- 1人~6人
- 120分前後
- 13歳~
- 2002年~
蒸気の時代maroさんのレビュー
Steamとの違いが中心の内容です。
2019年には蒸気の時代デラックス(AoSDX)も発売され、もう生誕から20年になろうというのに未だに根強い人気を持つ。重量級鉄道ゲームの代表的存在でもあり、18xx系のような株券がらみの複雑さはないが、ネットワークビルド、ピックアンドデリバリー、経営的要素に加え、強いプレイヤー間インタラクションを持つ、数々のフォロワーを生んでいる名作である。
近年、クラシック的名作のビッグボックスやデラックス版、リメイクなどが数多く発表されている。AoSも、直系のリメイクであるSteamがあり、ボード類を刷新していくつかの拡張マップを追加したDX版も発売された。AoSに限ったことではないが、個人的には豪華で高価なのもよいが(商業的には既得層へのアピールも必要なのだろうが)、むしろもっと手に入れやすい廉価版があっても良いのではないかと思う。さらにAoSであれば、厚紙でもよいからマップを大量に付属したバージョンがあるといいのだが。
AoSそのものについてのレビューは優れたものがいくつも投稿されているため、ここでは現在の視点から俯瞰したAoSの特徴を、主にSteamと比較して見ていきたいと思う。なお、Steamには基本ルール(基)と標準ルール(標)があり、基本ルールは随所に簡略化があるが標準ルールはAoSのルール(A)にかなり近くなっている。
手番順
手番順が競りにより決定される(A、標)
手番順は前ラウンドの選択により決定される(基)
特定のアクションには固定の費用がかかる(基)
慣れないプレイヤーではせりの相場が分かりにくく、さらに借金が自由なこのシステムではゲームの早期に財政的な破綻をきたす恐れがある。かといって降りてばかりでは状況は悪化する一方である。また、手番を決定するために数分の時間を費やすことになり所要時間の長大化をもたらす。近年では手番順のメカニズムも進化しており、さまざまな決定方法が開発されている。最近の傾向としてはオークションの要素を避けたゲームが目出つ。基本ゲームの手番順の決定は、次のラウンドの順序も考慮に入れて選択していくこともできるため、考えをまとめやすい。竸りではこの点でやや不可抗力が生じることがある。
とはいっても逆もまた真であり、手馴れたプレイヤー同士の対戦でのせりは濃密な駆け引きを生み出すことができる。AoSのファンがSteam(の基本ルール)を物足りないと感じるのはこの部分によるところが多い。
株式の発行(借金)
ラウンドの頭の株式発行フェイズ以外では株発行できない(A、標)
株式発行フェイズはなく、いつでも株の発行ができる(基)
特定のフェイズでのみ借金が可能というシステムもまた玄人向けである。次ラウンドまでにどれだけのお金が必要であるか、綿密に計画して計算しなければならない。ましてやこのルールでは次のフェイズに手番順のせりが控え、その後にメインのフェイズを迎える。下手をすればお金が足りずに予定していた行動が取れないこともありえる。
ゲームによってはところてん的のせりでも随時借金可というものもあるが、それらと比較すると相手の行動を推理しやすいという特徴があり、この点でも素晴らしいインタラクションを生み出している。
いつでも借金できるSteamの基本ルールの場合は、他者との鍔迫り合いより個人的な目的の遂行に重点が置かれているとも推察され、モダンなユーロゲームの傾向に沿ったものといえる。
収益
一度に獲得できる収益に上限はない。代わりに一定の割合でラウンドごとに収入が低下するフェイズが存在する。発行株分の経費が毎ラウンド差し引かれる(A)
勝利点と収入トラックが個別となり、収益低下フェイズはない。一度に獲得できる収入は10$が限度となる。株発行の際は収益トラック自体を下げる。(基、標)
AoSは逆転の難しいゲームである。これまでのせり、借金もそうだが路線敷設など各々のアクション行動も経験値がものをいう。また、資金の面で優位になったプレイヤーを止めるのは困難である。ある意味マルチっぽい要素も含むゲームであるが、複雑に絡み合った盤面で特定の路線(プレイヤー)を邪魔するのも厳しい。AoSでは累進課税のような収益低下フェイズがあるが、実際これでは不十分なのは大いに実感できるところだ。といってもここの数値をいじりすぎても爽快感のないものとなってしまう。
Steamのルールではトラックを勝利点と収入に分け、かつ収入額の上限を低めに設定することで異なった戦略性を示し、株発行時の見通しも立てやすくなっている。
プレイヤー同士の力量の差が必要以上に露呈しないような現代的なメカニクスが光っている。ただこれも好みの問題で、ダイナミックな展開を望むのであればAoSのルールの方が合っているともいえる。
商品キューブ
アクションにより商品キューブはディスプレイに配され、商品補充フェイズにてランダムに都市に配置される(A)
商品キューブはアクションにより恣意的に都市に配置される(基、標)
比較的潤沢にゾロゾロと補充されるAoSに対し、Steamでは辛い。商品の取り合いはもちろん、どのように商品を配置するかまでが戦略に含まれたSteamに、これまた現代的な一面を見ることができる。こう考えるとSteamの基本ルールはむしろAoSにあるゆらぎの要素をタイトに引き締めた感が垣間見られるが、金銭的な締め付けは弱い。あたかも、後年の作品で、生きていくので手一杯でインタラクションが強く手札のランダム性もある(アグリコラ)と、やりたいことをやって点数を稼ぐ公開要素多いゲーム(カヴェルナやアルル)という様な差が感じられる。
その他、機関車の経費がない(基)、路線配置コストの調整がなされているなどの違いもある。
