- 3人~8人
- 5分~10分
- 6歳~
- 2022年~
ワードッチ18toyaさんのレビュー
【レビュー】机さえ不要な抜群の取り回し!フィラーゲームの最適解の一つ!
【評価8/10】
ワード勝負
フィラー論
皆さんは「フィラーゲーム」という言葉をご存知だろうか。
フィラーとは「Filler」であり「(隙間を)埋めるもの」だ。つまりフィラーゲームとは「メンバーが揃うまでの待ち時間や、メインゲームとメインゲームの間を埋めるゲーム」のことだ。
この言葉は使い方によっては揶揄的な表現にもなる。ある人にとってはフィラーであっても、別の人にとってはメイン、かなりイケてるゲームと言う場合もある。そういうゲームを「良いフィラーゲームだね!」と言った瞬間、亀裂が走ったり微妙な空気が流れかねない。
しかし、悪口ではなく真の「フィラー」として使えるゲームというのは実はそうそう多くない。例えば、本来は人数分のラウンド数遊ぶのが正しいゲームを、人が揃うまでのラウンド分遊ぶとか、「⚪︎勝したらその人の勝利」と言うゲームを人が揃うまで遊ぶ、等の遊び方になる。つまり本当はフィラーではないものを「本来のゲームの遊び方とは違う、部分的に遊ぶ運用によって」フィラーにしているとも言える。
筆者はフィラーとして使用しやすいゲームは以下の特徴を備えていると考える。
- プレイ人数の許容幅が柔軟
- 1プレイの時間が柔軟
- インストが容易
- あまり場所を取らない
1はメンバーが三々五々、ポツリポツリと集まってくる場合に有効。2と合わせて、最初3人いました、5分して1人来ました、10分してまた1人来ました…と言う場合は往々にしてある。
当然インストにかかる時間や労力は少なければ少ないほどいい。隙間にねじ込んでこそのフィラーなのにインストに10分かかっていては遊ぶ前に人が集まってしまいかねない。
また、メインゲームは既に卓上に準備しておいて、人が揃った途端にゴーできる状態で人を待つというシチュエーションも少なくない。となると、フィラーもメインと同じほど場所を取ることは望ましくない。フィラーは人、時間、場所の隙間にスッと入り込める方がいいのだ。
そしてここに上記の1から4までの全ての条件を満たした作品がある。
本作である。
本作は、私が知る中ではまさしく「ベスト・オブ・フィラー」の1つと言っていい。
基本の流れ
本作は親がカードを2枚取り、裏を見る。裏には「キジュン」が書いてあり、2枚の基準のうちどちらかを親が選ぶ。そして表に書いてある単語の中から「暫定チャンピオン」の単語を決める。これが比較基準となる。
まずは調査フェイズ。各プレイヤーは好きなタイミングで単語を上げていく。親は暫定チャンピオンの単語と、誰かが言った単語を常に「1対1」で戦わせ、より基準に合致していると思う単語を勝者に選んでいく。ボクシングの王者がベルトを守ったり、他のボクサーが勝ってベルトが移ったりするのと同じように、勝者ワードはそのままだったり移り変わったりする。
こういう推移を見ながら子プレイヤーは何となく「こういう雰囲気の基準かな?」と想像で目星をつけていく。
子は「この単語なら勝てそうな気がする」と思ったら親指を立てる。子プレイヤー全員が親指を立てるか、または、親が「そろそろ場も煮詰まって新しい考えも出てこなそうかな?」と思ったら調査フェイズの切り上げと決選フェイズの宣言をする。
決選フェイズでは子は全員同時に単語を言う。これらの単語同士のうち、どれが最も基準に合致しているかを親が決め、勝者を宣言する(この際、調査フェイズで勝ち残った単語とは比較しない。あくまで決選フェイズで子が出した単語同士だけを比べる点に注意)。その後、親は秘匿していた基準を子プレイヤーに公開する。
以上のような流れが1プレイである。
具体例を示してみよう。81枚あるカードのうち一つだけネタバレをさせてもらいたい。
ゲームの流れ(イメージ)
例えばAさんが親の時にカードを2枚見た上で、こちらにしよう!と決めた基準が「自分が国王だったら国民全員にオススメしたいもの」だとする。このことは秘密にされている。
