- 1人~4人
- 60分~150分
- 12歳~
- 2019年~
マラカイボ18toyaさんのレビュー
大国の思惑渦巻くカリブ海。探検,戦闘,クエスト達成。現代ユーロとは思えないほどの濃厚なインタラクションを堪能せよ!
【評価8.5/10】
ムーブフォワード(ロンデル)×タブロービルド×エリアマジョリティ×セットコレクション
本作の作者は「オーマイグーッズ!」「ポートロイヤル」等の小箱ゲームからパーティー系バッティングゲーム「ブルームサービス」,タイル配置の傑作「アイルオブスカイ」,はたまた「モンバサ」「グレートウェスタントレイル」「ブラックアウト香港」等の本格派まで,実に幅広いゲームを手がけているアレクサンダー・プフィスター氏。
氏が2019年に満を持してリリースした本作はたちまち世界中で話題となり,日本でも2020年に発売された当時,あっという間に売り切れるほどの人気っぷりでした。
では本作はどういうゲームなのか。
実を言うとこのゲーム,非常に説明が難しいゲームです。そのため細かな点は省略して極力ゲームの大筋に話題を絞りましたが,それでもロングレビューとなってしまいました。結構な長文ですが,最後までお付き合いいただけると幸いです。
<舞台>
「海賊と戦うメナード船長」カリブ海の海賊(歴史) wikipedia より引用
まずは本作の舞台について。時は17世紀,場所は中南米のカリブ海。ここで少し歴史を遡ったところからお話しします。
15世紀末,イベリア半島ではイスラム教最後の王朝であるナスル朝の首都グラナダが陥落し,7世紀以上続いてきたキリスト教勢力とイスラム教勢力の争いが終わりました。いわゆるキリスト教によるレコンキスタ(国土回復運動)の完成です。
国土を取り戻して国威が高まっていたスペインは更に当時大変高価だった香辛料を海路で入手しようと考えていました。アフリカの喜望峰を回る東回り航路は一足先にポルトガルによって開拓されていたため,スペインは西回りで「インド」に到達し香辛料を手に入れようと考えた。地球は丸いので西回りでも同じ場所に到達できるはず,という事ですね!これによって到達したのが本作の舞台であるカリブ海諸島です。
スペイン人は西回り航路でインドに到達したと考え,ここを「西インド諸島」と名付けました。これは勘違いではありましたが,スペインは中南米の豊富な金銀や富を得ることに成功し,ヨーロッパの名門ハプスブルク家出身のフェリペ2世が王位に就いた16世紀半ばには「太陽の沈まぬ国」と称され最盛期を迎えるようになります。
しかしその後,スペイン領であったネーデルラント(オランダ)の独立戦争,ネーデルラントを支援していたイギリスとの英西(イギリス・スペイン)戦争,ヨーロッパの覇権を争っていたフランス・ブルボン家との争いなど,ヨーロッパ大陸を大きく揺るがすさまざまな戦争や抗争が相次いで起こり,更には史上有数の悲惨な戦争となった三十年戦争(1618~1648),西仏(スペイン・フランス)戦争(1635~1659)へと突入していきます。
ヨーロッパでの大規模な戦争はカリブ海にも影響を及ぼしました。カリブ海自体は戦争の舞台になることは免れたものの,未だその地に残るスペインの影響力を削ぎ落とすため,イギリスやフランスは「私掠船」を合法化。つまり「スペインの船や町を襲う海賊行為は違法行為ではない」と定め許可証すら発行したのです。
スペイン本国は度重なる戦争によって国力が疲弊し,中南米に国軍を派遣することが難しくなったため,カリブ海は「海賊天国」と言っていいほど海賊行為が横行しました(パイレーツ・オブ・カリビアンですね)。
やがてヨーロッパ全土を巻き込んだ三十年戦争が終結し,ヨーロッパで頭角を現していたイギリス・フランスが世界の舞台へ進出。カリブ海においてもそれぞれいくつかの拠点を作り始めます。
17世紀末頃,両国は支配地を安定的に運営するため国軍と艦船を配備すると共に,私掠の役割は終わったとばかり私掠許可証を殆ど発行しなくなります。「海賊天国」だったカリブ海にも海賊時代の終焉がひたひたと迫っていたのでした。
