- 1人~5人
- 60分~120分
- 12歳~
- 2024年~
ヌースフィヨルド BIGBOX 18toyaさんのレビュー
【メガレビュー】ノルウェーのロフォーテン諸島で漁業会社を経営する中量級ワカプレゲーム!良作がビッグボックスになって帰還!
【評価8.5/10】
ワーカープレイスメント
序
初めに、本レビューの最初のアオリに「メガレビュー」と記載したのは、本レビューが凄いと言いたい訳では全くない。ただ、伝えたいことをどんどん書き足してるうちに、本レビューの文字数がゆうに1万字を越えていたため、「めちゃ長い記事になっているので、読んでいただける際はご注意を」という注意喚起の意である。読者の皆様にはその点をご理解の上、以下を読み進めていただけると幸いだ。
さて、本作は「アグリコラ」「カヴェルナ」「アルルの丘」「オーディンの祝祭」「パッチワーク」など、多数の名作で知られるウヴェ=ローゼンベルク氏の作品。本作の基本セットは一時、国内で流通が減少しプレミア価格がついていたが、今回ビッグボックスとして一定数の生産がなされたようで非常に入手性が上がった。ホビージャパンさんには感謝の一言に尽きる。
ヌースフィヨルドの基本セットについては既に多くのレビューが投稿されてはいるものの、本ビッグボックスで初めてヌースフィヨルドに触れる方も一定数いると思うので、ある程度しっかりと本作のポイントを説明したい。その後、本作のソロプレイについてや、基本セットからの変更・追加点などを補足しようと思う。
ヌースフィヨルドってどんなゲーム?
まず最初にお伝えしたいのは「ヌースフィヨルドは派手なゲームではない」という事だ。むしろオーソドックスで渋いゲームである。これは悪い意味ではなく、質実剛健という事でもある。
百戦錬磨のゲーマーからすると「そこまで変わった仕組みもないし、標準的なワーカープレイスメントだね」という評になるかもしれない。
しかし、ボードゲームを遊ぶのはなにも百戦錬磨の古参ゲーマーばかりというわけではない。軽めのゲームを中心に遊んできたが、もう少し本格的なゲームを遊んでみたいと思い、ドキドキしながら大箱のボードゲームに初めて手を出す、という方もいることと思う。
本作は、そんな「もっと深いゲームを」と望む人への一つの回答になりうるゲームと筆者は考える。本作で使用する資源の種類は非常に絞られているため思考しやすいし、奇をてらった処理もない。それでも最初は複雑で難しいと感じるかもしれない。しかし慣れていくうちに当初思っていたほどには難しくないことに気づくはずだ。
本作が遊べれば、まず「中量級」と呼ばれるクラスのゲームは(中量級の中でも難しいとか斬新とか言われてさえいなければ)だいたい遊べるだろう。そういう意味で本作は「広く深いボードゲームの世界への入口」として活躍する可能性が大いにある。
一方で、熟練者にとっても本作は「ちょうどいいゲーム」ポジションに収まりうる作品と考える。熟練者は多種のゲームに触れたり遊ぶ機会が多くなりやすい。その際、目新しい効果やシステムは初回にインパクトを受けるし連続で遊んでいる時はいいものの、一旦時を開けてしまうと再度プレイする際に注意すべき点が多くなり、結果、再プレイ時のコストが高くなってしまう事も少なくない。
本作は「長老」や「株」など、ちょっとしたユニークな仕組みが盛り込まれていながらも、土台はベーシックで堅い作りとなっている。それゆえ時間が経ってもルールを思い出すためのコストは少なく済み、手に取る心理的障壁は低い。つまり時が経っても遊びやすい下地があると考える。これが熟練者にもリーチできると考える理由だ。
本レビューの冒頭は、こうした本作の対象層の広さを鑑みつつ、本作の魅力がどういう点にあるかを少し掘り下げて考察してみたいと思う。熟練者は興味があるパートをつまみ食いして読んでいただいて構わない。
基本の流れ
ヌースフィヨルドは「ワーカー」と呼ばれるコマをアクションスペースに置くことでアクションを行う「ワーカープレイスメント」と言われるタイプのゲームだ。このタイプは2000年代に入ってから隆盛を誇り、さまざまな工夫が凝らされたゲームがリリースされた。
本作でのワーカーの扱いはそうした中でもかなりシンプルな方で、「各ラウンド、プレイヤーが使えるワーカーは3つ。増減はない」「アクションスペースは、例外を除き先着1ワーカーしか置けない」といったものだ。
