- 2人~4人
- 120分前後
- 12歳~
- 2000年~
クスコSato39さんのレビュー
《タイル配置はパズル!高き所から神殿を築き、祝祭を開催せよ!》
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「怖い顔三部作」2作目ジャワのリメイク。三部作の一つとしてプレイするのをとても楽しみにしていた本作なのだが、期待以上に面白い作品だったのでレビューしたい。
【クスコについて】
以前、「ティカル」という作品を紹介した。1999年のドイツ年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞のダブル受賞という快挙を成し遂げた私の大好きな名作だが、ヴォルフガング・クラマー(Wolfgang Kramer)とミヒャエル・キースリング(Michael Kiesling)の黄金コンビがその翌年に発表した作品が「ジャワ」という作品だ。
ジャワは「怖い顔三部作」と呼ばれる作品群の一つで、ティカル(1999年)、ジャワ(2000年)、メキシカ(2002年)の順番で発表されている。3作とも古代遺跡をテーマにしておりアクションポイント制メカニクスが共通点で、独特の怖いパッケージが特徴的だ。
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1作目のティカルは、中央アメリカで栄えたマヤ文明ティカル遺跡をテーマとしていた。3作目のメキシカは北米(現在のメキシコ中央)で栄えたアステカ文明がテーマだ。これらに対して、2作目のジャワはインドネシアのジャワ島で栄えた古代文明をテーマとしており、やや異色だった。
そのためかどうかは分からないが、2018年にSuper Meeple社が豪華なリメイク版を作成するにあたり、テーマを南米(現在のペルー、ボリビア、エクアドル周辺)で栄えたインカ帝国(タワンティン・スウユ)の首都クスコに変更してのリメイクとなっている。コンポーネントは豪華になったが、ルールはジャワとほぼ同じらしい。
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今回はこの豪華なリメイク版であるクスコをレビューしようと思う。
【インカ帝国の首都クスコ】
クスコはペルー南部アンデス山脈中の標高3,400mの高所にある都市で、かつてインカ帝国(タワンティン・スウユ)の首都として栄えた街だ。インカ帝国は15世紀後半から16世紀前半に最盛期を迎え、インカ道で各地と結ばれたクスコ(ケチュア語で「ヘソ」の意味)は、まさに世界の中心として隆盛を極めたという。
写真は、インカ帝国の有名な遺跡である空中都市「マチュ・ピチュ」
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インカ帝国は文字を持たない文明であったため謎に包まれた部分も多いが、巨大な石の建築と精密な石の加工技術、土器や織物などの遺物、生業、インカ道路網を含めたすぐれた統治システムが特徴である。特に石の加工技術は精巧で、隙間なく積み上げられた石組はカミソリの刃1枚さえ通さないと言われるほどである。
クスコのサント・ドミンゴ教会。元は金で装飾された太陽神殿(コリカンチャ)が存在していたが、神殿部分は破壊され石垣のみ当時のまま残存している。by flickr(David Stanley)
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<黄金文化>
以前紹介したティカルのマヤ文明は翡翠文化だったが、インカ帝国は黄金文化であり太陽神を祭る神殿はその象徴である黄金で飾られ、まばゆい輝きを放っていたという。残念なことに1533年にスペイン人のフランシスコ・ピサロによって最後の皇帝が処刑されるとインカ帝国は滅亡。おびただしい金銀財宝が略奪され、破壊された神殿や宮殿の跡に教会やスペイン風の街が築かれた。
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(参考:阪急交通社HP「第144回ペルー クスコ -スペイン風に姿を変えたインカ帝国の黄金郷-」)
<アンデネス(段々畑)>
アンデネスとは、ペルーやボリビアなどのアンデス山岳地帯に広く分布する段々畑のことである。インカ帝国は上述の通り文字を持たない文明でありながら、最盛期には、北はエクアドル、南はチリ南部、東はボリビアまで拡大した。この広大な文明を維持するためには山岳での食糧増産が必要不可欠であったと考えられるが、山岳地帯は水が少なく急峻な地形であり農業に不向きであることは想像に難くない。
このためインカ帝国では、高度な石工技術と灌漑技術を応用し地表水と地下水を反復利用する高度な水管理技術を用いて、水を多く必要とするトウモロコシ・果樹・小麦・野菜などを栽培していたことが最近の研究で分かっている。(参考:ペルー、インカ文明の経済基盤となった神秘のアンデネス(段々畑))