このように17世紀のカリブ海は,大戦に巻き込まれ国力を落としつつも中南米に未だ拠点を有していたスペインと,新たに拠点を置き勢力を伸ばしてきたイギリス・フランスという列強国の板挟みに遭い,大国の思惑に振り回された時代でした。
(注:歴史上はオランダもカリブ海に拠点を築いたのですが,本作「マラカイボ」ではオランダは列強として登場しないのでここでは割愛します。また内容に誤りがある場合はご指摘をお願いします)
※参考:三十年戦争,西仏戦争,カリブ海の海賊(wikipedia)等
<本作の根幹>
さて,上記のような混沌と闘争・競争の時代背景の中,各プレイヤーはカリブ海を駆け回る船乗り兼冒険者となり,最も富と名声を得ようと目論みます(明確な説明はありませんが海賊という線が濃厚でしょう 笑)。
そのシステムはこの時代この舞台にふさわしく「相互に大きく影響し絡みあう勝利要素を,ある時は協力し,ある時は出し抜いて最終的な勝利を目指す」ものとなっています。
勝利点の大きな要素は次の3つ。
1)カードによる勝利点
2)探検による勝利点
3)スペイン,フランス,イギリスの3列強への影響力による勝利点
ここに,上記3種よりは控えめな点数ですが
4)プレイヤーボードから得られる勝利点(クエストタイル獲得による勝利点も含む)
5)経歴カードによる勝利点
6)最大影響力による勝利点
などといった要素も加わります。が,まずは本作の醍醐味である1)~3)をしっかりと理解することが本作の要点を掴む早道だと思います。
<カード>
カードのモチーフは協力者や建物など。各カードには勝利点が記されており,最後の点数計算で自分の点数になるほか,お金の収入を増やすもの,「勝利点収入(お金の収入と同じタイミングで勝利点を獲得できる)」を増やすもの、村に助手を置くもの(後述),冒険を有利にするもの,船ボードを育てるものなど様々な効果を持っています。
こうした効果や勝利点を得るために,プレイヤーはカードに書かれている購入額を支払って,手札もしくは計画エリアからカードを1枚「購入」します。強い効果や高い勝利点を持っているカードは購入額も高くなっているため,出費を節約したり臨時収入を得るなど購入には工夫が必要となります。
名声建物の例
また,特殊なカードとして「名声建物」という,大きな勝利点が得られるカードがあります。
名声建物は共通の場に置かれており,カードに示された金額を支払うと自分の駒を載せることができて,最後の勝利点計算時にカードを利用できる(=勝利点が得られる)仕組みです。
購入カードの場合は効果を使えるのも点数を貰えるのも自分だけですが,名声建物の場合は若干の1番手有利はあるものの(最初に駒を置いた人は勝利点2点獲得),お金さえ払えれば誰でもカードに駒を置いて勝利点を獲得できるので,「大量点をもらえるあのカードが引けなかったから負けた…」という事は起きづらくなっています。
一方で,名声建物は8種類の中から毎ゲーム4種類がランダムに選ばれ,最初は1枚しか見えませんがゲームの中で1枚ずつ徐々に表にされていきます。そのため「負けたと思ってたけど最後の名声建物が○○だったから逆転できた!」などドラマが起こる事もあり,ゲームを盛り上げてくれます。
<探検>
共通ボードには探検トラックという,多少の分岐はあるものの基本は一本道のルートがあります。各プレイヤーは探検トラックのスタート地点に探検家駒を置き,探検アクションを行うたびに探検家駒を進め,止まったマスの指示に従い勝利点,お金,戦闘値など色々なものを得ます。奥まで進めば進むほど勝利点の効率が良くなるので,ゴールまで辿り着けそうなら探検で勝利点を大きく稼ぐ戦法もアリになります。
<列強への影響力>
大きな勝利点を得られる3種のうち,あまり他に見られないシステムがこの「列強への影響力」。これをしっかりと理解する事でマラカイボの楽しみが一気に広がります。