そのアクションスペースも12種類とコンパクトにまとめられており、効果もテーマと合致していて理解しやすい。
本作の最終目標は「勝利点を最も稼ぎ、ゲームに勝利する」こと。そのための勝利点獲得の方法は、以下の4つに分類される。
1 建物の建設
2 造船
3 株
4 お金
各ラウンドごとにプレイヤーは3ワーカーを使用できる。これが7ラウンドに渡るため、ゲームを通して使えるワーカーは合計21ワーカー。つまり21回行動。
プレイヤー達はこの行動回数をなるべく効率的に使って1から4の方法で高得点を狙っていく事となる。
1.建物の建設
まず 1 の建物建設は最もメインとなる得点源だ。建設は各自ゲーム開始時に配られたプレイヤーボードに対して行う。プレイヤーボードは漁業会社の所有地を指しており、空いている「建設スペース」(森林タイルが置かれていない、いくつかの長方形。以下「敷地」)が建物を建てられる場所だ。
建物自体だが、全プレイヤー共通の場所に置かれたカードがそれに当たる。建物カードの左側には建てるのに必要な資源や、場合によっては建てるための条件が書かれており、右側には建てた時の効果がテキストで書かれている。右上の★の部分に書かれた数字は終了時に得られる勝利点だ。
ベセーケンデデッキのカードは更にゲスト駒の記載もあるが、これは例外的。
カードによっては、勝利点が大きくない代わりに有益な効果を持つものもあれば、プレイヤーを有利にする効果はないが勝利点が大きいものなど、さまざまなカードがある。また、建物の効果同士がお互いにメリットを増幅する(シナジーがある)場合もあり、カードテキストを良く見ておくことが大事だ。
本作での建物カード効果は似たものはあっても一言一句同じのものは2枚と無く、全てが独自の効果を持っている。そのため、自分が取ろうと思っていたカードを他の人に取られてしまうと戦略変更を余儀なくされる場合がある。これは建物カードを全員が共通の場から取ることで生まれる「早取り」の要素だ。
また、建物を建てるためには自分のワーカーを建設アクションスペースに置く必要があるが、ここ自体も早取りとなっている。
プレイヤーはこうした各アクションの優先度合いや戦略に合うカードが取れるかを盤面を見ながら考えていく。
なお、建物の建設は建物自体の効果や点数の他に「空いた敷地を埋める」という意味もある。プレイヤーボードをよく見ると、敷地には「−1」と書いてあるのが分かるだろうか。これは「最後までそのままにしておくと点数を失う」事を意味する。よって、建物を建てることはマイナス点を回避するという意味からも点数行動である(なお、敷地の失点を消すもう一つの方法として森林タイルを置く手もある)。
一方、逆に「もっと建物を建てたいが敷地が足りない」という場合もたまに起こる。こうした場合は「伐採」で資源である木材を5個もらいながら森林タイルをボードから1枚取り除き、敷地を増やす事ができる。これにより、建物をたくさん建てられるようになるだろう。
空いた敷地は最後マイナス点になる事に注意しつつ、自分のボードを豊かにしていこう。
2.造船
次に 2 の造船だが、これは各プレイヤーが漁業会社を営んでいる本作ならではの要素だ。
本作では毎ラウンドの最初に「漁フェイズ」というタイミングが存在しており、各自の漁獲量に応じて魚を得ることができる。最初は3匹しか魚を釣ることができないが、造船することで漁獲量を増やすことができ、最大12匹まで釣れるようになる。更にゲーム終了時には、造船した船の種類に応じて1艘1点〜4点の勝利点を得ることができる。
この場合、漁獲量は魚10匹。ゲーム終了時には「スループ船1点+カッター船2点+スクーナー船4点」の計7点となる
ただし、注意すべき点がある。本作では釣れた魚が即、すぐ使える資源となる訳ではない。最初筆者も混乱した点なのだが、本作では資源を置く場所に「個人ストック」と「貯蓄スペース」の2種類がある。個人ストックは現金を持ち歩くお財布のような場所で、置いてある資源をすぐ使える場所だ。一方、貯蓄スペースはいわば預金口座のようなもので、ここに置かれた資源も自分の物ではあるのだが、基本的には個人ストックに移動させないと使えない。まずは、この2か所の違いをしっかりと認識する必要がある。
