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  • 1人~5人
  • 45分~120分
  • 13歳~
  • 2019年~
3687名
15名
0
4年弱前

ROOTの大ヒットで有名なコール・ウェール氏も関わる重量級ゲーム。

2015年発表のPax Pamirの第2版。初版はROOTよりも3年ほど前に出されている。どちらもかなりインタラクションの強い作品であるが、ゲームの骨子はこちらのほうが伝統的なマルチ/タブロー構築の戦略的ゲームといえる。ROOTのようなかわいらしさがないのはもちろん、マップも簡素なものであり、見た目はかなり地味な印象である。

現在、初版、第2版ともに有志の方の日本語訳がBGGに公開されており、この第2版については、この和訳を活用することでカード類の日本語化も可能となっているため、言語的なハードルはそれほどは高くないと思われる。

→テンデイスゲームズでの日本語版販売に伴い、同社から分かりやすい和訳が公開されている。


BGGでは2020年末現在で得票は3600とそれほどでもないものの、レートは8.4、その評価も8-10に集中しており、BGGでの人気の高さがうかがえる。ルールブックを見る限りでは、初版と比べるとかなり内容が整理されており、ウェイト3.7という値よりはやや軽く感じた。ゲームの骨子は2ページ程度のサマリーをみればすむ程度でそれほど難しくはないが、細かい処理は多く慣れるまでは集中力を要する。


テーマは19世紀のアフガニスタン。デゥラーニ朝崩壊後、イギリス、ロシアといった外国の手を利用しつつ(これを利用しているのか、利用されているのかと取るのかは難しいが、少なくともパックスパミールではアフガニスタン側が主眼点となっている)新たな国家を築こうとするアフガン指導者の役割を演じるというもの。

まず、マニュアルに目を通したところで、胸が高ぶるような期待感がふくらむ。素晴らしいメカニクスの集合体である。マニュアルは平易な表現であるが、重要かつ間違いやすいルールが行間に埋もれていたりするので、じっくり読み込む事が求められる。

自分のターンでは2回のアクションが行える。アクションは、中央のマーケットからお金を払ってカードを1枚購入すること、そして自分のコートと呼ばれるカード列に、手札からカードを1枚プレイして置くことが基本。そしてそれに加え、プレイ済みのカードが持つアクションを行える(後述)。カードをプレイする際にもゲームマップ上、あるいは他者のコート上のカードに自身のユニットを配置するような能力があり、カードにアイコンで明記されている。

ユニットには軍隊、街道、部族、スパイなどがある。軍隊は地域支配、決算時の優勢(ドミナンス)判定、戦闘での他ユニット排除等に関わる。街道は軍隊の移動に必要である。部族は地域支配には不可欠なユニット。密偵はコート内のカードに配置でき、裏切り・戦闘アクション時に参照されるほか、他プレイヤーのカードに置いた場合はそのカードのアクション時(後述)にお金を徴収することができる。部族・密偵ドミナンス判定失敗時(軍事ユニットが拮抗しているとき)の勝利点獲得にも関わる。

また、カードには前述したプレイ時の効果の他、後述するカードアクションの効果がそれぞれ記載されている。

アクションとして、自ターン中にはカード毎に1回のみ、プレイ済みのカードを使用するアクションを行うこともできる。アクションのためにはマーケットに配置されているカードにお金を支払う(置く)ことが必要となるものもある。

アクションには、徴税(支配地域に関わるコートカードを配置しているプレイヤーまたはマーケットから徴金できる)、

ギフト(影響力獲得)、建設(軍隊、または街道の設置)、移動(軍隊またはスパイの移動)、裏切り(カードに配置したスパイユニットによりそのカードを排除する)、戦闘(ある地域またはカード上のユニットは除去する。除去可能な数はそこに存在する自軍の軍隊、スパイ数が上限となる)などがある。

このように、どのカードを購入するかが地域支配、ユニット配置、各種アクションの実行などと絡みあう。

アクション数はゲームを通して各ターン2回と少ないが、特定の状況下でボーナスアクションが履行できる。ボーナスを得やすいようタブローを構築しておく事も大切になる。

マーケットに並べられるカードの中にはドミナンスチェックという、決算を起動するカードが存在する。これをいずれかのプレイヤーが購入するとき決算が行われ、各領域に置かれた軍隊などの数をカウントして判定を行う。判定は少し複雑なシークエンスがあるが、これによって勝利点の分配が行われる。いずれかのドミナンスチェック後、1位が4点以上の勝利点の差をつけるか、あるいは4回のドミナンスチェックが完了したところでゲームは終了となる。

