IKI 江戸職人物語山本 右近さんのレビュー

IKIは非常に魅力に溢れるゲームである。キックスターターで比較的大きな成功を収めた数少ない国産の重量級ゲームとして知られており、海外でも人気となっている作品だ。そのボックスアートからして非常に印象的で美しい。

作者の山田空太氏は本作のほかに「でんしゃサウルス」や「枯山水」といった人気作品を手がけているが、どちらかというとキャッチーでカジュアルなゲームが多く、本作は氏の作品の中でもある種の異彩を放っている。

テーマはズバリ江戸っ子。日本橋の地図を模したメインボードはロンデルを形作っている。プレイヤーはまず自分のコマを進める歩数をワーカープレイスメントの方式で選択するが、これが手番順も決めることとなり、より少ない歩数を選択したプレイヤーから順に手番を行う。

手番プレイヤーは場に公開されている職人カードのうち1枚を雇用し長屋に住ませるか、雇用せずお金をもらうかを選び、その後選択した歩数分だけコマをすすめ、その場所で使用できるアクションを行っていく。

長屋に住ませた職人は出世して、引退すると長屋から出払いプレイヤーの手元に置かれる。引退した職人は食糧供給も不要で決算時は収入をもたらしてくれる。ゲーム終了時のセットコレクションにも貢献してくれるが、引退した職人のアクションはもう使用できないし、決算毎に勝利点を獲得できる長屋ボーナスはそれぞれの長屋に住んでいる職人のみが対象となる。ルールは複雑ではないが様々なジレンマを生み出すように作られており、ルールブックを読んだだけで非常に戦略的でモダンなユーロゲームであることがわかるだろう。

特筆すべきはコンポーネントのアートワークである。浮世絵スタイルで統一されたカードやボードはとても美しく、かつゲームの雰囲気を高めている。非常にテーマ性を大事に作られた作品なのだろう。

タバコ入れやキセルといった粋な小道具が勝利点を生むアイテムとなっていたり、魚河岸に行けば季節ごとに並ぶ魚が変わる。まるで職人たちや自分のコマ達が江戸の街を賑わし、躍動しているかのような気分を味わうことができる。

テーマ性はコンポーネントにも現れている。このゲームのお金の単位は文だが、用意されているトークンは1文銭と四文銭なのだ。収入や支出の単位を四文銭でも扱いやすいよう工夫されてるようには見受けられるものの、基本的にはプレイアビリティを考えるとYedoのように1と5を用意するべきだが、多少のプレイアビリティを捨てて四文銭を採用した辺りに作者のこだわりが垣間見える。

火事のイベントにおいても同様のことが言える。ゲーム中3度の火事が起き、プレイヤーの火消し力パラメータが足りない場合は火事の度に長屋に住んでいる職人が死んでいくのだが、どこから出火するかはランダムで決められるのである。より戦略的なゲームにするならば、一度火事が起きた場所からは出火しないというルールにも出来たはずだが、あえてそうしなかった点も拘りの一つなのだろう。大きな運要素の存在は好みを分けるが、テーマ性としてはこのゲームの魅力を高めているように感じられた。

さて、この度このゲームのアートワークが刷新されルールがアップデートされた新版がフランスの出版社から発売された。旧版のアートは文句なく素晴らしいが、こちらもなかなか魅力的に仕上がっているようだ。

包み隠さず言うと、私はこのゲームの大ファンであるから(悪い点ですら)かなりポジティブな感想を書いてしまったと思っている。私はコレクターよりもプレイヤー寄りなので同じゲームの旧版と新版をどちらも揃えることは殆どないのだが、この新版はプレオーダーしてしまった！

好みが分かれる作品であることは重々承知の上で申し上げると、一度プレイして気に入ってくれたなら、プレイする度にこの作品の魅力の虜になり、あなたを長い間楽しませてくれることになるはずだ。