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  • 2人~4人
  • 60分~120分
  • 12歳~
  • 2016年~
982名
11名
0
約7年前

領土を広げて収穫し建物を立て生産し側近を雇って宗教戦争に邁進する、優雅で過酷なルネサンス貴族の勢力争いを彩る膨大なジレンマが辛さを楽しさに変える傑作ボードゲーム。

 洗練されたメカニクスで高く評価される本作ですが、濃い世界観(テーマ)と豊かな味わい(フレーバー)もあります。終了時のマイボードを見ると、激しい勝利点レースの余韻と一緒に自分なりのストーリーが浮かびあがってきて、そこが楽しい。と同時に、精巧なシステムの凄さ・面白さも自然とわかってくる。
 「作り込まれた独特の世界に浸りたい」「脳汁でまくるギリギリの勝負がしたい」という人から「好きなテーマのゲームを買って楽しんできたけどシステムも気になりはじめた」という人までオススメできる作品です。


優雅で過酷な貴族の生活

 プレイヤーはルネサンス期フィレンツェの貴族となり、領土を広げ、建物を建て、有能な人物を雇い、事業を進めて名声(=勝利点)を競います。この4つの手段は4色のカードに対応し、ラウンド毎にボード上の塔に置かれるカードを獲得してマイボードに設置することで実行できます。



 「鉱山」や「森林」や「砦」といった領土(緑カード)からは、石や木などの資源や兵力や使用人が得られます。「彫刻家ギルド」や「大聖堂」といった建物(黄色カード)を作るには資源が必要ですが、建物は名声やお金や信仰点を生みだします。大半のカードは獲得時に即時ボーナス(塀の上に描かれたもの)がもらえますが、最大の利益を得るには領土からの<収穫>、建物での<生産>を行わなければなりません。

 でも、そこはさすがに優雅な貴族。収穫/生産アクションは、所有する領土/建物の固有収益(塀の前に描かれたもの)を一挙に獲得できるチャンスです。領土を3〜4枚マイボードに置いた後で<収穫>できればガッポリ資源が入手でき、領土と相性の良い建物を揃えられれば<生産>によって資源から大量の勝利点が得られます。

 広大な領土を有し強力な建物を作っても勝てるとは限りません。十字軍撤退後のルネサンスにおいてキリスト教勢力を再興するため、プレイヤーは「異端派との闘い」や「聖堂の修繕」といった軍事・宗教的な事業(紫カード)を進めることもできます。
 事業は名声をもたらしますが、資源やお金や兵力(軍事点)を支払う必要があります。やりたいことが多すぎてなかなか手がまわらない、そんな時には「建築家」や「総督」といった人物(青カード)を側近として雇うことも有効です。人物はカード獲得や収穫/生産を補助してくれたり、各カードの所持数に応じた勝利点をもたらします。資源が足りない時や手番を握りたいときは<補充>アクションで補うことができます。

 名声を得る手段は数多く、領土建物事業人物が滑らかに連動するようにマイボードを構築できれば大量の勝利点を稼げる強力なエンジンができあがります。

 ただし、何をするにもコストがかかります。さらに、<カードの獲得>、<収穫>、<生産>、<補充>という4つのアクションスペースは基本的に早い者勝ちで、2番目以降に自分のワーカーを置いたプレイヤーは相応のコストを払わけなければなりません。特に2人プレイでは<収穫>と<生産>をラウンド毎に1ワーカーしか行えません。いま相手は何を狙っているのか。激しい読み合いが常に緊張感を生みだし、領土を沢山獲得したのに収穫アクションを占拠された時など思わず悲鳴があがります。
 とはいえ手段は多彩です。相手の狙いを読んで別の道をいき、バッティングしないように準備すれば終盤一気に続けて勝利点を稼ぐこともできます。戦略的なハイコストハイリターンの連鎖が辛さを楽しさに変える。これが本作の面白さの土台になっています。


