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  • 1人~5人
  • 60分~90分
  • 2020年~

故宮 Big Box山本 右近さんのレビュー

795名
7名
0
約4年前

●作品の紹介

1570年の中国、隆慶帝時代の明王朝がゲームの舞台となります。隆慶帝が暮らす紫禁城は故宮とも呼ばれ、15世紀初頭の竣工以来多くの歴代皇帝が居を構え、長らく中国の政治の舞台となった場所として知られています。
隆慶帝は酒色に溺れ若くして崩御した比較的凡庸な皇帝でしたが、即位した当時は内政が大きく乱れており、その改革には力を入れていたようです。贈収賄に関しては厳罰を科し、役人たちの汚職の撲滅に成功したかに見えました。しかし、彼らは明らかに価値に隔たりがある贈り物の交換という手法に抜け道を見出したのです。この贈り物の交換という風習が、このゲームでは上手くゲームシステムに落とし込まれています。
プレイヤーは中国の貴族の1人となり、高官たちと贈り物の交換をする事により様々なアクションを行い勝利点の獲得を目指します。手札を場札と交換する事によりアクションを行いますが、カードの価値は数値化されており、場札より価値の大きいカードでなければ交換時にペナルティを支払う必要が生じるのが特徴となります。
また、交換によって得た場札は次のラウンドの自分の手札となるため、アクションの種類だけでなく将来を見据えてのハンドマネージメントが求められるのです。
勝利点を得ることは重要ですが、ゲームの終了までに隆慶帝に謁見することもプレイヤーにとって重要かつ必須のタスクとなっています。それが出来なかった場合、そのプレイヤーは勝利点を全て没収されてしまいますので、ゲームに勝つためには何としても隆慶帝に謁見しなければなりません。
贈り物の交換以外でも、ゲームシステムにはこの時代の様々な背景が上手く描写されています。例えばこの時代はモンゴルからの侵攻に頻繁にさらされており、その防衛策として万里の長城での公共工事が盛んに行われていました。プレイヤーは万里の長城アクションによってそれを追体験する事になるでしょう。このアクションは変則的なエリアマジョリティとなっており、工事が終わるたびにその工事に最も貢献したプレイヤーに得点をもたらしてくれます。
このBIGBOX版には4つの拡張モジュールが同梱されており、基本セットと様々な組み合わせで遊ぶ事が可能です。
鄧茂七の反乱をモチーフにしたと思われる「小作農の叛乱」拡張はプレイ感をガラリと変え、世界遺産である好山園をモチーフにした好山園拡張は戦略の幅を広げてくれる事でしょう。
1点が、そして1手が重く、非常にシビアなゲーム性。ユニークなゲームシステムに豊かなリプレイ性。豪華なコンポーネントと魅力の詰まった、やり甲斐のあるゲーマーズゲームです。

●レビュー

ゲームの内容自体は故宮単体と変わらないが、本レビューでは付属の拡張セットやBig Boxならではのコンポーネント面にも言及しようと思う。

まずはゲーム内容から。

ゲームシステムはワーカープレイスメントと書かれてはいるが、実質的にはカードドラフトの方が近いように思う。手札と場札を交換し、手札は新たな場札となり、場札はプレイヤーの捨て札となり、そのプレイヤーの翌ラウンドの手札となる。

ラウンド毎にダイス目と同じ価値のカードが何枚捨て札置き場にあるかによってその枚数を数え、トップにのみ得点が入る仕組みになっている。そのため、他のプレイヤーがピックしたカードをある程度覚えておくとゲームを有利に進めることができるだろう。

基本的にはアクション効率、得点効率を高めるゲームだが、勝利点の勝敗ラインが50点前後と1点の重みが重いゲームであるため、このラウンド毎の得点は非常に重要となる。これはドラフトの側面がこのゲームにおいて重要なウェイトを占めるということを意味している。