共通ボードの上部に「影響力トラック」と呼ばれる場所があります。3つの段はそれぞれ「青=フランス 赤=スペイン 白=イギリス」を示しており,左側のキューブはカリブ海沿岸の各町・村の「所有権」を。右側のプレイヤー駒が置かれているゲージは「各プレイヤーが列強にどれだけ影響力を持っているか」を示しています。最後の勝利点計算時には列強ごとに
「(キューブを置く事で空いたマス+優勢ボーナス)×影響力」
の点数を得ます。具体例を説明してみましょう。
例えばこのような盤面で影響力による勝利点計算を行ってみます。
フランス(青)は盤面に7個のキューブを,スペイン(赤)は6個,イギリス(白)は3個置きました。そのため各色のキューブ置き場からキューブがそれぞれ減っており,ボードの「1勝利点(盾マーク)」がいくつか見えています。
フランスは影響力トラックからキューブを7個盤面に移した事により,1勝利点が4つ見えている状態です。また,キューブを盤面に最も置いている国のため,優勢ボーナスは2となります。これによりフランスの基礎点は「(4+2)=6点」となります。
スペインは影響力トラックからキューブを6個盤面に移した事により,1勝利点が3つ見えています。また盤面で2番目にキューブが多いため,優勢ボーナスは1となります。これによりスペインの基礎点は「(3+1)=4点」となります。
イギリスは影響力トラックからキューブを3個盤面に移した事により,1勝利点が2つ見えています。しかし盤面で最もキューブが少ない国のため優勢ボーナスはありません。よってイギリスの基礎点は「(2+0)=2点」となります。
この,各国それぞれの基礎点にプレイヤーの影響力による倍率をかけたものが勝利点となります。黒駒のプレイヤーはフランスへの影響力が×2,スペインへの影響力が×4,イギリスへの影響力が×1となっています。これにより,黒プレイヤーの影響力での勝利点は「6×2 + 4×4 + 2×1」=「12+16+2」で30点となります。
黄色駒のプレイヤーはフランスへの影響力が×2,スペインへの影響力が×1,イギリスへの影響力が×5となっています。黄色プレイヤーの勝利点は「6×2 + 4×1 + 2×5」=「12+4+10」で26点となります。フランスへの影響力があと1つ得られれば「×3」まで伸びていたので点数も6点伸びて32点まで増えたのですが,残念ながらゲーム終了に間に合いませんでした。また黄色プレイヤーはイギリスへの影響力を伸ばすために頑張ったのですが,イギリスのキューブをあまり盤面に置けなかったため,最終的には努力があまり報いられませんでした。
更に水色プレイヤーを見ましょう。水色駒のプレイヤーはフランスへの影響力が×4,スペインが×2,イギリスが×1となっています。これにより水色プレイヤーの点数は「6×4 + 4×2 + 2×1」=「24+8+2」で34点となっています。
影響力を進めた度合いは黒プレイヤーと水色プレイヤーでほぼ同じでしたが,黒はスペインに,水色はフランスにやや肩入れしていました。最終的に最も勢力を広げたのはフランスだったため、フランスの影響力を高めた水色が勝利点でやや優位となったのです。
このように,「どの国でも良いから単に影響力を伸ばせば良い」という訳ではなく,どの国が基礎点を伸ばしそうか,情勢を冷静に判断する必要があります。なお,この影響力システムはプフィスター氏の過去作品「モンバサ」の株システムと類似しているようですが,私自身はモンバサを遊んだ経験が無いためここでは触れません。
<強いインタラクション>
さて,上記で見てきた3つの大きな勝利点要素ですが,特に探検と影響力において非常に強いインタラクションが存在します。
まず探検ですが,探検アクションを選ぶと探検家駒が少なくとも2マス程度は(場合によってはもっと)進みます。この時「他の探検家駒がいるマスは飛ばしてマス数を数える」ため,他者と強い相互作用が生じます。実例で見てみましょう。
黒プレイヤーは探検家駒を2マス進めるアクションを選びました。この時
A)この場合と
B)この場合ではどちらの方がたくさん進めるでしょうか?
