- 1人~4人
- 120分前後
- 14歳~
- 2021年~
タバヌシ:ウルの建築士たち麺たつさんのレビュー
タバヌシはシュメール語で建築という意味である。その名の通りこのゲームは、建築計画を敷き、その上に建物を建て、国家と氏族の繁栄を夢見て、都市を築きあげていくゲームである。
プレイヤーの思惑と欲望は縦横斜めに錯綜し、あらゆる権謀術数が要所にて繰り広げられ、その結果として、とぼとぼと砂漠のほうに向かう者、豪奢な椅子にふんぞり返る者と明暗が分かれることになる。タバヌシは人間の無様な歴史そのものを体現している。
とはいうものの、タバヌシは控えめにいっても点数ゲームである。点数ゲームというのはテーマ性が薄く、ただただ勝利のためだけに点数を積み上げていかねばならないゲームのことだ。ゲームを進めるためのモチベーションの最上位が点数をとることにしかないなら、その勝負のツールがボードゲームである必然性は限りなく薄くなると思われる。将棋や囲碁など、深淵なゲーム性を持った卓上のツールは既に存在するからだ。
そのため、個人的にはやや揶揄的な意味合いをこめて、このゲームは点数ゲームだなあ。好きな人は好きなんだろうけど…。などといった非難を浴びせかけることがある。ところが稀に、たかが点数ゲームのくせになんでこのゲームはこんなに面白いのだろうか。ボードゲームって謎すぎる。といった印象を持つことがあった。テケンとかサポテカとか、あとはこのタバヌシだとかのことである。
なぜタバヌシは面白いのだろうか。
もしかすると、タバヌシの面白さをつまびらかにすることができれば、私が何故こんなにもボードゲームが好きなのか、その理由も見えてくるのではないだろうか。
タバヌシはプレイヤーの欲望が透けて見える。透けて見えるというか、次にアクションをするエリアに建築家コマがはっきりと置かれているので、相手は次にあそこで何をやりたいのだろうか。何を目論んでいるのだろうか。などと考えることができる。やりたいことは特にないけど、仕方なくそこにいるといったこともタバヌシにはあり得るのだが、それはともかくコマの立ち位置だけで、ブラフをかけることもできるし、意図をぼかしたりすることさえできる。このアクションのメカニクスこそがタバヌシの面白さの源であり、タバヌシをタバヌシたらしめる特徴である。
次に建築のルールがあげられる。タバヌシはルール上、完成した黄色の建造物に隣接して黄色の建造物を建てることができない。吉野家の隣に吉野家はたてられないのである。
また白色の建築予定地が既にあるなら、次に置かれる白色の建築予定地は必ず白色の建築予定地と繋げなければならない。吉野家を大きな店舗にすることはできるのである。
また各色の予定地は、同エリアで3種以上存在することはできない。吉野家の建築予定計画があるのに、同じエリアにさらなる吉野家の建築予定計画なんて必要ないからだ。
この縛りが、権謀術数を発揮するために生きてくる。黄色の建築予定地はとくに置きたくはないが、要所に相手の黄色を置かせたくないためにわざわざ僻地に置いといて計画を妨げようとか、相手は黄色を繋げたいだろうから、ここの空き地で分断させておこうなどといった言葉のいらないやりとり(意地悪)が発生して面白い。
また緑地に隣接していると建物の大きさとして数えられるため、5回ある決算で大量の得点が望めるのだが、相手の緑地に建物を隣接させると相手の得点効率が上がってしまうというルールも香ばしい。しかもその際、相手は任意の色の得点効率を上げることができるため、安易に置くことができない。この欲望と欲望のせめぎ合いと葛藤こそがタバヌシの魅力となっている。
以上の特徴を踏まえて、タバヌシのベストプレイ人数は実は2人なのではないかと考えている。BGGでは3から4人がベストとされているが、相手プレイヤーとのやりとりを存分に楽しむなら、3人も4人も多すぎる気がする。少なくとも私のなけなしの頭には、あまりにも荷が重い。重すぎる。
私は主に夫婦でボードゲームを遊ぶため、タバヌシみたいなゲームを毎夜遊んでみたいのだが、妻はこのゲームの権謀術数が嫌いだという。妻はなんだか上手くいかない!もっと上手にプレイしたい!というモチベーションが得られるゲームを好む。私も明確にそうなのだが、このタバヌシのように権謀術数を繰り広げられるゲームもモチベーションを刺激されるようだ。思えばバラージもそうだった。バラージも妻は遊んでくれない。タバヌシももう遊んでくれない。悲しいことである。権謀術数こそが人間の無様な歴史の追体験なのにな。
と、ここまで書いてきたが、そういった権謀術数は将棋や囲碁にもあるだろうから、何故私は将棋や囲碁ではなくボードゲームが好きなのかを今回も明らかにすることはできなかった。
タバヌシはお互いガチのゲームが好きな夫婦とかにものすごくおすすめしたい。これを読んで私の代わりにタバヌシを楽しんでくれる夫婦が現れたら、とっても嬉しいです。
最後に、シュメール語は死語なので、あそこのすき屋壊して、吉野家をタバヌシしてる。などと言うと、古代言語が現代に復活した感も相まってたいへん味わい深い。
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