- 2人~4人
- 45分前後
- 10歳~
- 2011年~
ペルガモンダルニさんのレビュー
「これはあくまでもゲームですよ」という枠組みの中に入れさえすれば、人はどんな悪事だろうと嬉々として勝利点を稼ぎに動く。
「この物語はフィクションです」という注釈さえあれば殺人事件だろうがディザスタームービーだろうが、楽しくおいしく味わってしまえるのと同じ構造だ。
そして、このゲーム「ペルガモン」は現代社会の基準に照らし合わせると、プレイヤーに反社会的な資質…「詐欺師」であること=勝者である、とする、実にけしからんテーマの傑作だ。
ペルガモンを2人で遊んだことがある方はご存知だろうが、このゲームの2人ルールではNPCとして「墓荒らし」が出てくる。
この墓荒らし、超厄介である。
一定の法則に従ってどちらのプレイヤーよりも早く「資金調達と発掘のためのポジション」(このゲームでは一つのマスで両方の位置取りを表現する。これがまた悩ましいのだ)に陣取り、さらにはガンガン盗掘していく。
全くもって無慈悲なNPCルールなのだが、実はプレイヤーたちもやることは同じだ。
プレイヤーの肩書きは確かに考古学者である。
ただ「状態保存」というお題目があるかないかの違いで、さらに言えば考古学者たるプレイヤーの目的=勝利点は「学問の発展」などではない。
ただ、「持って帰った出土品による集客効果がどれだけあったか」だけが重要だ。
なので、出土品には魔改造を施し、ウェザリングを加え、年代をでっち上げる。
「この仮面は!なんと!紀元前588年ごろの!」とラベルを貼れば、大衆は感動の嘆息を吐き、博物館には客が溢れるという仕組みである。
出版社とデザイナー(以後「製作者」と呼ぼうか)は、とどのつまり「このゲーム内においては良き詐欺師となれ」とプレイヤーを促す。
当時(ボードには1871年としっかり書いてありますね)の考古学者が、実際に詐欺師たちばっかりだったのかどうかは知らない。
ただ、製作者はある一定の悪意でもって「近代ドイツ考古学」と「近代ドイツ考古学を支えた大衆」を虚仮にしている、あるいは虚仮にしているポーズを取っている、ということは言えるだろう。
そしてもっというなら、製作者はさらに大嘘をついている。
1871年にペルガモン博物館は、まだ建っていない。
真面目に捉えるならば、このゲームは「製作者による『近代ドイツ考古学』と『近代ドイツ考古学を支えた大衆』、さらにはそれを虚仮にして遊ぶ大衆としての我々への痛烈な批判である」と言えるかもしれない。
実際にそうだったとして、「だからどうした」というのが実はこの稿の結論だったりする。
製作者の仕込んだ大嘘など、正直目の前の勝利点(来客数)の前ではどうでも良い。
良き詐欺師となれと促されなくとも、我々には詐欺師的な小悪党が常に眠っており、このゲームではそれが覚醒する。
同業者(他プレイヤー)よりも少しでも資金を多く得て、古そうな出土品を集めたい。
「あれ、この壺、あっちの欠片と合体させるよりは、いま発掘してきたこっちの欠片の方がウケそう!」と閃いた時は至福の瞬間である。
そうやってプレイヤーたちは常に競っているが、騙しやすい大衆に対しては共犯関係にある。
同じルールの枠内で競いながらも共犯関係にある、というのは多分、どのボードゲームにも当てはまる。
ペルガモンのように、プレイヤーが小悪党として振る舞うなら、共犯関係はなおのこと濃度を増し、プレイヤー間に妙な連帯感が立ち上がってくる。
程よい運要素と戦術性を1時間程度のプレイ時間内に実現させながら、さらに上記のようなテーマとの融合性、プレイヤー間の妙な連帯感により、ペルガモンというゲームは「これこそボードゲームに望んでいたものではないか」という体験を私にもたらしてくれる。
「あらかじめ何が掘り出せるか見えている」というとんでもない虚構性と、拡大再生産などすっぱり割り切った資金分配システムも、プレイヤー間に強いインタラクションを生み出す良い抽象化だ。
我々は、「誰が何を欲しており現在どこの深さまで掘ることが可能か」をしっかり観察することに集中すればよい。
要するにシステムが「発掘」を競技化したのだ。
結果、考古学は徹底的に虚仮にされ、実際は1930年に完成したペルガモン博物館が時空を超えてボード状に出現し、出土品に群がる大衆はもはや虫と同じ扱いだ。
ここまでくると反社会性とか不謹慎とかを通り越して痛快ですらある。
ペルガモンはあくまでもゲームであり、ゲームでしか実現できない世界にプレイヤーを誘う。
やはり(というか常に)製作者の狙いはここにあり、なんだかんだと理屈をこねようと私たちはその上で嬉々として勝利点を稼ぎに動く。詐欺師上等。だからどうした。
ボードゲームなのだから、楽しみ尽くした卓の全員が勝者なのだ。
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