- 2人~8人
- 10分前後
- 10歳~
- 2002年~
ワードバスケットkaramiさんのレビュー
初心者向けとは何か?古典パーティーゲームの現在位置
例えば、日本を知らない外国人に料理を振る舞う事になり、日本食をリクエストされたとする。初めての日本での食事として、何をお出しするべきだろうか。リクエストとはいえ、最初の日本食として寿司、納豆、TKGをお出しするだろうか。
「ワードバスケット」は、誰もが知っているしりとり遊びをカードゲームの形に落とし込んだ、軽量級パーティーゲーム…であることについては、わざわざこんなレビューを読んでいる方々には説明の必要もないだろう。
親しみやすい題材、リアルタイムでの賑やかなプレイ。いい大人でも盛り上がる、理想的な初心者向けゲームと言って良いだろう。発売から20年が経った今でも、初心者向けゲームとして名前が挙がる名作だ。
初心者向けゲームであることに異論はない。
ただし、プレイヤー全員の素養が拮抗、もしくは一定水準以上にある場合に限る。
本当に初心者向け?
本作を初心者向けゲームとしてとらえた場合、以下の様な問題点がある。
- 競技性が強く、極端な対戦結果が出やすい
- プレイフィールが一般的なボードゲームからかけ離れている
初心者向けゲームとして捉えた場合の問題点であることは重ねて明記しておく。
無限の可能性が初心者を殺す
そのゲーム性は「底が丸見えの底なし沼」とでも形容すればよいだろうか。直感的なデザインとリアルタイムプレイという特異性から、愛好家は人間の限界に挑むかの様なやりこみを見せた。
上級者のプレイは凄みすら感じる。一つの呪文の様に、または某ラーメン店の注文の様に、単語を宣言しながら矢継ぎ早にカードを繰り出す光景は、悪く言えば異様だ。彼らがこのゲームの為に大なり小なり訓練を積んでいると知れば、その異様さは更に際立って見えるだろう。
無論、やり込み自体は悪い事ではない。百人一首とてやり込むならば短歌の暗記から始まる。遊びが研鑽の末に競技と化すことは、対戦ゲームにおける一つのマイルストーンだ。本作もまた「競技化」を果たした傑作だ。プレイヤー・メーカーの愛を一身に受け、対戦ゲームとしての可能性を開花させた、幸せな作品の一つだ。
だが、対戦ゲームとしての苛烈な一面は、初心者同士のプレイでも顔を覗かせる。
初プレイの時点では、単語が出てくるかどうかは素養による部分が大きい。そして残酷なまでの差を見せる。
ゲームが始まり、景気よくカードを捨てるプレイヤーと、場札をにらみながら手札5枚を抱えて固まるプレイヤー。もしくは全員が微動だにしないゲーム。各人が煩悶してくれるならまだいい。誰かの心が卓上に無いと気づいてしまった時、同卓者として、ホストとして出来ることは少ない。
これってボードゲーム?
本作の「フェイズもターンも無し、全て早い者勝ち」というシステムは、今日においても異端と言える。このガチャガチャとした無秩序で騒がしいゲームは、プレイヤーたちの「ボードゲーム」への期待を裏切ってはいないか。
また、誰かにボードゲームを教える時、きっと「今日は最後にこのゲームを遊んでほしい」等といった目標が存在するはずだ。本作の経験は、そのゲームの理解の一助になりうるだろうか。次に遊ぶのはピットか?限界しりとりか?
初心者向けとは何か?
「初心者向け」の条件とは何か?
プレイ時間が短ければよいのか?
インストが簡単であればよいのか?
初心者でも上級者といい勝負が出来ればよいのか?
シンプルながらも奥深い駆け引きが楽しめればよいのか?
全て大切な様で、決め手ではない様に思える。
…そもそも「初心者」とは何か?
