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  • 1人~5人
  • 30分~75分
  • 12歳~
  • 2019年~

ファラオン18toyaさんのレビュー

429名
17名
0
約2年前

生と死,破壊と再生。循環と輪廻の物語。
【評価 8/10】中量級・1~5人
リソースプレイスメント×セットコレクション

本作のタイトル「Pharaon」はフランス語でファラオ,つまりエジプトの王の意味です。その名が示すようにモチーフは古代エジプトですが,ゲームの中では相当抽象化され単純化されています。しかし不思議な事に「今までこういうシステムって無かったんだっけ?」と思うほどシンプルな構造の中に,なぜかファラオンでしか味わえない不思議な魅力がある。本レビューではその魅力に迫ってみたいと思います。


<ゲームシステム>

本作のマニュアルは12ページですが,そのうち準備の方法やソロプレイの説明,カードの説明等を除くとルールの基本はたったの4ページと,非常にシンプルかつコンパクトにまとめられています。

プレイヤーは,赤・青・黄・緑・黒からなる5色の資源が割り当てられた5種類のアクションから1つを選び,まずは利用コストとして資源を支払います。その後,アクションコストを支払ってアクションを行う。このアクションコスト支払いの際,利用コストとして支払った資源がアクションコストにも含まれている場合は1つ割引になって資源支払いが軽減されます。

この場合、利用コストとして青を支払うと、アクションコストの青は支払わなくて良くなる

基本的にこのゲームでは資源が増えるアクションが少なく資源はかなり辛い。そのため上記した資源の軽減は「受けられたらラッキー」という感覚ではなく軽減を前提としたアクション計画が基本となります。

ただし,資源が増えるアクションは多くないものの,同じ個数で異なる資源に変換するアクションは比較的多めにあり,こうしたアクションは勝利点にも繋がります。

このように,資源を少しずつ増やしたり,違う資源に変換しながら勝利点を得つつ,最も資源消費が激しい「5種類全ての資源をコストとする」貴族アクションという小ゴールを目指す。または貴族に次ぐ資源消費を求められ,勝利点は得られるものの資源は一切得られない玄室アクションを目指す。これが基本の動きとなります(ちなみに貴族アクションも資源の見返りはほぼありませんが,即時効果で何かを得たり永続効果でゲームを優位に進める能力が得られたりします)。

また,本作の特徴として各アクションに必要な利用コストはホイールに描かれており,毎ラウンド回転して移り変わっていきます。情報はオープンのため「今のラウンドのこのアクションの利用コストはこの色だが次のラウンドはソレになり,次の次のラウンドはアレになって…」という事が全て見えている。

1つのラウンドが終わると利用コストは

回転し

次の色になる。ちなみにこの回転方向は毎ゲームランダムに時計回りになったり反時計回りになったりします。


こうした,先の事も見据えての資源の利用計画と運用が必要になってくるため,やる事は極めてシンプルなのに思考は非常に濃密です。

更に利用コストの支払いスペースは有限で各アクションを打てる回数は限られているため,ワーカープレイスメントのように早取り要素もあり「どのアクションをどの順で打つべきか」も考える必要がありますが,ワーカー駒というものが無く,資源を置いてアクションをするため「リソースプレイスメント」とも呼ぶべきシステムでしょう。

資源がワーカーの代わりなので、資源さえ残っていればアクションの権利が残っている事となる。資源を全て失えばアクションを打つ事はできなくなるし,逆に資源を置けるスペースさえ残っているなら資源が支払える限り何回でもアクションできる


このように,本作では行動を行うためのワーカーすらも資源に落とし込むことでひたすら資源のやり繰りを考えれば良くなっています。5色の資源を他の色に変換させたり増やしたりしながら,いかにナイル川トラック,玄室,職人,貴族といった要素を獲得し,勝利点を伸ばしていくかという点にゲームの焦点をギューッと凝縮している。

