- 2人~4人
- 90分~120分
- 10歳~
- 1999年~
ティカルSato39さんのレビュー
《クラマー&キースリングの色褪せることない不朽の名作!》
この古典的名作をプレイさせてもらったところ非常に感銘を受けて、またもやポチってしまったのでレビューしたい。
【1999年にダブル受賞を果たした不朽の名作!】
「怖い顔三部作」と呼ばれる作品群がある。ヴォルフガング・クラマー(Wolfgang Kramer)とミヒャエル・キースリング(Michael Kiesling)の黄金コンビが2000年前後に手掛けた作品群で、ティカル(1999年)、ジャワ(2000年)、メキシカ(2002年)の3作を指す。3作とも古代遺跡をテーマにしておりアクションポイント制というメカニクスが共通点だが、最も特徴的なのはパッケージ!どれも独特の雰囲気があって怖いw
このうち最初に発表されたティカルが、1999年のドイツ年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞のダブル受賞という名誉に輝いている。今回はこの名作「ティカル」についてレビューしようと思う。なお今回もロングレビューとなっているので、興味のあるところだけでも読んでいただけると嬉しい。
- ティカル遺跡について
- ボードゲーム「ティカル」の魅力
- 感想
【1.ティカル遺跡について】
17世紀初め、布教のためメキシコから南下したスペインの神父が、鬱蒼とした熱帯雨林で道に迷い偶然にも壮大なピラミッド群を発見した。これがティカル遺跡だったと言われている。その後、1853年にベルリン科学アカデミーによる最初の探検調査が行われると100年余りの年月をかけて様々な探検調査が行われ、ついに1956年ペンシルバニア大学による発掘調査によりティカル遺跡の全容が明らかとなった。
(参考:大日本山林会「マヤ遺跡ティカルに思う-その発見の歴史-」)
ティカルは中米のグアテマラ北部低地に位置するマヤ文明最大の神殿都市であったと考えられている。マヤ文明は紀元前2000年〜後1600年頃にメキシコ南部、グアテマラ低地からユカタン半島にかけて繁栄した文明で、「統一されずに林立した都市群」、「ピラミッド状の建造物」、「20進法による記数法」、「表音文字と表意文字があるマヤ文字」、「精密なマヤ暦や天文学」、「独自の宗教儀礼や世界観」などを特徴としている。
マヤ文明は大きく先古典期(1800BC-AD250)、古典期(AD250-AD950)、後古典期(AD950-AD1600頃)の3つの時期に分けられ、ティカルは先古典期中期からマヤ文明が最も開花した古典期にかけて繁栄した最大の都市である。(参考:National Geographic「マヤ文明と終末論の真実」)
<ピラミッド神殿>
マヤ低地南部では熱帯雨林の中に古典期の遺跡が多く発見されており、特にジャングルに埋もれたピラミッドが特徴的だ。ピラミッドと言えばエジプトのピラミッドを真っ先に思い浮かべることが多いが、あちらが「王墓」として建築されたことに対して、ティカルのピラミッドは最上段が部屋になっており「神殿」として使用されていたと考えられている。もっとも最近の研究では、このピラミッド建造物から王の墓が発見されておりマヤ文明のピラミッドにも「王墓」としての意味合いがあったと考えられ、まだ真相は謎に包まれたままのようだ。
ティカル遺跡の中心にある大広場「グランプラザ」には、向かい合うI号神殿とII号神殿、住居跡の「アクロポリス」が並んでいる。このグランプラザの中心に立って手を叩くと周りの建物に反響して上から音が響き渡る構造をしており、このことから様々な儀式を行う神聖な場所だったと考えられている。これは他のマヤ文明の遺跡でも見られる興味深い構造だ。
ちなみにI号神殿はジャガーの彫刻があることから「大ジャガー神殿」、II号神殿は屋根部分に仮面の彫刻があり「仮面の神殿」と呼ばれている。Ⅳ号神殿は高さ64.6mとティカル遺跡の中で最も大きな神殿となっており、神殿内部に書かれたマヤ暦の日付から西暦741年に建てられたものと判明している。この神殿には2つの頭を持つ蛇の彫刻があることから「双頭の蛇の神殿」と呼ばれている。
<翡翠(ヒスイ):Jade>
またグアテマラは、日本やミャンマーに並ぶ翡翠(ヒスイ)の限られた産地であり、マヤ文明では「緑」が神聖な色と考えられていたため宝飾品の材料として主に翡翠が使用されていた。これはインカ帝国に代表される南米の黄金文化とは異なる特色と言える。
