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  • 1人~4人
  • 60分~120分
  • 14歳~
  • 2019年~
1122名
20名
0
2年以上前

《重厚なダークファンタジー世界で心折られるデッキ構築RPG》

現在、第7章途中だが、この作品の面白さを少しでも伝えたいと思いレビューしようと思う。ソロプレイレビューで極力ネタバレはないように配慮したつもりだが、ネタバレが気になる方は読まないで欲しい。


【超本格的ダークファンタジー世界に溺れる!】

この作品の最も魅力的な部分は、その重厚なダークファンタジーの世界観だ。

その昔、赤死病により故郷を失った王と騎士たちが、逃れるように辿り着いたアヴァロン島。そこでは「あやかし」と呼ばれる謎の力が支配しており、現実世界を不安定な状態にしてしまうため、石像メンヒルの力により維持している。しかし、最近メンヒルの力が弱っており世界に危機が訪れているという…。

何やらおどろおどろしい雰囲気の漂う設定と、希望の光が見えない闇と謎に覆われた世界でプレイヤーは選べれし者にはなれなかった人間として、生きていくことになる。選択できるキャラクター達はそれぞれに何かしらの制限を受けており、成長していかなければならない。

これらの設定およびストーリーは想像以上にダークな世界観で、一気に物語の世界へ引き込まれてしまう。探索日誌という分厚いリング冊子には、その土地の情景、登場人物の様子、セリフなどが臨場感たっぷりに記述されており、プレイヤーを魅了するだろう。これだけのテキスト量を見事な日本語にしてくれた翻訳者の方々およびアークライト社には感謝せずにいられない。


【ストーリーは、アーサー王伝説のオリジナル後日譚】

アヴァロン島という名称から気付いている方もいると思うが、上述の「王と騎士たち」というのは、アーサー王と円卓の騎士団のことであり、アーサー王がアヴァロン島へ運ばれた後のダークファンタジーなオリジナルストーリーとなっている。従って、少しばかりのアーサー王伝説の知識があると、より深くストーリーを楽しむことができるだろう。ということで、アーサー王伝説について少し調べてみた。

<アーサー王伝説について>

まずアーサー王とは、6世紀ごろにブリトン人を率いていたとされる伝説上の人物のことであり、実際に存在していたかどうか定かではない。アーサー王の物語は何百年もの間、様々な伝承を取り込みながら語り継がれてきた物語であり、原典となるものはなく様々な物語が残っている。ただ15世紀に英国人作家トマス・マロリーがまとめた「アーサー王の死という本が最も広く知られておりメインストーリーとされることが多い。そのあらすじは以下のとおり。なお、アーサー王物語のあらすじを知りたくない方は読み飛ばすように。

<アーサー王伝説あらすじ>

ブリトン人の王ウーサー・ペンドラゴンは、魔術師マーリンの力を借りて部下の妻と一夜を過ごし、息子のアーサーが生まれる。マーリンとの契約により身分を隠されたアーサーは、エクター卿の息子として育てられるが、石に刺さった聖剣エクスカリバーを引き抜き王位を継承した。

アーサー王は、レオグランデス王の娘グィネヴィアを王妃として迎え、さらにキャメロット城には各地の騎士が集い、円卓の騎士を結成する。(ちなみに円卓の騎士とは、キャメロット城にあった円卓に由来しており上座下座のない対等な関係を象徴していた)

チャールズ・アーネスト・バトラー 『アーサー王』 ジョン・コリア 『グィネヴィア王妃の五月祭の祝い』

騎士たちの活躍によりブリタニアを統一したアーサー王は、騎士たちに聖杯(Holly Grail)を探してくるように命ずる。ガラハドパーシヴァルボールズの3人は聖杯が安置されている場所を発見するが、ガラハドが聖杯を手にすると、彼の魂は聖杯とともに天に召され、パーシヴァルも亡くなると、ボールズは唯一の生き残りとして聖杯探索の結末を報告する。

そんな中、アーサー王の親友にして円卓最強の騎士ランスロットが、王妃グィネヴィアと恋に落ちる。しかし二人の不義の恋が露見されると、王妃グィネヴィアはその罪で火刑に処されることとなった。ランスロットは愛する王妃を守るため処刑場へ乗り込み、かつて味方であった騎士団を斬り殺して王妃を救い出しフランスへ逃亡するが、その中にはガウェインの弟ガレスも含まれていた。怒り狂ったガウェインはランスロット討伐をアーサー王に主張しフランスへ攻め込むが、死闘の末ランスロットと和解する。