また,本作はアクションと利用コストのホイールがオープンで先を見通しやすいゲーム性のため,仕上げ方によっては「より先まで読める者しか勝てない」ゲームになりかねないところですが,メインボードをモジュラー式にして毎回ボードの構成を変えられるようにした点や,職人カード・貴族カード・捧げ物トークン・壺タイル等の強すぎず弱すぎない絶妙なランダム性により,本作独特の「濃厚だが,堅すぎないプレイ感」を生み出してくれています。

モジュラーボードの組み立て方と色の対応により少しずつプレイ感が異なっていく


<ソロゲームとしてのファラオン>

こうした濃厚な味わいはソロでも堪能する事ができます。本作のソロルールでは「裏切り者」というオートマと対戦しますが,メインボードと同様,オートマボードも5つのボードのモジュラー式となっており,またそれぞれのボードが簡単な面と難しい面から構成されています。

こうしたボードの表裏や並べ方しだいでオートマの難易度を細かく設定することができ,行動も壺タイルでシンプルに決定できて取り扱いも容易です。ラウンドごとに引く壺タイルを5枚,モジュラーを2枚裏面くらいにすれば充分過ぎるほど歯応えのある難易度になり,ソロでもかなり楽しめます。

モジュラーのオートマボード。


<弱点>

このように,独特の濃厚な味わいがありソロでも楽しめる本作ですが弱点もあります。本作は資源の拡大性が低くタイトなプレイ感のため,一手の誤りで動きが相当制限され,最悪一つ行動しただけで何もできなくなる恐れすらあるという点です。

本作は要素を極限まで削ぎ落としシンプルなゲーム性に落とし込んでいるため,ルール自体は多少ゲームに慣れてきた人でも理解できそうに見えます。しかし,本作では行動の自由度が高くガードレールが無いので,特にボードゲームへの慣れがまだ浅いプレイヤーと本作を遊ぶ時は,本作の基本戦略が「ラウンド序盤はナイル川や捧げ物,職人などで資源を減らさずに勝利点を得るための仕込みを行い」「玄室や貴族アクションを打つとそこから動けなくなる場合が多いので,他のアクションをし残してないか,よく考えてから行なった方が良い(ただしアクションを打てる回数は限度があるので,他のプレイヤーの動向もよく見る事)」事をインスト時点でルールと合わせて説明してあげた方がいいかもしれません。

また,貴族カードも含めて本作には派手な効果はなく,資源が一度に大量に得られるような場面も無いため,「爽快感」「開放感」といった感じは無くゲーム展開は比較的地味になりやすい。

無論,渋いゲームである事を最初から理解した上で渋ゲー好きな人が遊ぶならこれは弱点でも何でもありません。ただ,こうした「ジワジワ系」である事を知らずにプレイした場合マイナスイメージに繋がってしまう場合もあると思うので,事前に渋いゲームだということは伝えておいた方が良いかもしれません。


<モチーフ:エジプト神話について>

最後に本作のモチーフについて。

本作ではプレイヤー達はファラオの子となり,父の跡を継ぐため徳を積みながら葬祭の準備をしていきます。古代エジプトでは生まれ変わり,輪廻が信じられていました。亡くなった王族などをミイラにしたのも,亡くなった後正しい行いをした魂は再度身体に戻ってくると信じられていた事から,戻り先の身体を保存したのです。

こうした背景はメインボードからも見て取る事ができます。システム上は条件を満たす事で勝利点を得られる柱の神々ですが,ここで描かれている神々は

オシリス


イシス


ホルス


アヌビス


セクメト

です。

オシリスはかつては農業神として信仰され、のちに偉大なファラオとなりましたが、あまりの優秀さに弟であるセト神の嫉妬を買い、殺されてしまいました。

これを妻のイシスが悲しみ,アヌビスなどの力を借りてオシリスを復活させます。これによりイシスは生と死を操る強力な女神として知られる事になりました。

イシスの力で復活したオシリスは冥界の王となりました。また、セトに簒奪された王位をホルスが奪い返す上で手助けしましたが,基本的には自身は現世に干渉しない立場を貫いたようです。

