムだと感心した。
<優しく温かいネットワーク構築>
そして、アクションタイルを線路として敷設する際に、他プレイヤーの線路が置いてあるところに色を合わせて敷設すると、隣り合ったタイルのアクションも実行できる。つまりそのプレイヤーとは一瞬だがネットワーク構築を協力すると同時にお互いに追加アクションを行う、というwin-winな関係も生じる。
(1/29追記:テンデイズゲームズより公式に発表がありました。上記記述は間違いで、実行できるアクションは自分のタイルのアクションのみだそうです。誤解を招いた方には申し訳ありませんでした。まあ接続された相手はアクションできるので嬉しい関係であることは間違いないですね。)
これも他のゲームでは見られない非常に独特で面白いシステムであり、殺伐としたネットワーク構築競争ではなく、優しく温かい現代的なネットワーク構築ゲームであると感じた。私がこのゲームで最も気に入った要素だ。
リチャージのタイミングが大事!
アクションを続けていくと個人ボード上部にタイルが並び、プール上のアクションタイルが無くなってしまう。こうなったらリチャージを行い、タイルを回収すると同時に収入が得られる。
収入は、お金(ターラー)、労働者、勝利点の3項目あり、マーカーの左側の数値分をMAXとしてアクションタイルの並んだ分だけ獲得できる。つまりリチャージばかり行っても十分な収入は得られず、また手番を使うため多用することも出来ない。さらに全プレイヤーが3回ずつリチャージを行うとゲーム終了に近づくのも悩ましい。
そして、全プレイヤーが同回数のリチャージを行った瞬間に「国王の日の得点計算」がやってくる。これはその時点で最も多く発電しマイルストーンマーカーを上位に記録しているプレイヤーに勝利点が与えられる仕組みで、ちょうど「バラージ」のラウンド終了時の発電量比較に似ている。このため、どのタイミングでリチャージを行いマイルストーンマーカーを進めておくのか、しっかりと考えておく必要がある。
好きなアクションばかり実行することは出来ず、収入を増やし得点計算を有利にするために、リチャージのタイミングには非常に計画性が求められることとなり、これまた悩ましく面白い。
得点方式はコントロールされた独特なレース感があり面白い!
発電をすると、その発電量に応じた功績トークンがもらえる。この功績はリチャージを行った際にマイルストーンとして記録され、達成したマイルストーンに応じた報酬が与えられる。
マイルストーンは4つの区画に分けられており、一区画に各々一つのマーカーしか置けない。つまり最初は達成した分のマイルストーンを得られるが、2回目以降はその区画以上の功績を獲得するか、下の空いている区画にマーカーをおかなければならない。
そして上述の「国王の日の得点計算」がやってきてマイルストーンの順位により勝利点が与えられるのだが、バラージと根本的に違うのは点数化されたマイルストーンマーカーは除去されず、その後もずっと残っていくことだ。つまりゲーム中に高レベルのマイルストーンを獲得しておくと、その後に最大3回訪れる「国王の日」に毎回勝利点を得られることになる。これはなかなか面白いシステムだ。
さらにゲーム終了時には、毎ゲームランダムに設定されるマイルストーン条件による得点が加算されるのだが、高レベルのマイルストーンほど高得点となるためゲーム全体としての目標、指針となるように仕組まれている。
この仕組みは高いリプレイ性を与えると同時に、非常にコントロールされたレース感をプレイヤー達にもたらしており、自然と発電競争が激化していくシステムが素晴らしい。
技術能力の解放による強い拡大感が気持ち良い!
個人ボード左側は実験ボードとなっており、A〜Dの4種類の技術革新が用意される。ゲーム中の効果によりレベル1〜3に対応した技術能力が解放され、新たな効果が追加される。この技術能力が絶妙で強力に効果を発揮することがあり、その拡大感は非常に気持ちが良い。とても今風なゲームに仕上がっている。
プレイ人数による調整もある
メインボードは1〜2人用と3〜4人用の両面仕様となっている。ネットワーク構築要素やタイルの先取り要素を考慮すると3〜4人がベスト人数になってくると予想されるが、専用のマップで1〜2人でも楽しめるように設計されているので十分この作品の魅力を感じることができるだろう。
ソロプレイでは、オートマを1〜2体導入することで2〜3人プレイを行うことができる。ただメインボードは大きく、サイドボードも場所を取るので現実的には1体のオートマと擬似2人プレイをするのが限界かもしれない。もうちょっとシンプルなオートマを用意して欲しかったところだが、これほどのビッグゲームでソロプレイが可能なことは嬉しい限りだ。
<良いところ>
- 自由度は高く次第に激化するが優しく温かいネットワーク構築が面白い。
- 独特なアクションタイルのマネジメントと、敷設するとタイルが無くなるジレンマが悩ましい。
- 得点方式はコントロールされた独特なレース感があり楽しい。
<残念なところ>
- ややセンシティブなテーマを受け入れられない方がいるかも。
- エキセントリックなアートワークは好き嫌いがありそう。
<プレイ時間>
BGG Weight: 4.07(2024/01/14現在)
インスト:50分、プレイ時間:180分(4人プレイ)
感想
総合評価: 9点(10点満点)
これは非常に面白い!
現在BGG(Board Game Geek)で第1位となっている「ブラス:バーミンガム」と第34位の「バラージ」の良いところをよく研究したシステムは素晴らしいの一言。しかし、決してモノマネではなく独特のアクションタイルを用いたシステムはニュークレイムの個性を引き出しており、唯一無二な作品へと昇華している。
自由度の高いネットワーク構築要素、アクションタイルによるデッキ構築要素、またそれを破壊する鉄道敷設要素、石炭からウランへと進化する発電システム、コントロールされたレース感、様々な戦略を容認する多様性など、もう書ききれないほどの魅力を備えたルチアーニの力作だと感じる。
ルール量は決して少なくない長時間の重量級ゲームであるし、センシティブなテーマとややエキセントリックなアートワークが人を選ぶかもしれないが、上記のゲームを好きなゲーマーはきっと満足できることだろう。私個人としては、バラージほど辛くなく、テラミスティカのような他プレイヤーとwin-winになれる優しいインタラクションが特に気に入っている。この感覚はぜひたくさんの方に体験してもらいたい。
2024年を代表するであろう素晴らしい作品が年始から登場した。拡張マップもすでにアナウンスされており今後も期待しかない。超おすすめだ!
- 113興味あり
- 258経験あり
- 79お気に入り
- 183持ってる
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