手札の数はアクションポイントとなっており、基本的には手札の数だけ手番がある。他のプレイヤーが行ったアクションが出来ないということはなく、ワーカープレイスメント色はかなり薄いと言えそうだ。

アクションを行うためのリソースは使用人コマで、これを消費することにより、アクションを行なったりまたは強化することができるという仕組みになっている。

勝利点を得るアクションは布告アクションを除き勝利点をダイレクトに得るのみで、逆に言うとアクション数やリソースを得られるアクションでは勝利点は殆ど得ることができない。エンジンそのものが得点要素となるのではなく、勝利点を得るというアクションを効率的に行うために他のアクションで準備を重ねるタイプのゲームだ。また、リソースの上限がプレイヤーごとに存在するため、しゃがんでは立って、を複数回行うことになり、単純な洗面器タイプのゲームとも感覚が異なっている。

前述の通りカードの交換によりアクションを行い、また場札の状況により自分のできるアクションが限られてくるため、対戦相手の行動がある種のランダマイザーに近い役割を果たし、なかなか思うようにいかない。もちろんある程度狙って相手の行動を制限することもできるため、インタラクションもなかなかのもの。盤面の状況が手番毎に変わるため、場合によっては長考を誘発することもあるものの、常に対応力を求められるのは挑戦的でとても面白く感じた。

一方で多人数でのプレイには多少の問題があった。ラウンド毎のアクション数がプレイヤーにより大きく異なることがあるため、アクション数の少ないプレイヤーはそのラウンドが終わるまで手番が来ず手持ち無沙汰になる場面がしばしばあったからだ。5人でのプレイはゲームプレイ自体はとても良いが、3アクション以上差が出るとさすがに気が抜けてしまう。実際のところアクション数を増やしすぎず早めに得点行動を行うのはなかなか強い動きとなるので、アクション数を重視するプレイヤーが居ると手が空いてしまうことが多く感じた。3人程度のプレイがちょうど良いかもしれない。

次は拡張セット。

このBIG BOXには叛軍という拡張モジュールが4つ付属しており、その組み合わせを変えて楽しむことができる。小作農の反乱のように心理戦要素を加えてプレイ感が大きく変わる拡張もあれば、宮殿の階段のようにプレイ感は大きく変わらず一部のアクションをフィーチャーしバリエーションをもたらす拡張もある。

基本ゲームが素晴らしいゲームではあるが、展開が意外と地味なゲームでもあるため、拡張モジュールを組み合わせて味変できるのはとても良い。好山園拡張が恐らく最も戦略性とインタラクションが高い拡張だろう。後手番やアクション数を増やすことにもうまみが生まれ、戦略の幅を広げてくれるはずだ。

最後にコンポーネント。

ベルベット地の箱は不要と言われれば不要ではあるが、ゴージャス感を演出し満足度を高めるのに貢献してくれている。

付属のインサートは非常に良い。プレイ中は個人トレイ以外役に立たないものの、収納面では大活躍だ。カードをスリーブに入れても収まる点も評価できる。

スタートプレイヤー用のメタルトークンも美しい出来栄えだ。また、通常版にくらべて木駒類やタイルがとても上質なのも嬉しい。タイルはその多くが木製にアップグレードされており、質感や扱いやすさが格段に向上している。

さて、総評としては10点満点の9.5を私はつけたいと思う。見通しは良いが思い通りにいかずアドリブを強要される。だがそれが良い。相手を出し抜くチャンスが随所に散りばめられ、それを虎視眈々と伺いながらも地盤固めをし、もしくは地力強化を捨てて序盤から得点行動を重ねていき、そのバランス感覚も問われてくる。総じて挑戦的なゲームであり非常に面白い。皇帝に謁見するのが必須という足かせも上手く機能しているし、多人数プレイ時の問題以外は常に楽しめる。良く考えられた素晴らしいゲームだ。BIG BOX版はコンポーネントの満足度も非常に高く、私はすっかりこのゲームのファンになってしまった!

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山本 右近
山本 右近
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