ゲーム中は常にこのドミナンスチェックを念頭に置いておかなければならない。現在の自分の連合が優勢なのか、逆なのか、どちらでもないのか。それによりこれから取るべき行動が変わってくるため、毎ターン自問自答する必要がある。

メカニクスはカードドラフト/ハンドマネージメントとエリアマジョリティ/エリア移動を軸に、ダイスを用いないユニット除去、未選択リソースの価値向上、プレイヤー間交渉など。

その内容に奇をてらった部分はなく、とてもオーソドックスでメカニクスが極めて自然に融和しているところが非常に印象的。素晴らしい構築がなされている。

ルートと比較すると、ルートは支配地域の増加による施設や、増員という拡大生産と、アイテム効果、キャラクターの非対称性ということろに主眼が置かれている。

パックスパミールは、カードの選択と運用が要。刻々と変化する状況を鑑みて先読みして必要と思われるカードをストックしておくと良いだろう。

カード効果とマップの結びつきは強く、支配地域を増すことが経済的優位をもたらす。つまりカード獲得や活性化、交渉などに有利となるわけで、カード運用と各種ユニットの効率的配置が求められる。

同時に軍事的な優位を保つことも重要であるが、軍隊ユニットは各プレイヤーに所属するわけではなく、イギリス、ロシア、アフガンのいずれかの自分が現在属する勢力としての配置に限られている。この自分が属する勢力というのはゲーム開始時に決めているのであるが、パトリオットという種類のカードをプレイするか、プライズという概念を持つカードを裏切ることで勢力を変更することができる。実はこの点がこのゲームの最大の妙味であり、このあたりの状況判断はゲルツのインペリアルにも似た感覚である。

基本的にはドミナンスチェックが起きる時点で自分に有利な状況を作っておくことが最重要となる。それぞれのカードの能力、アクションを駆使してその時に勝利点を獲得し得る盤面を構築していく。そのがいつ来るのか、それを見据えて数手先を読んで準備しなくてはならない。

どのようなカードを購入できるかで趨勢が影響される部分もあるが、経済、内政、軍事をミニマムに結合させた程よいプレイ感と所要時間は好感が持てる。各々の要素が無駄なく絡み合い、プレイヤー同士でのインタラクションを競う楽しさはやはり秀逸で、バランスの良さが光る傑作と感じた。

ただし見た目やコンポーネントのみならずプレイ感も地味さ加減が半端ではないため、一般向けではないだろう。

しかしカードにはフレーバーテキストも満載で、様々な事象を想像しながら楽しむと一層格別と感じる。


ソロプレイはオートマの動きが若干煩雑ではあるがまずまず楽しめる。ただ、オートマルールの理解自体にそれなりの労力を割く必要があること(実際自分は海外の動画を見てやっと理解できた)、その割にオートマはユニットやカードをごりごり展開してくるだけで動きに整合性が足りない。また、オートマまわりのルールはBGGのフォーラムを見てもかなり混乱がある様子である。やはり対人の方がはるかに無理なく楽しめるゲームである。

興味をもたれたかたは是非マニュアルを一読していただきたいと思う。内容も近代の洗練されたマルチとして推奨に値する。

なお、2020年秋にマニュアルが小改訂されていて、Wakhan(オートマ)の行動も若干変わっている。ボドゲーマのインストにオートマのリファレンス(あくまで忘備録的なもの)を掲載した。

2023.8追記

しばらくあまりプレイする機会がなかったが、最近このゲームもオンラインでの環境が整っていたため、またちょくちょく遊ぶようになった。

BGGの感想をみていると、ゲームの進行が不透明であるとか、自分のした行動の結果が分かりずらいなどの意見がみられる(特に低評価者に多い)。確かに4人、5人のプレイであると1巡回ってくる間に盤面の状況が変化しすぎていることが多く、殊にドミナンスカードが市場に出現するとかなりせわしい感じになる。各相手の行動に対して自分が取れる行動はかなり制限されているため、実際自手番では最善と思えるムーブが行えないことも多い。

各ターン他プレーヤーの行動を注視してその意図を読むのは難しく思えるが、結局自分にとってもっとも都合の悪い展開を考え対応していくことも求められるのだろう。



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