漁フェイズで釣った魚のうち、一番最初に魚を配置すべき場所は自分が獲得した「長老(後述)」、次に「発行した株(後述)」。いきなり自分のものにはならない。
長老、発行株に魚を配当したのち、残った魚がようやく自分のものとなるが、この魚のうち個人ストックに置けるのは「自分が持っている自社株と同じ数の魚」だけで、余りは全て「貯蓄スペース」に蓄えられる。慣れるまではこの流れが少し複雑だ。
更にややこしいことに、貯蓄スペースには魚を保存できる数に上限があり、8匹までとなっている。これを越える数の魚を貯蓄スペースに置こうとしても、一時的にすら置くことはできず共通サプライに戻すしかない。これを避けたいと思ったら、魚が溢れてしまう前に貯蓄スペースの資源を全て個人ストックに移す「貯蓄取り崩し」を行う必要がある。個人ストックには無限に魚を置けるので溢れる心配はない。ただし、魚のことは心配無用だが、一方で木材は個人ストックに置ける上限が12個となっている。ここら辺が微妙にいやらしい。
まとめるとこうだ。
個人ストック (すぐ使える) |
貯蓄スペース (取り崩さないと使えない) |
|
魚 | 上限なし | 上限8 |
木材 | 上限12 | 上限なし |
本作では資源が魚、木材、お金という3種に絞り込まれており、建設にも造船にもこれらを使う。資源の複雑性が低い点は安心だが、慣れるまでは「プレイヤーボードの置き場と丸いやつとどっちがすぐに使える方だっけ」「漁の収穫をまず入れるのはどっちだっけ」となりかねない。丸い方がお財布(個人ストック)で持ち歩ける。ボードの方は流石に持ち歩けないから貯蓄スペースだ。この違いを意識づけしていきたい。
3.株
さて、上記 2 の説明の中で「発行した株」という話をした。一旦詳しい説明は避けたが、いよいよ 3 株の話と行こう。
プレイヤーは最初5個の株を持っているが、2個は表、3個が裏になっている。表になっている株は自社株を自分で持っている状態だ。そして表になった株は1個1点となる。
一方、裏になっている株は「未発行株」だ。この未発行株は何の効果もなく、終了時まで持ったままだと単なるマイナス点にしかならない。未発行株は1株あたり−1点なので、スタート時点、株まわりの点数は「自社株2点ー未発行株3点=−1点」ということになる。
このマイナス点を消せる方法がある。それがアクション「株券の発行」だ。未発行株を1株、表にして株の公開スペースに置くことができるため、自分の手元から−1点を消せる上に、最終段階で勝利点になるお金を2金得ることができる。つまり3点行動な訳で、これは大事なアクションだ。
ただし、実世界で考えると「株券の発行」は運転資金を集める手段となるが、代わりに株主には配当をしなければならない。本作ではお金で配当する必要はないが、魚を配る必要がある。それも、漁フェイズで釣れた魚は最初に長老(後述)と自分以外の株主に配当しなければならない。2 で話した漁フェイズでの配当の話と、これで繋がっただろうか。
発行株は一旦「株券の発行」スペースに置かれたままとなるが、誰かが「全株券の購入」を行うと、このスペースに置かれた発行株を一括購入することとなる。自分が買い戻せる場合もあるが他プレイヤーが持つ事になる場合もあるだろう。漁フェイズで魚の配当優先度はまず長老、次いで「外部株主」が高くなっている。プレイヤーは自社保有の自社株よりも優先して、まずは「株券の発行」スペースにある発行株や、他プレイヤーが持っている自社株に魚を置かなければならない。
これは非常に癪だ 笑 株券の発行スペースにある株に乗った魚は、直後に共通サプライに戻すため「単に魚を捨てた」のと同じでまだマシだが、他プレイヤーから「はい、配当くださいね」とお魚を要求されるのは正直悔しい!自分が釣ったお魚なのに!と思う 笑
ただ、結局最後まで未発行株を持ったままだとマイナス点になるので厄介払いもしたいし、建物建設や造船にお金が必要な場合もあるので株券発行で得られるお金も地味に欲しい。ここら辺がジレンマだ。
もちろん株券購入は何も他人だけとは限らない。自分が発行株を購入しても良いのだ。株の購入にはお金が必要なので金策を講じる必要があるが、発行株を多く持つことは「個人ストックに魚をたくさん置けるチャンス」を意味する。ひいては建設や造船にも有利となるし、最終的には株券自体も1枚1勝利点となるので損はない。