運と実力の公平なブレンド

 戦略的なハイコストハイリターンの連鎖というのは『カヴェルナ』や『マルコポーロの旅路』といった人気作(拡大再生産系ワーカープレイスメント)にも共通する特徴です。「重いコストを払って大きな利益のコンボを作る」快感は、コンボの構築が簡単すぎても難しすぎても薄れやすいもの。小数の強力なコンボが確定されてしまうと興ざめになる難しさもあり、そうした難点をうまくクリアしているゲームはやはり面白い。

 本作では、各プレイヤーが持つ3つのワーカーの力が対応する3色のダイスの値によって決まる、というランダム性を導入することで、こうした難点がクリアされています。全てのアクションには(ダイス目のアイコンで示される)特定の数以上の力が必要になるため、大きな力のワーカーを使うほど多くの利益が得られます。逆に小さな力のワーカーでは大したことはできないため、ワーカーの使い分けが常に問われます。難しいと思っていたコンボがダイス目によって手が届いたり、簡単だと思ってたコンボが突然難しくなってしまう。ままならないダイス運をなんとか自分の戦略に組み込んでいく楽しみ、ダイス運によって思いがけず新たな戦略が見つかる驚きがあります。

 ただ、ここまではダイスをワーカーとして使う『マルコポーロの旅路』にも共通する特徴です。同じデザイナーが開発に参加していますし。これに対して、本作では、ダイスを各自が振るのではなく、ラウンド毎にスタートプレイヤーが共通のダイス3つを振るようになっています。もう一人の参加デザイナーの前作『グランドオーストリアホテル』から継承されたシステムですが、共通ダイスによってランダムな運命が各プレイヤー公平にふりかかってくる。良いダイス目をどう生かすか、悪いダイス目をどうやり過ごすか。各プレイヤーの腕の見せ所が同じタイミングでやってくるので、競い合う楽しさだけでなく同じ運命にいどむ連帯感も生じます。だから、激しいアクションスペースの奪い合いもギスギスしすぎない。
 ワーカーの力を+1できる「使用人」コマが『マルコポーロ~』のラクダとは違ってワーカー力補正専用のリソースになっていることや使用人が豊富にいれば4つめのワーカー(常に値が0)を使用できることも相まって、ダイスワーカーのとりまわし自体が、運に翻弄されながら自らの実力を示すフェアな競い合いの場になっています。


ジレンマの有機的連関

 本作をプレイする時に感じる「辛さ」はコストの重さからくるものだけではありません。とにかく何をするにもジレンマがある。
 「あの領土を獲得して収穫すればこの建物が使える! でも使用人使わないと取れないから次のラウンド使用人0になって大して生産できないし......いやむしろあの建物を獲得して即時ボーナスでお金もらってからあの事業やれば勝利点たくさん! でもそうするとしばらく収穫できないし......あぁ!その建物取っちゃうの?!  だよね~ww」
といったジレンマが満載でずっと悩ましい。でも沢山のジレンマが密接に関係しているので、うまく思考を繋げると一気に解消できるような道筋が見つかって辛さが楽しさに変わっていく。「あ、先にあの人物雇ったらこれがこうなってあれがああなってこいつをああしてこうすれば......い、いける!いける!おれ凄い!......あ、やっぱその人物取っちゃう?」みたいに(笑)。上級ルールの指導者カードにまで、条件達成を諦めて廃棄すれば少しリソースがもらえるジレンマが仕込まれていることに気づいたときは正直ひきました。デザイナーってここまで考えてるんだ...という感動もありましたが。