A)の場合は下の写真の通り,正真正銘2マスしか進めません。
しかしB)の場合「2マス進む」と言いつつも他のプレイヤーのマスは飛ばして2マスを数えるため,到着地点はスタートから4マス進んだ先となります。
つまり探検は他プレイヤーが相乗りしてくれるほど奥地に進みやすい。先ほど探検は奥地に進めば進むほど勝利点効率が上がると言いました。つまり探検を主力の得点源にできるかどうかは「他のプレイヤーも相乗りしてくれるかどうか」に左右されやすい,という事になります。
逆を言えば「アイツを探検で進ませてなるものか!」と思えば相乗りしないという選択肢もあるという事。つまり「無視する」「思い通りの展開にさせないためにその手に乗らない」という考え方もある訳で,こうした意味も含めてインタラクションが強いと言えるでしょう。
また影響力についても相互作用が強い。影響力トラックからの勝利点は上で見た点数の具体例のとおり,「自分がどの国の影響力をいかに伸ばすか」だけでなく,「キューブをいかに盤面にたくさん移すか」という点も非常に大事です。そしてキューブを盤面に移すに当たっては独力でキューブ設置を行うより「他プレイヤーにも影響力レースに参加してもらい,みんなでキューブをどんどん置いた方がキューブは消費され」結果、点数も伸びやすいという事になります。これも探検同様,影響力であまり大きな点数を取らせないために,わざとキューブ置きに参加しないという選択肢もある。
更にキューブについてはある国のキューブを強制的に盤上から取り除き,違う国のキューブに置き替えるというアクションもあります。これによって盤上のキューブ量1位は入れ替わる事があり,最後まで油断できないという緊張感を生みます。
3大得点要素の残り一つ,カード購入についてですが,基本は自分の手札等から行うアクションのため上記2種より比較的相互作用は少なめですが一応早取りインタラクションはあります。
本作は手札消費が激しいゲームで,自分の手番が終わった時にカードを補充する事が多いのですが,補充はディスプレイされている4枚のカードか,または山札から補充します。山札から補充する場合は裏面のカードを引くため内容は運任せになる。従ってディスプレイされている中に良いカードがあればそちらから引きたい。よって,ここが争奪戦になります。「あいつにこのカードを回したくない…先に取ってしまえ!」という動きですね。
ただし,このゲームではユニークカード(同じ効果を持つカードが他に存在しない,1枚だけのカード)が少なめで,同一効果や類似効果を持つカードも一定数含まれる事が多いため,インターセプトで完全に防げるという訳でもありません。極論で言うとディスプレイカードを取って山札からディスプレイを補充したら同じカードだった!なんて事もあり得るので,カード早取りのインタラクション要素はややマイルドといったところです。
<村アクションと町アクション>
上記のように,勝利点要素は特に探検・影響力においてインタラクションが強いことを見てきましたが,更に相互作用を生むのが「どうやってそのアクションを行うのか」という方法です。
このゲームではすごろくのような盤面を「1~7歩まで好きな歩数,自分の船を進めて」,最後の到着地によって「町アクション」か「村アクション」を行う仕組みになっています。
黒と水色はそれぞれ手番で移動して町タイルがあるマスに到着したので町アクションを。黄色は手番で町タイルがないマス=村に到着したため村アクションを行いました。
村アクションは移動した歩数によって何回行動できるか変わる特徴があります(4歩以上進めば2回行動,7歩移動すれば3回行動)。村アクションで最も重要なのは「カード購入」。このゲームでは町に「村アクションができる」種類のタイルが置かれていない限り,町でカードを購入することはできません。従ってカードの効果を使いたければ間違いなく実行できるのは村アクションという事になる。その他,村アクションでは1金を得たり手札を全て捨てて2金を得るアクションなどがあります。場合によっては手札入れ替え等も重要な場合があるでしょう。
また,カードの中には特定の村で特殊なアクション(助手アクション)ができるようになるものがあり,こうしたカードを購入したプレイヤーはその後指定した村に到着した場合,通常の村アクションの代わりにカードで指定されたアクションを行う事になります。中には町アクションにも引けを取らない強力な助手アクションもあるので侮れません。
助手アクションの一例。このカードを購入して16番のマスに助手を置けば、その後自分が16に止まるたび,2戦闘値を支払う事で7金を得て更に村アクションを2回行う事ができる。
