- 1人~4人
- 60分~90分
- 12歳~
- 2023年~
南チグリスの学者荏原町将棋センターさんのレビュー
クイズです。『4人の日本の学者がアラビアに遠征に行きました。Aの学者はアラビア語とドイツ語、Bの学者はドイツ語とフランス語、Cの学者はフランス語と中国語、Dの学者はスペイン語とロシア語ができます。到着するとアラビア語の看板があり、まずAの学者がその看板を読み、ドイツ語でBの学者に看板の内容を伝えました。続いてBの学者がフランス語でCの学者に伝えました。ところがなぜか、Dの学者も、その看板の内容が分かりました。なぜでしょう?』
うろ覚えですが、まさかこの多湖輝作「頭の体操」の問題がゲームになるとは…
このゲームは、この「言語の連鎖」を利用して写本を翻訳するゲームです。また、デッキ構築ならぬ「ダイス構築」と「色の調合」ミニパズルも特色です。
全て終了時VPで、
翻訳済みの写本のVP
引退した翻訳家のVP
カリフ・ギルド(3色)のVP
学問トラック(6色)のVP
ダイス値のVP
写本VPは、写本自体の1〜5VPとカード効果(条件付きVPあるいは即時効果)があり、(私の経験上)カードの条件付きVPは0〜4VP、2VP程度と見て、つまり、写本1枚につき3〜7VPと考えていいと思います。
翻訳家は引退すると1〜3VP。
このゲーム、写本補充の際、カリフカードが現れたら、その場で決算があり、このカードが4枚捲られたら終了フラグです。そのカリフ決算で貰えるのは、独占すれば7VP程。
学問トラックは、数学、物理学、化学、哲学、生物学、天文学の6種あり、それぞれMAX7VPです。
ダイス値は、プレイ人数によってMAXが違います。4人では6VP、3人では4VP、2人では2VP程。
ダイス値以外の、上の4つが得点源となります。
写本は、スタート時、3つのギルド図書館に1枚ずつ計3枚現れています。この写本を翻訳するためには、まず、翻訳家(言語学者)に、黄金を与えなければなりません。図書館にサンスクリット語の写本があるとしたら、例えば、サンスクリット語とギリシャ語ができる言語学者、ギリシャ語とペルシャ語ができる言語学者、ペルシャ語とアラビア語ができる言語学者、計3人に1つずつ黄金が必要となります。
↑ 紫ギルド図書館にサンスクリット語の写本がある。手番の水色プレイヤーは、この場合、サンスクリット語をシリア語に換え、シリア語をアラビア語に換えればいいので、この2人の翻訳家を使えば、翻訳できる。黄金を1つずつ置き、さらに雇用先の赤プレイヤーに2金を渡す。そして、この2人の翻訳家は引退し、赤プレイヤーの個人ボードの下に差し込まれ、永続効果と終了時VPとなる。水色プレイヤーは、翻訳したサンスクリット語の写本を取り、終了時4VPと数学トラックを1上げる。さらにカードの終了時VPが数学トラックの位置により追加される。
そもそも、適した翻訳家がいなければ、まず言語学者を雇用して来なければいけません。写本は早取りですので、そんな時は、他プレイヤーや中立の翻訳家を使わせてもらいます。その場合、黄金を払うだけでなく、1金を渡さないといけません。
かくして写本が1冊翻訳できました。
このゲーム、主要メカニクスはダイスプレイスメントです。翻訳アクションをするには、まず手札のカードを1枚出し、個人ボードの翻訳アクションスペースに置きます。この上にダイスを1つまたは2つ置きます。スタート時、ダイスは一人4つ持っていますが、これは、天文学トラックを進めることにより、5個6個と増えていきます。図書館は3色なので、翻訳したい写本があるギルド図書館の色に、ダイスを染めなければなりません!
