石炭ゲームは沢山ありますが、これは炭素。有機化合物のボードゲームです。
大富豪なのでカードゲームですが、メインボードを使います。
手札は一人12枚(2、3人プレイ)、9枚(4人プレイ)。親は手札の化合物カードを1枚リードしますが、何をリードしてもいいわけではなく、メインボード上の確定化合物「ベンゼン」「メタン」「エチレン」「プロペン」4種類の反応物しか出すことができません。
例えばプロペンであれば「硫酸」を出すことによって、「プロパノール」という液体を生成します。親は硫酸を出した後、プロパノールに白い碁石を置いておきます。
次プレイヤーは何を切るかというと、このプロパノールの反応物を出すしかありません。プロパノールは「酸化剤」を出すことによって「アセトン」を生成しますので、酸化剤に当たる化合物カードを出し、アセトンへ白碁石を進めます。
もし酸化剤が無ければ、パスをすることになり、切ったカードに対して他プレイヤーが全員パスをすれば場は流れます。
場が流れたら、白碁石を黒碁石に置き換え、その生成物の存在を確定させます。新しい親は、先程のスタート時の確定化合物4種と黒碁石の化合物の中から一つを選び、その反応物をリードします。
黒碁石の化合物からスタートする場合、黒碁石は取り除かれ、進んだ先に白碁石を置きます。また、黒碁石のある確定生成物のマスには白碁石を進めることはできないので、黒碁石の前では行き止まりとなり、その場合も場は流れます。
こうして、手札を一番早く無くしたプレイヤーが勝ちます。(誰も手札が出せなくなった場合は、手札が少ない人が勝ち)
↑ メインボードには反応式のように矢印が書かれているので、それに沿って進めていけばいい。「安息香酸」は硫酸を出せば「安息香酸エチル」に進めそうだが、このような矢印の時は、「エタノール」の生成を待たなければエステル化することができない。また、同じような分岐合流矢印でも、「メタン」に「塩素」を出し「クロロメタン」を生成した場合、ベンゼンが赤色のスタート確定化合物(黒碁石が常に置いてあると思えばよい)なので、0手で「トルエン」まで移動する。
カードを切る時は、常に1枚しか出せないことになりますが、例外として、親だけは、中和(「酸」と「塩基」)、あるいは酸化還元反応(「酸化剤」と「還元剤」)を、2枚セットでリードできます。この場合、碁石を移動させることもなく場は流れ、左隣のプレイヤーに親が移ります。
また、フェノールから「混酸」(硝酸+硫酸)を出すと、ニトロ化され、「ピクリン酸」を生成しますが、この化学反応は爆発を起こすので、現在置かれている全ての碁石を取り除いて場が流れます。同じように、トルエンから混酸を出してニトロ化すると、「トリニトロトルエン」が生成され、爆発します。ピクリン酸は、誰か一人のプレイヤーが「二酸化炭素」を出せば消火され爆発は治まりますが、TNTは必ず爆発します。爆発させると親になれます笑
ゲームバランスもかなり練られており、いかにカードを出しやすくしていくかという戦略と、大富豪の意味合いから、相手の手札を推測して切らせないようなリードをする戦略など、カード運のゲームではありません。運要素は、混酸を硫酸として使いたい場合、50%の確率アクションをすることぐらい。このような揺らぎを含めつつ、バランスのいいカード構成で、とにかく、MAP(メインボード)が精巧というか巧妙に作られており、ゲーム性が見た目以上に高いことは強調したいです。
ポイントとしては、親だけがリードできる中和、酸化還元反応を切り札として残すように切っていくこと。また、他プレイヤーが切りにくくなるように、反応物の種類を減らすように出すこと。いずれにしても、パスを誘導して、優位な親権をいかに増やすことができるかが鍵となります。
↑ 2人プレイ。先手の配牌。酸だらけ!「カルボキシル基」(-COOH)を持つ有機酸(「カルボン酸」)より強い強酸は、触媒としての用途も多いので、多いに越したことはないが……。ゲーム開始前に全36枚の構成をみんなで確認しておきたい。
↑ 最終盤。先手残り1枚(二酸化炭素)に対して、後手残り5枚と絶望的状況。しかし、ここで親が回ってきた。後手は酸化還元反応や中和ができる。しかしここで2枚減らすのはいいが、親権が先手に移動してしまうので、上がられる確率が高い。そこで、ベンゼンスタートで混酸をリードし、「ニトロベンゼン」を生成した。先手が還元剤を持っていたら終了だが、それ以外のスタートの方が出し易そうで危険だ。案の定、先手はパスをし、後手はニトロベンゼンを黒碁石に変え、再びリード。ちょうど「還元剤+塩酸」を持っていたので、「アニリン塩酸塩」を生成する。アニリン塩酸塩の反応物は「水酸化ナトリウム」で、非常に枚数の多い化合物だが、先手はこれもパス。アニリン塩酸塩を黒碁石に変え、次に一転してプロパノールからアセトンへの反応物として酸化剤をリード。還元剤が無いのは分かっているので、当然パス。今度は戻ってアニリン塩酸塩から水酸化ナトリウムをリード、その瞬間手札が無くなったので、後手の逆転勝ちとなった。
対象年齢16歳以上というのも珍しく、テーマ的に当然コアなゲーマー層のゲームですが、切れるカードは矢印反応式に全て青色で書かれているので、有機化学に明るくなくても大富豪が遊べます。一般的な言い方をすると、メインボードの双六とハンドマネージメントが主メカニクスの「ボードゲーム」と言えます。普通のボードゲームと同じ感覚なので、ぜひ遊んでみてください。ただ、デザイン的には「ベンゼン環」がズラリと並んでいるので悪しからず……
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