一方,町で何ができるかはゲームごとに異なります。ゲームの最初に町タイルをシャッフルしてランダムに配置されるため,「今回のゲームではどの町で何ができるか」は盤面次第となりますが,どの町タイルにも共通しているのは「カードを使用して自分の船ボードを強化できる」という点。
町タイルが要求する商品と 適合する商品が描かれたカードを持っている場合,カードを捨て札にして ディスクを1枚、船ボードから町タイルに移す事ができる。2枚ディスクを移す事で能力が解放され,様々な特典が得られる
船を強化する事で行動が強くなったり臨時収入を得たりして,プレイを有利に進めることができる一方,船の強化は早取り競争なので,全てのプレイヤーは町で止まろうと目指しますが全員美味しい場所に止まることはできません。ここは先手番が有利となります。
様々な種類の町タイル。毎ゲーム,この中からいくつかのタイルがランダムに選ばれ,配置される。
ただし町から町へとどんどん進んでいくと先にゴールに着いてしまう可能性が高くなる。このゲームは同じコースを4周するとゲーム終了となるのですが,3周目までは最初にゴールする事はあまり美味しくない。3勝利点はもらえるものの,次の周回では最後手番になるからです。
従ってここにもインタラクションが利いており,「どんどん進むのか,ゆっくり進むのか」「誰々が町中心に行くなら自分は助手アクションを中心にしようか」「そのために必要な助手駒をどうやって算段しようか」など,船の進め方にもお互いの意図が絡み合います。
また,11番目のマスである「マラカイボ」は必ず「戦闘」を行える町で,これにより影響力トラックで列強への影響力を伸ばしたりキューブを盤上に移すことができます。ただしマラカイボは他の町タイル同様,プレイヤー全員が船の改良を出来ない早取りの町です。そのためマラカイボ争奪戦は必ず起きると言ってよく,本作の「奪い合い」「熾烈な争奪戦」「濃密な相互作用」を象徴する場所となっています。
熾烈な争奪戦となるマラカイボ。本作のタイトルにもなっているこの町は全てのプレイヤーの戦略を左右するほど重要な場所。
このようにマラカイボの町は固定アクションではあるものの,基本的には盤面の町タイル配置によってどの場所で何のアクションが打てるかが毎回変わるため「毎回共通となる盤石の必勝手」は存在しません。遊ぶたびに盤面を確認し,他のプレイヤーの動向も伺いながら,「今日はどういう勝ち筋が有効そうか」「どこを協力して相乗効果で伸ばし,いつ出し抜いてやろうか」と戦略を練り,互いの意図が絡み合うゲーム性となっています。
更に名声建物の種類や自分の経歴まで変わる上に,ストーリーの展開により町が突然増えたり逆に町が消えるなど盤面に変化が生じるキャンペーンモードも備えているためリプレイ性も高い事から,本作は何度も繰り返し遊べる作品として仕上がっています。
<ソロゲームとしてのマラカイボ>
こうした相互作用の大きさはマラカイボのソロゲームとしてのバリューをも上げています。本作のソロは「ジーン」というオートマとの対戦型となっています。ジーンの得点方法は人間プレイヤーとは異なっており,特に最も異なる点はジーンの大きな得点源がクエストタイルである点です。更にクエスト,探検,改良などの各分野であまりにジーンが先行してプレイヤーが離されてしまうとジーンにボーナス点が加算されてしまう。
ジーン専用ボード(写真下)はプレイヤーボード(写真上)と異なるものの,処理は明快だ
こうしたソロのルールからも,本作の根幹が「相手との相互作用」にある事は明確です。つまり「自分はこの行動だけやるので,お前はこれをやってればいい」という特化型ではなく,全局面を見て、ある時はジーンの動きを利用しつつ,どこかのタイミングでジーンを出し抜く必要があるのです。
本来なら渡したくないクエストタイルすら場合によってはジーンを足止めする餌にして(ジーンは必ずクエストタイルで止まる)その間にもっと大事な何かを取る必要があるかもしれません。自分の盤面だけではなく全体を見て最適な行動を取る必要がある。
またジーンの行動処理は非常に簡単で,ジーンの手番でオートマカードを1枚めくり,カードの指示に従うだけです。しかもカードセット3種類から指定枚数ずつ抜き出して山札を作ることで,ジーンをさまざまな難易度に容易に作り替えることができます。
オートマカード。難易度に合わせてA,B,Cのカードセットから指定の枚数分カードを抜き出し混ぜ合わせる。その後はジーンの手番ごとに1枚ずつ引くだけ。個人的にマラカイボのソロは処理の容易さと強さを兼ね備えており,多人数ゲームのソロとして出色の完成度と言って良い