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クスコの北西に位置するモライ遺跡には、大小合わせて全部で4つの円形遺跡が残されている。この円形サークルは最大のもので直径約100m、深さは100m、最上層と最下層の温度差は5~10℃にもなり、インカ人はこの温度差を利用して異なる環境で育つ植物を植えて研究を進めていたものと考えられている。同心円状に作られたサークルの美しさ、そして温度計もない時代から温度差を見極めて農耕を行っていた技術力の高さには、未だに多くの謎が残されている。
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by flickr(Eduardo Zárate) |
<インティ・ライミ(太陽の祭り)>
インティ・ライミ(太陽の祭り)は、ペルーのクスコで6月24日の冬至に開催されるお祭りで、3月のブラジル・リオのカーニバル、2月のボリビア・オルーロのカーニバルに並ぶ南米3大祭りの一つである。この日はインカの元日でアンデス山脈の乾季の始めに当たり、収穫期の豊穣を「太陽神インティ」に祈る祝祭として、インカ帝国の始祖パチャクテクが始めたと言われている。
リオのカーニバルに比べるとインカ文明の復興を象徴する文化的な側面の強いイベントで、音楽のリズムに合わせてインカの民族衣装をまとう人々が町を練り歩き、サクサイワマン遺跡の広場に設置された舞台を中心に、始祖パチャクテクの偉業を称える踊りが行われる。
by flickr(LeMarie - Cancillería del Ecuador) |
【ゲーム概要】
インカの要人となり、広大な森林や山岳の広がるクスコの地に村を作り神殿を建て都市を建設します。そして太陽神を讃えるための盛大な祝祭を執り行い、最も多くの名声を獲得し皇帝となりましょう。
<ゲーム進行>
各プレイヤーは時計回りに手番をプレイしていく。手番では必ず1枚の地形へクスを置かねばならず、3へクスの地形タイルがなくなるとゲーム終了。最終得点計算を行い、最も名声点の高いプレイヤーの勝利となる。
<アクション>
1手番中、プレイヤーは6アクションポイント(AP)を自由に割り振り、任意のアクションを任意の順番で実行する。
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①地形タイルの配置 1AP ②インカ人駒の移動 ③神殿の建設、拡大 1AP ④灌漑池の造成 1AP ⑤祝祭カード1枚の獲得(2枚まで) 1AP(2AP) ⑥祝祭の開催 0AP(手番の最後) |
<名声点の獲得>
- 神殿の建設、拡大を行った場合、その神殿の価値の半分の名声点を獲得。
- 地形タイルに完全に囲まれた灌漑池を造成した場合、灌漑池1へクス毎に3名声点を獲得。
- 祝祭を開催した場合、その都市の神殿の価値に対応した名声点を獲得。
- 最終得点計算時、神殿のある都市で一番高い場所にいる場合、神殿の価値に等しい名声点を獲得。
ルールはシンプルだが、初めてのプレイではイメージが湧きにくく、このゲームの面白さが伝わりにくいのが欠点か。以下に私の初プレイを提示してポイントを解説したい。
【序盤は灌漑池作りで世界が広がる】
ゲーム開始時、クスコの大地は真っ平らで広く何もない。初手から何をすれば良いか迷ってしまうところだが、すぐに気付くのは灌漑池だ。池をタイルで囲って、その時にインカ人駒が池の周囲にいれば得点となる。しかも池タイル1枚につき3点。これは6点神殿の建築に相当する高得点になるため積極的に狙っていきたくなる。
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「なんだこれ!池作りゲームか!w」
そんなことをボヤキながら順番に手番を進めていくと、いつの間にかクスコの大地一面にタイルが敷き詰められ、インカ人駒もあちこちに散らばっている。しかも絶妙に大小の池が点在しており、タイル配置を悩ましくしている。おそらくこの灌漑池の要素がなければ、誰かが建て始めた神殿にみんなが群がり世界が広がりにくいことが予想されるが、池による得点が美味しいため地形タイルが横に広がりやすくゲームの展開をスムーズにしている。これは見事なアイデアだ。
ただ気になるのは、マップが1つしかなく灌漑池の場所が固定であるため、何度かプレイすると定石化してしまう可能性はある。これには何かヴァリアントルールが必要かもしれない。
【地形タイル配置はまるでパズル!神殿建設の高さ争いは熾烈!】
いくつかの村が繋がってくると少しずつ神殿が建ち始める。このゲームの得点要素は、神殿の建設・拡大、灌漑池の建設、祝祭だけなので、神殿の建設に絡むのは必須。ただし神殿を建設できるのは、その村で一番高いところにインカ人駒を置いているプレイヤーだけ。このためタイルを幾重にも重ねて、とにかく高いところを確保しなければならず、6APで上手く地形タイルを重ねて最上段へインカ人駒を進めるのは一種のパズルゲームのようだ。
また地形タイルには1へクス、2へクス、3へクスの3種類があり、組み合わせることで様々な高さの地形を作り上げることができる。しかし1へクスおよび2へクスのタイルは限られた数がプレイヤーに同数配分されているだけなので、大事な場面まで温存する戦略性が重要となってくる。上手くタイルを重ねて一番高いところへインカ人駒を置くことができた時の喜びは格別だ。