かくして、対人戦では「株を発行してお金も手に入れつつマイナス点を消したい」「でも自分の株券は買われたくない」という心理の間で板挟みになりつつ、「あわよくば他の人の株券も合わせて買ってお魚を余分にゲットしたい」という欲望も生まれ、互いに駆け引きをしながら仕掛けどきを見計らう心理戦が生まれる。対人戦で熱いポイントの一つだ。
4.お金
さて、得点手段の最後の要素、 4 お金について。本作ではお金を得る方法は非常に限られている。株券の発行、ごく一部の建物効果、そして「魚の給仕」だ。株券の発行は上記 3 のとおり1株発行で2金を得る。建物効果でお金を得られるものはテキスト内容に従うが、大量のお金を稼げるものはそうそうない。
しかし、お金は1金で1点になり、最後の勝利点としてはボチボチの稼ぎになるのでチャンスがあればお金を稼ぎたい。その点、給仕は一度に大金を稼げる夢がある。
本作では「長老の獲得」というアクションにより、それぞれ独自の特殊能力を持つ「長老」を自分の会社に雇うことができる。外部役員と契約するイメージなのかもしれないが、一度獲得した長老は自分の会社だけに能力を提供してくれる。つまり、自分だけがワーカーを置ける独占アクションスペースとなるのだ。
しかし長老は獲得したあと漁フェイズで毎回、優先的にお魚を配当する必要がある。更に能力を発動してもらうためには「給仕皿」に魚がなければならない。長老を獲得した際の能力発動や、プレイヤーがワーカーを長老に置いた時の能力発動時に、長老は給仕皿から魚を1匹取ってから能力を発動する。よって、長老の力を何度も使おうと思ったら必ず給仕が必要となるのだ。しかもこの給仕皿、なんと全員共通である。よって、早い者勝ちの給仕競争が発生する。
給仕は空いた手前の皿から行っていく。1皿目は魚1匹で済む。しかし2皿目、3皿目、4皿目、5皿目と進むごとに必要な魚は2、3、3、4…と、ひと皿を満たすための魚の負担が重くなっていく。なるべく早く給仕したくなるだろう。ちなみにこの2匹、3匹などの魚は全て皿の上に残るのではなく、皿の上に残せるのは1匹だけで他はなぜか消えていく。何でやねん!猫が攫っていくのか、誰かピンハネでもしてるのか!笑
それはともかく、給仕をしたプレイヤーはお駄賃として1皿ごとに1金を貰える。本作ではお金をもらえるチャンスは限られているため、給仕は数少ないビッグチャンスとなる可能性がある。
一方で、給仕を先取りされてしまったプレイヤーとしても、お金を稼げなかったのは残念だが他の人のお魚で長老を使いやすくしてくれているので必ずしもマイナスばかりでもない。さりとてWin-Winとまで言えるかは微妙なところだが、人の魚で満たされた給仕皿をありがたく活用して長老能力を使いつつ、「あわよくば給仕を」と考えて取っておいた魚を、別の建物建設や造船に振り向ける発想転換が必要となるだろう。
こうした「状況の変化と、そこへの対応」も本作の醍醐味だ。
ラウンド展開と得点計算
以上で見てきたように、本作における得点要素は建物、船、株、お金であり、それぞれの要素は絡み合っている。また、直接得点を取る要素ではないが、建物や船を作るためには魚やお金だけではなく木材も必要となる。この木材を用意するために行う森林の「伐採」や「間伐」、間伐の効果を上げる「植林」なども避けて通ることはできない。得点行動ではないのでなるべく踏む回数を少なくはしたいが、必須アクションの一つであることは間違いない。
プレイヤーは各ラウンド3個のワーカーを使って、これら4種の得点要素に関わる色々なアクションを選択し、プラス点を得たりマイナス点を消したりして、勝利点を伸ばしていく。
スタートプレイヤーを取るアクションは無く、ラウンドごとにスタートプレイヤーは周り順で決まる。ここもシンプルだ。
4ラウンド目には得点を伸ばしやすい「C建物」が各プレイヤーにランダムで2枚ずつ配られる。4・5ラウンドのうちは各自、自分に配られたC建物を自分だけが建てられる独占権を有している。だが、6ラウンド目になった段階でまだ建て終わっていないC建物は、全員共通の建物カードとして陳列されてしまう。こうなっては、誰がどの建物を建てるかは早いもの勝ちとなるのだ。とはいえ、陳列されてからゲーム終了までのラウンドはたったの2ラウンド、ワーカーに換算して6ワーカーしか無い。建てるのはそう簡単とも言い切れない。