この翻訳アクションは、ダイスの目は関係ありません。ギルドは、紫、オレンジ、緑の、いわゆる「二次元色」で、スタート時用意されているダイスはほとんど白。カラーダイスは1つか2つぐらい。オルレアンと同じ個人用袋の中から4つ取り出すのですが、たまたまカラーが出てきたとしても、原色の赤、青、黄色。
コンポーネントには、紫、オレンジ、緑のダイスがありますが、登場はまだまだ。
そこで、2つのカラーダイスを一緒に置き、「フレスコ」のように調合することになります。
畢竟、序盤早々、二次元色を作ることは難しく、少なくとも赤、青、黄色のダイスをいくつか入手して来なければ、色は混ざりません。
そこで調合のもう一つの方法として、ワーカーがあります。このワーカーも3原色ありますので、これをダイスと一緒に添えるだけでOK。(ダイス1つにつき2ワーカーまで)
↑ 一番左から、「オレンジの3」「赤の12」「紫の9」「緑またはオレンジの9」。では、クイズです。『一番右のダイスは何でしょう?』
左から2番目。赤と白を置いても「赤」とみなされてしまうので、白を置く意味は無いのですが、出目を大きくするという意味があり、普通はそのまま足します。しかし、同じ色のワーカーを添えた場合、一気に6になります。問題の一番右の場合、2つのダイスを調合する前にそれぞれワーカーを調合するので、黄色の方が6、白の方が青の6になり、正解は、「緑の12」となります。
以上が翻訳アクションです。それ以外のアクションは、
人事(ダイスの色は無関係、出目の数でドラフト)
遠征(4金払って、新しい写本を図書館に置く)
研究(学問トラックを進める。色も数字も関係あり)
手番は、この4アクションしかありません。あと、回復。
人事は、翻訳家を雇用するか、派出するか。派出する場合は、雇用と同じコストを払って、カード右上の収入を得るだけ。「聖騎士」等と同じですね。
遠征も、ロンデルの周りを出目の数(以内)で周り、写本を発見して図書館に献上するか、単に収入マスで収入を得るか。
研究は、6種の学問トラック(数学=紫、物理学=赤、化学=オレンジ、哲学=黄色、生物学=緑、天文学=青)のうち、上げたいトラックの色にダイスを調合し、できるだけ大きい目を作ります。
総じてこのゲームは、どのアクションでも出目が大きいのが正義。白のワーカーを上手く使って6にしてしまいましょう。
最後に。手札のカードの意味は…
これは、回復時の収入を表します。ラウンドの観念は無いので、回復したければ、ダイスを使い切っていなくても、個人ボード上に置かれたカードの収入を左から順に全て貰います。各カードには、トラックのアイコンが書かれていて、そのトラックの位置に応じた収入が貰えます。最後に、天文学から新しいダイスを袋から引き、現在置いてあるダイスを袋に入れ、カードを全て手札に戻します。
↑ 手札の7枚。そのうち、置くだけでその瞬間収入があるのが、右の2枚。この一番右にある黄金が貰えるカードが、戦略の根幹を揺るがす。カードの下に書いてあるように、収入フェイズに白ダイスを貰ってしまう…。写真下、個人ボードに置けるアクションスペースは5つ。一番左から、人事、遠征、研究、翻訳、人事または遠征。5枚分アクションできるが、ダイスが無くなれば5アクションできない。翻訳アクションも、回復を挟まなければ2手番連続でアクションできないが、一番右端の個人目標カードをクリアすると、ここもアクションスペースとなり、研究または翻訳ができるようになる。右から2番目、サマリーの中に収入が書かれている。サマリーをゲームに絶対的に使うようになっている仕様は初めて見たかも…
考察
◾️遠征の献上アクションを積極的にするべきかどうかで、戦略が分かれる。つまり、4金払って写本を図書館に献上した後、その写本を他のプレイヤーに翻訳されてしまう可能性もあるからだ。しかし結論から言うと、献上アクションは得だ。損だと見えるのは、それは、すぐ翻訳されてしまうような写本を献上するせいである。誰もすぐ翻訳できないような写本を献上すれば、トラックが上がり、黄金が手に入り、後にカリフVPが貰えるのだから、4金でも損なわけがない。
◾️また、ゲームの焦点は、いかに黄金を入手していくか。翻訳に使う黄金は、ゲーム中すぐに枯渇するので、入手元をはっきりしておかなければならない。まず、遠征の東方面にあるマス、それから、物理学、化学トラックの収入、そして、禁断の「カードの即時収入」だ。また、言語学者の中にも派出で黄金が貰える人物もいるが、マイナス要素もある。できればカードと派出以外の物理、化学の進展で安定的に取りたい。