 膨大なジレンマのなかでも際立って悩ましいのは、教会による異端審問(信仰点チェック)です。全6ラウンド中の2,4,6ラウンド終了時、信仰点トラックで規定の点に達していないプレイヤーは教会から破門され、ゲーム開始時にランダムに3つ設置される破門タイルの指示に従ってペナルティを受けます。「ワーカーの力が弱くなる」、「領土獲得に必要な力が増える」といった非常に重いペナルティがゲーム終了時まで継続するため、破門は避けたいところ。でも、破門されても信仰点は失われません。逆に、必要な信仰点を持っていて教会を援助する(=破門されない)ことを選んだ場合、信仰点が0に戻ります(戻った分の勝利点はもらえますが)。
 さらに信仰点トラックを奥まで進めるとゲーム終了時に大量の勝利点が得られるので、あえて何度か破門される戦略も十分成り立ちます。教会に破門されても信仰心は残り、教会を援助すると信仰が無に帰してしまう。大変分かりにくいルールですが、教会を介さない信仰を説く宗教改革勃興前夜のルネサンス期における教会批判の広がりと教会側の不安を妄想して楽しむこともできます。
 ランダムに選ばれるプレイ条件追加タイルを各ラウンドに設置してゲーム展開に起伏をつける工夫は『テラミスティカ』や『オルレアン』にも見られますが、本作の破門タイルは「回避すべきとも限らない事前予告型ペナルティ」です。ゲーム開始から数ラウンドでうまくマイボードを構築できれば、ペナルティの影響を緩和して破門されながら信仰点を上げることもできる。とはいえ破門の影響を見誤ると、自陣の生産性がガタ落ちすることもある。1回目は回避して2回目はあえて破門される、といった長期的な戦略も可能です。つまり、マイボード構築をめぐる膨大なミクロのジレンマに破門のマクロなジレンマが加わることで、作戦選択に豊かな戦略性と柔らかな弾力性が与えられています。

 「ジレンマが楽しい」というのはボードゲームを褒めるときによく使われる表現ですが、とても奇妙な言い方です。実生活で生じるジレンマの大半は、楽しいものではありません。「仕事と私どっちが大事?」と問い詰められて楽しめる人はあまりいないでしょう。
 現実的なジレンマは、複数の基準がともに成り立ってしまってどちらを重視したらよいかわからないときに生じます。常に勝利点や勝敗という単一の最終的な価値基準が設定されているボードゲームには現実的なジレンマは存在しません。でも、プレイ中の選択の全てが勝利点という最終基準に即してもつ価値を特定できたら、ゲームはただの最適解を選び続ける作業になってしまいます。そこで、勝利点という単一の価値基準につながる最適なルートがーー複雑な要素の組み合わせ、他のプレイヤーとの相互干渉、ダイス運の導入などによってーー見えないように構成されたシステムのなかでプレイヤーが複数のルートのあいだで悩む、その状態がボードゲームにおいて「ジレンマ」と呼ばれるものです。なので、「ジレンマが楽しい」のは、まずもってそれが偽のジレンマであり、原理的には解消できるものだからでしょう。

 でも、ボードゲームの楽しさは、デザインされた偽のジレンマを解消して勝利することだけではないように感じます。「あの領土獲得して収穫するとこの建物使えてあの事業できる!...って石が足りんからどっちも無理じゃん!あぁもうダメだこの貴族!ていうか俺!」といった阿鼻叫喚を他のプレイヤーと共有し、人工的に作られた偽のジレンマに奮闘することを通じて、真のジレンマに溢れた(とはいえ「収入」や「地位」や「生きがい」といったうさんくさい最終基準が跋扈する)現実にいつもとは少し違う感覚で戻っていくことの楽しさ。辛さがなくなることの楽しさではなく、辛さとつきあう楽しさを感じさせてくれるボードゲーム、『ロレンツォ・イル・マニーフィコ』。オススメです。



追記:ボードゲームにおける現実的なジレンマはむしろ「勝ちたい!でも勝ちすぎると相手が二度とやってくれなくなるかも...」でしょう。本作でもそれは起こりえます。特に、同じ人との2人プレイがメインで、相方がアクションスペースを奪い合うタイプのゲームに慣れていないような場合は、BGGに投稿されている2人プレイ用ヴァリアント(「収穫」と「生産」のアクションスペースを3人以上用ルールに準じて二箇所解放する)を最初に試して、慣れた後で通常ルールに戻すのもいいかもしれません。

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