グアテマラシティ国立考古学民俗学博物館に展示されている「翡翠の仮面」(「ティカル遺跡の謎、ティカルはなぜ滅んだのか」より引用) |
翡翠(ヒスイ)は、ヒスイ輝石(Jadeite)が90%以上を占める単鉱岩であり、プレート境界の地下深部で形成され、その後の造山作用で地表に現れる。このため古代から現代に至るまで石器や装飾品に用いることができる一定以上の大きさを持つ「ヒスイ」の産地は世界的に見ても限定的であり、マヤ文明のグアテマラ中部、日本縄文時代の新潟県糸魚川~青梅地域 、ミャンマー北部カチン州が有名である。(参考:「完全非破壊化学分析法による古代マヤ文明の磨製石器石材分析」)
ちなみに日本の翡翠文化は世界最古と言われており、5月の誕生石に制定されている。また糸魚川産のヒスイは原石の状態でも十分に美しいのも特徴の一つだが、保護地区にあり採取が禁止されているため市場に出回っている量が少ない。 2016年に糸魚川産のヒスイは、日本鉱物科学会より日本の国石に選ばれている。(参考:Wealthy Class「5月の誕生石である翡翠(ジェイド)にはどんな意味がある?」)
<グアテマラの火山>
グアテマラには30もの火山が存在し今なお活動している。2018年6月3日に起こったフエゴ火山噴火は記憶に新しいが、噴火の規模は過去40年間でもっとも大きく、被災者17万人、死者・行方不明者約420人以上という甚大な被害をもたらした。同火山は2021年9月23日にも噴火して、溶岩が流れ火山灰が放出されている。
グラテマラのフエゴ火山は成層火山であり、二酸化ケイ素がより多く含まれる粘性の高い流紋岩の溶岩である。さらに二酸化ケイ素に加え長石が豊富で粘性が極めて高いため、溶岩に含まれるガスが放出されにくい。 このため噴火すると溶岩を抑え込んでいた圧力が急激に開放されるため、ガスが膨張し爆発的噴火が突然起きる。このため対策を講じる時間もなく死者が出ることも多いらしい。(参考「死者70名以上、グアテマラの火山がハワイより危険な理由」)
かつてのグラテマラの首都、アンティグア。標高3760mのアグア火山に抱かれたこの街は、ユネスコの世界遺産にも登録されている古き良き街で、スペイン植民地時代のコロニアル文化が残っている。日本人旅行者に「アンティグアの富士山」で親しまれるアグア火山を背にした美しい時計台の風景はグアテマラの象徴だとか。
<身近なティカル遺跡>
私たちは意外と身近なところでティカル遺跡に触れている。上記画像は、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』 の一場面。本作の中で、ティカル遺跡が反乱軍の秘密基地であるヤヴィン第4衛星のロケ地として撮影された。IV号神殿から撮影されたと考えられ、デススターから逃げてきたミレニアムファルコン号が遺跡の上空を飛んでいる場面だ。映画は1977年公開でCGの使用は限定的であり遺跡そのものを撮影していることがとても興味深い。
そしてこの光景に見覚えのある人はいるだろうか。東京ディズニーシーにある神秘と冒険のあふれるテーマポート「ロストリバーデルタ」。マヤ文明がモデルとなっており、そのシンボルとも言える古代神殿は、ティカル遺跡のI号神殿によく似ている。この神殿では「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮」が楽しめる。
一見ティカル遺跡がモデルかと思うが、よく見るとアトラクション入口脇に羽の生えた蛇の頭がある。マヤ神話に登場する神、ククルカンだ。これはユカタン半島で後古典期に繁栄したチチェン・イッツァ遺跡の「ククルカンの神殿」に見られるもので、他にも神殿前面の石像はコパン遺跡にある石像のレプリカであったりと、おそらくマヤ文明の様々な遺跡がモチーフとなっているのだろう。遊びに行った際にはぜひ自分の目で確認したい。
(参考:【トリビア】インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮の元ネタになった文明・遺跡を解説)
【2.ボードゲーム「ティカル」の魅力】
閑話休題、ここからはボードゲーム「ティカル」について述べていこうと思う。なお、今回レビューするのは1999年に発表されたオリジナルではなく、2016年にフランスのスーパーミープル社がリメイクしたバージョンだ。アートワークやコンポーネントが一新され、パッケージは残念ながら怖い顔ではなくなってしまったが、レジン製の非常に質感の高い神殿駒が雰囲気を盛り上げてくれる。本邦ではテンデイズゲームズより和訳付きで販売された。
【テーマはティカル遺跡発掘】
