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ボードゲームスペースdotto

今日もお店は平和だった。

というと少し聞こえはいいけれど、正直に言えば、お客さんが来なかった。

ドアのベルは一度も鳴らず、椅子に誰かが腰かける気配もなく、店内の空気はずっと同じ形を保っていた。動かない湖のように。

こんな日があるのは珍しくない。

うちの店は、ボードゲームができるスペースで、13時から開けている。だけど、開けたからといって人が来るとは限らない。

もちろん来てくれたらうれしいけど、誰も来ない時間にできることもある。いや、やるしかないとも言える。

そんな静かな店の午後、私は昨日の夜の出来事を掃除しながら思い返していた。

あれは、なかなかハードだった。

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昨日の夜。

仕事を終えて帰宅した私は、いつもどおりスマホを取り出し、Wi-Fiに接続しようとした。

が、繋がらない。

「ん？」と思って、まずは再接続を試す。

駄目。

ルーターのランプを確認する。なんか様子がおかしい。

そこで定番の「ルーター再起動」。だが状況は変わらず。

焦りがじわじわと広がってくる。

「まさか、これは……一晩インターネットなし生活……？」

私は念のため、LANケーブルを抜き差しし、ルーターとモデムの電源も切ってみた。

スマホの通信速度制限が迫っていたので、Wi-Fiが使えないのはかなり致命的だ。

どうしても自力で解決できないと判断し、私は携帯会社に勤めていてネット回線に詳しい友人・井上君に助けを求めた。

「頼む……来てくれ……」とだけ送ったLINEに、すぐ「うい」と返信があったのは心強かった。

彼はいつも、この手のトラブルに頼もしく応えてくれる。

そして30分後、彼は手慣れた様子で新しいルーターとLANケーブルを手に登場。

その姿はほとんどIT界の出張ヒーローだった。

さっそく作業に入るともき君。

古いルーターを外し、新しいルーターを設置し、配線をやり直し、電源を入れ直す。

私は静かに見守る。これで直ったら彼に晩ご飯でもおごろうと心に決めていた。

ところが。

「うーん……」と彼の手が止まる。

その表情は、歯医者が「ちょっとこれは……神経までいってるかもしれませんね」と言う前のそれに似ていた。

「……これ、モデムが死んでるわ」

モデムが……死んでる？

この現代社会で、モデムが死ぬってどういうことだろう。

その瞬間から、私は「インターネットのある生活」がいかに儚いもので成り立っていたかを知ることになる。

彼は丁寧に配線を確認しなおしてくれたが、やはり繋がらない。

持参した新しいルーターでも無理。ケーブルも問題ない。

残るは、モデム。そして私の絶望。

⸻

そして今日の朝。

私は業者に問い合わせた。

チャットを済ませ、修理業者からの電話を待つ。

するとしばらくして、電話が鳴った。

修理業者は私に、まさかの事実を伝えてきた。

「お調べしたところ、田中様がお住まいの団地全体で、ネット回線のトラブルが発生している可能性がございます～。田中様以外にも数件、同様のご連絡をいただいておりますので、個別のモデムやルーターの問題ではないかと思われます～」

えっ、団地丸ごと？

私の頭の中で、昨夜のLANケーブル抜き差しや、友人の苦労がパタパタと崩れていった。

つまり、私のせいじゃなかった。

でも、私だけが苦しんでいた。

それが余計に悲しかった。

「明日の午前からに工事に伺う予定ですので、万が一その後も不具合があるようでしたら、またご連絡くださいませ～」

というわけで、明日は午前中からずっと家にいなきゃいけない。

つまり、店は臨時閉店だ。

何もしてないのに閉まるの、ちょっと切ない。

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それにしても、Wi-Fiがない生活の不便さたるや。

調べものもできないし、YouTubeも見れないし、NetflixもAmazonプライムも流せない。

しかも、うちの団地は電波も入りづらいので、スマホの4G（いや、もう5Gか？）すら怪しい。

これが文明の終わりか……という気分になる。

人はなぜ、ネットが繋がらないだけでこんなに不安になるのか。

いや、理由は分かっている。

現代人は、情報も娯楽も連絡手段も、みんなWi-Fiに託しているからだ。

昨晩は、散々読みたおした漫画を引っ張り出してみたけど、集中力が持たなかった。

不思議なもので、「ネットがない」という状態がずっと心のどこかに引っかかって、何をしても気もそぞろなのだ。

「復旧は明日」と分かっていても、やっぱり落ち着かない。

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そんなこんなで、今日は一日、誰も来ない店でぼんやりと過ごしながら、

「ネットがない生活」について延々と考えていた。

お客さんは来なかったけど、Wi-Fiも来なかった。

モデムは壊れてなかったけど、回線は壊れてた。

明日は営業できないけど、工事は来る。

そんな一日。

でも、こうして文章を書いている間だけは、なんとなく救われた気がする。

明日にはネットも復旧して、このnoteも無事にアップロードできていますように。

（……それにしても誰か一人くらい来てくれてもよかったのになぁ）