- 2人~5人
- 45分~60分
- 14歳~
- 2022年~
ファーストエンパイアSato39さんのレビュー
《コロコロ変わるダイス帝国主義世界の覇権を握れ!》
ダイスによる文明発展ゲームという非常に野心的な本作をプレイすることができ、これが想像以上に面白かったのでレビューしたい。なお今回もまた長文レビューになってしまったので、最後の感想だけでも読んでもらえると嬉しい。
【ダイスによる文明発展ゲーム】
「文明の発展」は非常にロマン溢れるテーマだ。誕生したばかりの人類が道具を発明し、未開の地を探索し都市を築き、文明を発展させ他国を征服し一大国家を建設する。とても雄大で魅力的なテーマなのだが、ボードゲームで表現するにはかなりのプレイ時間、人数が必要になるため、どの程度実装するのか難しいテーマでもある。
そんな壮大なテーマを非常にシンプルな45分程度のダイスゲームで表現した野心的な作品が、今回レビューする「ファーストエンパイア」だ。
プレイヤーは、どこかで見たことのある世界地図上で架空の文明の指導者となり、文化技術を発展させたり探検家を派遣して都市を築くことで、一大国家を建設する。このように書くと非常に難しいゲームのように感じるが、実際にはとてもシンプルにサイコロを振って国を強くしていくテンポの良いダイスゲームに昇華されている。
【綺麗にまとめられたコンポーネント】
箱を開封してまず驚くのは、キッチリと綺麗に収納されたコンポーネント♪。各プレイヤー毎に渡される文明固有の木駒やトークンは専用の小箱に収納されており、とても美しい。インサートもピッタリだ。
また個人ボードはダブルレイヤー仕様となっており、キューブがズレないのは嬉しい限り。細かいところまで気を配られているコンポーネントは非常に満足度が高く、パブリッシャーの意気込みを感じる仕上がりだ。
【文明の発展レベルを表現する美しい個人ボード】
ゲーム準備時、各プレイヤーは少しずつ能力の異なったユニークな文明ボードを選ぶ。そこには文明の発展レベルを表す5系統の発展トラックが示されている。
- ダイス :手番で振るダイスの総数
- 振り直し :ダイス振り直しのできる回数
- 移動 :探検家の移動力
- 偉業カード:偉業カードの獲得
- 探検家 :配置できる探検家の数
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文明ボードは手番のサマリーも兼ねており、左から順番に実行していくだけでプレイできるようになっていて、初めてのプレイでも迷うことはほとんどない。非常に親切で優れたデザインだと感じた。
【ゲーム概要】
ゲームは8ラウンド(5人プレイ時は7ラウンド)で行われ、スタートプレイヤーから時計回りの順で手番を行なっていく。8ラウンド終了後に最終得点計算を行い、勝利点の最も多いプレイヤーの勝利となる。
手番では以下の3つのフェイズを順番に行う。
- フェイズ1:ダイスロール
- フェイズ2:移動・征服
- フェイズ3:発展
<フェイズ1:ダイスロール>
手番の初めに橙トラックに示された数のダイスをロールする。ほとんどの国は2個から始まり最大5個まで拡張可能。ここで気に入らないダイス目があれば、青トラックに示された回数だけリロールしても良い。1個でも良いし全部でも良い。かなり自由に振り直しはできる印象だ。
<フェイズ2:移動・征服>
次に移動・征服フェイズとなりメインボードの探検家を移動力の許す限り自由に移動する。この時、他プレイヤーの支配地域を通過することはできず、侵入するには征服する必要がある。
征服するにはその地域を支配している他プレイヤーの探検家よりも多い数の探検家を移動させる必要があるが、ダイスシンボルに剣アイコンがあれば探検家数を+1しても良い。つまり剣アイコンの数が多いほど征服しやすくなる。
征服されたプレイヤーは探検家駒を自分の支配地域へ撤退させる。
<フェイズ3:発展>
探検家駒のある支配地域のシンボルと、ダイスシンボルが同じならば文明マーカーを1つ上げることができる。
上記の手番を時計回りに行い、8ラウンド終了後に勝利点の最も多いプレイヤーの勝利となる。
【文明発展と領土拡大が自然と進む秀逸なシステム】
ゲーム開始時、各プレイヤーは文明によって定められた1つの初期都市しか持っていない。ダイスも2個しかないので与えられた地域に対応する発展トラックを上げていくことになるが、文明を発展させるためにはそれでは不十分だ。
上述の通り隣の地域へ探検家を移動させて自分の支配地域にすると、ダイスシンボルとセットになったときに発展トラックを上昇させることができる。
このため各プレイヤーは自然と自分の支配地域を広げようと考えるようになる。このシステムにより誘導される帝国主義的思想がゲームを自発的に領土拡大へと導き進行させる。非常によく考えられたシステムだと感心した。
【ダイス!ダイス!ダイス!】
そして、とにかくダイスをジャラジャラと振ることが楽しい!自分の支配地域のシンボルが出れば、それだけで文明マーカーはどんどんと上がっていき、振れるダイスの数が増え、リロールの回数が増え、探検家の数も増えて支配地域も増える。
このシンプルな拡大感とダイス運が上手い具合にミックスされており、とても心地よい高揚感を感じさせてくれる。この辺りはダイスゲームの醍醐味であり快感そのものとして非常に楽しい。
また、いざという時には偉業カードを捨て札とすることで、ダイスを好きな出目に変えることもできる。これにより、ある程度自由に出目をコントロールできるため戦略性が生まれ、ゲーマーも遊びごたえがあるだろう。