今なお多くの謎に包まれたマヤ文明ティカル遺跡の発掘がこのゲームのテーマ。上記の通り、19世紀半ばから様々な調査隊が熱帯雨林のジャングルで未知の遺跡発掘に夢中になった歴史があり、それを見事にボードゲームとして再現している。プレイヤーは調査隊を指揮して、18名の隊員と1名の隊長を密林へ送り込み密林に埋もれている神殿や財宝を発掘していき、最も多くの名声点を獲得したプレイヤーの勝利だ。
【ゲーム概要】
ゲームは各プレイヤーが順番にアクションを行っていく。途中、合計4回の得点計算ラウンドがあり発見した財宝と支配している神殿の価値により名声点を得て、最も多くの名声点を獲得したプレイヤーの勝利である。各手番では以下の手順を行う。
- 地形へクスタイルを引いて配置する。
- アクションポイント分だけ好きなアクションを行う。
<①地形へクスタイルの配置>
手番のプレイヤーはタイルの山から1枚へクスタイルを引き、これまでに配置されたタイルと道が繋がるように好きに配置する。タイルには、「空き地」「神殿」「廃墟(財宝)」「火山」の4種類がある。廃墟タイルを引いた場合はタイル上に指定の数だけ財宝トークンを配置する。火山タイルが出たら中間得点計算を行う。
<②10アクションポイント(AP)を使用してアクション>
プレイヤーは10APを好きなように配分して、上記8つのアクションを任意の順番で行う。
<ゲーム終了、最終得点計算>
上記の手順で手番を順番に行っていき、地形へクスタイルがなくなったら最終得点計算を行ってゲーム終了。最も多くの名声点を獲得したプレイヤーの勝利だ。
【へクスタイル引きにドキドキ、ワクワク!】
プレイヤーは手番の最初に必ず1枚の地形へクスタイルを引くのだが、これがとても興奮する!高価値の神殿タイルが引けたなら、自分の有利な場所にそれを配置することができマジョリティ争いにとても有利だ。また廃墟タイルを引いた場合は、これまた財宝を自分が取りやすいように配置できる。空き地はそれほど嬉しくもないが、各プレイヤーはテントを2つまで設置できるので今後のゲーム展開が有利になるよう配置できるかもしれない。
火山タイルを引くと即座に手番プレイヤーから時計回りに中間得点計算ラウンドとなる。神殿のマジョリティを取りやすいメリットはあるが、神殿や財宝ではないので何の得にもならないとも言える。損得勘定が難しいところだが、とにかくタイルの引き運はゲーム展開において非常に大事になる。
では、このゲームはタイルのガチャゲーかというとそういうことはなく、それが有利になるかどうかは、その後のアクション次第であり、他プレイヤーの置いたへクスタイルにより計画は簡単に崩れ去る。そのインタラクションがまた面白い。
また引き運が気になるプレイヤーのために上級ルールが設けられており、ラウンド制で各ラウンドの開始時に人数分のタイルを並べて勝利点を賭けて競りを行うこともできる。1999年発表の作品らしい面白いヴァリアントルールだ。
【神殿のマジョリティ争いは熾烈だが順番にアクションできるので安心】
得点計算ラウンドでは、各プレイヤーが順番に得点計算を行う。まず10APを使用して隊員駒を好きなように移動させた後、以下の名声点を獲得する。
- マジョリティを取っている(最も多くの隊員駒を置いている)神殿の価値(最上階の価値)
- 財宝のセットコレクション数(1枚=2点、2枚=3点、3枚=6点)
面白いのは各プレイヤーがそれぞれに10 AP使用した後に得点計算することだ。これにより先のプレイヤーが得点した神殿でも隊員駒を1人でも多く移動させればマジョリティを奪うことが出来て神殿の名声点を獲得することができる。つまり先のプレイヤーに支配されていても自分も得点できるため計画が大きく崩れることはないので安心だ。争いの熾烈な価値の高い神殿に行くのか、それとも人気のない価値の低い神殿を取りに行くのか、プレイヤーの決断が求められる。
また神殿にはゲーム中2箇所まで護衛を置くことができる。護衛につける隊員駒は神殿の頂上へ置き二度と動けなくなるが、神殿はもはや自分以外は支配できなくなる。神殿の階層をより高く発掘した後に護衛をつけて自分以外のプレイヤーが得点できなくするのは非常に気持ちが良い。また逆に他のプレイヤーが高価値神殿を支配してしまった時の、その落胆度合は測りしれないものがある。このインタラクションは非常に面白い。
【財宝のセットコレクションも見逃せない!】
