- 3人~6人
- 120分~180分
- 14歳~
- 2018年~
ヒストリー・オブ・ザ・ワールド:新版びーている / btailさんのレビュー
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(2024/1/3に全面的にリライトしました)
ヒストリーオブザワールドは、四大文明の発生から第一次世界大戦直前までの約4500年の人類の歴史を辿る壮大な陣取りゲーム。 この手の世界史もののゲームには技術の発展や文明の進歩みたいな要素がありがちですが、本作にそういうのは一切なし!殴り合いで領土を取り合うだけの潔いゲームとなっております。
本作、各部詳細に見てみると魅力的な特徴がわんさかあるのですよ。ここからはそれを紹介していきます。
後味のいい殴り合い
ヒストリーオブザワールド、昔ながらの殴り合いのゲームです。そりゃーもう領土を獲ったり獲られたりです。この手のゲーム、殴られた側は「あんにゃろう…」って思っちゃったりしてそこが苦手な人もいる訳ですが、本作では殴られても嫌な気分にあんまならないんですよね。それは何故か。
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それは、各時代では担当帝国の発生順に各プレイヤーが「領土を拡張し切る → 勝利点を獲得する」という手番をやり切ってから次のプレイヤーの手番に移るから。例えば上の画像の時代Iの場合、シュメール文明がその時代の手番を全部やり切ってからエジプト文明に手番が移り……という感じ。(実際は各ゲームで発生しない帝国もあるので上の順番は歯抜けになります)
これで何が起こるか。手番プレイヤーは盤面上の他人のコマ(領土)を殴って領土を奪うのですが、そのコマは残像だ──もとい、やることやり切ったコマな訳です。ゲームで殴られ奪われ嫌な気分になるのって「やろうとしてたことが邪魔された!」ってのが一因な気がするのですが、本作では殴られるコマはもうやり切ったヤツなんでなんか嫌な気分にならないんですよ。
と、いう訳で「殴り合ってんのに嫌な気分になりにくい」ってのは本作の面白い特徴だと思いますね。「各手番でプレイヤーにその時代のアクションをやり切らせる」関係上、ダウンタイムが長い* って現代では嫌われる欠点も正直あります。でもしょうがない。こういう他にない面白い特徴を獲得するため。
*特に終盤のダウンタイムは超長い。旧版だとダウンタイムの間に別ゲー(エルフェンランド)をプレイできたって話を読んだことあるほど。
帝国ドラフトのかけひき
各時代の冒頭では、各プレイヤーの担当帝国をドラフトによって決めるのですが、これも独特で楽しい。本作では各時代で登場する帝国の強さには明確な差がありますが、「勝利点の低いプレイヤーからドラフト形式で担当する帝国を選ぶ」というルールによりゲームバランスがとられています。
いわゆる「プレイヤーにゲームバランス丸投げするドラフト」ってヤツですが、本作はそこも超割り切ってゲームに入れちゃってるのがいいんですよ。っていうか本作はドラフト文化の祖であるM:tG登場(1993)より前の1991に初版な訳で、そんな古い作品がこんなバランスのとり方してるのスゴくない?(旧版はドラフトのやり方がちょっと違いますが。後述。)
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例えば上の画像の時代II、ローマ帝国は本作で最大の15コマを使って拡大できます。でもそのせいで勝利点が超伸びちゃって、ローマ担当したプレイヤーは後の時代で弱い帝国しか担当できなくなったりするんですよね。そこをどう工夫するかというのが面白かったりします。
そしてこのドラフトシステム最大の見せ場が時代VIのメソアメリカ文明 = インカ&アステカ!ゲームも後半になり大帝国もバンバン出る中でコマが少ない!さらにこの頃の南北アメリカも点が低い!要は担当した人は勝利点に超ブレーキがかかる訳です。で、もちろん時代IV冒頭のドラフトでは、みんな「勝ってる人」にこれを押し付けようとすると。
かくして直前の時代IIIまでは「メソアメリカ押し付けられないようにいい感じに僅差で2位につける」か「押し付けられても逃げ切れるように大差つけて1位に」かっていう独特な駆け引きが発生します。これがすごい楽しいんですよねー。初見さんには罠になりがちなので注意が必要ですが。で、カードの引きによってはそもそもメソアメリカ文明出ない場合あるってのも「この駆け引きどこまでマジでやんの?」って紛れになって楽しい。
他にもこのドラフト、「勝利点だけではなく盤面の強さも見ないとダメ(次につながる領土がいっぱい残ってるヤツはヤバい)」とか「コマ数少なくても発生の早い帝国はヤバい(前時代までの領土が残ったまま手番を迎える)」とか色々あるんですが、長くなるんでこの辺で。
旧版ドラフトでやるのも乙なもの
この帝国カードのドラフト、新版では手札渡して1枚ずつピックするいわゆるフツーのブースタードラフト。他ゲーだと「あやつり人形」とかのヤツですね。ただしオプションルールとして旧版のドラフトでプレイすることも可能となっています。
この旧版ドラフト、勝利点下位の人から「帝国カードの山札から1枚自分だけ見る → 誰か1人にウラのまま担当帝国として押し付ける」ってのをやります。帝国押し付け先は自分でもいいけど、まだ押し付けられてない人限定。で、全員やった後に押し付けられた帝国カードをオモテにすると。
旧版ドラフト、帝国カード裏のままやり取りするんで「おいおい1位に上手く弱い帝国押し付けられたのか?」「そこそこ弱い帝国引いたけどこれ1位に押し付けるべきなのか?」みたいなドキドキがすごいんですよねー!そんで一斉オープン時は盛り上がる!
