- 2人用
- 300分前後
- 12歳~
- 1981年~
アルンヘム強襲Bluebearさんのレビュー
当時ウォーシミュレーションゲームにおいてトップメーカーだったアバロンヒル社が後期に打ち出した、斬新な新システムの傑作です。
テーマは、映画「遠すぎた橋」でも有名な、1944年9月のマーケット・ガーデン作戦の成否を決する最終目標であるアルンヘム市内で発生した激しい市街戦です。
この作品はウォーゲームの歴史を塗り替えるくらいの転機となった作品で、当時の私はこのあまりの斬新さに付いて行けず、こりゃあ大ハズレを引いてしまったとがっかりし、購入後数か月お蔵入りにしたのをよく覚えています。
しかしその後、当時の「Tactics誌」で評価されている記事を目にし、再度取り出し、お試しで友人とプレイ。
その完成度の高さと面白さにウォーゲームの新たな可能性を確信することとなりました!!
その評価の高さは、この作品以降、同様のシステムを応用した派生作品が続々発表されたことからも分かります。
①見慣れたヘクスマップからの脱却
それまでウォーゲームと言えば、戦場の地図を六角マス(ヘクス)で表現するのが「当たり前」でした。
我々のように長年ウォーゲームに親しんでいると、このヘクスマップを眺めるだけでしばらく感慨にふけれるくらいです(笑)。
ところが、何とこのゲームはボードを広げると、くっきりした線で市街図をざっくり区切った大きなエリアしかないじゃありませんか!
見慣れたヘクスはどこにもありません。(初めて広げたときは「何だこりゃ!」と思いましたよ。)
それに思ったよりデカい(笑)。
そのためここに配置するコマもまた従来のウォーゲームに比べるとやたら大きなものでした。
(ちなみに我々は同社の「英独大西洋の戦い」「太平洋上の勝利」を保有していたので、コマの大きさに驚きつつも、まあこんなもんかな、という印象でしたが…。)
ところがこれが非常に『市街戦』っぽいのです!
細かい地形を見ながら、どこの道路を移動して、どこの建物に突入して…というやりかたを細かくするのではなく、「どの市街区画に進軍するか」「どの市街区画を攻撃して確保するか」という点に特化する地図だったわけです。
市街戦ならではの地形をうまく表現したわけです。
まさに発想の転換でしたね。
②両軍入り乱れるゲーム進行
ルールも思い切ったもので、両軍入り乱れるアクションは特筆です。
それまでのウォーゲームは、手番も「交互」に行うのが「当たり前」でした。
自軍のコマを好きなように動かし、それが全部終わったら戦闘の組み合わせを決めて相手コマを攻撃します。
ところがこのゲームは、プレイヤーが自分のターンに「自軍コマを全部動かす」のではなく、相手の行動を予測して「任意の一部」だけを動かします。
動かしたコマは裏返しにしておき、ちょっとだけ戦闘力が弱くなってしまいます。(身をさらすなど、敵から捕捉されやすくなっている状態を表しています。)
その行動を見て、相手も任意の数のコマ動かすことを考えます。(同様に動いたコマは裏返しにします)
一度裏返しになったコマは、ターン中それ以上動かすことはできず、ターン終了まで表に戻ることはありません。
動かすコマが残っていなかったり、それ以上動かしたくなかったりしたら「パス」を宣言するわけですが、もし両軍がともに連続して「パス」を宣言してしまうと、何と移動フェイズは終了してしまうのです!
おかげで、
「どのタイミングで、この部隊を動かそうか」
「動かすとしたら何個動かそうか。少なく動いて戦闘で負けるのも避けたいし」
「でも動いてしまったら戦力は弱くなってしまうので守りも心配」
「まだ動いてない相手のコマが〇〇個も残っているからそれも心配」
「動かしたくないけど、パスしたらあいつもパスして終わっちゃう。まだ動かしてないコマがこんなにあるのにどうしよう」
…と、移動だけでも考えるところはいっぱい!