【偉業カードがさらに場を活性化させる!】
偉業カードには、達成目標とそれにより得られる勝利点が設定されている。簡単に達成できるものから、難しいものまで多彩に用意されているが、得られる勝利点はかなり大きい。
このため少し無理してでも達成を目指したくなるが、「1手番中にトラックを2つ上昇させる」とか「1手番中に都市を2つ征服する」など、どうしても他プレイヤーの領域を征服する必要も出てくる。
そしてこの仕組みがあるおかげで、文明の発展が落ち着いて膠着状態となった盤面を激しく揺さぶることになり、あちこちで征服行動が起こりドラマティックな領土争いとなる。
【征服アクションに嫌味がない!】
しかし、ここで注目したいのは上記の征服行動が遺恨を残すような後味の悪いものではなく、むしろシステムの一環として攻める側も攻められる側も納得のいくものだ、ということだろう。
文明発展ゲームはテーマ上、どうしても他国との争いがつきものだ。そこが他プレイヤーとのインタラクションであり面白さでもあるのだが、どうしても争いが苦手なプレイヤーもいるだろう。かくいう私も以前は直接攻撃が大の苦手だった。
しかし本作では征服アクションに嫌味がない。まず征服の動機についてだが、文明を発展させるためにはどうしてもダイスのシンボルに対応する地域が必要となる。また偉業カードを達成するためにも征服は必要となる。そして狭いマップには人数分の支配地域は用意されておらず、どうしても他プレイヤーの支配している地域が必要なため征服アクションをせざるを得ない。
そして征服されるプレイヤーとしても、偉業カードが公開情報として提示されることにより、理由付けがはっきりしているため仕方無いものと納得できる。自分でもそうするだろう、と。また征服されても自分の探検家駒が支配地域に撤退するだけなので損失は少なく、そもそも対応する発展トラックをそれ以上に上げる必要がなければ、その地域は必要がない。
上記理由により、本作では文明発展ゲームの醍醐味である征服行動がとても軽く、後味の悪さを残さないものとして実装されており、むしろ誰でも楽しめる優れたシステムではないかと感じる。
<良いところ>
- 壮大なテーマの4X文明発展ゲームが45分程度のシンプルなダイスゲームとなっている。
- ダイスの出目はある程度コントロール可能。
- 文明発展と領土拡大が自然と進む秀逸なシステム。
- 後味の悪さを残さない征服アクションが適度なインタラクションとして楽しめる。
<悪いところ>
- ダイスゲームなので勝敗は運によるところが大きい。
<説明書&対象>
説明書:7ページ。インスト:10分、プレイ時間:50分(3人)、40分(2人)
BGG Weight: 1.73、軽い中量級。
おすすめの対象は「ダイスゲームを楽しめるプレイヤー」だろうか。ダイスの運要素が嫌いでなければ誰でも楽しめると思う。
【感想】
これは楽しい!文明発展ゲームであることばかりずっと書いてしまった気もするが、システムの根幹はダイスゲームであり、ジャラジャラとダイスを振る楽しさが存分に楽しめる。そして出目のシンボルを見て一喜一憂する楽しさはありながら、文明が発展していく拡大再生産的な面白さと他プレイヤーと支配地域を取り合うインタラクションを十二分に楽しめるところが素晴らしい!
実際、初顔の方も含めて3人でプレイしてみたが、他プレイヤーの領土を征服しても特に雰囲気が悪くなることはなく、むしろ50分のパーティゲームを遊んでいるような楽しい雰囲気で終始ゲームを楽しめたのは良い意味で予想外で面白かった。
また争いごとを好まない三男が何故かとても興味を持ったので、寝る前に一緒に遊んでみることにした。
正直、9歳の息子には少し難しいような気もしたが、すぐに楽しそうにダイスを振り始めたので安心した。ただ、空きの領土がなくなったところで探検家が移動できなくなり息子が困っていたため、私は「一手番中に2つの都市を征服する」という偉業カードを見せながら、息子の領土を2ヶ所征服して偉業カードを達成した。すると、
息子:「あ゛ー!やったなー!」
と、苦虫を嚙み潰したような表情。
ちょっとやりすぎたかな?と少し心配になったが、次の手番、
息子:「じゃあ、僕もここをもらうねー♪それで、青を上げるね。」
Sato39:「あ゛ー!ちくしょー!w」
としっかり征服し返してきて上手く文明マーカーを上げてきた。調子の出てきた二人は、その後も支配地域をとったり獲られたりを繰り返したが、息子はずっと楽しそうにダイスを振り続け、
息子:「やった!黄色出た♪もうMAXまで上がったよ!これ楽しいねー♪」
Sato39:「こっちだってMAXだぜー!w」
そんなことを言い合いながら、ゲームは40分であっという間に終了。楽しい夜のひとときを過ごした。
プレイ中は、ダイスゲームの名作「キャント・ストップ(Can't Stop)」のようにワイワイ言いながらダイス目に一喜一憂しているのだが、ゲームが終わるとあたかも4X文明発展ゲームを遊んだような満足感も得られる本作。
ダウンタイムが短いので何人でも遊ぶことができ、子供から大人まで幅広い層で楽しめる魅力あふれる文明発展ダイスゲームをぜひ一度試してみて欲しい!オススメです。
- 58興味あり
- 179経験あり
- 26お気に入り
- 113持ってる
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