そのころ、居城キャメロットを守っていたはずのアーサー王の息子モルドレッドが反乱を起こした。アーサー王は急遽キャメロットへ戻ってモルドレッドを倒すが、瀕死の重傷を負ってしまう。アーサー王は自分の死期を悟ると、エクスカリバーを湖の乙女に返し、小舟でアヴァロンへと運ばれていった…。


アーサー王物語は、様々な英雄譚、恋愛譚が複雑に絡み合った一大叙事詩となっており非常に面白そうだ。興味のある方は、小説なり映画(どちらもかなり古い)を堪能してぜひアーサリアン(アーサー王伝説オタク)になると良いだろう。(参考:海外ドラマブログ「アーサー王物語のあらすじ エクスカリバー、円卓の騎士って何?」

<アヴァロン島にきた後日譚>

アヴァロン島の場所には諸説あるが、正確なところは不明だ。少し設定は違うが、このアーサー王と円卓の騎士団がやってきた島こそ今作の舞台となっているアヴァロン島であり、島の多くは謎に包まれている。タイトルにある「汚れた聖杯(Taited Grail)」がどのような意味を持つのか、またアーサー王や円卓の騎士団がどのような運命を辿るのか、ぜひ自分の眼で確認して欲しい。(まだ知らないw)


【デッキ構築で成長していくカード戦闘システムに酔いしれる!】

魅力的なストーリーもさることながら、私がこの作品で1番気に入っている点は、その独特なカード戦闘システムだ。敵モンスターに遭遇すると戦闘になる。恐ろしくも美しいイラストで表現された敵モンスターカードの右端には有効な属性アイコンが表示されており、そこに手札の戦闘カード左端に記された特典アイコンをリンクさせることで攻撃することができる。

<戦闘>

属性アイコンには、「攻撃力」「意志力」「実行力」「魔法力」などがあり、自分のキャラクターで成長させた能力によりダメージを与えることができる。しかも戦闘カードは追加カードの印があれば、1ターン中に追加攻撃を行うことができ、コンボ攻撃も可能。これがとても気持ち良く、連続攻撃を決めて敵モンスターを討伐する爽快感は本当に最高だ。

もちろんこれは戦闘カードデッキがかなり強化されてからの話で、ゲーム序盤は非常に弱い攻撃しかできず、イノシシやヘラジカにも簡単に負けてしまうのだが、それでも弱い敵を地道に討伐して経験値を貯めると、1日の終わりに経験値を消費して新しい戦闘カードを獲得することができ、戦闘カードデッキを再構築、強化することができる。

このデッキ構築がロールプレイングゲームとしてキャラクターの成長していく要素を表現しており、経験を積むごとにどんどん強くなることを実感させてくれる。ちなみにデッキは最低15枚で編成しなければならないので、カードのシナジーを考えながら取捨選択するのは非常に楽しい時間だ。

<交渉>

また遭遇にはモンスターとの戦闘の他に、NPCとの交渉という同様のシステムもある。こちらはダメージを与えるのではなく、親密度トラックに置かれたマーカーをMAXまで上昇させれば勝利だ。ダメージの蓄積ではなくマーカーの綱引きになっている違いはあるが、基本的には戦闘と同じで、このため成長要素は2倍楽しめるようになっている。

戦闘も交渉もシステムはとても面白く、夢中になってやっているとキャラクターはどんどんと強くなっていく。ただ残念なのは現在、第7章途中の状態でステータスはMAX近くまで上がっており、レベルデザインがやや大味に感じることだ。この辺りは拡張や次回作での改善をぜひ期待したい。


【世界観と密接したゲーム性とキャラクター】

ボードゲームプレイスペース『Kinked Tail(キンケッドテイル)』さんのツイートより引用。SNSで見かける美しく塗装されたフィギュアは、どれもとても妖艶で怪しい魅力を放っておりゲームの雰囲気を大いに盛り上げるに違いない。私も塗装してみたい。

この作品を語る上で欠かせないのが「メンヒル」という石像。メンヒルの力が及ぶ土地のみ現実世界に留まることができるため、メンヒルの力が及ばない所は消えてしまう。力が及ぶ範囲はメンヒルの周囲3×3=9マスまたメンヒルの足元にはダイヤルが設置されており、1日毎にカウントが小さくなっていき、最後のメンヒルが消滅するとキャラクターの体力が奪われていきゲームオーバーとなってしまう。

このため絶えずメンヒルを再起動することにより活動するエリアを活性化しておく必要があり、世界観とゲーム性が上手くマッチしていると感じる。またメンヒルは最大で3体までしか建設できず、遠くに遠征すると元の場所は消えてしまうため探検するエリアを絞ることも重要だ。