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村には1つだけ神殿を建設することができ、神殿の建設、拡大をした時にその半分の価値の得点を獲得できる。また最終得点計算時に都市の最上段にインカ人駒を置いているプレイヤーは神殿の価値分の得点を獲得する。このため、いかにして他プレイヤーに邪魔されず最上段を確保するかはこのゲームの至上命題だ。そこには何の運要素もないので、あらゆる可能性について模索する必要があり、とても悩ましく楽しい。
【祝祭がゲームを盛り上げる!】
手番の最後に自分のインカ人駒がいる都市で祝祭を開催することができる。その都市にインカ人駒を配置しているプレイヤーは全員参加することができ、場に提示された種類の遺物1つを1祝祭点として手番プレイヤーから1枚ずつ祝祭カードを提示するオークション形式だ。
祝祭点を最も多く提示したプレイヤーは、祝祭を単独開催することとなり神殿の価値に応じた名声点を獲得することが出来る。このため誰が祝祭に参加するのか、また何枚の祝祭カードを保持しているのか、という情報が非常に重要となり手札の睨み合いとなる。
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そして面白い要素として、同点1位の場合は祝祭の共同開催ということもある。もちろん単独開催よりも獲得できる勝利点は低くなるが、手札の状況によっては有用なこともある。
「どうですか、今回は共同開催としませんか?」
ルールブックに特に記載はないのだが、今回のプレイでは自然と交渉が始まった。古参ゲーマーには当然のプレイングなのだろうが、私には新鮮で可笑しくて笑ってしまった。このゲームのオリジナルであるジャワは20年前であるため、そういうプレイを皆が楽しんでいたのかもしれない。
【最終盤面が美しい♪】
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ゲーム終了時の最終盤面はとにかく美しい!
つまらないことのように思うかもしれないが、私にとってゲームの最終盤面はとても重要だ。駒の一つ一つに意味があるし、灌漑池の大きさ、神殿の高さ、全てが1時間30分の死闘を物語っている。美しく構築された盤面を眺めているだけで自然と感想戦も盛り上がるし、勝っても負けても清々しい気持ちでいっぱいになる。これがボードゲームの魅力なんだなぁ、と改めて感じさせられる。
<良いところ>
- 地形タイル配置はまるでパズル!神殿建設の高さ争いは熾烈!
- 祝祭カードに若干の運要素があり、祭り開催をめぐる入札が面白い!
- ゲーム終了時のクスコの街が美しい♪
<悪いところ>
- 得点計算が少しややこしい。
- 初期配置の灌漑池が固定で定石化しそう。
- ダウンタイムはやや長め。
<説明書&対象>
説明書:8ページ。インスト:30分、プレイ時間:1時間30分(3人)
BGG weight: 2.57( 2022/10/21現在)。重めの中量級。
神殿建設の高さ争い、祝祭での競り要素と直接攻撃はないがインタラクションは強め。万人にお勧めできるゲームではないが「ティカル」が好きだけど、ちょっと運要素が強すぎると感じているゲーマーにはちょうど良いだろう。
※今回のレビューにあたり各ホームページより画像を引用させていただきました。問題があれば削除いたしますのでご連絡いただければ幸いです。
【感想】
とても面白いと感じた!オリジナルの「ジャワ」は「ティカル」の翌年に発表されているのだが、「ティカル」の弱点を上手く修正し、運要素を減らすことで対象を少しゲーマー寄りへシフトすることに成功している。特にカウント困難だった10アクションポイント(AP)を6APへ減らすことで1ターンでのアクションは容易となり、ダウンタイムも減少してプレイアビリティはとても改善していると感じる。
地形タイル配置はまるでパズルゲームのように悩ましく、また1へクス、2へクスタイルを使用するタイミングはとても戦略的となっている。これらに関して運要素は全くなく、歴戦のゲーマー達を唸らせるほどアブストラクトで緊張感のあるガチなゲームなのだが、手番の最後に行える祝祭という競りシステムが駆け引きの面白い不確定要素としてゲーム全体を楽しく和やかなものとしてくれている。
クスコというゲームは、このアブストラクトな部分と祝祭というフワッとした楽しい部分が絶妙なバランスで融合した類まれなゲームに思えてならない。クラマー&キースリングの黄金コンビが「ティカル」で培ったアクションポイント制という自由度の高いシステムを、よりゲーマー向けにチューニングして世に送り出した「ジャワ」。それを18年の時を経て、インカ帝国テーマで見た目にも美しい作品としてリメイクされた「クスコ」。興味を持った方にはぜひ一度試して欲しい名作だ。
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