かくして、皆が「残り6ワーカーで1点でも多く点数を取るためには…?」と6ラウンド目から最後の追い込みを始める。
最終の7ラウンドで全員が3ワーカーを使い切ったらゲーム終了の合図。得点計算を行い、最も勝利点が高かったプレイヤーの勝利だ。
点数は下記表で計算する。ベセーケンデデッキ使用時にはこれに加えてゲスト駒の点数も入るが、ここでは触れないので詳細はマニュアルをご参照いただきたい。
建物 | 船 | 表面の株 | お金 | 空き地 | 非公開株 | |
得点 | 建物カードに記載 | 船タイルに記載 | 1株1点 | 1金1点 | 1敷地 −1点 |
1株 −1点 |
本作の醍醐味
さて、上記で本作の得点要素を眺めてきた。以上を踏まえて本作の醍醐味を考察してみたい。
まずは「アクションスペース」「建物カード」の早取り要素が熱い。勝利点に占める割合のうち建物で取れる点はなかなか大きいため、仮にいい建物を他の人に取られたとしても第二案、第三案でどう切り返すかプランを練ることも醍醐味となる。
早取りで言えば「長老の獲得」や給仕も早取りだ。長老については上記では詳しく説明しなかったが、各長老は全員共通のアクションスペースよりも効果が高い能力を持つものが多い。ただしその強さや使いやすさには波があり、自分が使いたい長老は他プレイヤーにとっても同じかもしれない。また、給仕皿は上記した通り最初に給仕した方が魚が少なく済むし、多くの皿に一気に給仕できればお金もたくさん稼げる。ここも早取りのターゲットだ。
株発行のタイミングも悩ましい。マイナス点は消したいしお金も欲しいが、他のプレイヤーに株を買われて魚を献上するのは、相手に実利を与えるだけでなく心理的にも結構悔しい 笑
また、C建物を自分だけのチャンスのあるうちに建てられるか。6ラウンド目に皆が建てきれなくて公開されたC建物の中に良さそうなものはあるか。
どうやって点数を詰めていくか。空き地を消せるか。株を公開するか。船を作るのか。詰将棋のような楽しさもある。
資源は足りるのか。貯蓄を取り崩さなくても大丈夫か。しかし引き出すのにもⅠアクションかかるので手数は足りるか(最初の頃、この取り崩しに1アクションかかるのを忘れて「手数が足りない…となった苦い思い出がある 汗)。
…などなど、一見資源の要素は3種類と少なく、ゲームの構造はシンプルであるように見えながら、ラウンドが進むにつれ「うわーこれどうしたらいいんだー」と皆が頭を抱えることになる。
悩むゲームはいいゲームだ。冒頭で「派手ではないが質実剛健」と言った通り、本作は21手番しかない中でどのように点数を伸ばしていくか、しっかりと悩める作りとなっている。これが本作の濃密なプレイ感を生み出しており、終了時に「良いゲームでみっちり遊んだ」と、充足感と満足感に浸れる作品に仕上がっている。
本作を1人で遊ぶ〜ソロゲームについて
さて、上記した通り早取りの要素や株発行と株獲得にまつわる駆け引きなどを一通り読むと、本作は対人戦でこそ輝くのであって、ソロルールは「一応ついてます」という感じなのでは?と思う諸兄諸姉もおられることと思うが、さにあらず。
世界最大のボードゲーム情報サイトであるBGG(Board Game Geek)では「1人」つまりソロをベスト人数とする人が約53%もいる。これは3人ベストを推す57%とほぼ拮抗している。つまりソロプレイを目的として入手しても良いレベルの作品ということになる。
現に、BGGの投票制ソロゲームTop200において、2024年のランキングでも堂々の32位に入っている。近年、どんどん増えているソロプレイ可能ゲームの中にあってこの順位は大健闘と言えるだろう。
本作のソロは、通常プレイとは異なり1人で2色のワーカーを使う。例えば赤と青なら、奇数ラウンドは赤、偶数ラウンドは青、と言ったように各色を交互に使うのだ。そして、次にその色のワーカーを使うラウンドまでワーカー達は帰宅せず、ずっとアクションスペースに残り続ける。
これによって起こることは「自分で自分の行動を縛る」という現象だ。1ラウンド目に自分が置いたワーカーにより、2ラウンド目は場所が塞がれていてワーカーを置くことができない。
