- 1人~4人
- 45分前後
- 8歳~
- 2016年~
アグリコラ:ファミリーバージョンだいもん(@economic_wars)さんのレビュー
【通常アグリコラとの違いも解説しながら魅力を伝えるレビューです】
世界最大のボードゲームコミュニティ「BGG」にて評価首位を独走し続けた「アグリコラ」の楽しさはそのままに遊べる傑作です。ファミリーエディションとしてだけでなく、ひとつのそういうゲームとして十分に楽しめます。
プレイ時間も以前ほど長くなりませんが、対象年齢8歳以上ってのはさすがに無理ですよウヴェ様(笑)
■特徴1:個人ボードが無く、好きに農場を作れる
アグリコラファミリーエディションでは、個人の農場ボードがありません。部屋・畑・柵を獲得するときに、そのタイルを取得して自分の現在のタイルにつなげて土地を拡張していくスタイルになっています。
得点計算において「タイル1枚が1点」という計算方式になったことが大きなポイントです。
通常のアグリコラでは、野菜4つ以上は何個でも4点、羊が8頭以上は何頭でも4点というように、上限が決められた得点計算となっていました。
そのため、プレイヤーはゲームの目標として、基本的には(職業カードなどで特殊な点数計算方式を採用して勝利を目指さない場合は)建築・牧場・畑・家畜・進歩を「まんべんなく」成長させてスキがないバランスが良く完璧である農場を目指す必要がありました。
職業カードや進歩カードを利用しない限り、全員が同じような形の農場を目指さなければならず、「農業だけで生きていくわ!」「羊しか育てへんわ!羊20匹目指すわ!」といった専門色を持って趣味を反映させた特色ある農場で高得点を目指せなかったのです。
しかし、アグリコラファミリーエディションの得点方式では上限は基本的に決められておらず、延々と毎ラウンド畑を開梱し続けることでも点数を稼ぐことが可能なモデルになっています。
この点、プレイ体験としてはシビアな農場経営ゲームというニュアンスは薄まってしまったものの、非常に自由度が高く楽しい箱庭ゲームをワーカープレイスメントで遊べるようになっています。
また、柵(牧場)がパネル化されたことにより、マイボードに柵を並べて思案する必要が無くなり、プレイにおけるダウンタイムが大きく減少しました。この点は非常に進化したゲームデザインだと思います。
■特徴2:ラウンドカードの廃止により、各ラウンドの登場アクションが固定に
2007年に発売したアグリコラでは、各ラウンドを1〜6のステージに分けており、各ステージ内でラウンドに登場するアクションカードをシャッフルして設定することで、時間経過(ラウンド進行)とともに行えるアクションが毎プレイ微妙に変化し、運の要素があるゲームデザインとなっていました。
この点がファミリーエディションでは廃止されています。
ゲーム開始時からボード上ですべてのアクションが一望でき、相手のワーカーに邪魔されない限りは明確に計画を立てられるようになっています。
これは運の要素が減ることでドキドキの要素、賭けに出る要素、リスクをとる要素が減少しているかもしれませんが、ゲームデザイン・コンポーネントデザインの観点から見た場合、サマリーカードを用意する必要がないこと、先の見通しが立ちやすいことで、初心者のプレイヤーでも楽しみやすいデザインとして成功しています。
アグリコラの初回プレイで「え!あとでこんなアクション出てくるのかよ!」といった問題点がなく、長時間のプレイのあとにもう1プレイ!と悔しながらになる必要が減っています。すべて自己責任と相手との関係性で完結するようになっているのです。
■特徴3:工業の利用も前提としたゲームモデル
「大きな進歩」として存在していた工業系の進歩である「家具製作所」「製陶所」「かご製作所」は、大きな進歩のマスではなく、10ラウンドや11ラウンドといった時間の経過と共に現れるラウンドのアクションマスで先着で獲得できるものへと変化しました。
さらに、特徴1で解説したように各点数の上限が廃止されただけでなく、各対応する資材の余っている個数がすべてレート変換で点数化されるようになりました。
たとえば、「家具製作所」は木材を収穫フェイズに食料に変換する機能を持っており、ゲーム終了時に余った木材資材を勝利点として換算することが出来る機能をもった資材を利用する工業系の大きな進歩です。
通常版アグリコラでは「ゲーム終了時、木材2/4/5でボーナス1/2/3点を得る」という効果のため、木材が5個以上余っていても最大3点を得ることが限界です。
しかし、アグリコラファミリーエディションでは点数に上限はありません。木材2つにつき1点を獲得できるという効果のため、(資材を利用したほうが点数が伸びるので非効率で起こり得ない例ですが)ゲーム終了時に木材を20個余らせれば勝利点10点を木材資源のみで獲得することも可能です。
資材を0になるようにうまく経営資源を使い切るといった遊び方ではなく、自分自身が作りたい農場を作りながら、他のプレイヤーが選択しなかったアクションで効率的に大量に獲得できる資源がある場合、それを利用して勝利点を伸ばすをいったプレイが可能になりました。
