- 1人~4人
- 30分~60分
- 2017年~
ナショナルエコノミー・メセナ山の川さんのレビュー
人生で一番やったボードゲームです。4人戦を50回近くやってきたと思います。
最初にハマったボードゲームで、思い出補正もあるかもしれませんが、最高の作品の一つだと思っています。
・コンセプト
家計、消費財などの単語から、経済学がベースにあるような印象を受けますね。より実際の経済を反映した、複雑なルールを構想したのちに、冗長な部分を引き算することで現在の形になったという話もあり、一般的なゲームよりマクロでアカデミックな視点で、経済、経営を表現しているように感じます。
・システム
直球のワーカープレイスメントです。
公共の職場は基本早い者勝ちで、最初の労働者は2人、ラウンド終了時には労働者数に比例して給料を支払う必要あり、と言った感じです。
職場(アクションスペース)は大まかに分けると5種類。
A.カードを増やす
B.現金を獲得する
C.新しい職場を建設する
D.ワーカーを増やす
E.勝利点のみ
1,2,3は初期の公共職場にも、自分で建設できる建物カードにも存在します。
4は公共職場のみ。
5は建物カードのみです(売却して公共職場にすることもできません)。
最初の公共職場は、「大工」、「鉱山/採石場」、「学校」で、ラウンドが進むと、「露店」系統が現れます。
「大工」は、C。
「鉱山/採石場」は最弱のAで、建物カードの1ドロー(採石場は追加で次ラウンドのスタートプレイヤー)。
「学校」はD。
「露店」系は、Bで、カードをX枚捨てて「家計」から6Xの現金を得ることができます。ラウンドが進むと、新しい公共職場がオープンされ、Xの上限は上がっていきます。
<カード>
上記のBとCはコストとしてカードを支払うので、カードが一番基本のリソースになります。
建物カード:コストとして利用できる上に、建設する職場の選択肢になる
消費財:職場にはならないが、枚数を増やしやすい
の2種類があります。
<現金>
給料の支払いに必要です。
現金を獲得するアクションは、多くの場合カードを支払う必要があり、また、「家計」が十分になければアクションが行えません。よって「家計」からの早取りが発生します。
<家計>
プレイヤーがワーカーに支払った賃金の合計です。毎ラウンド累積していきます。
家計は給料の支払いによって増加し、プレイヤーの現金獲得アクションによって減少します。
<職場の建設>
建物カードには建設コスト、価値、職場としての効果が記載されており、建設コスト分のカードを消費して職場を建設できます。建設した職場は自分が所有しているので、自分だけが使える職場になります。
給料を現金だけで支払えない場合、所有する建物を売却してその価値分の現金をもらえます。売却した建物は公共職場になります。
<勝利点>
所有する建物の価値、勝利点特化の建物の場合条件付き勝利点ボーナス、現金、勝利点トークンが勝利点です。
以上より、終盤まで常に意識するのは「カードをどう増やすか」です。建設する建物も「カードを増やすor現金を獲得(=現金獲得アクションに使用するカードの節約)」がほとんどになるはず。
終盤では、増やしたカードをどう勝利点に変換するかが鍵になります。大量に消費して現金化するか(家計が足りれば)、コストが重い条件付き勝利点を持った建物を建設するか、がメインになりますが、条件を満たすためには中盤からある程度の準備が必要です。
以降では、このゲームの特異性、優位性の源泉となっている概念について説明します。既にサラッと言及しているので、読み飛ばしても大丈夫です。
<建物の売却>
ラウンド終了時に労働者に支払う給料が足りず、売却可能な建物を持っている場合、その建物を売却して現金を得ることになります。売却された建物は廃棄されるのではなく、共通職場に変化します。これによって、取れるアクションが他プレイヤーの売却する建物によって変化し、リプレイ性の源泉になっています。
後述する「家計」のルールのため、ゲームに流通する現金は一定で(プレイヤーは家計に支払い、家計から現金を得る)、建物の売却によってのみ流通する現金が増えます。ストックから現金を取るのは売却の時のみということですね。
<家計>
給料の支払いによって増加し、プレイヤーの現金獲得アクションによって減少します。
このルールにより、現金獲得に対する制限が素晴らしいバランスで発生します。
ゲームが進むにつれ、ワーカーが増えたり、一人当たりの賃金が上がったりで支払う給料が増える→家計も増えます。同時に必要な給料も増えているので、結果ラウンドごとに、1人か2人のプレイヤーは賃金が足りない状況に陥り(家計が尽き、現金が獲得できなくなるため)、建物を売却せざるを得なくなります。よって、ゲームが進むにつれ、共通職場の質・量が上がっていきますし、家計をめぐって、行動の読みあいや妨害などのインタラクションが発生します。
また、現金はそのまま勝利点になるのですが、家計という制限があるために現金をひたすら集めるプレイスタイルでは、他プレイヤーの妨害にあいやすく、建物を建てることの重要性を担保しています。
<消費財>
「建物としての機能がないカード」のことです。頭数として使える(建設コストの支払い、「露店」系統で捨てるために使う、など)が、建物として建設できない(=オプション、可能性が広がらない)わけです。しかし、建物カードよりも簡単に引けるため、特に序盤では重要になってきます。
この概念によって、「カードの枚数を2増やす」アクションでも、「消費財を2枚引く」、「建物カードを2枚引く」、「カードを2枚捨て、4枚の建物カードを引く」などのバリエーション(実際にはここに勝利点トークンも加わり、さらにバリエーションが豊富になります)が生まれます。「カードを2枚捨て、4枚の建物カードを引く」については、簡単に引ける消費財を捨てて、建物カードを引くことができるため、字面より重要なカードになっています。
<景気?>
現金獲得と建設のコストはどちらもカードであるため、どちらを優先するかは大きな問題となります。
「コストは大きくドロー力が高い職場を建設できるだけの手札はあるが、給料分の現金は持っていない」ケースなどこれが顕著で、
1.職場の建設→その職場でカードを引く→そのカードを現金化
2.現在のカードを現金化→コストが足りなくなったので他のパワーの低いカードの建設→弱いドロー
のどちらを選ぶか迷うことになります。仮にAを選んで2巡先までに家計が尽きた場合、既存の建物か、今建設した強い職場を売却する必要があります。
このような状態で1を選ぶようなプレイヤーが多いと、公共職場に強い職場が並び、家計も潤沢になります。
また、プレイヤーがワーカーをどんどん増やすと、家計に多く給料が支払われるため、家計も大きくなります。
プレイヤーの選択によって好景気、不景気が発生するわけですね。
・不満点
トークン→大聖堂、トークン→会計事務所、工業系→輸出港、地球建設→鉄道駅、など、強力なムーブがある程度固まってしまうところがあります。
また、初回ラウンドの手番順で、強く有利不利があります。初手「学校」を打てる一番手と、2ラウンド目も給料が足りる四番手に対し、二、三番手の優位性がなさすぎます。これに関しては、ハウスルールで修正を試みたいのですが、あまり有効な案がありません。どなたか教えていただけるとありがたいです。
・総評
ユニークでありながら必然性のあるゲームシステムが散りばめられており、感動すら覚えます。このゲームがなければボードゲームにハマることもなかったかもしれません。
同じ作者の「翡翠の商人」もそうなんですが、このレベルのコンポーネントでこのゲーム性を実現しているのは化け物だと思います。60分程度で、この密度のマネジメント感が味わえるのはこのゲームだけではないかと思っています。
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