- 1人~4人
- 60分~90分
- 14歳~
- 2023年~
アトラスロスト ライズ・オブ・ザ・ニューソブリンズハイネさんのレビュー
◆はじめに
アトラスロストはタクティカルゲームズが出版した対戦型文明再興シミュレーションゲームだ。
軽めの重量級で、初回はインスト込み120分、慣れると70~90分で遊ぶことができる。
この10日間で6回遊ぶことができたので、良かった点と悪かった点の両方を挙げていく。
◆良かった点
1. アトラスロストという世界観の表現
アトラスロストを初めて遊ぶ人のほとんどは、その美麗なイラスト群に圧倒されるだろう。
ボックスアートには信仰心と恐怖心を同時に抱かせるような巨大建造物と最終戦争の影響によって荒廃した市街地、そして崩壊した月が描かれている。
このようなアトラスロスト独自の世界観こそ、このボードゲーム最大の魅力である。
大抵のボードゲームにおいて、プレイヤーはルール説明の前にそのボードゲームのストーリーを学ぶ。
例えば「これからあなた達には企業のトップとなって何世代にもわたって火星を開拓してもらいます」みたいな。
それはアトラスロストも例外でなく、プレイヤーは文明崩壊後の世界で新たに誕生した小さな国家を率いる立場として、誰よりも早く覇権を握らなくてはならない。
「最終戦争で文明が崩壊か、なるほどなるほど、そういう感じね」
最初はそんな世界観を漠然と感じるだけだが、ゲームが進むにつれてこの世界に対する理解は自然と深まっていく。
ゲームが開始されると、プレイヤーは自分の先遣隊駒をタイルに配置する(=探索に向かわせる)ことでサポートカード(=旧文明のアーティファクト)を入手することができる。
このサポートカードのイラストと名称がどれも秀逸であり、アトラスロストの世界観を色濃く表現している。
文明崩壊以前の『コンサートホール』や放棄された『合成レーションストック』の倉庫、最終戦争の爪痕が残る『荒廃したメック』が我々の想像力を掻き立ててくれるのだ。
そうしてアトラスロストの世界が広がっていくと、あらゆる部分がこの世界観を形作っているものに見えてくる。
先遣隊駒という名称、宗教駒の独特な形状、影響力とは何を指しているのか…。
「ゲームデザインの人そこまで考えてないと思うよ」と言う人もいるかもしれない。
創作物では往々にしてあるが、作者側がそれを意図しているかどうかというのは実は些細な事であり、結局は受手側が勝手に解釈するものだ。
このボードゲームを遊んだ人が「アトラスロストの世界にはこんな光景が広がっているのか」と咀嚼している時点で、このボードゲームのデザインは素晴らしいものだと思う。
それは数百ページにわたるSF小説を読んだわけでもないし、最新のCG技術を駆使したSF映画を見終えたわけでもないのに、プレイヤーの脳内に一つのSF世界がきちんと確立されるからだ。
このレビューを読んでいて「遊んだ時にそんなこと全く考えなかったわ」という方がいたら、次回はアトラスロストの世界観にもう少し意識を向けてみてはいかがでしょうか?
きっと前回よりも楽しいゲーム体験に繋がると思います。
2. 不自由さと快感のギャップ
「イラストとか世界観がすごいのは分かったから肝心のプレイ感は?結局ボードゲームとして面白いの?」
結論から言えば、前述した世界観に興味がない人には合わない可能性がある。
アトラスロストでは、自分の手番が来たら『メインアクション』『コマンドアクション』『カードプレイアクション』を最大1回ずつ行うことができる。
この“最大1回ずつ”という制限が、このゲーム最大の特徴であり、プレイヤーたちを苦しめる。
ゲームの基礎であるメインアクションには『研究資源の獲得』『データ資源の獲得』『資源を払って先遣隊駒をタイルに配置』『資源を払って先遣隊駒のいるタイルの効果発動』の4つがある。
そしてこのゲームには定期収入などという甘い概念はない。
そうなるとプレイヤーは【資源の獲得】→【先遣隊駒の配置 or タイルの効果発動】→【資源の獲得】というループを繰り返すことになる。
ゲーム中盤になれば一度に獲得できる資源が増えるのでこのループから解放されるが、プレイヤーたちはこの不自由さと戦いながら文明崩壊後の世界を生き抜かなければならない。
そこで登場する救世主が『コマンドアクション』である。
コマンドアクションは文字通りコマンド資源と呼ばれる貴重な資源を消費することで、メインアクションを消費せずにタイルの効果発動が可能となる。
ゲーム終盤におけるコマンドアクションは非常に強力で、その一手でゲームの勝敗が決まることが多い。