コンポーネント種類についてはAoSもSteamも大きな違いはなく、ディスプレイボードの相違のほかは、Steamのアクションマーカー(これはAoSでもカード化している人も多い)、都市成長マーカーくらいのものである(AoSのサイコロもあるが)。その点さえ考慮すれば、相互にルールは変更可能だ。
AoSには多くのデザイナーやファンにより育まれた多数のマップが存在しており、それぞれに追加のルールがあるほど凝っているがこれも基本的にはSteamで使用可能である。
海外のレビューなどを見ても、AoS、Steamともに支持者がおり、まあ両方とも素晴らしいわけではあるが、多くのマップとの整合性という意味ではAoSのルールが合っているのかなと思う。とりわけSteamの基本ルールでは金銭的マゾ度が低い割にマップによってシビアさが前面にでてしまうこともある。でも初めて遊ぶ人や、AoSはちょっと・・・という人にSteamのほうが受け入れられる余地も十分あるだろう。
要約すると、キツい財政と拡大生産の伸びがあるインタラクションの強いAoS、脱落しにくくやや小さくまとまったsteam基本、財政的なキツさはそこそこでシビアな戦略性のsteam標準、といったところか。
要するに好きなルール、マップで好きなように楽しめばよいのであるが、現在若干ゲーム自体の価格が高いのが気になる。1年ほど前であればAoSの通常版もSteamもかなり安く売っていたと思うのだが・・・
Steamはアプリもある(基本ルールのみであるが)ので、気になる方は是非プレイしてみてほしい。
ネットワーク・ルートビルド、ピックアンドデリバリーを楽しむのであればSteamの基本ルールで十分であるが、それを超える資金繰りの苦しさやセリといった要素を求めるのであれば迷うことなくAoSのルールを試してみてほしい。
- 361興味あり
- 488経験あり
- 146お気に入り
- 286持ってる
maroさんの投稿
- 戦略やコツパックスパミール(第二版)ボドログさんのブログでパックスパミールについての非常によくまとめられた...1年以上前の投稿
- レビュークリニック:デラックス・エディションBGGでは4をわずかに超えるウェイトがつけられているが、それよりもかな...3年弱前の投稿
- レビューパックス・ポルフィリアーナ発売からもう10年近くたつが高い人気を誇るカードゲームで、2019年に...約3年前の投稿
- レビューパックス・ルネサンス 第2版2016年のパックス・ルネサンスの第2版が2020年に発売された。パッ...約3年前の投稿
- リプレイパックスパミール(第二版)今回は、ワハーンの処理を詳しめに記述しました。ロシアをR、イギリスをE...約3年前の投稿
- リプレイパックスパミール(第二版)パックスパミールのソロプレイ。ラウンド1開始早々パンジャブ、ペルシアの...約3年前の投稿
- レビューケメト2012年発売の、古代を舞台としたバトルマルチ。最近のものではブラッド...3年以上前の投稿
- レビューウォー・オブ・ザ・リング(第二版)若干複雑なルール、長いプレイ時間、ウォーゲーム寄りのシステム、マニア向...3年以上前の投稿
- レビューロンドン(第二版)そこそこ言語依存のあるワレスの中量級。2021年6月に日本語版が発売と...3年以上前の投稿
- レビュージェンティス様々な効果を持つカードを集め、勝利点を獲得するのが主眼であるカード収集...3年以上前の投稿
- レビューライジング・サン多くのレビューではフィギュアがすごいが内容も良い、思ったよりルールが少...3年以上前の投稿
- ルール/インストマハラジャ:新版新旧マハラジャの相違点をまとめました。BGGのフォーラムに以前アップさ...3年以上前の投稿
会員の新しい投稿
- レビューイーオンズ・エンド:レガシー1~4人で協力し、拠点を襲ってくるボスを倒すデッキ構築型の協力型ボード...1分前by ぽっぽーくるっぽー
- レビューマーダーミステリー:ザ・トリロジー【一言感想】期待を越えられず、個々のマダミスとしての出来も凡以下2時間...約1時間前by ココラム2級
- レビュー解脱RTA5/10アークライト・ゲーム賞2024最優秀賞作品「バザールの商人たち...約2時間前by 白州
- レビュースターウォーズ デッキビルディングゲーム6/10その名の通りのゲーム(笑)youtuberが紹介していたり、雑...約3時間前by 白州
- レビューラマ私の大好きなクニツィア先生の簡単ルールのゴーアウト系です\(^o^)/...約8時間前by ぷにたろちゃん
- レビューイーオンズ・エンドすごく楽しい協力型デッキ構築系ボドゲですが2-3人でプレイすることをオ...約10時間前by KKFA
- レビュー現場は安全っていったじゃないですか!~仕事猫&電話猫カードゲーム~今まで買った中で1番ひどかったゲームなので書いておきます。発売当時、み...約11時間前by KKFA
- レビューザッツ・ノット・ア・ハット!たった数枚のカードが覚えられない!プレイヤー全員にイラストが描いてある...約17時間前by のっち
- レビューフィッシェン引き取りたくないタイミングと引き取りたいタイミングが結構難しい。個人的...約17時間前by マシュ
- レビューファラウェイ:地下世界より(拡張)ファラウェイ好きすぎて海外から購入。0と70〜75のカードとボーナスカ...約17時間前by マシュ
- レビューシージオブルーンダー7/10クニツィアのタワーディフェンス+デッキ構築+協力ボードゲーム。...1日前by 白州
- レビューキャンバス:リフレクション6/102020年に発売された「キャンバス」が話題になって、品薄になっ...1日前by 白州