◾️もう一つの戦略の分かれ目は、その「即時収入のカード」を積極的に使うかどうか。このカードを頻繁に使ってしまうと、白ダイスが爆発的に増え、回復時のダイスピックでは、間違いなくカラーダイスが出て来ない笑。これは間違いない。スタート時から8割方白なのに、白ダイスを増やしていけば、カラーダイスが出るわけがない。となると、ダイスだけで二元色は不可能なので、ワーカーに頼ることになる。また、ゲーム終了時、ダイス値VPは当然0、さらに、白ダイス6個以上持っていると−3VPというペナルティを受ける。しかし、それでも、0手で黄金が手に入るのは魅力だ。このカラーワーカー頼りの白ダイス戦略も、(怖いが)あり得る。
◾️ゲーム中、自分の雇った翻訳家や写本に影響力マーカーというものを置く機会がある。これは、他プレイヤーに使われた場合、1金貰えるというもの。このゲーム、お金もカツカツなので、せこくても十分インタラクションになっている。仮に、自分の翻訳家を使われて先に翻訳されてしまったとしても、その翻訳家カードに置かれた黄金がいくつか溜まれば、翻訳家が引退ということになり、雇い主に、永続効果と終了時VP(1〜3VP)が入る。なので、使われてしまっても、引退を早めてくれた、と思えば大丈夫だ。
◾️写本の献上、あるいは、回復をするたびに、写本デッキの山から1枚ずつ、遠征ロンデルの中に写本が補充されていく。その時、カリフカードが出たら、3色の図書館ギルドでそれぞれ決算が行なわれる。決算は、影響力マーカーのマジョリティ争いで、献上アクションをしたプレイヤーは、影響力マーカーを2つ(あるいは1つ)既に置いているので、その色ギルドでトップになる可能性がある。献上アクションを1つもしていなければ、このカリフ決算に関わることはない(他アクションのミニボーナスでギルドに影響力マーカーを置くこともある)。各色ごとのマジョリティトップは、ボーナスとして3VP、1VP+二次元色ダイス、即時引退の3種類から選べる。即時引退というのは、言語学者を1人選び、即引退させるというもの。つまり、3VPの翻訳家を選ぶこともできる。3色のギルド全てでトップになっていたら、実質7VP+ボーナスということになる。
◾️初手は、人事(雇用)がいい。なぜなら、10枠ある翻訳家室は、コストが0〜4金と幅があり、序盤は4金の部屋などに入れたくない。(その分ミニボーナスも良いのだが)。そこで、スタート時4部屋は埋まっているが、残り6部屋のコスト0〜1金の部屋を早取りしたい。特に、左から3番目の「1金で1黄金貰える」部屋と、一番左の「3金で2黄金貰える」部屋が狙いだ。
↑ 写真上、遠征ロンデル。東の通りにある1黄金貰える白マスに注目。黒マスに入ると、その写本を献上できる。写真下、10部屋ある翻訳家室。雇用した言語学者はどの部屋に置いても構わないが、コストが小さい、あるいはボーナスが美味しい部屋が、左側に多い。
◾️研究トラックで、真っ先に上げたいのが、数学と生物学。初期位置のボーナスが「白ダイスを得て→2金を得る」「1黄金を捨て→原色トラックを上げる」が弱く使えない。しかし、それぞれ2マス進めると、「3金を得る」「原色トラックを上げる」となるので、これは嬉しい。
↑ 研究トラックの研究。各トラックは、ボーナスがそれぞれ特化されている。序盤は、数学(紫)と生物学(緑)を優先しつつ、中盤以降は、化学(オレンジ)を進めていくのがオススメ。化学トラックのレベル4では、回復時のボーナスが2黄金となるので、ゲーム運びが非常に楽になる。ただし、オレンジは二次元色だ…。また、白ダイス戦略をするならワーカー特化の物理学(赤)を上げ、逆に、ダイス構築戦略をするなら、白ダイスを圧縮できる哲学(黄)を進めたい。
連鎖と言ってもリンクであって、コンボではないので、アクションが続くような煩雑さはありません。言語というアカデミックなテーマなので、コアな一面もあります。しかし、bgg4.1の超重ゲーとして十分難しい戦略性がありながら、ダイスの調合や構築という珍しい経験が楽しめることに、有難い価値があります。
※ レビューにご感想・ご不明な部分等ございましたら、ご遠慮なく下にコメントください🙂
- 47興味あり
- 78経験あり
- 14お気に入り
- 77持ってる