廃墟タイルを置いた場合、そのタイルに示された数だけの財宝トークンが現れる。財宝トークンは8種類×3枚ずつ存在し、3枚揃えると得点計算時に毎回6名声点を獲得することができるため無視することはできない。8種類もあると揃えることが難しいように思うが、1APを使用することで他プレイヤーが1枚だけ所持しているトークンと交換することが出来る。このため財宝トークンの交換(奪い合い?)も良いインタラクションとなっている。
【アクションポイント制はやや分かりづらいが、他プレイヤーも確認してくれる】
プレイヤーは手番に10アクションポイント(AP)を自由に割り振って、複数のアクションを行うことができる。これはアクションポイント制というメカニクスで、怖い顔三部作の他に「トーレス(1999)」、「パンデミック(2008)」、「ハンザテウトニカ(2009)」 などが有名だ。
1手番中にいくつものアクションを好きなように行うことができる優れたメカニクスだが、APのカウントがやや煩わしく間違いやすい。このためプレイヤー全員でAPを確認することが多くなるのだが、必然的に打ち解けたプレイヤー同士なら最善手の議論になり面白い。また、全て公開情報のため初めてのプレイヤーがアクションに迷っていたら助言もしやすい。
「あ、それはAP11になるので行けないですね。それならこっちの神殿に行ったらどうですか?」
これは私が初めてティカルをプレイした時にもらった助言だが、アクションに迷っていた自分にはとても嬉しかった。ゲーム後半になれば自分で好きなようにプレイできるようになるが、とかく序盤ではまだ慣れておらず出来ることも多いためこのような助言は非常にありがたいものだった。
【良いところ】
- 遺跡発掘テーマとゲーム性が合っていて、冒険の雰囲気が素晴らしい。
- タイル引きのドキドキ感と神殿のマジョリティ争いが程よいインタラクションとなり楽しい。
- 言語依存のないシンプルなルールなのに、自由度の高いアクション選択が悩ましく面白い!
【悪いところ】
- アクションポイントのカウントを間違えやすい。
- ダウンタイムは長くなりやすい。
【説明書&対象】
説明書:6ページ。インスト:15分。プレイ時間:1時間40分(4人プレイ)
BGG weight: 2.79(2022年5月24日現在)、重めの中量級。
おすすめの対象としては、「遺跡発掘のテーマに興味をそそられる1時間30分のゲームを楽しめるプレイヤー」か。言語依存がなく8歳の息子もプレイ可能だったので、かなり幅広い層で楽しめると思う。
※今回のレビューにあたり様々なHPおよび説明書より画像を引用させていただきました。問題があれば削除いたしますのでご連絡いただければ幸いです。
【3.感想】
これは面白い!1999年にドイツ年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞のダブル受賞も納得である。昔からボードゲームを嗜んでいる猛者からすれば古いゲームなのかもしれないが、最近のゲームしか知らない私にはむしろ新鮮で非常に楽しい体験だった。
ルールは限りなくシンプルですぐに理解できるのに、戦略は多岐に渡るし、見通しは良いのに他プレイヤーに邪魔をされて上手くいかない。プレイヤー同士のインタラクションでゲームが成立する典型的なオールドユーロゲームであるが、私のような最近のボードゲームしか知らないプレイヤーにはとても新鮮な体験となるように思う。
クローズ会で初めて遊ばせてもらった時は、最初手探りでプレイしていた私に、周りのプレイヤーがとても親切にアドバイスをしてくれて気持ちよくプレイすることが出来た。だが1回目の中間計算で抜きん出ようとした私を全力で叩きにきた素晴らしいボードゲーマー達であったことも記しておく(笑)。そうやってプレイヤー間でバランスを取りながら楽しむのがドイツゲームなのだと、最近は理解している。
とても気に入った私はこのゲームを早速購入し、息子たちと4人プレイ。序盤は少しアドバイスを必要としたが、すぐに皆好きなようにプレイできるようになり楽しそうで良かった。8歳の末っ子は得点では兄弟に敵わないものの、10点神殿を建設して護衛を置いて、「僕の神殿!」とご満悦(笑)
ゲーマー同士だと戦略的な熱いゲームになるし、ファミリーで遊ぶとほんわかしたジャングル探検の遺跡発掘ゲームになる。言語依存もないため幅広い年齢層で遊ぶことができる、キースリング&クラマー黄金コンビによるとても懐の広い傑作と感じた。現在、本邦では入手難なのが残念だが、ぜひ一度遊んで欲しい名作だ。
- 476興味あり
- 730経験あり
- 212お気に入り
- 560持ってる
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