てなわけでゲームバランスを重視するなら新版のオーソドックスなドラフト、刹那のエンタメを重視するなら旧版のドキドキ押し付け合いをお勧めします。
歴史の必然 ──「自然とそうなる」得点システム
本作では手番終了時に保持してる領土に応じて勝利点がもらえます(自分の旧時代の領土も含む)。この勝利点、エリア、そして時代によって異なります。超乱暴に言うと、各時代の各エリアの「豊かさ」を表してる感じ?そして、高得点エリアが長期間、(北アフリカ-)南欧-中東-インド-中国 とユーラシア大陸南方の同緯度帯にまとまってるあたりにジャレド・ダイヤモンドの名著「銃・病原菌・鉄」をなんとなく思い出したり。
で、この場所と時代で異なる領土の勝利点がゲーム中の面白い動きにつながるのです。
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ゲーム的にはみんな勝ちたいんで基本的に高得点エリアを目指します。するとどうなるか。北方の瘦せた土地の蛮族が豊かな南欧や中国に攻め込んできたり、全時代通じて得点の高い中東に色んな勢力が入り込んで混沌としたり……と史実をなぞったような展開に割と自然になるのです!これが興味深いんですよね。
そして盤上で繰り広げられる様々な勢力の栄枯盛衰に思いをはせたりできる訳です。対抗勢力が湧かないせいで中国の殷帝国が紀元前から近代まで生き延びたり……みたいな史実から外れた出来事も起こりますが、そういう架空史みたいなのができていくのもまた楽しい。
そんな架空史の一つとして、例えば私が前にプレイした時のリプレイなんかもありますのでご興味があればぜひ。
新版と旧版と
2018年の新版、以下のように旧版から遊びやすくなってます。旧版が超プレイ時間長かった(6~8時間)のをまあまあ現実的な時間(2~3時間)に縮めるのが主ですね。
- 7個あった「時代」を5個に集約してゲーム全体を短く
- マップを相対的に狭く(世界地図中の各区画(領土)を大きく)
- 戦闘の決着をつきやすく
- 紙チップをコマに置き換えプレイしやすく
一般的には新版のほうがお勧めです。でも個人的には旧版(1993 Avalon Hill版)も良いぜ!と言いたい。旧ドラフト以外にも独自の魅力があるんです。
旧版では時代もマップもルール裁定も細かく区切られることになるのですが、それにより新版よりも歴史の解像度が高い感じで遊べるのですよね。歴史好きな人たぶんそういうの好きでしょ?ロマンですよロマン。あと単純に、時代がいっぱいある = 1プレイで色んな帝国を担当できますし。
そしてコンポーネントも旧版はチップなわけですが、ウォーゲームっぽい「ユニットのシルエットが描かれたチップ」が躍る盤面というのは、新版のゴージャスなコマとはまた別の魅力があります。
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ウォーゲームっぽい紙チップが躍るAvalon Hill版(1993)の画像。BGGからの引用です。
まとめると、現実的なゲームとして楽しみたいなら新版がお勧め。8時間のプレイ時間なにするものぞ!歴史はロマンじゃあ!という人は旧版にチャレンジしてみてもいいかもしれません。
他にも細かい魅力とか
ヒストリーオブザワールド、他にもいろいろな魅力がありますので最後にササっと列挙。
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手番マーカー 兼 自軍バフカウンターとしてやたら存在感のあるカタパルトを使ったりだとか
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首都/都市コマと合体できるカッコいい砦コマがあって、紙工作で大量にそれを作らされるだとか
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各帝国がそれっぽい固有能力を持ってたりだとか
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帝国カードだけでなく、強めの効果で盤をかき回せるイベントカードも使えたりだとか
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結果として妙なコンボが発生して明治天皇麾下の東郷平八郎率いる極東艦隊が太平洋横断して全米占領しちゃうだとか、色々とある訳です。
ヒストリーオブザワールド、独特な陣取りを楽しみつつ歴史の雄大さも感じられる、唯一無二の魅力があるゲームです。おすすめです!
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