リメイク元のマハラジャ(以下、M2004)はエルグランデの特徴を煮詰めて、エリアマジョリティ以外の要素も強く加味した名作だった。
ディスクでの行動決定、各都市での陣取り、キャラクターの選択などシンプルながら悩ましい部品を錬金術さながらに組み合わせ、素晴らしいプレイ感を生み出していた。
ただ、BGGの評価などを見ると、ランキングでエルグランデには大きく離されている。個人的にも、M2004はかなり好きなゲームであるが比較すればエルグランデに軍配が上がる。
エルグランデはエリアマジョリティに特化しつつも全体的に丸いプレイ感で、ことエリアマジョリティの要素に関していえば最高に楽しむことができるゲームの1つである。
逆にM2004はエリアマジョリティ以外の要素がかなり強くなっており、純粋な陣取り本来の楽しさがすこし制限されてしまったと感じられる。
お金まわりのカツカツさも相当であり、また、全体として、やや尖ったインタラクションを有していることもある。
実際、M2004はどちらかといえば人を選ぶゲームに入るのではないかと思う。
BGGのレビュー(M2004)では、プレイ戦略の画一性、リプレイ性の欠如、先行逃げ切りの強さ(逆転性の弱さ)、などの点についての指摘が散見される。
確かに、直接的なインタラクションをおさえつつかけひきを最前面に押し出しているエルグランデや、最近の数々の陣取りベースの重量級ゲームと比べるとゲームバランスついてはやや劣ると感じる。
リプレイ性についてはプレイヤー間での展開に依存しているがそれほど悪いものではないと思う。ただし、BGGの上位ゲームなどではBGAやBAJ、YUCATAなどで数十回、いや百回以上のプレイを経てなお楽しめるものが存在する。このM2004がそのようなオンラインで遊べるようになったと仮定してそれだけの回数に耐えうるかはやや疑問だ。
単純化すれば、建物建てて金を得て、その金で建物建てて・・・の繰り返しで7つ建てきった者が勝ち、というわけで全体的な展開自体が固定されていて、その中で遊ばされているという一面を有しているように思える。
さて、リメイクマハラジャ(M2020)では、この固定されがちな展開を打破するべき内容で手が加えられている。
それはよりモダンで、尖った部分を丸くし、万人受けするように調整されているように感じられる。もっとも顕著な変更は、勝利点獲得が目的となったところだろう。
得点系追加によるレース要素の軽減、キャラクターの増量、都市、決算に関するボーナスの付与や調整、などにより前述した欠点がかなり緩和されている。一般的にリメイクと言う言葉から連想される範疇を遥かに超えた変更がなされており、ここ10年くらいのボードゲームの進化が適度に付与されていると言える。
近頃のゲームでは、レースそのもの、または目標達成それ自体が勝利条件となるものは少ない。レース・フォー・ザ・ギャラクシーにしても、コンコルディアにしても、終了条件は終了条件であり、それを満たしたプレイヤーが勝利するとは限らない。これにより、様々な戦略と大局観が求められるわけで、緩衝材的な役割とともにゲームの深みを増している大きな要因になっていることは、今回のリメイクのポイントだろう。
実際BGGのフォーラムではルチアーニ自身が勝利点を導入した目的として、序盤に飛び抜けたプレイヤーが(お金の力で)そのままゴールするのを抑制することと、キャラクターの組み合わせとゲーム展開の多様性を拡げることと言及している。
ただしこれらの変更は諸刃の剣ともいえ、M2004で見られていた真剣での切り合いのようなシビアさは軽減しているし、人によっては水で薄められたように感じることもあるかもしれない。ゲームのテンポ感にも差がみられる。もっともこれはマハラジャに限った話ではなく、近年のリメイク全般にいえることではあるが、特に今回の変更は「マハラジャならでは」のしびれるようなプレイ感をスポイルしていると捉えられても仕方がないところもある。
BGGでの評価はまだ票数が僅少であるが、賛否両論でよく分からないことになっている(クラニオではバラージのKSがらみで紆余曲折があったがそれを引きずってような投票もみられる)。
経験者同士ではM2004の鋭いルールの方が好まれる場合もあるかも知れない。ただ、この時代にあってプレイヤーの裾野を広げるような変更がなされたのはさすがルチアーニといったところだ。勝利点やボーナストラック、キャラクターの増員などの追加を蛇足とみるか、好ましい変更と感じるかはひとそれぞれだろうが、個人的にはこれくらい要素があったほうが単純にボードゲームとしては楽しめると思う。
M2020は確実にプレイしやすくなっていると感じているし、殊に強い最近ボードゲームを始めた未経験者がプレイするにはM2020のアドバンテージは絶対である。今のボードゲームの潮流の中では、M2004はややシンプルすぎるようにも感じられる。
何分ベースが古いゲームであるのは紛れもない事実であり、最近のユーロとは感触がかなり異なる。音楽で例えてみれば70年代ロックや60年代ジャズのリマスターの如きであり、2000年代の音楽とは洗練度が大きく違う。
システム的にも公開要素が多く、運の関与が少ないシステムであることはもちろん、プレイヤー間のインタラクションもかなり強い。陣取りや通行料があるのに加え、キャラクターカードを交換したり、都市の決算の順番を変更したりというのは(そしてこれが大きな影響を与える)相当なものだ。ちょうどM2020の日本語版の発売がプラハ日本語版と重なった(価格も同じだった)のは印象的だったが、全く好対照な作品であった。
M2020でもM2004のルールさえ把握しておけば、コンポーネント的にはハウスルールにてある程度改変も可能だろう。ただし、細かい変更はかなり多岐に渡っており、都市のスコアリングの計算や報酬の値、神像の建築コスト、一部のアクション内容、アクションペナルティなど、シビアだった面、特にお金周りについて全体的に緩めに調整されている。惜しいのはデフォルトで両方のルール、人数に対応していれば完璧であったのだが。
とにかく、適度な要素の追加とスコアリングの調整により生まれ変わったマハラジャ。冒頭でM2004はエリアマジョリティ以外の要素が強くなりエルグランデに負けたような記述をしたが、このリメイクではむしろそれを逆手にとって大きく進化したと感じた。都市のマジョリティのスコアリングが、ゲーム終了時に改めて都市ごとに得点化される。マハラジャがいるときだけマジョリティを得ればよいわけではなくなっており、思考要素、駆け引きが増幅されている。是非プレイしていただきたいと思う。