- 1人~6人
- 30分~60分
- 10歳~
- 2022年~
ヒートSato39さんのレビュー
《エンジンが燃え尽きるまで突っ走れ!》
以前からずっと「カーレースゲームが欲しい!」と思っていた。ボードゲームのカーレースゲームには「Formula D」や「RallyMan」などの有名作が海外では発売されているようなのだが、割高でちょっと手を出せずにいた。そんな中、日本語版のカーレースゲームがホビージャパンさんから発売になったので早速購入し、非常に面白かったのでレビューしたい。
まず目を引くのは「ヒート」の箱絵。
数台のレーシングカーが躍動感あるタッチで描かれていて大好きなイラストなのだが、レーシングカーの形態が明らかに古い。
「いったい、いつの時代やねん!」
という素朴な疑問が沸き起こったので、ちょっと調べてみた。
ちなみに補足しておくと、ルールブックのどこにもこのゲームがF1だとは書いていない。おそらくF1にすると版権の問題があるためだと思われるが、そんな大人の事情はさておき、レーシングカーの歴史を考える上でF1の歴史を振り返るのは非常に有用だと思われるので、F1の歴史について調べてみた。
【F1世界選手権初期の歴史とレーシングカーの変遷】
1900年初頭からヨーロッパ各地で4輪レーシングカーによる「Grand Prix(グランプリ)」と呼ばれる国際レースが開催されるようになった。世界大戦時には中断を余儀なくされたようだが、終戦後に国際自動車連盟(FIA)はエンジン排気量「自然吸気式4,500cc、過給式1,500cc」の車両を単座席レーシングカーの最上位クラスと位置づけ、フォーミュラ1(F1)と呼称した。
1950年代:F1世界選手権開幕、フロントエンジン時代
そして世界各国のグランプリからプライオリティの高い数戦を選手権対象レースに指定し、その年度の優勝者を決める世界選手権構想が固まり、1950年5月13日にF1世界選手権がイギリスGPで開幕となった。
当時のレースイメージ flickr by David Merrett |
当初のレーシングカーはエンジンの搭載位置が前方にあるフロントエンジンが常識だったらしく(馬車を引く動力=馬は常に前にあるという発想)、ズングリした葉巻型と呼ばれるフォーミュラカーが走っていた。
F1フロントエンジン時代の名車マセラティ250F flickr by David Merrett |
F1世界選手権の開幕時は、アルファロメオ、フェラーリ、マセラティなどイタリア系ワークス・チームの争いとなっていたが、1958年にドライバーだけでなくコンストラクターズ選手権も行われるようになるとヴァンウォール、BRM、クーパー、ロータス、ブラバムなど英国製のマシンが大活躍するようになる。
1960年代:ミッドシップエンジン、英国F1全盛の時代
エンジンを運転席の後方に置くミッドシップマシンはグランプリ時代から存在はしていたのだが、F1当初の大半はフロントエンジンであった。しかし、クーパーの開発したT43(Cooper T43)が1958年のアルゼンチングランプリで初優勝を飾ったことにより、急速にミッドシップへの移行が進む。
ミッドシップマシンは、車体の中で最も重量の大きいエンジンを車体の中心に配置することにより旋回性能に優れ、後輪に荷重がかかることから駆動力を効果的に路面に伝えることが大きな利点と考えられている。このためマシンの運動性能は飛躍的に向上し、モナコGPのポールポジションタイムを比較すると、1950年と60年では14秒も速くなったという。
ミッドシップマシンCooper T43 flickr by David Merrett |
アナログなF1マシンの時代だが、「走る実験室」のごとくレーシングカーの性能向上を目指し様々な技術が試された時代でもある。中でもコーリン・チャップマン率いるロータスは現代のレーシングカーでは当たり前のバスタブ型コクピットを持つモノコックシャシーなどの革新的な技術を生み出し、F1界のトレンドリーダー的存在となった。
そして、そのロータスと組んでF1に参入するはずだったのが日本のホンダである。2輪のグランプリレースで大活躍していたホンダは4輪自動車レースの最高峰F1に挑戦を決意。しかし、ホンダはロータスから一方的に提携を破棄され、車体もエンジンも自社製作して1964年にF1に参戦した。