この仕組みは同作者の「オーディンの祝祭」のソロルールでも見られる手法だが、本作はオーディンに比べアクションスペースが少なく、なんなら毎ラウンドでも同じスペースを使い続けたいくらいなので、ワーカーで塞がれるのはある意味オーディンよりキツい 笑
この制限と21手番という手数の少なさから、本作のソロは非常に悩ましいものとなる。なんせ無駄なアクションは1つたりとて出来ない。まして一度アクションを打ってしまうと次のラウンドは同じアクションが出来ないため、行動の順番や、どのタイミングでそのアクションを打つかなどを慎重に決めなければならない。こうした手番の少なさが非常に痺れる展開を生む。
幸い、ソロではどんなに長考しても問題はない。6ラウンドから残り6手番でどこまで点数を伸ばせるのか必死に考えてると、簡単に10分20分は吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ結果が会心の出来だと「Yes!!」とガッツポーズも出てしまう。それくらい嬉しいのだ。
ソロプレイに慣れてきたらキャンペーンがオススメだ。と言うよりむしろ、本作のソロはキャンペーンにこそ真価がある。デッキを選んで同一デッキで3連戦を行い、100点を越えるのがキャンペーンの目標となるのだが、各デッキのA建物は18枚、B建物は12枚となっており、2戦目までで全てのカードが出尽くす。
では3戦目はどうなるのかというと、A・B共に「1、2戦目で使わなかったA・B建物をディスプレイする」というゲームとなる。つまり「余り物でも点数が取れますか?」というわけだ。これがまた良い。1戦ごとの単戦で遊んでいるとA・Bカードの並びの運不運に点数が左右される可能性もある。キャンペーンであれば全てのカードを使う仕組みだから、力量に応じた点数が明らかになる、という訳だ。筆者もさまざまなデッキでキャンペーンを遊んだが、最初の頃は大抵100点に届かなかった 笑 目標クリアした時の充実感は何者にも代え難いので、未挑戦の方はぜひ遊んでみて欲しい。
更にこれでも難易度が足りないという強者には「3色のワーカーを用いてワーカーが2ラウンドもアクションスペースに残る上級ルール」をオススメする。上級キャンペーンで全てのデッキをクリアできたら貴方もヌースフィヨルド・ソロマスターだ。
自分が置いたワーカーが邪魔…2ラウンド残る上級は特に悩ましい
なお、本作でのソロには更なる高みも存在する。我々は本ビッグボックスにより、各デッキ44枚のセットを7種得ることができた。つまり308枚のカードを持っている。これらを混ぜたらどんな未知の世界が我々を待っているだろうか。
そう、更なる高みはデッキの混成だ。これは完全にランダムで混ぜるという方法もあるだろうし、BGGには毎月「ソロチャレンジ」という形で混成デッキが提示され、得点を競い合う企画も投稿されているので、世界の強豪と腕を競い合うのも良いだろう。
過去のソロチャレンジに挑むも良いし、2025年からは完全に7種のデッキを織り交ぜたビッグボックス対応型のソロチャレンジが始まる様子のため、こちらも楽しみだ。各デッキを個別に1回ずつ遊んで「こんなものかな〜」と見切れるほど、ヌースフィヨルドの海は浅くない。
基本からの変更・追加
基本の入手が困難だったご時世とは異なり、本ビッグボックスがリリースされた事により、基本も小慣れた価格で中古市場に出回るようになった。となると、ヌース基本とビッグボックスのどちらを買うべきか?と考える人もいるだろう。こうした人への道筋も示すために、基本とビッグボックスの違いを明確にしておこう。
前作のヌースフィヨルド基本セットから最も変更追加されたのは、一番にデッキの増加だ。
- 日本語版で出てはいたものの流通量が少なく欲しい人の手に届かなかったカレイ拡張
- 日本ではリリースされなかったサケ拡張
- 今回のビッグボックスで追加された新拡張、マス
- 同じく新拡張、ベセーケンデ(Bethoekende)
が同梱されている。また、ベセーケンデ拡張で使用する「ゲストコマ」も増えた。ここら辺が基本との最大の違いだ。
コインが木駒になったが、まぁこれはオマケの範囲だろう。プレイ感に影響が出るものではない。
長老にも追加があった。本作で初お目見えの「忘れられた長老」4枚だ。使う時はシャッフルして4枚を重ねて置き、長老獲得の際に「忘れられた長老」山から1枚引く事ができる。