アヌビスはオシリスが冥界の王となる前のかつての冥界の王,そしてオシリスが冥界の王となってからはその補佐を務めました。アヌビスはラーの天秤で「マアトの羽根」と呼ばれる羽根と死者の心臓の重さを量り比べる役割でした。正しい行いをして羽根より軽くなった心臓の持ち主は「アアル(天国)」へ招かれ転生が期待できる。しかし悪しき行いを行なっていたものは羽根よりも心臓が重くなり,そうした者はアメミットという怪物に心臓を食べられてしまい転生を禁じられたそうです。

ホルスはイシスとオシリスの子でファラオの象徴です。彼は父を殺したセトと熾烈な戦いを繰り広げ,最後には勝利。オシリスは地上の王権をホルスに譲位し,ホルスはファラオとなりました。以降,ファラオはホルスの化身であり現人神(あらひとがみ)であるという思想が生まれました。

なお,本作では5種類の資源のほか、これらの資源のどれとしても扱えるオールマイティな「銀」という資源が登場し,そのチットには目が描かれていますが,これは通称「ウジャトの目」と言われ,真実を見抜くホルスの目を表したものとなっています。

ウジャトの目が記された銀トークン

セクメト太陽神ラーの怒りの象徴とも言われ,人々がラーへの信仰を薄れさせた事に怒りを覚えたラーが地上に遣わした,エジプト神話最強の破壊の女神です。彼女は疫病も司り地上のラーを信仰しない民をどんどん殺していったといいます。しかしオシリスに「それはやり過ぎちゃうの」と言われて彼女を遣いに送ったラー自身すら後悔し,お酒を飲ませて殺戮を止めさせたという逸話で有名です。エジプトの砂漠が赤いのはセクメトが殺した人の血で染まったから、という逸話もあるそうで,その怒りと破壊力の凄まじさが窺えますね。なお家庭においては穏やかな優しき母の一面も持つと言われています。


このように本作ではファラオ,破壊と再生,死と復活が象徴的に描かれています。そしてここからは妄想なのですが,本作のシステム自体もこうした破壊と再生、死と復活のメタファー(暗喩、象徴)になっているのではないか,と感じるのです。

本作ではラウンドの最初に壺タイルで資源を得て,ラウンド中に資源を変換,または増やしていき,貴族アクションや玄室アクションで資源を失ってパスし,次のラウンドを目指す。

こうした流れは人生の中で何度も訪れる盛衰、浮き沈みのようでもありますが,各ラウンド自体が一つの人生のようでもあります。ラウンドごとに転生を繰り返し,来世、つまり次のラウンドでまた徳を積み転生先を探す。

貴族アクションは説明書では「貴族を味方にする行動」と説明されています。しかし、赤青黄緑黒の5種の資源全てを使って貴族を得るさまは、エジプトで転生のために必要な魂の5大要素、すなわち心臓(イブ)、影(シュト)、名前(レン)、霊魂(バー)、精神(カー)を集め,転生しているようにも思えるのです。

こうなると円環のような形のボードもこうした輪廻の循環を象徴しているように思えてきますし,ソロの相手である「裏切り者」もセトの転生者のようにも思えてきます。オシリス(またはホルス)とセトの戦いを現してるのだとしたら胸が熱くなりますね!


<結びに>

本作に上記のような隠された意図があるかどうかについて,調べた限りでは見当たらなかったためあくまで一個人の妄想です。しかし、死と再生がモチーフである事には疑いがなく,本作の不思議なプレイ感はこうした輪廻と循環を想起させるテーマによるものなのかもしれません。

本作を未プレイの方は,本レビュー前半に書いた、抽象化されたシステマチックなゲームシステム自体を楽しんでもらうのも良いですし,後半に書いた妄想の話から循環や転生の感覚が気になる,確かめてみたいという動機でも良い。

是非,本作が持つ濃厚かつ不思議な味わいの独特なプレイ感を味わってみてもらえればと思います♪


以上,ファラオンのレビューをお届けしました。長文を最後まで読んでいただきありがとうございます。皆様の良きボドゲライフに貢献できれば幸いです^^

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