2年目の1965年のメキシコGPでは歴史的な初勝利を記録。今でこそホンダは巨大自動車メーカーだが、当時は4輪自動車のノウハウが無いにも関わらず、いきなり自動車レースの最高峰へと挑戦するというチャレンジャーだった。
HONDA RA272 flickr by Iwao |
1970年代:ウェッジシェイプへの進化
英国のロータスはフォーミュラカーの定番だった葉巻型から、ラジエーターをコクピット両横に配置した「ロータス72」を1970年に投入。ウェッジシェイプ(くさび形)と呼ばれる現代のフォーミュラカーの原型となるデザインの同車がシーズン5勝をマークすると、たちまちF1のスタンダードになっていった。
ウェッジシェイプは、フロントに搭載していたラジエーターをサイドに配置することにより空気抵抗を減らし、前後のウイングとモノコック上面のシェイプによりダウンフォースが増す。これにより、最高速度とコーナリング性能は飛躍的に向上した。
1960年と1970年のオランダGP(ザントフォールト=当時1周4.2km)のポールポジションタイムを比較すると、ヨッヘン・リントが駆るロータス72は10年で15秒もタイムを縮めたという。僅か4.2kmのコースで15秒も速くなったということになる。
Rindt at 1970 Dutch Grand Prix Evers, Joost / Anefo / neg. stroken, 1945-1989, 2.24.01.05, item number 923-6110 |
上記から考えると「ヒート」のイラストに描かれているレーシングカーは、葉巻型のミッドシップマシンに見えるので1960年代が舞台と考えてよさそうだ。なお繰り返すようだが、「ヒート」はF1とは関係ないぞ。
調べれば調べるほどF1の歴史とレーシングカーの変遷は興味深いのだが、舞台設定も分かったので今回はここまでとさせていただく。なお私は車には疎いので、以下のサイトを信用してまとめさせていただいた。非常に良い記事なので興味ある方は続きもどうぞ。
【F1のザックリ70年史】金ではなく名誉のために。ビジネス化する前のF1(1950年代〜70年代編)
ようやく舞台背景も分かったので、ボードゲーム「ヒート」の魅力ついて語っていこう。
【ゲーム概要】
1〜6人に対応したカーレースゲームである。コースは、アメリカ、フランス、イギリス、イタリアの4種類。なおコースは架空のものと思われる。規定の周回を走行して一番早くフィニッシュラインを通過したプレイヤーの勝利だ。
ゲームはラウンド単位で進行する。各ラウンドではプレイヤーは4つのステップを必ず実行する。
①ギアのシフト
②カードのプレイ
③レースカーの移動
⑨手札を7枚まで補充
④~⑧のステップは状況に応じて適応される。
手番では7枚の手札のうち現在走行中のギアの枚数だけ手札をプレイし、そのプレイしたスピードカードの合計値分だけレースカーを前に進める。この際、コーナーを通過した際にはコーナーチェックを行い、超過スピードで通過した場合はヒートカードを支払う必要があるが、払えなければスピンしてしまう。そうして規定の周回を走行して一番早くフィニッシュラインを通過したプレイヤーの勝利となる。
【ギアのシフトチェンジが重要!】
まず手番の最初にギアのシフトを行う。手札は7枚だが、ギアの数値はそのままプレイするカードの枚数になるので、4速なら4枚プレイ出来るし、1速なら1枚しかプレイ出来ない。スピードカードには1~4の数値(改良カードには8までの数値)が記載されており、その合計スピード分だけレースカーを進めることができる。
なら4速でぶっ飛ばして走れば早いと思うのだが、コーナーには制限速度が設定されており、合計スピードがコーナーの制限速度を超えているとヒートカードを支払う必要があり、それが出来ない場合はスピンしてしまう。このため、直線では出来る限りギアを上げて最高速度で走り抜けたいのだが、コーナーではしっかりとシフトダウンしてスピードをコントロールする必要がある。これが非常に悩ましく面白い!