他のレビューでも指摘があるが、ボードの色合いは若干異なり、ビッグボックスの方が淡めと感じる。ただ、そこまでの大差でもないし色合いの好みは人にもよる。特に基本を持っていない方は気にする程ではないだろう。
左が基本、右がビッグボックス
以上を踏まえた上で、これから新たにヌースフィヨルドを購入する人に私がお勧めするなら、基本的には本ビッグボックス一択となる。純粋にデッキが多いことは正義だ。
お財布の都合上、どうしてもビッグボックスを買える費用を捻出できないのであれば仕方のないことだが、最終的に「ヌース面白かった、ニシン・サバ・タラの3種だけじゃなく他のデッキも遊んでみたい、カレイやベセーケンデもやってみたい!」と思った時に、現実的な選択肢は結局ビッグボックス購入しかない。カレイ拡張だけは一応過去に日本語版がリリースされていたものの、数はかなり少なく入手機会は限られるだろう。ましてサケは日本語版が未リリース、マス・ベセーケンデはビッグボックス同梱のみとなっている(2024.12現在)。
- カレイは私が好きなデッキの1つで、建物効果に面白いものが多い。
- サケは木材資源にフィーチャーした一風変わったデッキ。
- マスは個人的に難度最高クラスのデッキという印象で高得点を取るのが難しいと感じた。すなわち歯応えがあるということだ。
- ベセーケンデはゲスト駒の使い方が独特かつ面白く、ヌースに新しい風を吹き込んでくれたと感じる。
これらの4種まで織り交ぜた多様な環境を遊べるビッグボックスが入手可能な中で、あえて基本3種デッキに限られてしまう基本セットを正直お勧めはしづらい。
が、あえて言うとすれば「目的がお試しなら基本という手もあるよ。今なら価格もお手頃だし、合ってるようならビッグボックスに買い直す手もあるしね」というお勧めはアリだ。特に本作で初めて本格的なボードゲームに挑戦するという方に「そうは言っても高い方を買って結局持て余さないか心配」という気持ちがあるのであれば、それは理解できるし基本セットも未だ有力な選択肢たりえる。基本セットの新品入手は難しいと思われるので中古とはなるだろうが、その点も含めて納得できるなら、といったところだ。
ただ、上記したように、BGGのソロチャレンジも2025年からビッグボックスの7デッキに対応したチャレンジ内容になることなども総合的に鑑みると、さまざまな状況に対応できる本ビッグボックスが、2024年11月時点で「ハズレのない選択肢」であることも間違い無いだろう。
素材と状況は説明した。あとは各自のご判断に委ねたい。
弱点
さて、長きに渡ったヌースフィヨルドレビューもそろそろ終わりが近づいてきた。最後に本作の弱点を挙げておく。
まず冒頭でも言った「本作が渋い」点だ。これはボックスアートやゲームのテーマ(北欧の漁村で漁業会社を経営)に限った話ではない。本作は作りが堅牢でしっかりした基礎のシステムとなっている。派手な効果や派手なアクションはなく、大ラッキーな出来事もそうそう起きない。高得点の建物はそれなりの資源を要求するし、船とて4点取れるスクーナー船もなかなかの資源要求だ。
こうした構成要素により、本作はゲームが破壊されるような危険な要素を排除して「堅牢」と感じさせてくれる代わりに「地味」「派手さに欠ける」と感じる人も一定数生むこととと思う。これは弱点というより特徴とも言うべきものではあるのだが、「本作ならではの強烈な引き」という視点では一歩遅れを取りかねない。
もう1点は、最初に本作が「広く深いボードゲームの世界への入口」になりうると説明したものの、やはり本作は「ゲーマーズゲーム」の領域に属するゲームだという点だ。従って、本作で初めて本格的なゲームに触る、という方にとっては難易度は決して低くはないという点を事前に言っておかなければならない。
本作の21手番はゲーマーにとって決して長くないし、むしろコンパクトと感じるだろう。しかし初めて本格的なゲームに触れた方にとっては「答えが出るまでのスパンがこれほど長いとは」と感じるかもしれない。小箱ゲームやパーティーゲームは、自分の選択(カードを出したり、コマを動かしたり)が、「勝敗」や「点数」という答えに反映されるまでの時間が短いものが多い。そのため、本作ではこうしたゲームとは少し違う脳の使い方をする必要がある。「じっくり考えること」「答えがすぐに出なくても焦らず続けること」が本作の醍醐味であり、まさしく中量級以上のボードゲームは皆その要素を備えている。本作が遊べれば中量級以上は大抵大丈夫と言ったのはそれゆえだ。
