- 2人~4人
- 30分~60分
- 12歳~
- 2021年~
ファーナス -ロシア産業革命-18toyaさんのレビュー
この疾走感,この加速感!見よ,これがロシアの産業革命だ!
【評価8.5/10】中量級・2~4人
競り×エンジンビルド
本ゲームはたったの4ラウンドで最後に猛烈に加速し,駆け抜けて終わるという疾走感が非常に心地よいゲームです!一方で,競りとエンジンビルドのどちらもしっかりと悩ましさを提供してくれ,やり応えと満足感が味わえる中量級の良作となっています!
では,以下で少し構造を見てみましょう。
<概要>
プレイヤーは資本家の一人となり,近代ロシアにさまざまな企業を立ち上げ産業を発展させていきましょう!というゲーム。
各プレイヤーは最初に,ランダムに選ばれた人物と初期企業,そして入札用の1~4の数字が振られた駒(資本ディスク)を渡されます。
毎ラウンド,ディスプレイにはプレイ人数によって決まった枚数(2人:6枚,3人:7枚,4人:8枚)の企業カードが並べられる。これを各プレイヤーで競り,その後所持している企業カード全てを使って「生産」を行う。
このようなサイクルを4ラウンド繰り返したのち,最も資金をたくさん持っていた人がこのゲームの勝者となる。ざっくり言うと,これがこのゲームの全てです。
流れとしては非常にシンプル,しかし考えどころは散りばめられています。
<競り>
まず競り(オークションフェイズ)ですが,各プレイヤーが1~4の入札駒のうちの1つをディスプレイされた企業カードの上に1つずつ置いて手番を回していきます。全員が全ての入札駒を置き終わったら競りは終了。左に置かれている企業カードから右に向かって,カードごとに最も大きい入札駒を置いた人がその企業カードを競り落とし,これを入手します。
この競りのポイントは「競り落とした人はカードをもらえるが,競り落とせなかった人も補償を受けられる」という点。しかも,入札した駒の数字が大きいのに競り落とせなかったら補償もたくさん受けられる。
<カードの獲得を狙うか,補償を狙うか?>
さて,補償についてですが,各企業カードには全て「競り落とした時に発動する生産能力」と,「競り落とせなかった時の補償」が設定されています。この,どちらを狙うかもまず悩ましい。
例えば,競りが終わった時に下の写真のような状況だったとします。
左から解決するので,まずは白の4が置いてあるカード。
このカードは白が最も大きな入札駒を置いてあるので白のプレイヤーが落札し獲得します。
一方,オレンジのプレイヤーは1の駒を置いて落札出来なかったので,カードの上の補償欄に書いてある「石炭2個」を1回貰えます。
黄色のプレイヤーは3を置いて落札出来なかったのは残念ですが,「石炭2個」×3回=石炭6個を貰えるのです。
左から右に向かって解決していくので,次は右隣のカードを見ます。
ここに最も大きな駒を置いたのはオレンジのプレイヤーなのでオレンジが落札。
白は「石炭2個をオイルに変換できる」という補償を2回受けられます。ただし,このように資源を変換する補償は,元になる材料を持っていないと効果を受けられません。
黄色のプレイヤーはカードの上にそもそも駒を置いてすら居ないので補償も発生しません。
このように,落札出来なかったとしても「補償効果」がとても大きく,重要です。そのため,プレイヤーは「何の落札を目指し,何の補償を何回目指すか」という戦略を持って入札を行うことになります。この競りがとてもユニーク!
「どうせ4を出されたら負けるから,使う駒は1でも3でも同じだよね。なら損しないように1置くのがベストじゃん!」とはならない。そのカードの補償が自分にとって美味しいのなら2や3を置くべきかもしれない。
また,ごく一部のキャラクターを除いて,入札は「自分が既に駒を置いたカードに2個目を置けない」「他のプレイヤーが既に置いてある数字と同じ数字の駒は置けない」という2つのルールに縛られる。
この結果,「あーこのカードを獲得したいけど補償もいいな!」とか「うわ,ここにこの数字置くつもりだったのにあいつに先に置かれちまった!うわー美味しくねー」などの事態も生まれます。
あるいは「うわ,補償狙いで2の駒先置きしたら誰も大きい駒置いてくれなかったわ…今はこのカード取るより補償の方が欲しかったのに!」という事態もよく見ます。
この競りの部分が,狙い有り・駆け引き有りでミニゲームのように楽しめる。
<生産-時には能力を改良し,バリバリ回るエンジンを作れ!>
競りが終わったら生産です。獲得したカードを自分の都合の良い順に発動させ,連鎖を起こして資源やお金を生み出していく。
例えばこのような初期企業+獲得企業3枚を使い
石炭を2
更に石炭を2生み出し
初期企業で歯車を生み出して,
石炭3使い4金をゲット。
そして石炭+歯車で
このカードを改良します。
そう。このゲームでは,初期企業以外の全ての企業カードに基本面と改良面があり,改良する事で能力がアップします。初期企業は必ず改良能力を持ったカードが全員に配られているので,絶対どのプレイヤーも生産能力を拡大していけるのです。
これがキモチイイ!カードの獲得と補償により,ただでさえ生み出される資源が増えていくのに,更に改良する事で手に入る資源やお金がまたまた加速するのです。
こうして,ゲーム終了である4ラウンド目には,それまでの3ラウンドで入手した金額の合計と同じくらい,あるいはそれ以上のお金を1ラウンドで稼ぎ出すまでになります。こうしてトップスピードのままゲームは終焉を迎える。気持ち良いままゲームが終了するので後味が凄く良い!