ボードゲームとして特に凄いと思ったのは、通常のウォーゲームって、前述したように自軍のコマを動かし終わってから攻撃するので、特にどの順番でコマを動かすか?という悩みはありません。(極端な話、動かしながら次はどうしよう…?と考えながら手番を進めることも実際よくあります。)
ところがところが!このゲームは、「どのコマから動かすか?」を考えて行動しないと泥沼にはまるようになっています。ルールの追加で縛るのではなく、基本ルール自体がシンプルによくできているのですね。
このへんの感覚は、ウォーゲーマーでなくとも、普通のボードゲーマーにも十分勧められる思考性の高さです。
「シミュレーションウォーゲーム」としては他にもいろいろと説明したいことはあるのですが、ここはあくまで「ボードゲーム」の紹介の場。このへんまでにしときましょう(笑)
ともかく歴史的な傑作であることは確かなので、ウォーゲームだからと敬遠せずに、どこかで試してもらえたらいいな、と思います。
【追記】
ちなみに個人的にはもうひとつ感心したポイントが…。
それまでのアバロンヒル社のゲームは化粧紙に裏打ちされた高級感のあるマップボードが魅力だったのですが、別々のボードを並べて置くので、これって継ぎ目でよくズレまくるのです。
ところがこのゲームのボードは、しっかりした厚紙に切れ目と折り目が付いていて、1枚の大きなボードを複雑に折りたたむようになっているのです。
おかげで境い目がズレることもなくなり、画期的だと驚いたのを覚えています。(そのぶん材質がただの厚紙なので、ちょっと高級感は無くなってしまいましたが…)
実はこのゲームが最初なのかどうかは分からないのですが、とても感動したのを覚えています。
実際この時期以降の他のゲームでもよく見られるようになりましたが、個人的には使いやすいと思っております
- 6興味あり
- 19経験あり
- 9お気に入り
- 22持ってる
Bluebearさんの投稿
- レビュートレジャーハンターファンタジー世界のトレジャーハンターとなって、他のプレイヤーよりたくさ...5日前の投稿
- レビューエスノスファンタジー世界のエスノス島の支配権をめぐり、多数の部族の支援を得て、...5日前の投稿
- レビューザ・黒幕 日本支配日本を影から支配する悪の秘密結社の首領となり、日本を代表する組織や団体...約1ヶ月前の投稿
- レビューラストクロニクル インフィニティこの場で書くのは大変申し訳ないです。しかし、どうしても書かずにはいられ...約2ヶ月前の投稿
- レビューエコス ~原初の大地~地球の創造神となって、原初の大陸や海洋を作り出し、そこに生命(まだ人類...約2ヶ月前の投稿
- レビューアドレナリン荒廃した未来のブラッドスポーツをテーマにした真っ向からの殺し合いを描い...約2ヶ月前の投稿
- レビューブルーマックス第一次大戦の世代に活躍した複葉機どうしの空中戦をリアルに描いた傑作ゲー...3ヶ月前の投稿
- レビューオーシャンズ ~エヴォリューション海洋篇~生物の進化と繁栄をテーマにした『エボリューション』の姉妹版です。(拡張...4ヶ月前の投稿
- レビュー電力会社 充電完了!緑色の有名デザイナー、フリーゼ氏が作った超傑作ゲームがこの「電力会社」...4ヶ月前の投稿
- レビューオリンポス『スモールワールド』シリーズで有名なデザイナー、フィリップ・キーヤーツ...5ヶ月前の投稿
- レビューティカルドイツゲーム界の巨匠、クラマー&キースリングのデザインによる傑...5ヶ月前の投稿
- レビューサムライスピリット「世界の七不思議」「花火」で一躍有名になったデザイナー、アントワーヌ・...6ヶ月前の投稿
会員の新しい投稿
- レビューじたばた泥棒出目の数だけ泥棒が隠れたカバーを動かしていき、保安官の出目が出たらどこ...約3時間前by うらまこ
- レビューぜんぶでいくつ?山札からカードをめくり、3枚のカードで同じイラストを見つけて、そのイラ...約3時間前by うらまこ
- レビューオインク!動物の鳴き声を叫ぶゲーム。ボドゲイベントの1,000円くじでふたつ当た...約4時間前by HARUNOKI
- レビューマグノリアよくできたデッキ構築型のゲームだと思います。ただ良くも悪くも自分のデッ...約4時間前by HARUNOKI
- レビューハーベスト相手に痛んだ野菜を収穫させるゲーム。各プレイヤーはそれぞれ2×2の4マ...約4時間前by HARUNOKI
- レビューアズール ミニコンパクトで使いやすくなったアズールタイルを置くときのくぼみがあること...約4時間前by HARUNOKI
- ルール/インストゴモクロクゴモクロクのルール説明動画はこちらからご覧ください!(Youtube)...約6時間前by Lotus
- レビューヤブロークエストアナログゲームの醍醐味が存分に味わえる。紙を実際に破るシステムは、デジ...約8時間前by エンタングルさん
- レビュートリック16マストフォロー切り札なしのトリックテイキングゲーム。スートは3色各1〜...約10時間前by うらまこ
- レビューカーニバル不思議なキャラクター達は配置された場所により踊ったり、観客になったりし...約19時間前by うらまこ
- レビュー海の仲間たちよくある海の生き物好きをターゲットにしたカードゲームだと甘く見ていたが...約21時間前by 3jinomama
- レビュー岐阜あるあるカルタ「YAONE~やおね~」お隣の愛知に住んでいますが、岐阜の知らないことがいっぱいでびっくり!岐...1日前by ぱんた