軽いゲームのみの経験者にとって本作にハードルがあることは否定できない。ただ、こうしたハードルを乗り越え、長期スパンで戦略をじっくりと考えた結果、21手番後に想定通りの、あるいはそれ以上の結果を出せた時の充足感はえも言われぬものだ。特にソロで遊べば、どれだけ時間をかけても構わないので自分なりに納得がいくまでじっくりと思考できる。この「じっくり考える時間の芳醇さ」をぜひ楽しんでいただけたら、と切に願う。
まとめ
以上、長きに渡って本作について考察してきた。
本作は
・3ワーカー増減なし、基本先取りというベーシックなワーカプレイスメントであり、アクションスペースも12種とコンパクトにまとめられている。
・また、資源も魚・木材・お金の3種に絞り込んで、本作の基本構造をシンプルに収めている。
・得点要素は建物、船、株、お金の4種で
・建物は最もメインの得点要素となるが早取りのため他の人との競争となる。更にC建物を4、5ラウンドで建て切れるか、6ラウンドから公開されたC建物も視野に入れるか、戦略が重要となる。
・造船は毎ラウンドの「漁フェイズ」での収入増にも繋がるが、貯蓄に溜まった資源は取り崩さないと使えない点に注意が必要で
・株は発行と購入のタイミングが対人戦の醍醐味となり
・お金は得る機会が少ないため、特に給仕タイミングを逃したくない等、
・自分の戦略を練る楽しさと、他の人との駆け引き・ジレンマを存分に味わえる。
・21手番という限られた手数の中で効率よく点数を伸ばさなければならず、思考は濃密で充足感も高い。
・また、ソロも世界的な評価が高く、1戦ごとに遊ぶだけではなくキャンペーン、上級ルール、デッキ混成、BGGでのソロチャレンジに挑戦するなど、さまざまな楽しみ方がある。
・派手な展開はなく「渋いゲーム」であることは否めない点、中量級以上に慣れていない方にはハードルがある点など、弱点もなくはないが
・総じて満足度の高い、良作中量級である
以上です。本当にどえらい長文となりました。何度か読み直して推敲もしたのですが、分量が多くなったため表記揺れや同内容の重複等を全て見直せたか心配もあります。
そんな中でこのレビューを最後までお読みいただいた方に心から感謝します。お疲れ様でした。皆様の良きボドゲライフに少しでも貢献できましたら幸いです^^
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仰るとおり質実剛健、派手さはないですけど噛めば噛むほど味の出る良いゲームだと思います。
でもまぁ、私が書くとしたらこう書くしかないだろう、ってとこまでは書けたと思ってます^^
正直、BGGのソロチャレンジに本気でワクワクしてます 笑 コメント感謝ですよ〜♪
詳細にわたる長文のレビューをありがとうございます、非常に参考になりました。
ヌースフィヨルドはずいぶん前から気になってはいたのですが、一度もプレイしたことがなく、これを機にチャレンジしてみようかなと思います。
わたしはソロプレイ専門なのですが、詳細レビューはボドゲ購入前の大きな判断材料となり、非常にありがたいです!
コメントありがとうございます😊ソロ派であれば本作は間違いなく通って良い道だと思います!そういう意味で、今年BBを出してくれた事は内容の面でも流通の面でもとても有り難いです♪良い時期ですよ〜✨
私も諸々の執筆が落ち着いたらBGGのソロチャレンジに挑んでみるつもりです!お互いソロを楽しんでいきましょうね♪
18toyaさんのヌースフィヨルド愛がひしひしと伝わるメガレビューありがとうございました。マルチプレイ時の駆け引きの楽しみ方を改めて考えさせられて面白かったです♪またプレイしたくなりました😊
sato39さん、コメントありがとうございます♪今年は私も恥ずかしながら初対戦ヌースが出来て「えっ、ソロだけで面白さをめっちゃ語ってしまってて、それは間違いじゃないけど、対人でもこんなオモロいの!?😳」とおったまげました!その経験もレビューに盛り込めて良かったです♪
今後もお互い、末長く遊んでいきましょ🥳
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