このカードの表側には「ローカルルール」「ナレーション伯爵」「舞妓はん」の3単語が書かれている。Aさんは自分が国王なら「ローカルルール」をオススメしたいと思ったとする。
Aさん「この中なら暫定チャンピオンはローカルルールだな」
さて、BさんCさんは子として何が基準かを考える。最初は全く手探りなので適当に行くしかない。しかし、3つのワードは「ローカルルール(物でも人でもないもの)」「ナレーション伯爵(人?)」「舞妓はん(人)」だ。と言うことは何か抽象的なもの?などなど、にじり寄り方は色々ある。
Bさんは「ハウスルール」と言ってみた。親であるAさんは「ローカルルールvsハウスルール」でどちらを国民にオススメしたいかと考えた。Aさんは悩みながらも「まぁ、ローカルルールかな」と答えた。チャンピオンは動かなかったと言う訳だ。
Cさんはその様子を見て「判断に悩んでたみたいだったから、ローカルルールもハウスルールもどっちもビビッって来てない感じだったかな?路線を変えてみようか」と考える。ターゲットを広げるために「牛丼なんかどうです?」と聞いてみる。
Aさんは先ほどの勝者である「ローカルルール」と「牛丼」を比べてみる。国民に勧めるなら牛丼だな、と主観で判断。「あっ、強いの来たね!牛丼だわ」と答える。チャンピオンが入れ替わった形だ。
BさんCさんは「はぁ?」となる。抽象的な物じゃなかったのか…じゃあ具体的なものか。とりあえず食べ物で行ってみる?とBさんは「パフェはどう?」と言ってみる。
親のAさんは甘いもの好きだったので、完全に主観で「牛丼vsパフェならパフェじゃん!」となる。ただし、路線が食べ物に寄っているようなのでちょっと路線を修正した方がいいかもと判断。「うわ、さらに強いの来たな。それはパフェが勝ちだね!ただし、あんまりそっちだけに引っ張られない方がいいかもよ?」と、勝者を伝えつつちょっとしたアドバイスを送る。
………
こうした調査フェイズをもう5分ほど繰り返した中で、二人とも親指を上げたので決選フェイズとなる。
Aさん「では、二人とも決選ワードを同時に言ってね!3、2、1、はい!」
Bさん「ブラスバーミンガム!」Cさん「自転車!」
Aさん「Bさんはなんて言ったの?」
Bさん「ブラスバーミンガム。なんかね、誕生日に欲しいものとか、そんなのかと思ったよ!」
Aさん「OK理解!Cさんは?」
Cさん「自転車ね!青春ぽいものとか、そんなイメージだったんだよなぁ」
Aさん「把握!うーん」Aさんは調査フェイズの最後の勝ち残りワードは一切考慮せず、「ブラスバーミンガムvs自転車」でどちらが「自分が国王なら国民全員にオススメしたいか」を考え、完全に独断により勝者を決めた。
Aさん「勝者は、ブラスバーミンガム!でした!」
Bさん「お、やった!結構にじり寄れた?」Cさん「えー結構いい線だったと思ったけどなぁ」
Aさん「じゃあネタバレね。基準は『自分が国王だったら国民全員にオススメしたいもの』でした!」
Cさん「あーそれなら納得だよ、そりゃブラスだわ!そっちだったかぁ」
Bさん「あ、もらう方じゃなくみんなに勧める方だったのか、ちょいズレてた、危な〜」
Aさん「まぁでも、もらったら嬉しいものは国民に勧めたいからズバリではなくてもいい線だったね!」
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ゲームの流れのイメージは以上のような感じである。
本作の特徴:柔軟な運用
上記の流れで分かるかもしれないが、実は本作でカードの出番は序盤、親の基準決めの時だけである。ルールでは子にもカードを1枚ずつ配ることになっているが、これはあくまで「子プレイヤーが親に提示する単語を思い浮かばない時に使っても良い」という補助的なものであって、必須ではない。従って、「親が手にカードを2枚持って比較することさえできればどこでも遊べる」ことになる。
実際、筆者はドライブの最中に本作を遊んだことがあるが、ドライバーは親になれないという制限があっただけで、あとは遜色なく遊べた。
また、時間についても適当なところで親が決選フェイズを宣言すればそこからは1分程度でゲームが終了する。これは本作の勝敗決定が「親の基準を当てる」ことではなく「他の子プレイヤーの単語に勝つ」ことなので、どこで調査フェイズを切っても、何がしかの単語を言えれば単語同士の比較ができるためだ。このシステムのおかげでプレイ時間もかなりフレキシブルに運用できる。