【レース中はストレスを発散することも大事】
またデッキにはストレスカードが含まれており、ドライバーの集中力がすり減っていくことを表現しているらしい。このストレスカードを出した場合、ドローデッキの一番上のカードをプレイしてそれがスピード値となる。集中力が下がってスピードコントロールが上手く出来なくなる要素で、これがコーナーで起こるとスピード超過ですぐにスピンしてしまう。
ストレスカードは捨て札にすることが出来ないので、いずれ手札で溜まっていく仕掛けとなっているのだが、ヒートカードと合わせて手札を圧迫してくるため、直線などの安全な場所でうまくストレスを発散しておきたい。この手札コントロールがドライバーの腕の見せ所だ。
【ヒートカードのマネジメントが面白い!】
コーナーや2段階シフトなど少し無理をして支払ったヒートカードは、プレイヤーのドローデッキに追加されて後の手札にお邪魔カードとして現れる。その名の通りエンジンのヒート具合を再現しており、熱くなりすぎるとオーバーヒートしてレースカーを上手くコントロール出来ないイメージだ。
このヒートカードのマネジメントが非常に悩ましく、勝負どころのコーナーではヒートカードを支払ってでも高速で走り抜けて前方の車をオーバーテイクしたいのだが、使いすぎると手札を圧迫して直線コースでスピードを出せなくなることもある。
このヒートカードのマネジメントがレースゲームらしい勝負の駆け引きを演出しており、このゲームで最高に面白いところと言えるだろう。
【後続車を支援するアドレナリンシステムやスリップストリームでレースが盛り上がる!】
これは賛否両論あるのかもしれないが、このゲームでは最後尾を走行するプレイヤーに対する支援として「アドレナリン」システムがある。単純にスピードが+1され、クールダウンするだけなのだが、これが案外効いておりトップを走行していてもすぐに後続車に追い付かれてしまう。
また「スリップストリーム」システムにより背後に付かれた場合は確実に抜かれてしまうため、レースはよっぽど独走しない限り混迷を極め、抜きつ抜かれつのデッドヒートになることが多い。
これはデジタルのレースゲームではゲームを盛り上げるために頻繁に使われてきた古典的な手法だと思うが、ボードゲームでこのようなシステムを盛り込んでいることに正直驚いた。
しかしこれにより少しぐらい差がついてもレースが盛り上がり、最後の最後まで気が抜けない。単調になりやすいレースゲームというテーマを非常に面白く仕上げているのではないだろうか。
【充実した追加モジュールはゲーマーなら必須!】
「ヒート」には様々な追加モジュールが最初から同梱されている。
- ガレージモジュール: 多様な改良パーツによりマシンをカスタマイズできる。
- レジェンドモジュール: NPCドライバーとして追加することにより少人数でも多人数プレイが楽しめる。
- 天候と路面状況モジュール:レース全体に影響をもたらす天候タイルと、コーナーやセクターで影響を与える路面状況トークンが追加され、レース展開に大きく影響する。
- チャンピオンシップルール:合計10レースを走行し、シーズンのチャンピオンを決定するモード。
今回、オープン会の5人プレイで遊んだ。同卓の方は皆ゲーマーだったので最初からガレージモジュールと天候・路面状況モジュール込みでプレイしたが、特に困ることもなく楽しむことができたようだ。むしろゲーマー同士で遊ぶならこれらのモジュールは最初から入っていた方が戦略性が高まって楽しいだろう。
特にガレージモジュールは、レースカーの最高速度を2倍まで引き上げるターボチャージャーや、状況によって速度をコントロールできるブレーキなど、レース展開をひっくり返してしまうほどの威力を持ったカードが追加されるため、個々のプレイヤーの戦略とプレイングに深みを与えていて非常に面白い!
Days of Wonder社は「チケット・トゥ・ライド」や「ディープブルー」を出版しているパブリッシャーだが、子供でも遊べるように非常にルールやコンポーネントには気を使っておりいつも好感が持てる。そのため、今回の基本ルールは子供でも遊べるように少しシンプルにしているように感じる。
ゲーマー同士で遊ぶなら、最初からガレージモジュールと天候・路面状況モジュールを入れないと単調なゲームとなり評価が低くなる可能性が高い。Days of Wonderらしい配慮だと思うが、このためにこのゲームの評価が低くなってしまうのは非常に残念だ。
またルールブックもシンプルすぎて、やや説明不足に感じるところはあった。初めて遊ぶ場合はBGGのFAQを読むなど注意した方が良いだろう。
【感想】
これは非常に面白かった。長い間、カーレースのボードゲームが欲しかったというのもあるかもしれないが、雰囲気のあるアートワークや個人ボード、レーシングカーなど気分を盛り上げるコンポーネント類に加え、手札カードのマネジメントでスピードをコントロールするシステムが秀逸と感じられた。
これまでのレースゲームではダイスを振ることが多かったと思うが、それよりも自分でレーシングカーをコントロールしている気分になるし、レース前にガレージモジュールでカスタマイズできるメリットもある。海外で人気を博しているようなので、今後の拡張も期待できるのでこの展開は楽しみしかない。
アドレナリンシステムやスリップストリームにより後続車がオーバーテイクする機会も多く、多人数レースゲームとしての面白さをしっかりと備えているところが特に気に入っており、モータースポーツが好きなら子供から大人まで幅広く楽しめる傑作なのではないだろうか。
今後はぜひコース拡張、プレイヤー人数拡張、ガレージモジュール拡張などを期待したい。
- 290興味あり
- 589経験あり
- 162お気に入り
- 413持ってる
素晴らしいです。
ゲームの感想だけでなく、F1の歴史や考察などの情報は凄くためになりました。
このコメントは削除されました
Nori Hamaさん、コメントありがとうございます。F1の歴史は調べていても非常に興味深く面白いものでしたね。レーシングカーの歴史を感じつつ、「ヒート」を楽しんでもらえたら嬉しいです。
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