<デッドヒートと逆転性>
このように疾走感・加速感・爽快感があるファーナスですが,その裏には巧妙に作られたシステムがあり,大きな点数差が生じないようにデザインされていると感じます。
一つは,駒による入札のため入札回数が制限されている事。しかも1~4が一駒ずつのため,普通に遊べば企業カードを4枚入手する事はほぼ不可能。多くて3枚,普通で2枚。少なくても1枚ずつはカードを手に入れられる。
しかも,カード獲得の枚数が仮に少なかったとしても,それは補償をたくさん受けているという事です。そのため,補償で得た資源や,資源交換を経て,カード獲得枚数が少ないプレイヤーでもそれなりに戦えるようになっている。
もう一つは加速感。全プレイヤーが必ず改良能力を持っているため,どのプレイヤーでも状況を良くしていく事ができ,最終ラウンドの稼ぎが非常に大きいため,3ラウンドまでの多少の点差は覆せる可能性が十分にある。
このように,「ファーナス」ではシステムでデッドヒートと逆転性を担保し,最後までプレイヤーにゲームを諦めさせない(諦める必要がない)仕掛けを打っている。こうしたシステムによる逆転性の担保は「クアックサルバー」などでも見られたものですが,クアックサルバーの「ネズミのしっぽ」システムは,遅れているプレイヤーに下駄を履かせている(悪く言えば,えこひいきしている)事が誰の目にも明らかなシステムでした。
しかしファーナスはそもそものゲーム構造自体,システムの根幹にデッドヒート性と逆転性を埋め込んでデザインされている。これはとてもさりげなく,美しく,見事です。このシステムには感嘆するしかありません。
ルールはそこまで複雑ではなく,行動のバリエーションも限定されており,比較的短時間で遊べる中で疾走感と加速感により気持ち良くなれ,アクセルを踏んだまま終了できる。
なのに最後はデッドヒートになっている。素晴らしいゲームと言わざるを得ません!
<弱点>
ただし,素晴らしいファーナスについても弱点が皆無ではありません。
それは,このエンジンビルドのエンジンが難物だという事です。これは逆転性の担保の裏返しでもあるのですが,「何のカードを取って,どれを改良して何の効果を使い,どこからここに繋げれば,ほら,こんなにお金を生み出せるよ!」というのがラウンドが進むにつれどんどん難解になっていくのです。
私はラウンド4の最後の生産で「うーん,この順で生産かな?いや待てよ,ここで石炭を使い切るとここが使えなくて…」とたっぷり10分は悩みました。
ラウンドはたったの4で終わるのですが,特に4ラウンド目,自分が持っている資源と今まで獲得した企業を考え,最適に点数を取るためにはまずどうするか,という時点から悩み始めるので,競りにも意外と時間がかかります。
カードの獲得が良いのか,補償が良いのか悩み抜き,更に取った後の生産でも結局悩む。そのため,ラウンド4は特にダウンタイムが結構延びてしまいます。ゲームの構造上,ここは避けられないでしょう。
また,悩む理由としてやはりエンジンビルド自体が複雑というのもあります。平均的な枚数を取っていくと,初期企業を含めてカードは最終ラウンドで8~10枚にはなります。更にその中で少なくとも4枚,多い場合は6枚,7枚と改良が施されているでしょう。そうなると資源を生み出したり変換したり,ものによっては資源を複合して換金したり(石炭+オイルを6金に,とか)工程がなかなか複雑になってきます。
資源を3種(石炭・鉄・オイル)に絞ったのは慧眼でした。これ以上資源の種類が増えたらエンジンの回し方を考える手間がとんでもないものになっていたでしょう。しかし,現時点でも決して簡単とまでは言えません。
最終ラウンドは生産の順番決めがなかなかに大変です
以上見てきたように,「どの順番で何を使うと合理的に資源を消費して儲けを最大化できるのか」というロジックを考えるのが苦手な方は,このゲームをあまり好みのタイプでは無いと感じる可能性があります。これはエンジンビルド全体に言える事かもしれませんが。
<まとめ>
以上見てきたように,ファーナスは
・疾走感と加速感
・システム上担保されたデッドヒートと逆転性
・ただし最終ラウンドは少し重め
・エンジンビルドをどう見るかで評価が分かれる
という特色があり,全般的にゲーマーズゲーム寄りではありますが,軽く遊べば軽く加速感を楽しめ,しっかりやり込めば効果的な資金の最大化に頭をどこまでも悩ませることができる,幅広い方が遊べる名作だと思います^^
まだ未プレイの方は是非一度試してみていただければと思います♪
なお作者のイヴァン=ラシン氏は「スマートフォン株式会社」のデザイナーでもあります。若そうなので今後も注目ですね!
以上,ファーナスのレビューでした。
長文を最後までお読みいただきありがとうございます。皆様の良きボドゲライフに貢献できれば幸いです^^
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