<個性豊かなキャラクター5名>

使用するキャラクターは5人で、脳筋鍛冶屋のビョール、情緒不安定な薬草売りのアイリー、呪われし傭兵アレヴ、ドルイド教団の裏切り者マゴット、謎の女戦士ニアヴといずれも個性的だ。キャラクター毎に特徴がかなり違うので、戦闘の得意なキャラクターや交渉有利なキャラクター等に分かれている。しかも彼らはどこか至らないところがあり勇者パーティに選ばれなかったため様々な欠点を抱えている。それがまたゲーム的には面白い。

まだ最後までクリアしていないが、全体のストーリー展開は分岐が多く、1週目で全ての謎を解き明かすことはおそらく困難だろう。このためキャラクターを変えて何度か楽しむことができると考えられる。現在、第7章途中まで経過したが、やり直しも含めて約30時間ほどかかっているので最終章の第15章クリアまではおよそ60〜75時間ほどかかりそうだ。5キャラクター分も遊べば十分だろうw


【心折れるほどのオープンワールド死にゲー】

序盤はよく死ぬ。前述の通り、戦闘をしても猪や鹿にボコボコにされて死ぬし、物語のヒントも少なくアヴァロンを彷徨っているうちに食糧がなくなってメンヒルの灯火が消えて死ぬ。ゲーム中は幾度となく心折れそうになるだろう。

死にゲー」とは、「魔界村」や「ダークソウル」などのデジタルゲームに代表される、「度重なる“ゲームオーバー”を通じて試行錯誤を繰り返し、攻略を行っていくゲーム」(「変わらない」ことでゲームの常識を「変える」。フロムが『エルデンリング』で貫いた、死にゲーに対する理念より引用)をリスペクトした俗語だが、このゲームにも良く当てはまるように思う。

プレイヤーは死ぬたびにアヴァロンに潜む闇の力や謎に気付き、セーブポイントからやり直すことで回避、攻略していくことができる。ゲームブック風だと言っても良いだろう。失敗を繰り返すことで賢く、成長していけることはRPGのゲーム体験としても非常にマッチしている。

一般に「死にゲー」=高難易度、という意識が植え付けられており、難易度に関して不安に感じる人がいるかもしれないが、そこはアナログゲームの良さで難易度は自分でいくらでも調整可能だ。メンヒル起動時のダイヤルを増やしてもいいし、成長する際に消費する経験値を減らしてもいい。追加する戦闘カードを自分で選べるようにすれば、かなり自由にデッキ構築することができるし、なんなら戦闘のやり直しを許可しても良い。自分に丁度良い難度で遊ぶことができる。

しかし、心折れる理由はそれだけではない。私の場合は第3章で急に広大なアヴァロン世界を彷徨うことになった。しかも全くと言っていいほどヒントがなく、途方に暮れながらトボトボと彷徨い歩き続けるのはかなりの忍耐力が必要と感じられた。実際、第3章はクリアまで14時間を要しており(リアル時間で3日!)、流石にこれは心折れそうだった。この一種のオープンワールド感はプレイヤーによっては心折れる原因の一つになるかも知れない。

後で考えるともっと近道はあったのだが、運悪くアヴァロン島を1周するルートになってしまったためそれだけの時間を要した。最もこのおかげでキャラクターはどんどん強くなり、野生動物くらいは一撃で倒せる強さになったのは良かったのかも知れないが、せめて各章が2〜3時間程度で終わるような工夫が欲しかった所だ。


【マッピングは必須!セーブとメモは手書きで残す】

コンポーネントの中にセーブ用の「旅の記録シート」が用意されている。説明書で推奨されている通り、各章クリア後に現在の盤面の状態、各キャラクターのステータスを手書きでセーブすることをお勧めする。またそれ以外にも、ストーリー上の選択肢やクエストの内容、重要な情報をメモしておくことで、時間が経ってからでもストーリーを思い出すのに役立つだろう。というか、メモしないととても覚えきれないほどの情報量がある。

また親切なことにアヴァロン世界の地図も用意されている。主要な地名は記載されているが、やはり自分で書き込みすることをお勧めする。上述の通り、起動したメンヒルを中心に周囲9マスしか移動できないため、メンヒルの位置はとりわけ重要だ。私は場所カードの地名を全て書き込みつつ、そのつながりも記録しているがそのぐらいの気概が必要と思われる。徐々に出来上がっていく自分だけの地図はより冒険を楽しくさせてくれるだろう。