しかしこのコマンドアクションで最も重要なのは“使ったプレイヤーがとにかく気持ちいい”という点にある。
「メインアクションで資源もらいます!コマンドアクションでレベル3タイル発動!12TP獲得!」というコンボからのSA3を決めた時のような快感が発生するのだ。
普段の“最大1回ずつ”という不自由さは、この快感をプレイヤーに与えるための“枷”となっているのだ。
ちなみにこの不自由さは「カードプレイアクション」にも適用されているのですが、ここでは割愛。
結局、この不自由さを「世界観と合っていていいね」と捉えるのか。
それとも「ゲームのテンポ悪すぎるだろ」と捉えるのか。
このゲームの評価が分かれる点はこれに尽きると思います。
3. バリアブルセットアップと3つの勝利条件によるリプレイ性の確保
ここまで長文過ぎたのでここからは簡潔に。
アトラスロストには5つのテックツリーと55枚のテックタイルの組み合わせによるバリアブルセットアップが採用されている。
どのテックツリーを選択するかはプレイヤー次第だが、テックタイルについては完全にランダムだ。
もしテックタイルが前回遊んだ時と同じ組み合わせになったとしても、テックタイルの配置場所が異なるだけで戦略性は大きく変わる。
さらに「技術点勝利」「影響力勝利」「主導権勝利」という3つの勝利条件があることもリプレイ性の向上に繋がっている。
「前回は技術点勝利できたから、今回は影響力勝利狙ってみるか」と自然に考えてしまうのがボードゲーマーのサガなのだ…。
4. ルールブックが読みやすい
シンプルにルールブックの文章・構成が読みやすい。
5. 早見表がきちんとプレイヤー人数分(4枚)入っている
しかもペラ紙じゃなくて厚紙だよ!他の出版社さんも見習って!
◆悪かった点
1. コンポーネントが多すぎて箱に収まらない
タイル抜きする前は箱に綺麗に収まっていたのに…どうして…。
2. 初回推奨セット「科学・経済・文化」の組み合わせが微妙
基本的に軍事(もしくは宗教)を使用しない場合、カードの引き運が良かったプレイヤーが勝ちやすい傾向にある。
このゲームでは他人を直接攻撃できる要素が軍事しかないので、強力なカードの効果で大逃げするプレイヤーに追いつくことは至難の業だ。
よって「アトラスロストが初めての重量級です!」という場合を除き、初回でも軍事を使用するべきだと思う。
…え?せっかく同卓してくれている友人を殴るのは気が引ける…?
文明崩壊前の偉人が「国家間に真の友人はいない」という至言を残しています。つまりそういうことです。
3. 経済を使用しない場合の影響力勝利が難しい
経済を使用しない場合、一度の研究資源補充アクションで得られる研究資源は最大4つしかない。
上段の先遣隊駒を全て配置するのに研究資源9個。影響力勝利をするために最低でも必要な研究資源は38個。
もちろんこれ以外にデータ資源や回収用の駒の配置など、さらなる準備が必要です。
そうなると他のプレイヤーが凡ミスを連発でもしない限り、絶対的に手番数が足りません。
よって経済を使用しない場合は「今回は研究資源が入手しづらいから、影響力勝利はいつもより厳しいね」と情報共有することを推奨したい。
4. 4人プレイ時に4番手のプレイヤーが不利すぎる
手番順によって初期資源に傾斜が掛かっていますが、それでも4番手が不利すぎる。
個人的には「研究資源5つ/データ資源2つ」を貰ったとしても、勝つのはなかなか難しいです。
誰を直接攻撃するのか悩んだら、とりあえず有利な先手番のプレイヤーを狙いましょう。
◆総評
・テレビゲームで入手するアイテムや日記、手紙などの内容から様々な考察をするのが好きな人にはとても刺さる。
・バリアブルセットアップのおかげもあり、短期間であっても繰り返し遊びたくなる魅力がある。
・アクティブカードのパワーがどれも強力で、序盤に引ければ大きなアドバンテージになる(=引き運はある)。
・序盤~中盤はゲーム展開が非常に遅く感じるが、中盤~終盤はあっという間に加速して「スン…」と終わる。
・初回は「科学・経済・軍事」もしくは「経済・文化・軍事」の組み合わせを推奨したい。
・初心者と経験者が一緒にこのゲームを遊ぶ場合、経験者が後手番になるべき。
・ゲームで遊ぶ前にタクティカルゲームズさんのサポートページのQ&Aやエラッタを確認しよう。
・ここまであえて語ってこなかったが「実はキャンペーン拡張からがアトラスロストの本番だよ」という噂も…。
・その噂を解明すべく、我々はアトラスロストの奥地へ向かった…(続く)
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