この点は同時に、他プレイヤーの目指している農場と行動を見抜いて、自分のやりたい農場を伸ばしながら相手の農場の動きを制限する、いわゆるボードゲームの「インタラクション」の要素をより単純で明確なものにすることに成功しており、通常のアグリコラに比べるとソロプレイ要素が小さくなっているように感じます。
■特徴4:野菜・石材の廃止とパンを焼くアクションの廃止
通常版アグリコラから比べて、野菜と石材が廃止されました。これに伴い、当然「石の家」の改築がなくなりました。また、井戸も存在しません。ファミリーエディションでは、いわゆる「振り飯」や「振り資材」といった先のラウンドに資源を配置し、開始時に手に入れるといった要素が存在しません。
そもそも、通常版と比較して「改築アクション」のボーナスが小さなro大きな進歩ではなく「無料で厩を獲得すること」に変更されており、レンガの家を増築する際の資材数も調整されています。
改築は単純に勝利点上昇ではなく「厩の活用」という思考要素に変化しました。石材のカットは「ゲームの単純化」を進めましたが、特にゲーム性が減ったわけではありません。そもそも職業が存在しないため、石材を利用する箇所が減っており、プレイの全体像を把握しやすくなった良い措置ではないかと思います。
何よりも大きな変化は「パンを焼く」のアクションがなくなったことです。
「かまど」「調理場」「暖炉」を利用する際に、小麦1と木材1を利用することで、いつでも食料へと変換できることとなりました。資源が違うだけで家畜を食材にすることと同じような動きとなったのです。
これは職業カードありきで効率が良いとされていた畑戦略・パン戦略を是正するため、パン焼きアクション数の減少とう配慮を行ったのだと考えられます。
ただし、新らしいパン焼きは資材の木材を犠牲します。結果として家の増築や柵を作ることでの家畜経営までのルートで遅れをとることになりますが、ファミリーエディションの「暖炉」は小麦1木材1で食料5を生むという強力な食料基盤として機能します。しかも過去のアグリコラのように暖炉ごとに決まっていたパン焼きにおける小麦個数の回数制限はありません。
農場発展を少しだけ犠牲にすると、パンで大きく食料を確保できます。職業カードなしでも家畜と小麦の食料基盤の価値が近づいたため、畑か牧場かを選択する楽しさとバランスの良さが光る良いルールデザイン調整だと私は思います。
■特徴5:厩の価値が大きく上昇し、牧場経営の楽しさがアップ
前述したように改築のボーナスとして厩が手に入るようになったこと、家畜の数に上限がなく1頭あたり1点となるため大量に飼うメリットが出たこと、この2点により厩を使うメリットが非常に大きくなりました。
通常版アグリコラの場合、慣れてきたプレイヤーは、滅多なことでは厩を3つ以上建てることはありません。1つも建てないことも多いのではないでしょうか。
しかしファミリーエディションでは家畜1頭がそのまま1勝利点につながり点数上限も無いため、早い段階で食料のためにだけでなく勝利点のために家畜が繁殖できる体制を整えるメリットが増えました。
厩を2つ建てて、部屋でペットとして利用する繁殖体制のあと、できるだけ早く柵も作ってその中に厩を入れてしまうインセンティブが通常のアグリコラよりも強いのです。また、柵に入っている厩が1点になることも、ファミリーエディションでは重要な得点源です。
■特徴6:カードをパネル化。高度にアイコン化
通常版アグリコラにて「大きな進歩」として提供されていた「かまど」「調理場」といった家畜や野菜を食料に変える施設がカードからパネルに変更され、すべての食料変換がアイコンのみで表記されるようになりました。
基本的に、アグリコラファミリーエディションでは言語依存がほとんど無いモデルとなっています。
一度アイコンの意味を理解すれば、あとは問題なくプレイできる。ワーカープレイスメントをプレイする際の敷居の高さの解消になっているように思います。
■まとめ
ファミリーエディションでは職業カード(とそれを選ぶためのドラフト)が無いため、経験値の高いプレイヤー同士の高度な心理戦は行われません。しかし、農場を経営する、自分がやりたい方法で発展させて勝利点を得る、相手の農場の経営状態から選択肢を考える、といった自分だけの農場を作る箱庭ゲームとしての楽しさやワーカープレイスメントならではの楽しさを体験するには最高クラスの出来栄えです。
特に「自分のやりたい農場の実現」はアグリコラには無かった要素であるため、5回や10回くらいはいろんな農場パターンを試そうとして遊びたくなります。小麦をいくら生産できるか挑戦してみよう。家畜を限界まで増やしてみよう。こういった楽しみ方は通常版アグリコラには無かったものだと思います。
反面、通常版アグリコラのように100回や200回、経験者同士で何度も遊ぶといった超強力なリプレイ性と脳みそに汗をかきまくる知的体験の要素は小さくなっているかもしれません。
しかし、それは悪い点ではなく、プレイヤーがボードゲームに何を求めるかの違いだと考えます。
アグリコラがゲーマーズゲームから、中量級の非常に楽しいボードゲームとして変化したのがこのファミリーエディションでは無いでしょうか。
書き手:グランドアゲームズ/ゲームデザイナーSatochika DAIMON
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