- 2人~5人
- 30分前後
- 14歳~
- 2015年~
グリッズルドあすか正太@ぽんこつ団さんのレビュー
ゲームから得られる感情は、勝利の喜びだけではない。
勝利のために、私たちはゲームをするのでしょうか?
たしかに勝利は気持ちいいです。頭をフル回転させて戦略を練り、ここぞというところで乾坤一擲の勝負、運も味方につけて、つかみとる勝利には、何者にも代えがたい喜びがあります。
現実世界ではなかなか難しい体験を、ゲームで得る。
素晴らしいことです。
しかし、勝利以上にゲームだからこそ出来る行動と、それによって得られる尊い感情があります。
自己犠牲です。
この「グリッズルド」は、パッと見、サバイバル系を思わせるパッケージをしています。第一次世界大戦、その中でもとりわけ悲惨な戦いであったことで知られる塹壕戦です。
箱や中身からそんな雰囲気を醸し出してくれるものだから「仲間と助け合いながら、最悪自分だけでも生還することを目指すゲームなのかなぁ?」というありがちな先入観を抱きつつ、最初のプレイに突入しました。
しかし、しばらく経ったところで、気づいたのです。
これは、仲間を助けるために、己の死を選ぶゲームなのではないか、と。
このゲームでは、プレイヤーが選択できるすべての要素が、仲間の生死に関わります。
手札として配られるカードには、戦場を抽象化した6つの「脅威」が記されていて、同じ「脅威」が3枚場に出たら一蓮托生でミッション失敗です(即死ではありませんが、状況がさらに悪化します)。なのでプレイヤーは、仲間の手札に残った「脅威」の内容を常に予想しながら、安全な手札を切っていくことになります。
リーダーがもらえるスピーチトークンは、自分の手札ではなく、仲間の手札を減らす(=場に出る「脅威」を減らすことで、ミッションの成功率を上げる)ためにしか使えませんし、
ミッションの最後で使用するサポートタイルも、自分の「苦難」ではなく、仲間の「苦難」(=ペナルティ)をはがすことにしか使えません。
「苦難」カードとは、そのまま文字通りのペナルティで、「トラウマ」「失語」「恐慌」「恐怖症」といった見るだに恐ろしい言葉が並んでおり、場に出したら最後、はがされるまで永続するペナルティを負います。
手札はミッション終了までに0枚にしておくことが求められるため(1枚でも残っていると、状況が悪化します)、「苦難」カードを引いてしまったら最後、いつ使うか、どの苦難から引き受けるか、の取捨選択ですら、自分の都合以上に、仲間のことを考えて、自分が受け入れる苦難を決めるようになるのです。
僕は善人ではありません。けれど、このゲームではそうなります。
このゲームをプレイしていくと、自然と、仲間が生き残ることを第一に考えるようになるのです。
なぜなら、仲間たちもまた、自分が生き残るようにカードを出してくれるからです。
互いに助け合うことから得られる感情は、勝利とはまったく別の、それ以上に強いかもしれない喜びです。
互いが互いのことを思いながら、手札を出し切った先に待っているのはどんな結末でしょうか?
自らの、死です。
「友情は戦争より強し?」という副題は、このゲームのデザインを的確に表現しています。
このゲームのルールにのっとってプレイしていくと、自然とそう行動すること(=仲間のために我が身を犠牲にすること)が、このゲームの中でのベストプレイなのだと思うようになってしまうのです。
勝利を奪い合うゲームが、ライバルを出し抜くことで得られる興奮を最大化するように、この「グリッズルド」というゲームは、仲間のために貢献できたことで得られる幸福感が最大になるようにデザインされているのです。
協力ゲームとしての作りが、とてもよいことも、明記させてください。
このゲームでは、メンバーひとりひとりが、本当に仲間を救うことができます。
協力ゲームは得てして、誰かが作戦を決めて、それに合わせて行動するという流れになりやすいものです。
しかしこの作品は、協力ゲームであるにもかかわらず、コミュニケーションに制限をかけることで、自分で考え、決断しなければならないように作られています。
それぞれの仲間のピンチの度合いは計測がたやすく、仲間を助けるためにしか使えない(=自分が生き残るために残しておくことが出来ない)アイテムもあるため、プレイヤーは気づくと、自分の命を二の次にして、誰が一番ピンチにあるのかを思考するようになっていくのです。
現実世界でそんな生き方をすることは限りなく難しいでしょう。
リアルで似たような状況に遭遇したら、残した家族のこと、自分自身の生への欲求などへの板挟みに遭い、とてもゲームのように迷いのない決断は出来そうもありません。
ゲームだからこそ選べる、美しい生き方が「グリッズルド」にはあります。
テーマはマイナーです。
勝利条件もシビアです。
誰も彼もにおすすめできる内容では決してありません。
しかし、他のゲームでは味わえない体験と得られる感情が、この作品にはあります。
機会があれば、ぜひプレイしてみてください。
(伝えたいことだけで長文になってしまったので、具体的なゲームの手順紹介などは、先行する4つのレビューがあったので省略いたしました。失礼します)
- 207興味あり
- 639経験あり
- 105お気に入り
- 442持ってる
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