ルールのミスについて一点(実際、多くの方が同じ点を間違えていらっしゃいます)。
労働者駒(ワーカー)を使ったダイスの色変更についてですが、左端の「青ワーカー+赤ワーカー+白ダイス3」は
×紫3
○(恐らく)青3 あるいは 赤3
になります。日本語版ルールブックの9頁左下、青字で「重要なルール:1個のダイスに2個の色付き労働者駒を使用して、二次色にすることはできません。」とありますので確認してみてください。青ワーカーと赤ワーカーを1つのダイスに添えても紫にはできないのです。
この点についてはBGGのこちらのスレッドでも指摘されています。
なので青ワーカーと赤ワーカーを1つのダイスに添えるプレイには意味がなく、そのため凡例もないのですが、その前の段階で二次色ダイス2個の場合はどちらかの色を選択するので、青ワーカーと赤ワーカーを1つのダイスに添えた場合、どちらかの色を選ぶものと推測されます。
荏原町将棋センターさんの投稿
- 戦略やコツリスボア / リスボンポンバル侯爵の「十七条戦法」第1条「大きなVPは、5つ」政令カード、商...19日前の投稿
- レビューバビロン「映え系」が売りのゲームですが、「セットアップ無し」の売りの方が驚きで...30日前の投稿
- レビューメンフィス / メンネフェルエジプトリアル度No.1ゲーム登場。スフィンクスのトークン、ミイラのト...約1ヶ月前の投稿
- レビューロックハード1977ロックバンドボードゲーム。カクテル光線に包まれたカータースタジアムでの...2ヶ月前の投稿
- レビューシティズ条件達成が目標のゲームは多いですが、これは、なんと11項目の条件達成を...3ヶ月前の投稿
- レビュースティーブンス震災のリスボン復興がテーマ。王立ガラス工場を設立したスティーブンスの史...3ヶ月前の投稿
- レビューデルタ生物工学ボードゲーム。フランス、アルルの丘陵の南、カマルグ。地中海に面...4ヶ月前の投稿
- レビューエズラ・アンド・ネヘミヤ高評価の重ゲー。「リスボア」に似ていて、復興、瓦礫の処理、カードマネジ...4ヶ月前の投稿
- 戦略やコツエスケイプ・プラン『エスケーププランの戦略プラン』PLAN1『最終ラウンド、13金あれば...5ヶ月前の投稿
- レビューシンジュク東横鉄道、関東地下鉄?、新日本鉄道、富士鉄道の社長となって、都内23区...6ヶ月前の投稿
- レビュークルティザン愛用品になりました。金箔付き?のカード、縮小生産ゲームです。メカニクス...6ヶ月前の投稿
- レビューノウァ・ローマ東ローマ帝国への第一歩。ビザンチウムに新都Nova Romaを造ります...6ヶ月前の投稿
会員の新しい投稿
- レビューモンスター大戦新ゲームシステム搭載ウォーゲームのシリーズ4作品目にして万人向けで集大...約5時間前by あんちっく
- レビュークーフシュタイン世界に浸れる感 ☆☆★★★楽しさ ☆☆☆☆★アートワーク ☆☆☆☆★農...約15時間前by DKnewyork
- レビューパッチワーク:10周年記念バージョンウヴェ様の2人用名作タイル配置ゲーム。別バージョン(冬の贈り物等複数)...約17時間前by じむや
- レビュー神のツルハシダイスを振って鉱石を掘り、掘った鉱石を売ってお金にし、お金でアイテムや...約17時間前by みなりん
- レビューファド:デュエット・アンド・ディスガイジス星7ボドゲ300種を所有し、軽〜中量級を中心にプレイするゲーマーの感想...約17時間前by おとん
- レビューレイズ星9ボドゲ300種を所有し、軽〜中量級を中心にプレイするゲーマーの感想...約17時間前by おとん
- レビューダンブレ【ゲーム概要】どれだけダンジョンの奥まで進める勇気あるプレイヤーかを競...約21時間前by せんと
- ルール/インストエスペライゼーションドラム中島槙之介さん はじめまして!よろしく。。。約22時間前by 中島槙之介
- レビュー静寂または音楽タイトル同様ちょっと癖強ぃゴーアウト【カード構成】1〜15:各4枚の合...約23時間前by たつきち
- レビューゲートレビュー 評価:7/10ミント缶に入ったタワーディフェンス&デッキ構...約23時間前by ミーマ
- レビューメメントオンラインうーん無念🧐1日前by ビバピョートル
- リプレイアイル・オブ・トレインズ:出発進行中島槙之介ドラムやってます(*^^*)1日前by 中島槙之介(ドラム)ドラマー