また、人数も公式には3〜8人となっていて、確かに3人以上は絶対必要だが、上限人数は実質ないとも言える。あまりに人が多くなりすぎると調査フェイズで発言をしない人、発言できない人も出てきそうではあるが、プレイ不可能ではないだろう。
以上を見れば、本作がフィラーとしての要件、柔軟な人数対応、柔軟な時間運用、容易なインスト、場所を取らないと言う全ての要件を備えていることがお分かりいただけたものと思う。揶揄表現ではなく、本当に使いやすく、優秀なフィラーなのである。
弱点
上記のように超優秀なフィラーである本作だが、弱点も無くはない。
まず、本作のプレイ人数が3人からと言う点。これは親+子2人が最小単位になるため本作のシステム上やむを得ないのだが、最初に集まっている人間が2人の場合は別のフィラーを用意する必要があるのはちょっぴり残念だ。
また、調査フェイズで単語を言う人、言わない人が分かれる。本作の基準は割と突飛で奇抜なものが多く、それが面白さにつながっているのだが、初めてゲームを遊んだ時はあまりに掴みどころがなくて、何をどこからどう絞り込んでいくかが意外と難しい。そこを「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」とばかりに色々な単語を出して試していくのが本作の面白さなのだが、思慮深い人は逆に考え込んでしまう場合もある。単語を出す順番は「時計回り」等の決まりはなく、同じ人が連続で単語を言うこともできるため、考え込む人だと「まるで分からない、何も頭に浮かばない」と黙ってしまうかもしれない。対策としては親プレイヤー等が、黙ってる人の発言を促してあげたり、何考えてる?など聞いてあげた方がいいだろう。
プレイ風景の写真を撮るのが難しいのも難点だ。これはどこでも遊べて、親がカードを2枚見比べるだけであとは特に何も必要としないという長所の裏返しなのだが、楽しく遊んでる光景がなんとも「映えない」のでSNSなどで面白さを伝えるのが難しいかもしれない。
あと、これは弱点というより特徴というべきだが、ワードゲーム特有の「価値観に基づく判断」を伴うゲーム性。例えば短時間ゲームの傑作「ラブレター」を見ると、兵士カードは誰が使っても兵士カードである。しかし本作では「国王として何を国民にオススメしたいか」は人によって当然異なる。そこが面白さでもあるのだが、もっと「AがBに勝ち、BがCに勝つ」とか「Dが最強だがリスクがある」等の、システム構造を分析して遊びたいタイプの人にとって、本作は「ふわっとしてて掴みどころがなく、遊びづらい」と感じられるかもしれない。
まとめ
以上で見てきたように、本作はいくつかの弱点も抱えつつも、3人以上の人がいるなら時間も場所も選ばず机すら無くても遊べる取り回しの良さが光る良作であり、極めて優秀なフィラーと言えるゲームだ。
本作に対し「5分〜10分で遊べるくらいの超軽めゲームに1,500円も使うのか〜」と思うのは間違いだ。「3人以上いれば時も場所も選ばず、シーンによらず使える極上フィラー」であると認識すれば、活躍の場は無限にあるだろう。こんなに使いやすいゲームが1,500円で手に入るのであれば悪くないと言える。
ゲームで遊ぶ時メンツ全員が時間ぴったりに集まる、と言う環境の人は別だが、集まる時間がまちまちだったり、メインゲームの隙間に一旦違うゲームを挟みたいというボードゲーマー(つまり、ほぼ全てのボードゲーマー)にとって本作は威力を発揮してくれるゲームと考える。
特にオープン会の主催などをされてる方は重宝するタイプの作品ではないだろうか。
以上です。何度も言いますが「フィラー」は揶揄では無く、取り回しが良い「隙間に入り込めるゲーム」とご理解いただければ幸いです^^
長文を最後まで読んでいただきありがとうございました!皆様の良きボドゲライフに貢献できたら何よりです♪
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