この言葉が表現する人物像も、本作が発売された頃と比べてずいぶん変わった。対戦ゲーム全般に余り触れてこなかった層が「流行っているから」という理由で興味を持った、というケースも多いだろう。
そんなプレイヤーに、どっぷり浸かってもらうにしても、接待して体よく元の世界にお帰り頂くとしても、本作がもたらす体験は良くも悪くも鮮烈過ぎる。
気軽に入手できるボードゲームが少なかった時代ならともかく、今や町の書店ですら複数のボードゲームが平置きされている。「刺さらない」確率と、その時のリスクを勘案して尚、本作を手に取るべきなのだろうか。
大げさかもしれない。考え過ぎかもしれない。
だが「ワードバスケットは初心者向け」と教えてくれた人は、本は、卓を囲むメンバーの顔を知っているのか。
全ての問題が回避されているという条件付きで、本作への評価は10点満点中2兆点だ。
私はカツ丼辺りでご機嫌を伺おうと思う。卵は完全に火を通すし、三つ葉は載せない。
箸と一緒にレンゲを出す。
- 561興味あり
- 5411経験あり
- 891お気に入り
- 3519持ってる
karamiさんの投稿
- レビューカタン:サッカーフィーバーカタンというゲームの懐の深さを思い知る「カタン:サッカーフィーバー」は...1年以上前の投稿
- レビューカタン:カプコン版商品としての独自の工夫がみられる「別の世界線のカタン」本来レビューとし...1年以上前の投稿
- レビューソクラテスラ~キメラティック偉人バトル~プレイヤーに何も求めない大喜利系ゲーム歴史上の偉人の名前・肖像を3分割...1年以上前の投稿
- レビューもっとホイップを!激辛ホイップクリーム!書店に潜む軽量級の悪魔 2008年初出の軽量級カ...1年以上前の投稿
- レビューホワイト・レイヴン、レッド・ダイ新機軸を見出すことは出来るが…グループSNE製の、スタンダードなマダミ...2年弱前の投稿
- レビューダンガンロンパ 絶望のラブレター原作忠実再現の理不尽な脱落があなたを襲う名作「ラブレター」をベースに、...約2年前の投稿
- レビューインカの黄金剥き出しのゲーム性への過小評価に思う最軽量級、チキンレースのテンプレー...2年以上前の投稿
- レビューステラ:ディクシットユニバース付きまとうディクシットの幻影・もしくはディクシットへの糸口「ステラ:デ...3年弱前の投稿
- レビューテラフォーミングマーズ:プレリュード(拡張)テラフォの美味しいトコだけ食べたい 「らしさ」を追求する拡張「テラフォ...約3年前の投稿
- レビューあやつり人形:新版オールドゲームならではのハードなゲーム性 「あやつり人形」は2000年...約3年前の投稿
- レビューテラフォーミングマーズ:ヘラス&エリジウム(拡張)必要最小限の追加でリプレイ性を高める良拡張「テラフォーミングマーズ:ヘ...約3年前の投稿
- レビューワードバスケット:濁音半濁音拡張カード難易度上昇を招く、初中級者お断りの危険な拡張本レビューは拡張キットを導...3年以上前の投稿
会員の新しい投稿
- レビューイーオンズ・エンド:レガシー1~4人で協力し、拠点を襲ってくるボスを倒すデッキ構築型の協力型ボード...4分前by ぽっぽーくるっぽー
- レビューマーダーミステリー:ザ・トリロジー【一言感想】期待を越えられず、個々のマダミスとしての出来も凡以下2時間...約1時間前by ココラム2級
- レビュー解脱RTA5/10アークライト・ゲーム賞2024最優秀賞作品「バザールの商人たち...約2時間前by 白州
- レビュースターウォーズ デッキビルディングゲーム6/10その名の通りのゲーム(笑)youtuberが紹介していたり、雑...約3時間前by 白州
- レビューラマ私の大好きなクニツィア先生の簡単ルールのゴーアウト系です\(^o^)/...約8時間前by ぷにたろちゃん
- レビューイーオンズ・エンドすごく楽しい協力型デッキ構築系ボドゲですが2-3人でプレイすることをオ...約10時間前by KKFA
- レビュー現場は安全っていったじゃないですか!~仕事猫&電話猫カードゲーム~今まで買った中で1番ひどかったゲームなので書いておきます。発売当時、み...約11時間前by KKFA
- レビューザッツ・ノット・ア・ハット!たった数枚のカードが覚えられない!プレイヤー全員にイラストが描いてある...約17時間前by のっち
- レビューフィッシェン引き取りたくないタイミングと引き取りたいタイミングが結構難しい。個人的...約17時間前by マシュ
- レビューファラウェイ:地下世界より(拡張)ファラウェイ好きすぎて海外から購入。0と70〜75のカードとボーナスカ...約18時間前by マシュ
- レビューシージオブルーンダー7/10クニツィアのタワーディフェンス+デッキ構築+協力ボードゲーム。...1日前by 白州
- レビューキャンバス:リフレクション6/102020年に発売された「キャンバス」が話題になって、品薄になっ...1日前by 白州