ジーンは非常に難敵で,「非常に簡単」でもしばしば負けてしまう。本作のソロはインタラクションを楽しむ事もできる上にやり甲斐も相当あるため,オートマ対戦型としてかなりの完成度だと思います。
<弱点>
このように強いインタラクションと高いリプレイ性を誇る本作ですが,弱点も少なくありません。
まず最初に感じるのは準備と片付けが大変ということ。要素がかなり多いため,慣れないうちはコンポーネントの準備にまず20分程度はかかるでしょう。片付けも同じくらいかかります。
また,ルールの把握も難物です。上記レビューでは「本作の醍醐味を伝えたい」と考え,細かなルールはかなり省いて大枠の説明に努めましたが,それでもレビューは相当な長文になりました。ましてルールブックでは各項目についてより深く説明しているためゲームの全体像がなかなか見えてこず,「何を争い合って」「どこが焦点となって」「何を楽しむゲームなのか」を直感的に把握する事は難しい。
上記したとおり盤面によって勝ち筋も変化するため,「初手はこれが鉄板」という行動もなかなか見えてきません。1~7歩の間で好きな歩数移動できるという自由度の高さも,裏を返せば「何歩動いて何をしたら良いのか見えてこない」となりかねない。
アイコンも大量で,カードや盤面の意味をある程度把握するまでマニュアルを片手に何回か通して遊んでみる必要があるでしょう。
上記の点からインストも苦労すると思われます。下手をすると1時間では説明しきれないかもしれません。
以上の点からマラカイボは「とっつきづらく,直感的ではなく,自由度は高く選択肢は多いが何をしたら良いか,どうしたら勝てるかも分からない」という「取り付く島の無い,自分には遊べないゲーム」と感じさせやすく,NFM(ノットフォーミー:自分向きではない)を大量に生み出してしまう恐れがあります。
更に要素が互いに複雑に絡み合っているため「何がどう面白いか」を言語化する事も難しく,面白みを掴んで遊べた人と,さらっと遊んで要点が掴めなかった人との間で感想に大きな隔たりが生じ,このゲームの正体,実像をぼやけさせる結果にも繋がりやすい。
<まとめ>
本作「マラカイボ」は上記したような弱点を孕んでおり,ハマる人はとことんハマるが面白みの説明が難しいゲームとなっています。要素が多いのも事実ですし,誰にでも勧められるタイプのゲームでもありません。
しかし一度「どこが焦点になるのか」「何が面白みなのか」を踏まえて遊ぶ事ができれば,インストに比してプレイ自体の時間はそこまでかからず意外とサクサク進みますし,盤面を4周すれば必ず終わるため収束性も良く,お互いの行動が相互に及ぼす影響が大きい事から非常に濃密でエキサイティングな体験を味わえるゲームでもあります。
加えて言えば,「ゲームの概要を理解してからインストする」ことを目的にソロプレイで感触を確かめるもよし,仮に仲間と遊べなくても複数の難易度,ランダムな名声建物・町タイル,キャンペーンモードなどによりリプレイ性は折り紙付きのため,単にソロゲームとして考えても十分優秀で楽しめる作品に仕上がっていると言えます。
以上から本作は
・ノンリプレイ派,さらっと遊ぶ派,初回プレイから分かりやすい盛り上がりポイントが欲しい派にはウケは悪くなりやすく
・オープン会など様々なタイプの人が来る場には全く向かないタイプのゲーム
ですが,
・固定メンバーで何度も同じゲームを遊びたい派
・最初から動き方が分からなくても何度か遊んでから評価する辛抱強いタイプ
は遊んでいるうちにジワジワと面白みが増していき,本作でしか味わえない深い楽しみを骨の髄まで堪能できるゲームではないかと思います。
私にとって本作は「癖が超強い友達」みたいな存在です 笑。ちょっと話が回りくどくて誤解されやすい。また,時々難しい事を言うので何を言ってるか分からない時もある。だけど付き合ってみると奥行きが深くてとても面白い。自分だけが楽しむにはとても勿体ない親しい友人の1人。そんな友人の良いところを少しでも知ってもらえれば。
今回は,そんな思いでマラカイボのレビューを書いてみました。相当長文になってしまいましたが,最後までお読みいただいた方に感謝します。皆様の良きボドゲライフに貢献できれば幸いです^^
- 360興味あり
- 567経験あり
- 169お気に入り
- 559持ってる
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