子供の頃、「ウィザードリィ」や「ザ・ブラックオニキス」のマップを方眼紙に書いて攻略したり、「ドラゴンクエスト2」の長い復活の呪文をノートいっぱいに記録していたが、手書きの記録は思い入れも深くなり実に良いものだ。現代においてこのようなアナログな体験ができるとは思っていなかったので、おじさんゲーマーには懐かしく、若いプレイヤーには新鮮な体験となるだろう。


【ベストプレイ人数は1〜2人】

ゲーム的には4人までプレイ可能だが、BGG(Boad Game Geek)を見るとベストは1〜2人だ。私はソロプレイしかしていないので想像だが、理由は2つ考えられる。

<1. テキスト文章量が多く朗読は大変>

メンヒルを起動して新しい土地に移動するとまず探索アクションを行うことになる。場所カードの裏にはその土地の情景が記述されており、さらに探索日誌を読むことで選択できる行動、分岐などがゲームブックさながらに記載されている。複数人でプレイする場合は誰かがこれを読み上げることになるが、文章量が多いためいささか大変だろう。しかし2人ぐらいなら、各々が黙読で読むことは可能と考えられる。

<2. オリジナルルールはかなりの高難度>

上述の通り、オリジナルのルールでプレイすると序盤は特に攻略が難しい高難度となっている。ソロプレイなら自分に合う難度で遊ぶことが可能だが、複数人でプレイするとルールをどうするかが難しい。気の知れたメンバーなら相談して丁度良い難度でプレイすることは可能なので、2〜3人程度が無難だろう。

ストーリーは全15章で、とても連続プレイして一気にクリアできるボリュームではなく、数回に分けたプレイが必要になる。可能ならば同じメンバーで遊びたいところだが、メンバーが変わってもプレイには特に支障はないようだ。このように考えると1〜2人でプレイすることが無難だが、複数人のパーティプレイは忘れ難い思い出になるはずので、機会があればチャレンジしたいものだ。


<良いところ>

  • アーサー王物語をベースにした重厚なダークファンタジー世界を堪能できるゲームブック風ストーリーテリングが、何時間も夢中になるほど素晴らしい。
  • デッキ構築により成長していくカード戦闘システムが楽しい。
  • 挑戦的な「死にゲー」的プレイ感が病みつきになる。

<悪いところ>

  • 本格的な暗いダークファンタジー世界観は好みが分かれそう。
  • ヒントの少ないオープンワールド感で心折れるかも知れない。
  • レベルデザインがやや大味。

<説明書&対象>

説明書:24ページ。初回チュートリアルは1時間30分ほど。
現在までのプレイ時間:第7章途中までクリア。全15章。各章は1時間30分14時間
ある章で急にオープンワールド化しアヴァロン中を彷徨ったため14時間ほどかかったが、そこでアヴァロンで生きていく方法を学んだ。ストーリー分岐でかなり個人差がありそうだ。

BGG weight: 3.29。各章によってプレイ感が異なるが、軽い重量級程度。

おすすめの対象:TCGやデッキ構築好きな人は戦闘が楽しくお勧めだ。またゲームブックが好きな人は物語を大いに楽しむことができるだろう。逆に全体的に暗い世界観であり、過激な表現の苦手な人は注意した方が良いと思われる。

※今回のレビューにあたり個人HP, twitterおよび説明書より画像を引用させていただきました。問題があれば削除いたしますのでご連絡いただければ幸いです。


【感想】

想像以上に暗いダークファンタジーな世界観に震えながらも、第7章途中までクリアしてきた。とにかく時間を忘れてしまうほどの没入感はとても素晴らしい。途中の章で突然オープンワールドゲームさながらに、ほとんどヒントもなく暗い世界に放り投げられた時には心の中で泣きながらアヴァロン中を彷徨い歩いたが、クリア時の達成感は筆舌に尽くしがたいものがあった。

脳筋鍛冶屋のビョールを使っているためか戦闘がとても楽しく、デッキ構築して強くなっていくRPG感は最高だ。ボードゲームにおけるRPG作品は、「アンドールの伝説」に代表されるように戦闘にダイスを使うことが多いが、カードを使うことでコンボ感が生まれとても爽快感がある。

序盤から全く容赦のない敵の難易度に怯えたり、ヒントの少ないオープンワールド的広大なマップに心折られそうになったり、レベルデザインがやや大味で第7章で既にステータスがカンスト近くなっていたりと気になる点はいくつかあるものの、ゲームブック風の壮大な物語をデッキ構築RPGという優れたゲーム性で楽しませるシステムは見事というしかない。今後の展開が非常に楽しみな作品だ。

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